完成度高いデビュー作
Title:グレイテスト・アイドル
Musician:Mitchie M feat.初音ミク
ヒット曲不在で、どうにも勢いのない今の音楽シーン。ただ、そんな中、今、最も勢いを感じられるシーンは初音ミクを巡る音楽シーンだと思っています。確かに、技術的な部分や凝った楽曲展開ということを考えると、「プロ」が手がけるアイドルやらK-POPやらアニソンやらが上かもしれません。ただ、次から次へとおもしろい新人があらわれて荒削りながらこれからの可能性を感じる、という点では初音ミク関係のシーンが一番なのではないでしょうか。特にここ最近、続々と実力を感じる、いわゆる「ボカロP」が登場しており、「初音ミクの技術なおもしろいけど、曲は稚拙」と感じた数年前から比べると隔世の感すらあります。
そんな中、最近このメジャーデビューアルバムがチャートでベスト10入りしてきたのが、Mitchie MというボカロP。彼が大きな話題となっているのは、初音ミクをまるで人間のように歌わせる「神調教」と呼ばれるテクニック。もちろん、感情のある人間のボーカルと比べるとその差は歴然なのですが、確かにロボットみたいな雰囲気は皆無。正直、初音ミクの曲はアルバム1枚通して聴くのにはちょっと辛い部分もあったのですが、このアルバムに関しては最後までボーカルに関しては全く気になりませんでした。
ただ、個人的にこのMitchie Mというプロデューサーが非常におもしろいな、と思ったのはこの「調教」の部分ではありません。彼が作り出す完成度の高い楽曲に非常に惹かれました。
基本的に「グレイテスト・アイドル」というタイトルの通り、初音ミクをアイドルにみたてたような歌謡曲風の路線がひとつの本筋。哀愁たっぷりの「Bye Bye Blue Monday」や「FREELY TOMORROW」あたりにその傾向が顕著です。また「アイドルを咲かせ」あたりは90年代のJ-POP路線といった感じでしょうか。インパクトのあるメロディーラインがとても印象に残る楽曲でした。
ただ、その上でとても魅力的だったのが、楽曲の根底に強く感じられるブラック・ミュージックからの影響。ベースラインがファンキーな「愛Dee」や、ディスコナンバー「イージーデンス」、最後を締めくくる「Birthday Song for ミク」もR&B風。この楽曲にさりげなく流れるブラック・ミュージックの要素のため、非常にスタイリッシュで垢抜けた雰囲気になっています。良質なシティポップ、そう形容しても問題ないような出来のポップソングが並んでいました。
いままで聴いてきたボカロPは、垢抜けない、どこか素人っぽさを感じたのですが、彼に関してはその完成度の高い楽曲はまさにプロ。名前は隠しているけど、実は著名なミュージシャンでした、と言われても驚かないかも(笑)。もっとも、荒削りな素人っぽさは、先の読めない新しいことをやってくれそうな魅力があるのも事実なのですが。
またちょっと残念なのが、結局人間に近づけたような曲が魅力的になってしまうのか、という事実。演奏でも打ち込みと生音が全く違うように、初音ミクが人間のボーカルに取って代わると思っている人はいないと思います。だからこそ、人間には出来ない何かを求めてほしいなぁ、という気持ちはあるのですが。もちろん、その方面を狙うボカロPが多いのも事実なのですが。
もちろん、こういうことは、あくまでもこのアルバムを聴いて付随的に思うことであり、このアルバムの魅力のマイナス要素ではありません。ちょっと初音ミクのボーカルはアニメキャラのような癖もあるのですが、そこらへん気にならなければ、初音ミクを聴いたことない方にも十分お薦めできる傑作でした。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
空を見上げても空しかねえよ/忘れらんねえよ
3人組パンクバンドの2nd。前作は、もてない男の心の叫びを歌詞として大きなインパクトを出していました。今回のアルバムも、基本的に前作に続き、骨太なサウンドを聴かせるパンクロック。ただ歌詞からは前作で感じた童貞っぽさは薄れた感じ。力強いバンドサウンドと共に、一歩大人になった感じもする一方で、ちょっと個性は薄れたかも。
評価:★★★★
忘れらんねえよ 過去の作品
忘れらんねえよ
新・フラカン入門/フラワーカンパニーズ
2010年にリリースしたベスト盤「フラカン入門」に続く形でリリースされたベスト盤。来年25周年を迎える彼らですが、その泥臭いロックンロール路線は全く変わりません。その一方歌詞は年齢に沿ったような、大人の視点から子供のころを振り返りつつ、あくまでも前に進もうとするスタンス。そんな歌は力強く、アラフォー世代にはリアリティーあり心に響きます。
評価:★★★★★
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