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2014年2月24日 (月)

読み応えのある評伝

ここのサイトでも何度も取り上げている、私が大好きなバンド、ソウル・フラワー・ユニオン。その彼らの評伝が発売されました。「ソウル・フラワー・ユニオン 解き放つ唄の轍」。著者は写真家で、ソウル・フラワー・ユニオンのジャケット写真も多く手がけている石田昌隆。全318ページ、ハードカバーのズシリと重い本で、その表装の通り、読み応えのある1冊でした。

まず一般的にミュージシャンの活動を紹介したというと、基本的にその活動はライブやCDの販売を中心に進めていきます。この作品も、ソウル・フラワー・ユニオンが結成された1993年から、彼らのライブや発表されたアルバムなどもひとつの主軸として話は展開していきます。しかし、それ以上の記述を裂かれているのが、彼らがその活動を進めるにあたり、実際に体験したり、現地に飛んだり、あるいは影響を与えたりしたような社会事象でした。

評伝はまず2011年の東日本大震災の話からスタート。その後、ソウル・フラワー・ユニオンの活動に大きな影響を与え、「満月の夕」を生み出した阪神淡路大震災での出来事に話は飛びます。その後、パレスチナや北朝鮮、東ティモール、あるいは911から発展するイラク戦争、さらに沖縄の基地問題や原発、さらにはヘイト・スピーチへと話は展開してきます。

そのため読んでいるうちに、ミュージシャン本というよりは社会科学のドキュメンタリーを読んでいるような、そんな感覚に陥ります。そのため、単なる「ファンブック」に留まらない、非常に読み応えのある内容になっています。そして、そんな世の中の出来事と、密接にソウル・フラワー・ユニオンの活動が結びついている点、もちろん十分知っているつもりでしたが、あらためて彼らの活動や歌に込められた「意味」を再確認できる一冊になっていました。

そして読み進めていく中で感じるのは、ソウル・フラワー・ユニオンというバンドのすごさでした。確かに、社会に対して言葉を発信していくミュージシャンは少なくありません。ただその中でソウル・フラワー・ユニオンは常に弱者の視点というポリシーを持ちつつ、口先だけの活動ではなく実際にその現場に足を運び、そこにいる人たちとともに歌を届けています。

ソウル・フラワー・ユニオンは、精力的に新曲をリリースし続けています。その新曲が、結成20年のバンドにも関わらず、マンネリに陥らず、新鮮味を放ち続けているのは、やはりその時代時代にマッチした意味を、楽曲が背負っているからではないでしょうか。時代が変わればあたらしいソウル・フラワー・ユニオンの曲が生まれる。そしてだからこそ彼らの新曲は決してマンネリに陥らず、新鮮味を放ち続ける、そういうことを感じました。

ただし、今回の評伝、そんな社会的な視点がメインのため、正直、ソウル・フラワー・ユニオンの政治信条に共感できない方にとっては素直に受け入れ難い部分もあるかもしれません。ソウル・フラワー・ユニオンは楽曲自体には、強烈な政治信条をさほど入れてこない特徴があり、それゆえに幅広い層が純粋に楽しめるのですが、そういう意味ではこの本は、若干読み手を選ぶ部分は否定できないかもしれません。

また、この本で気になった部分としては、ソウル・フラワー・ユニオンの評伝なのですが、あくまでも著者石田昌隆の視点から捉えた本という点でした。この点は著者もあとがきで明記している通り、意識的に行っていることですし、著者がソウル・フラワー・ユニオンと関わっていなかった時代の話も、各種ルポタージュを引用し、丁寧に描いている点はとても素晴らしいと思います。また、著者の視点であるがゆえに、ソウル・フラワー・ユニオンの活動の描写がリアリティーあるものとして描かれていました。

ただ一方では第7章に関しては、おそらく現在進行形でおきている事象であるがゆえに、著者も多大な興味を抱いているのでしょうが少々ソウル・フラワー・ユニオンの話から離れすぎな印象は否めず、違和感がありました。また逆に、彼の政治信条的にソウル・フラワーに寄り過ぎている部分があって、「評伝」というのだから、例えばあえてソウル・フラワーの活動に対して批判的視点を中川敬やメンバーにぶつけてみる、そういう記述があれば、もっとおもしろかったのではないでしょうか。

特にソウル・フラワー・ユニオンの活動は時として理想論的な部分は否めません。もちろん、そういう信条の点も含めて個人的にはファンですし、そういう活動のスタンス自体は否定はしません。ただ例えば、一貫して弱者の視点で活動を続ける彼らですが、例えばヘイト・スピーチを行う人たちもまた、一種の弱者であり、弱者=善人であるとは限りません。そういう「現実」に対して、ソウル・フラワーのメンバーが、どのように捉えているのか、もう一歩突っ込んだような「評伝」もほしかったかな、ということも感じました。

もちろん、そういう気になる点はあったのですが、この著書全体としては、ソウル・フラワー・ユニオンの活動について、その社会情勢と含めて、深く知ることの出来る力作で、ソウル・フラワー・ユニオンが好きなら、まず読んでおくべき作品だと思います。また、90年代から2000年代の世界を知るためにも、決してソウル・フラワー・ユニオンに興味がなくても、興味深く読むことの出来る作品だと思います。あらためてソウル・フラワー・ユニオンというバンドの素晴らしさに触れることの出来た1冊でした。

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コメント

エドサーチでたどりつきました。
読んでくれてありがとう!

投稿: 石田昌隆 | 2014年2月25日 (火) 14時32分

>石田昌隆さん
なんと、著者様からの書き込み、ビックリです!どうもありがとうございます。生意気な感想文でどうも申し訳ありません(&文中の敬称略、お許しください)。
でも、非常に読み応えのある一冊で、買って読んでみて本当によかったです。素晴らしい本をどうもありがとうございました。

投稿: ゆういち | 2014年2月27日 (木) 01時01分

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