あの傑作アルバムの続編
Title:THE MARSHALL MATHERS LP 2
Musician:EMINEM
HIP HOPをわかりやすい視点で解釈した「入門書」として話題を集めた「文科系のためのヒップホップ入門」。当サイトでも紹介したのですが、この本の中で作者はヒップホップとは、ラッパーのキャラクター性、ラッパー同士の喧嘩などを含めた「場」、バックステージを含めた「物語」を楽しむものだ、ということを述べています。
その話を聴いた時、最初に思い出したのはEMINEMでした。彼はまさにその「場」をわかりやすい形でエンターテイメントに仕上げています。スリム・シェイディというキャラクターを作り上げ、そのキャラクター性を際立たせ、身内のラッパーだけではなく、様々な芸能人をおちょくり、喧嘩をふっかけることにより、HIP HOPの「ディス」の要素をわかりやすく表現しています。
そう考えるとEMINEMがあれだけ人気を獲得できたのは、HIP HOPを楽しむためのポイントをHIP HOPを聴かないようなリスナー層にもわかりやすい形で提示したからではないか、と思います。特に2000年にリリースし大ブレイクし、日本でもEMINEMの名前が一躍有名となった「THE MARSHALL MATHERS LP」ではそんなHIP HOPの楽しさが凝縮したアルバムでした。さらにもっといえば、例えば「STAN」のようにDidoの曲をわかりやすく楽曲に取り込み、「サンプリング」という手法をわかりやすい形で提示しています。
今回のアルバムは、タイトル通り傑作アルバム「THE MARSHALL MATHERS LP」の続編としてリリースされたアルバム。HIP HOPという音楽をどのように楽しむか、というポイントはこのアルバムでもわかりやすい形で提示されています。「BAD GUY」では、「THE MARSHALL MATHERS LP」の続編ということを堂々と提示し、あのスタンも登場。こういう前作から続くという物語性もまた、HIP HOPを楽しむポイント、ということでしょう。
「HEADLIGHTS」では、かつて彼のディスの対象となったEMINEM自身の母親がここに登場。さらに「EVIL TWIN」では、あのLADY GAGAも登場し、まさにEMINEMを巡る「場」を楽しませてくれます。さらにサンプリングという手法では、「RHYME OR REASON」で、The Zombiesの有名な「Time Of The Season」をわかりやすい形でサンプリングしており、サンプリングとはどういう手法なのか誰が聴いてもわかるのではないでしょうか。
また、そういう観点を除いても、ハードロックなトラックが心地よく、ロックリスナーも楽しめそうな「BERZERK」や、RIHANNAをフューチャーしポップ色が強い「THE MONSTER」など、HIP HOPリスナー以外にも幅広くアピールできそうなナンバーが並びますし、他にもEMINEMが力強く歌を聴かせてくれる、歌モノの「STRONGER THAN I WAS」のようなユニークな作品もあり、全80分近いボリュームのアルバムながら最後まで飽きさせません。
正直、「THE MARSHALL MATHERS LP」の続編という建て付けのため、目新しい挑戦はほとんどなく、いろんな意味でまさに「EMINEMらしい」作品になっている本作。そういう意味ではちょっと保守的かもしれませんが、ファンにとっては期待通りの作品であり満足度は高いのではないでしょうか。このアルバムを足がかりにあらたな一歩へ進みそうな予感のする作品。そういう意味ではこの次の作品、要注目かも。
評価:★★★★★
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