« いまだ第一線 | トップページ | 名古屋圏フェス・イベント情報2014 (4/26) »

2014年4月25日 (金)

ミュージシャンたちの思いがつまったアルバム

Title:MUSIC FROM AND INSPIRED BY 12 YEARS A SLAVE
(邦題 「それでも夜は明ける」ミュージック・フロム&インスパイアド・バイ・ザ・フィルム)

アカデミー脚本賞を受賞し、日本でも話題となった映画「それでも夜は明ける」。このアルバム、その映画の「サントラ」とはちょっと違います。映画で使われた曲も収録されていますが、エグゼクティヴ・プロデューサーのJohn Legendが声をかけたミュージシャンに映画を見せ、そこからインスパイアされた楽曲を収めるという形式のアルバム。サントラというよりも、この「映画」をテーマとしたコンセプトアルバムといった雰囲気の作品になっています。

映画「それでも夜は明ける」は私も先日映画館で見て、その感想をこのサイトでもアップしました(参照)。不要に感情的な部分を取り去って、事実を淡々と見せるようなつくりの映画で、必要以上の説明がないからこそ、逆に心につきささる作品でした。このアルバムもJohn Legend自ら「必要最小限のプロダクションにしたかった」と語っているようで、非常に音数を絞った作品が並んでいました。それはある意味、映画の作り方と通じる部分があるように思います。

しかし、音数を絞ってシンプルにしたからこそ、映画と同様、1曲1曲が心に突き刺さってくるようなアルバムになっていました。映画でも使われていたJohn Legend自ら歌う「ROLL JORDAN ROLL」は、まさに彼のボーカルをそのままさらけだしたような生々しい、しかしとても感情のこもった歌声が突き刺さりますし、やはり一番印象的だったのがAlicia Keysの「QUEEN OF THE FIELD(PATSEY'S SONG)」。劇中に登場するパッツィーに捧げた曲で優しく悲し気に、しかしどこか力強さを感じる楽曲は、まさに映画に登場するパッツィーのイメージそのものと言えるかもしれません。

また、Alabama Shakesの「DRIVE MAN」も非常に印象的。最初、ブリトニー・ハワードのボーカルと所々入るタンバリンのリズムのみからスタート。まるで奴隷たちが何の楽器もなく淡々と自分たちの歌を歌うような場面を思い起こすような楽曲になっています。また、映画の中で主人公ソロモン・ノーサップがはじめて自らの意思で黒人霊歌を歌うという印象的かつ重要なシーンで歌われる「ROLL JORDAN ROLL」も、おそらくそのシーンの歌唱をそのまま収録されており、映画を思い起こされる収録曲になっています。

そしてこれらの曲に限らずどの曲も、とても映画に対して強い思いを感じる楽曲になっていました。特にアメリカの黒人は、先祖をたどると必ずどこかで奴隷にぶつかりますがだからこそこの映画に私たちが思う以上に強い感銘を受け、その思いを歌にぶつけたのではないでしょうか。ライナーツノートのよるとJohn Legend本人も先祖のペイトン・ポリーは奴隷から解放された後、子供たちが誘拐され奴隷とされて、その後南北戦争が終わるまで子供たちは奴隷から解放されなかったという、この映画に通じるような祖先がいたそうです。それだけに、この映画にかける思いも誰よりも強いものがあったのでしょう。そしてそんな彼らの思いは、間違いなくこのアルバムを通じて私たちにも伝わってきました。

他にも映画で使われた、主人公が奏でるバイオリン曲や映画で繰り返し使われるメロディーなども収録されており映画を見た人にとっては映画のシーンを思い起こされる部分もたくさん。もっとも、普通のサントラ盤みたいに映画を見てないといまひとつ楽しめない、というアルバムではなく、むしろ参加ミュージシャンが気になるのなら映画関係なく要チェックのアルバムだと思います。

もちろん、楽曲の内容から映画に強くからむだけに映画もあわせてみたいところ。映画の方も文句なしにお勧めの作品なので、これを機に、映画とこのアルバムをどちらも是非。

評価:★★★★★

|

« いまだ第一線 | トップページ | 名古屋圏フェス・イベント情報2014 (4/26) »

アルバムレビュー(洋楽)2014年」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ミュージシャンたちの思いがつまったアルバム:

« いまだ第一線 | トップページ | 名古屋圏フェス・イベント情報2014 (4/26) »