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2014年5月 5日 (月)

ミュージシャンたちの道しるべ

Title:SAKUMA DROPS

昨年8月、自身のブログで末期がんであることを告白。その後、闘病生活を続けていましたが、今年1月、61歳という若さでこの世を去った佐久間正英。四人囃子やプラスティックスのメンバーとしての活躍を知られる一方、おそらく私くらいの世代を含め良く知られているのはGLAYやJUDY AND MARYのプロデューサーとしての活躍でしょう。今回、彼のプロデュースワークをあつめたオムニバスアルバムがリリースされました。

楽曲は生前の彼が選んだ全34曲。さらにラストに自身の遺作となってしまった「Last Days」も収録されています。アルバムは2枚組なのですが、1枚目にはGLAYやジュディマリ、ブルーハーツなど比較的有名どころが、2枚目にはRAZZ MA TAZZやcune、あるいはウラニーノといった残念ながらあまり売れなかった(売れていない)ミュージシャンたちの曲が並んでいます。

ただ今回彼がプロデュースワークを手掛けた作品を並べても、例えば小室哲哉などとは異なり、「佐久間正英系」のように括れる感じはありません。彼自身「自分の色が出たらお終い。佐久間がやったと思われたら負け」という発言をしているそうなのですが、あくまでも黒子に徹するのが彼のスタイルなのでしょう。その結果、GLAYやジュディマリのようなヒットチャート王道系からくるり、エレカシのようなサブカル系、遠藤賢司や早川義夫といったベテランの実力、RAZZ MA TAZZやCURIOのようなポップスバンドまで実に様々なミュージシャンたちの曲が並んでいます。

しかしそんな佐久間正英のプロデュースワークにはひとつ特徴があります。彼のプロデュースワークを一言でいえば「交通整理」。ミュージシャンの主張がむき出しになりゴチャゴチャになっている楽曲をうまく整理し、まとめあげているのが佐久間正英プロデュースの大きな特徴のように感じます。

典型的なのはエレファントカシマシ。宮本浩次のエゴがつまって暴走気味だったエレカシの曲を佐久間正英が上手く整理し、エレカシの特徴を生かしつつも多くのリスナーの耳に触れるような楽曲に仕上げています。N'夙川ボイーズなどもその例でしょうか。以前の彼らの作品は、バンドサウンドがごちゃっとしていて少々暴走気味の作風になっていたのが、佐久間正英プロデュースの「プラネットマジック」ではN'夙川ボーイズの魅力そのままに、見事スッキリ、ポップな作品にまとまっています。

それがともすれば「売りに走った」とみられがちな部分があるのも否定しません。ただ、ともすれば実力あるミュージシャンほど本人たちのエゴに走りがちなところを、佐久間正英がしっかり道しるべとしてあるべき方向性を示している、彼のプロデュースワークにはそういう部分があるような印象を受けます。

今回のオムニバスでうれしいのはやはりDISC2として、あまり売れなかったミュージシャンたちの曲も多く収録されている点でしょう。RAZZ MA TAZZやCURIO、cuneなど、個人的にも注目していたのですが、残念ながら思ったほどは売れずに終わってしまいました。そういうミュージシャンの曲もちゃんとひろいあげて選曲してくれているというのはとてもうれしいですし、また佐久間正英のミュージシャンたちに対する愛情も感じます。また、トリ前にウラニーノの名曲「ダンボールに囲まれて」が収録されていることもうれしいところ。彼がガンを告白したブログ記事でもウラニーノについて言及されていましたが、本当に最後、目をかけていたバンドなんだなぁ、ということを実感できます。

彼のプロデュースワークをあらためて振り返って、彼のあまりに早すぎる死が残念で仕方ありません。それだけ多くのミュージシャンの名曲を世に送り出してきたことをあらためて実感させられるコンピ盤。あらためて、彼の冥福をお祈りしたいと思います。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

contrast/TK from 凛として時雨

凛として時雨のボーカリスト、TKによる2作目となるソロアルバム。本作はタイトル曲含め5曲入りのアルバムとなっています。ストリングスやピアノを取り入れた感傷的なサウンドに彼の独特のハイトーンボイスがマッチ。前作同様、バンドとは異なる3ピースにこだわらないサウンドつくりが魅力的で、かつ、彼のボーカルともしっかり合っています。さらに本作は5曲目になんと初恋の嵐の「涙の旅路」をカバー。こちらも彼のボーカルが切なく、楽曲の雰囲気にもピッタリの名カバーに仕上がっていました。

評価:★★★★★

TK from 凛として時雨 過去の作品
flowering

period/androp

前作「one and zero」が傑作だったandropの新作。本作も彼ららしいシンセを取り込んだ爽やかな音像のギターロックをメインとしつつも、「Lit」のようなハードロック風の作品から「Neko」のようなどこかフリッパーズギターを彷彿とするようなギタポまで様々なバリエーションの曲が並んでいます。ただ、「Under The Sun」のようなヒットポテンシャルがありそうなポップチューンなどがある一方で、アルバム全体のインパクトは前作に比べると不足気味。バラエティーある曲調が逆にアルバムに散漫な印象すら与えているような部分も。andropらしさはちゃんと出ているし、決して悪いアルバムではないのですが。

評価:★★★★

androp 過去の作品
door
relight
one and zero

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アルバムレビュー(邦楽)2014年」カテゴリの記事

コメント

今回の佐久間さんのコンピレーションアルバム、僕も聴きました。

ゆういちさんがおっしゃる通り、佐久間さんは本当に自分の色を出すのではなく、
ミュージシャンの良さをきちんと活かしつつも、いい意味で程よいポップに仕上げていた所が、
彼の最大の手腕だったのではないかと思いました。

あと、RAZZ MA TAZZ、CURIO、cuneあたりは、僕もブレイクできなかったのが
本当に残念および不思議に思っている3組で、
特にCURIO、cuneは、リアルタイムでその動向を体感しており、
ブレイクできなくてとてもショックだったのを覚えているので、
(RAZZ MA TAZZは、後追いでベストを聴いて、ハマりました)
今回のベストに取り上げられたのは、とても嬉しかったです。

僕もGLAY、ジュディマリの時代に音楽を聴き始めた世代だっただけに、
今回の佐久間さんの急逝には、本当にショックでとても残念な気持ちでいっぱいです。
世代的にもそろそろ佐久間さんプロデュース時代の楽曲をひょっとしたら知らない
若い方もいるのではないかと思い、そう言う人にも今回のコンピレーションアルバムで、
佐久間さんがプロデュースした数々のアーティスト達の名曲を是非とも知って欲しいと思いました。

投稿: HK | 2014年5月 6日 (火) 00時05分

>HKさん
そうなんですよ。CURIOとcuneとRAZZ MA TAZZはもっと売れてもよかったと思うんですけどね。まあ、CURIOとラズはそれなりにヒット曲も出したのですが、cuneに関しては結局1曲もヒットも出ず、とても残念に感じます。
佐久間さんといえばGLAYやジュディマリのヒットが知られるだけに、これを機に、若い世代にもかつての名曲を知ってもらえるといいですね!そういう意味でも、とてもいいコンピ盤だったと思います。

投稿: ゆういち | 2014年5月 8日 (木) 00時37分

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