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2014年3月 3日 (月)

新世代の「砂漠のブルース」

Title:Chatma
Musician:TAMIKREST

今回紹介するアルバムは、2006年にアフリカはマリで結成されたバンド、TAMIKRESTの3枚目となるアルバム。アフリカ・マリといえば「砂漠のブルース」と呼ばれたTINARIWENが知られていますが、彼らもまた、TINARIWENと同じくトゥワレグ人によるグループ。TINARIWENからも影響を受けているそうで、トゥアレグ人の音楽をその楽曲に取り入れた「砂漠のブルース」と呼ばれる独特の音楽を展開しています。

TAMIKRESTというのは「結び目」という意味だとか。メンバー全員1980年代生まれの若いグループだそうです。それもあり、欧米のロックミュージックからの影響を強く受けているそうで、確かに今回のアルバムを聴いて強く感じたのは、彼らの音楽はいわば欧米の音楽とアフリカの音楽をほどよいバランスで融合させているな、ということでした。

具体的に言うと、彼らの奏でるバンドサウンドは欧米のロックからの影響が強く、垢抜けた感じがします。特に、「砂漠のブルース」と呼ばれるが所以のギターの音色は、実にメロディアスでブルージー。彼らのギターから感じる哀愁あるサウンドは、垢抜けたものを感じると同時に、どこか遠いアフリカの砂漠を思い起こさせる・・・・・・というのは無関係な日本人が、勝手にセンチメンタリズムを感じているだけかもしれませんが(^^;;ただそういう感傷を彷彿とさせるようなサウンドに仕上がっていました。

また、全体としてパーカッションを多用しつつ、うねるようなサウンド、要するにグルーヴィーなサウンドを生み出している曲も多く、「Ejanegh etoumast」のようなファンキーなサウンドがとても魅力的な曲も。ちょっとサイケな要素も加わったこのバンドサウンドもまた、欧米のロックからの影響を感じる垢抜けた部分を感じます。

ただ、このグルーヴィーなサウンドに関してもまた、バンドサウンドをギターと同時にパーカッションに主導させることにより、どこかアフリカ的な独特のテイストを感じます。もっともその一方で、決してポリリズムを多用した複雑なリズムで圧倒・・・といった雰囲気でもない点、ロックリスナーにとってもある種の「聴きやすさ」も感じました。

そんな感じで欧米のロックの要素を入れつつ、随所にアフリカ音楽らしさを感じる楽曲が並ぶのですが、その中で一番アフリカ音楽らしかったのは、独特の節回しのメロディー。「Toumast anlet」「Timtar」など、ちょっと切ない雰囲気のあるメロディーがとても印象的でした。

またこのアルバムタイトル、Chatmaは「姉妹」という意味なのですが、そのタイトルナンバーともいえる「Tisnant an Chatma」(邦題:姉妹の苦しみ)をはじめ、マリの中で独立を求めるトゥアラグ人のメッセージを読み込んだ歌詞が多いのも大きな特徴。国内盤では邦訳もちゃんとついているところがうれしいところ。このトゥアラグ人の叫びともいえる激しいメッセージ性も大きな特徴となっています。

TINARIWENもアフリカ音楽の中で欧米のロック要素を取り入れ、私たちにも聴きやすさを感じるバンドでしたが、彼らも、それに増して、いい意味での聴きやすさ、アフリカと欧米の音楽のほどよいバランス感覚を覚えました。普段、ワールドミュージックをあまり聴かないような方にもお薦めできる1枚です。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

スコットとリバース/Scott&Rivers

えっと、これを「洋楽」として紹介していいのかちょっと迷う部分もあるのですが・・・WEEZERのリバース・クオモとALLiSTERのスコット・マーフィーのユニットのアルバムです。親日家である彼らのアルバムは、なんと全曲日本語詞の「J-POP」のアルバム。CDでのリリースは日本のみだそうで、そういう意味でも邦楽のアルバム、と言えるかもしれません。上で紹介したTAMIKRESTがアフリカと欧米の融合ならば、こちらはまさにJ-POPと欧米の融合のアルバム、と言えるかもしれません。

そしてこれが実に素晴らしい名盤に仕上がっていました。例えば「BREAK FREE」など、J-POP的な大サビがあったりして、全体としてJ-POP的なベタさ、要するにメリハリあるメロディーのわかりやすいキャッチーさを保ちつつ、洋楽的な美メロも同時にあわせもっています。ALLiSTERは聴いたことないので詳しくはわからないのですが・・・このメロディー、おそらくWEEZERのファンならたまらないのでは?

特に2曲目「HOMELY GIRL」などは、まさに彼ららしい、切ないメロディーラインが炸裂する名曲!歌詞の出だしが「神様から もらった この身体と心は」と、いかにもキリスト教的な、日本人が書かなさそうな歌詞からスタートしているのが逆にユニークなのですが、サビの部分がちょっと不自然に英語が入ってくるあたりJ-POPらしいなぁ、と思ってしまいます。

ある意味肩の力も抜けて、好きな音楽を好きなように演奏しており、美メロの連続は下手したらWEEZERの、名盤の呼び声高い1枚目、通称ブルーアルバムを彷彿とさせるくらいの出来。ちょっと企画盤的要素が強いから、といって忌避するのはあまりにももったいない傑作に仕上がっていました。美メロ好きはもちろん、邦楽リスナーにも聴いてほしい1枚です。

評価:★★★★★

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