歌謡曲の魅力がたっぷり
Title:ニガイナミダが100リットル
Musician:大西ユカリ
大西ユカリの最新アルバムは、まさに王道の歌謡曲といった作品。ナニワのおばちゃんパワーでグイグイと押し込んでいった前作「直撃!韓流婦人拳」と比べると、「おばちゃんパワー」は薄味。アクの強さではなく純粋に楽曲のメロディーで勝負をかけるようなアルバムに感じました。
純粋に、歌謡曲らしさが前に押し出した作品、という意味では、前々作「やたら綺麗な満月」を思い出しましたし、実際、似ているアルバムだなぁ、と思いながら聴きました。それも道理、今回のアルバムも、「やたら綺麗な満月」と同様、全曲、宇崎竜童作曲によるアルバム。まさに歌謡曲界の大御所を引っ張り込んできたアルバムなだけに、歌謡曲の王道ともいえる内容になるのは当然でしょう。
その「やたら綺麗な満月」については、特に前半、歌謡曲としての様式化が進んだような局が並んでいて、最初、あまりおもしろくないかも、と思ったアルバムでした。しかし、それに比べると今回のアルバムは、確かにいかにも歌謡曲っぽい曲が多かった反面、前作のようなつまらなさは感じられませんでした。
それは結構今回のアルバム、歌謡曲路線ながらも楽曲にバリエーションをもたせ、実に上手く構成された作品になっているからではないでしょうか。まず最初「ニガイナミダが100リットル」「うっとり」と、かなりどす黒いグルーヴを利かせたファンキーなナンバーからスタートし、「快耐」ではちょっとジャジーな雰囲気が、さらに「絆」では、スケール感ある、もうちょっとニューミュージック寄りな作風の曲が並んでいて、王道の歌謡曲路線という軸はぶれないまでも、バリエーションあるサウンドを楽しませてくれます。
それだけに、歌謡曲が様式化してしまった場合に感じてしまう「古臭さ」がこのアルバムからは感じられず、純粋にメロディーの良さ、歌詞の良さが際立つアルバムになっていました。また、今回のアルバムで話題となったのは、旧面影ラッキーホール、現Only Love HurtsのaCKyが作詞で参加。個人的には、面影ラッキーホールの歌詞は奇をてらいすぎで、全然良いとは思っていないのですが、このアルバムではちゃんと大西ユカリの世界にマッチした歌詞を提供しつつ、「うっとり」では彼らしいエロ歌詞を作り上げていて、アルバムにインパクトを与えていました。
ただ、ちょっと残念なのはこのアルバム、「絆」と「歌い継がれてゆく歌のように」というカバー曲がメロディーの面では頭ひとつ出ているなぁ、と感じた点。前者は1984年に橋幸夫が、後者は1977年に山口百恵が歌った曲なのですが、やはり宇崎竜童・阿木燿子コンビの全盛期は、70年代から80年代にかけてなんだ、ということを思ってしまいました。
とはいうものの、アルバム全体としてとても素晴らしい内容だったのは間違いありません。まさに歌謡曲の魅力を存分に感じられるアルバムになっていたと思います。うん、今の時代に宇崎竜童の曲を一番歌いこなせられるのは彼女かもしれないですね。さすがです。
評価:★★★★★
大西ユカリ 過去のアルバム
HOU ON
やたら綺麗な満月
直撃!韓流婦人拳(韓国盤)
直撃!韓流婦人拳
ほかに聴いたアルバム
エレファントカシマシ カヴァーアルバム2~A Tribute to The Elephant Kashimashi~
エレカシのカバーアルバム第2弾。エレカシといえば、やはり宮本浩次のボーカルが大きなインパクトになっているだけに、他のミュージシャンのカバーは原曲に比べるとどうしても物足りなさも覚えるものの、全員、それなりに自分の持ち味を出しつつ、上手くカバーしている印象。宮本浩次ボーカルをひっぺがしてもやはりエレカシの曲は魅力的なんだ、とも感じました。
個人的には秦基博が、切ないボーカルを上手くつかって意外と健闘していた他、曽我部恵一の「デーデ」があえて原曲とミスマッチなカバーになっているのがおもしろかったり、CharaとTHE NOVEMBERSの「月夜の散歩」も、Charaらしさが上手く生きていたカバーになっているように思いました。グループ魂はいつも通りですね(笑)。
とはいえ、原曲を超えたよさが・・・といわれると微妙で良くも悪くも全体的には無難な内容だったかも。悪いアルバムではないので、エレカシのファンと、参加ミュージシャンのファンは是非。
評価:★★★★
シリーガールはふり向かない/堂島孝平
堂島孝平のニューアルバムは、本人曰く「とんでもCD」だとか。なにがとんでもかというと、タイトル曲「シリーガールはふり向かない」に続く2曲目以降のボーナストラックが、遊び心あふれる曲が並んでいる点。「 “ま、え、か、わ、よ、う、こ”の『き、ぜ、つ、し、ちゃ、う』」では、タイトル通り、「キューティーハニー」や「魔女っこメグちゃん」などを歌ったアニメソング界の大御所、前川陽子が、堂島孝平の「き、ぜ、つ、し、ちゃ、う」を歌っていますし、また、続く4曲目では、佐野元春の「レインボー・マイ・ソウル」を堂島孝平がカバーしています。さらに絶品なのは堂島孝平の名曲「セピア」を独奏とスタイルでセルフカバー。これが実に素晴らしい出来なので、ファンは必聴です。
ただ、アルバムとしては遊び要素が強く、後半30分にも及ぶ「ラジオ」形式のトークが収録されていたりするので、やはりファンズアイテム的な要素が強く、一般的に強く薦められるような作品ではないのは事実。もっとも、この後半30分に及ぶラジオでも、超大物レジェンドが参加しており、そういう意味では聴き逃せないのですが・・・。とりあえず「とんでも」ってほどのとんでもではないのですが、ファンにとっては要チェックのアルバムです。
評価:★★★★
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