音楽ファンにとっては幸せな90分
音楽ファン、とりわけソウルリスナーの間で話題のドキュメンタリー映画「バックコーラスの歌姫たち」を見てきました。
タイトル通り、大物ミュージシャンたちのヒット曲の後ろでコーラスとして参加した女性シンガーたちにスポットをあてたドキュメンタリー。かつてブロッサムズというコーラスグループを結成し、フィル・スペクターにその歌唱力を認められるも、自身の曲を「クリスタルズ」の曲として発表させられてしまったダーレン・ラヴ。ご存知ストーンズの「ギミ・ア・シェルター」でコーラスをつとめたメリー・クレイトンに、グラミー賞受賞経験もあるリサ・フィッシャー、マイケル・ジャクソンの追悼式でステージにたち話題となったジュディス・ヒルなどといったシンガーたちにスポットをあてながら話は進んでいきます。
さらに、ミック・ジャガーやスティング、ブルース・スプリングスティーンにスティーヴィー・ワンダーという驚くほど豪華なミュージシャンへインタビューが行われ、彼女たちとのエピソードや、バックコーラスとメインシンガーとの大きな違い(これがなかなか辛烈でしたが)についても述べられていました。
以下 ネタバレ込の感想です。
まずは率直な感想として。90分の映画でしたが、音楽ファンにとってはとても幸せな気分にひたれる90分ではないでしょうか?映画の中では最初から最後まで終始音楽が流れています。60年代あたりのガールズポップからロックやソウル、その時代時代を彩る曲にコーラスとして参加していた彼女たちだからこそ、登場する曲は時代を反映したような名曲ばかり。また楽曲は「コーラス」に主眼をあてたような構成になっていますが、ボーカルとしての実力はもちろん天下一品である彼女たち。その歌声にうっとりと酔いしれることが出来る内容でした。
また、要所要所で語られるエピソードもなかなか興味深く見ることが出来ます。「ギミ・ア・シェルター」のレコーディングに関するエピソード、上にも書いたダーレン・ラヴがフィル・スペクターにいいように利用されてしまうエピソード、レイナード・スキナードの「スウィート・ホーム・アラバマ」に関するエピソードなどなど。確かに目新しい事実、とかはないのかもしれませんが、当事者によるインタビューはとても興味深いものがありました。
当事者へのインタビューだけではなく、当時の映像もふんだんに使用され、登場する「歌姫」たちの若かりし日の姿も見ることができます。あぁ、時は残酷なんだなぁ、と思ったりして(失礼すぎる・・・(^^;;)。ただ、この当時の映像に関しても、とても楽しく、興味深くみることが出来ました。
そういう意味で、音楽ファンにとっては美しいコーラスが流れる名曲に囲まれてとても幸せな気分で過ごす90分でした。音楽が好きなら、この映画、必ず楽しめるはず。話題の映画のようで、ドキュメンタリー映画ながらもそれなりの数の劇場で公開されるそうなので、機会があれば是非!
・・・ということを書いておきながら、一方ではドキュメンタリーとしてはちょっと気にかかる部分がありました。それは映画の中での「物語性」がちょっと弱いのでは、という部分でした。
スターと比べて日のあたらない彼女たちにスポットをあてたこの映画。物語として考えられるのは「それでも最後は認められて栄光の舞台に立つ」か、「結局影の存在のまま終わってしまったものの、夢は諦めていない」という落ちにするのが一般的な流れでしょう。
確かにこの映画でもダーレン・ラヴがロックの殿堂入りするシーンをひとつのクライマックスとしていますし、クラウディア・リニアが音楽の世界から身を引き、スペイン語の教師として生計をたてているシーンを描いています。
ただ、映画の中で、歌姫を5人も6人も登場させているため、これらのエピソードがいまひとつ薄く感じられてしまいます。確かに、バックコーラスという仕事に対していろいろな考えを持つ歌姫が登場して、映画に幅を持たしていたのですが、一方では情報量が多くなりすぎて、主軸としてみせるべき物語が薄くなってしまったようにも思いました。
そういう意味ではちょっと残念な部分もあったのも事実。とはいえ、上に書いた通り、音楽ファンにとっては十分に楽しめる映画だと思います。とても幸せな90分を過ごせました。
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