今なお輝く歌声
Title:スーパー・シック~雪村いづみ オールタイム・ベストアルバム
Musician:雪村いづみ
雪村いづみ、というと正直言うと「名前は知っているけど・・・」程度の認識。江利チエミ、美空ひばりとともに「三人娘」と呼ばれていた昭和30年代頃の人気歌手、程度しか知りません。デビュー60周年を記念してリリースされた今回のアルバムも、「佐野元春監修」という話題性から、日本の戦後ポップス史の「お勉強」のつもりで聴いてみたアルバムでした。
2枚組CD+DVDとなった今回のアルバム。CDは「MONO Years」と「STEREO Years」と明確に時代をわけて収録。「MONO Years」では戦後すぐの天才少女と言われた少女歌手時代の曲を、「STEREO Years」では1960年に1年間のアメリカ公演を成功させてから現在までの曲を収録。こちらは佐野元春とのコラボ曲の新曲「トーキョー・シック」「もう憎しみはない」も収録されています。また、DVDには昭和30年代の映画で歌う貴重な歌唱シーンから、2012年のNHK「SONGS」でのステージの模様まで、貴重な映像が収録されています。
さて、そんな訳で戦後歌謡曲を知るという目的で聴いてみたアルバムなのですが、聴き始めて、洋楽のテイストをたっぷり含んだ、今、J-POPや洋楽に慣れ親しんだ耳で聴いても全く抵抗感のない作風にビックリしました。確かに、過去のヒット曲を聴く過程で、戦後すぐの昭和30年代頃は、意外と洋楽テイストの強いヒット曲が多い、という印象はあったのですが、それにしても彼女の楽曲は、いまでもともすればとても「モダン」なものとして輝いています。
基本的にビックバンドを従えてのジャズ風のアレンジがメインなのですが、ラテン風だったりミュージカル風だったりアメリカンポップだったり、洋楽の様々なジャンルをうまく楽曲に取り入れています。「STEREO Years」の作品では、シャンソンやニューミュージック風の曲にも挑戦。松任谷由実の「ひこうき雲」のカバーもあり(もともと雪村いづみへの楽曲提供を意図して書かれたそうですが)、これがまた彼女の包容力ある歌声で歌われると絶品なカバーに仕上がっています。
そんな中でもおもしろかったのが「フジヤマ・ママ」。もともとはアメリカのジャンプ・ブルース歌手アイスティーン・アレンの曲だそうですが、これが力強いソウルフルなシャウトのソウルフルなナンバー。ロックンロールな色合いも強く、1958年(昭和33年)のヒット曲だそうですが、こんな曲が昭和30年代前半の日本で聴かれていたという事実にビックリ。他にも「火の玉ロック」「ビバップ・ルーラ」など、ロックンロールテイストの強い曲も歌っており、ビートルズ以前にも日本でロックンロールが受容されていたことに驚かされます。
これだけ洋楽テイストの強い曲を歌いこなせるのは、彼女のすぐれたリズム感ゆえんのように感じました。彼女のリズムは歌謡曲的なスクエアなリズムではなく、ジャジーな曲ではちゃんとスウィングしており、ロックンロールなナンバーではちゃんとロックンロールのリズムをとっています。実際、ミッキー・カーティスと共演した「恋の片道切符」では、共演者からの影響か歌謡曲的なべたっとしたリズムになってしまい、とたんに歌謡曲的な作風になってしまっていました。
正直、2枚のアルバムのうち、間違いなくはまったのは「MONO Years」の方。「STEREO Years」でも、前述の「ひこうき雲」や、佐野元春との共演曲など魅力的な曲も多かったのですが、最近の曲になればなるほど、「無難な」ニューミュージック色が強くなってしまったように思います。それでもあくまでも洋楽テイストに拘り、よくありがちな演歌・歌謡曲路線とは全く無縁なのはさすがですが。
60年代のロックンロール、あるいは昔のスタンダードポップスが好きなら、意外と彼女の歌声にはまってしまうかも?これだけすぐれた楽曲が、戦後すぐの日本でヒットしていたという事実に驚きつつ、はまってしまいましたベスト盤でした。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
ロックンロール・ファンタジー/宇宙まお
なぜか「ROCKIN' ON JAPAN」でベタ押しの女性シンガーソングライター宇宙まおの初のフルアルバム。内容は良くも悪くもシンプルなガールズロックといった感じ。正直「ロックの神様」のような、ロックが云々歌う歌詞には鼻白む感じがするのですが、「あの子がすき」のようなシンプルなラブソングなどでは、24歳の彼女らしい、飾りのない気持ちが反映されていて好印象。変に肩の力を入れない方がいいのかも。
評価:★★★★
宇宙まお 過去の作品
ワンダーポップ
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