3年8か月ぶり
Title:us
Musician:小谷美紗子
約3年8か月ぶりとなる小谷美紗子のニューアルバム。3年8か月・・・先日、東日本大震災から3年という月日を迎えました。要するに、今回のアルバム、彼女にとっては大震災の後、初となる作品、という訳です。
そのため今回のアルバムは、東日本大震災に彼女なりに向き合った作品がおさめられています。例えば「東へ」という作品。おそらく東日本大震災直後のことだと思います。救援に向かう自衛隊の部隊が東に向かう中、ライブのために西へ向かわざるを得ない彼女の葛藤が歌にされています。
また、「enter」という作品に関しては、かなりストレートな反原発ソング。
「NO NUKES NO NUKES
叫び続けた 学者さん
NO NUKES NO NUKES
変人扱いされて 死んで行った」
(「enter」より 作詞 Odani Misako)
というかなり強烈な一文からこの曲が、というよりもこの歌がはじまります。
さらに今回の作品は東日本大震災だけではありません。「正体」では
「ただそこに 生まれたんだ
海の向こうや 山の向こう
それだけで 浴びせ合うのか
汚いスピーチ 拡声器に任せ」
(「正体」より 作詞 Odani Misako)
と、まさにヘイトスピーチをテーマとしています。
要するに、アルバムのリリースのなかった3年8か月の間、確実に変わりつつある日本を、正面から受け止めた、そんなアルバムになっていました。
そのため、アルバム全体としても重いものを感じます。そんな雰囲気が反映されたかのようなのが今回のアルバムのアレンジ。本作でも基本的に彼女のピアノを中心に、玉田豊夢、山口寛雄の3人からなる小谷美紗子Trioによる演奏なのですが、ピアノの音にベースを重ねるようなアレンジが多く、そのためサウンドがとても重厚になっていました。
そんなズシリと重い内容になった今回のアルバムですが、そのアルバムの「救い」かのように配置されているのがラスト2曲前の「すだちの花」で、やさしくメロディアスに聴かせるピアノ曲。
「どうしてこんなに 人は 生きるんだろう
愛する苦しみ 知ったよ 幸せだね」
(「すだちの花」より 作詞 Odani Misako)
という最後にはどこか救いとやさしさを感じる楽曲になっていました。
さて、ある意味とてもへヴィーな内容のアルバムで、今の日本を受け止めて曲を作り出すために、3年8か月という月日を要してようやく作り出すことが出来たアルバムなのでしょう。ただちょっと気になったのは、全体的にちょっと真面目すぎ、という印象も受けました。
先日紹介した踊ってばかりの国も、同じく今の日本社会をとらえたアルバムをリリースしていますが、彼らはそれをユーモアあふれる視点で描いているのに対して、彼女の歌の視点はちょっとストレートにとらえすぎて、リスナーにとっては不必要な重さも感じます。
うーん、これはデビュー当初からの彼女の傾向なので仕方ないのかもしれないけど・・・これが、恋愛をテーマにすると、この真面目な重さも、「情熱的なラブソング」という大きなメリットになってくるのですが、社会派をテーマにすると、真正面から真面目に捉えすぎるため、その考え方がリスナーとちょっとでもズレると、聴いていて違和感を覚える結果になってしまいがちです。
今回のアルバムは、間違いなく彼女にとって重要なアルバムだと思います。ただ一方で、真面目すぎるという良くも悪くも彼女の特徴から少々聴く人にとっては重いアルバムになっていました。ある意味、聴くのに「覚悟」がいるアルバムかもしれません。
評価:★★★★
小谷美紗子 過去の作品
Odani Misako Trio
ことの は
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