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2013年11月 5日 (火)

伝説の野外ロックフェス

先日、映画「ベイビー大丈夫かっ BEATCHILD1987」を見てきました。

この映画は、1987年、熊本県の阿蘇山にある野外ステージ「アスペクタ」で行われたオールナイトロックフェス「BEATCHILD」を追ったドキュメンタリー。「BEATCHILD」はブルーハーツにBOOWY、尾崎豊に渡辺美里、さらにはHOUND DOG、ストリート・スライダーズ、岡村靖幸など、まさに80年代後半を代表するロックミュージシャンがズラリと顔をそろえたイベント。最近の日本でもすっかり定着したロックフェスの先駆け的存在の伝説的なイベントです。

そしてこのロックフェスを「伝説」たらしめたのはこの豪華な面子だけではありません。この日は夜から雷を伴う豪雨が会場を襲いました。びしょ濡れになる観客やミュージシャンたち。しかし、ライブは最後まで決行されたそうです。そんな過酷な環境の下で行われたライブは良くも悪くも伝説になってしまいました。

いままでこのイベントについては、一部の映像は公開されていましたが、多くの映像や音源が紛失しており、映像化は難しいと思われていました。しかし今年の5月、その映像と音源が発見されたそうで、今回この映画化となったそうです。

面子を並べただけでも実に豪華な参加ミュージシャンたちなのですが、そんな彼らの脂が載った時期のステージ。それをたっぷりと味わうことが出来る映画でした。80年代後半に青春を過ごした方なら絶対楽しめるはず!DVD化されないそうなので、まだ上映中ならば映画館へ急げ!!

続きはネタバレの感想。

今回の映画は、前日のリハーサルの風景から、当日の客入れ、突然のどしゃ降りで戸惑う観客の様子、そしてライブの模様や楽屋裏の模様、最後、泥まみれになりながら会場を去っていく観客の姿までを捉えたドキュメンタリー映画。終始雨が降り続く過酷な環境は映像を通しても伝わってきました。

ただ、やはりこの映画の一番の見所はライブ映像でしょう。このライブに参加したミュージシャンは、87年当時はまだ脂ののった若手。また、時代的に邦楽ロックが、ようやく市民権を得て、ヒットチャートをにぎわせてきた時代。それだけに、新たな時代のロックを背負うんだという意気込みをミュージシャンたちから感じる、勢いあるライブ映像がとても魅力的でした。

正直、豪雨の中のステージは決してベストアクトではないでしょう。実際、ギターの音が出なくなり、アンプが壊れた中、なんとか会場を盛り上げようとつとめた白井貴子のステージはこのライブのかける意気込みに胸が熱くなりました。他にもまだデビュー間もないブルーハーツのステージは映像を通しても惹き付けられる迫力がありましたし、岡村ちゃんのキレキレのダンスもカッコいい!個人的にHOUND DOGはあまり好きなバンドではないのですが、大雨の中、大友康平の「負けるもんか!」というシャフトのあとに「ff(フォルティシモ)」のイントロが流れてきた時には鳥肌が立ちました。

BOOWYやスライダーズ、RED WORRIORSもカッコよかったですし、尾崎豊の「シェリー」の演奏は、その歌声があまりにもリアリティーあり、胸に突き刺さりました。そしてやはり個人的にファンの渡辺美里がよかった(笑)。MCのノリは今と変わらない感じなのですが、「19歳の秘かな欲望」はカッコよかった。この頃の美里はちゃんと「ロックシンガー」だったんだなぁ。そしてラストの佐野元春も言うまでもありません。あの会場で、朝方「SOMEDAY」が流れ出したら、自分だったら泣いてしまいそうです(笑)。

また、美里ファンの自分としては、リハーサル映像や楽屋裏の映像で美里の映像が多かったのがうれしかったです。87年当時、純粋にアルバムの売上だけを見た場合だと、美里とBOOWYが一番人気でそれに佐野元春や尾崎豊が続いているような感じ。おそらく映像を撮った当時は、一番人気の渡辺美里を主軸に構成するつもりだったのかなぁ、なんて思ったりして。(なお、BOOWYは楽屋裏の映像が全くありませんでした。本人達が嫌がったのかも・・・)

ちなみに映画のもうひとつの見所としては、昨今定着したロックフェスの風景との大きな違いも注目点。街中のコンサート会場へ行くのと同じ服装をして、雨具の準備すらしていない観客が多いのも今の感覚で言えば驚きですし、それ以上に驚きなのが、観客席で傘を広げる人の多いこと(笑)。傘厳禁、レインコート持参必須という今のロックフェスでは考えられない風景でした。また、終了後に山積みにされたゴミの多さにもビックリ。ここらへん、いい意味でロックフェスは日本に定着したよなぁ、と実感できる風景も流れました。

さてライブ映像は文句なしの内容として、今回の映画で賛否がわかれそうなのがナレーションではないでしょうか。妙にこの日のライブに意味付けしようとしたり、物語的に構成しようとしたりする少々押し付けがましいナレーションは正直、ちょっと苦笑いしてしまうような場面もありました。

ただ一方でこのナレーションからは、この映画の佐藤輝監督の音楽への思いも感じました。メインタイトルである「ベイビー大丈夫かっ」という言葉、豪雨の中、雨ざらしとなったこの日の観客へ投げかけられた言葉なのですが、一方ではこの映画の観客や音楽シーンへの2つのメッセージのように感じました。

まず1つはこの頃、音楽を通じて熱い心を持っていた人たちが、26年たった今でも同じように熱い思いを持ち続けているか、というメッセージ。おそらくこのイベントの観客と同世代の方は今、既に50歳手前。社会の中揉まれていく中、ちゃんとあの頃の気持ちを忘れていないか、大丈夫か?というメッセージを感じました。

もうひとつは今でも音楽は熱いメッセージを発し続けているんだろうか、というメッセージ。この映画の中で、「音楽は音を楽しむと書くが、この日の音楽はもっとも音楽から遠かった。でも、もっとも音楽らしかった」といったようなメッセージが流れます。でも、今の音楽はどうでしょうか?確かに、音楽は今でも流れ続けています。でも、今の音楽シーンは「音を楽しむ」ことに主軸を置かれるあまりに、音楽が持っているメッセージ性を軽視されているように感じます。そんなどこか軽薄になってしまった今の音楽シーンに対して「大丈夫か?」というメッセージを発しているように感じました。

今回の映画は、残念ながら今後DVD化などの予定はないそうです。権利関係などもあるのでしょうが、なんとなく、あまり出来の良くないステージ風景をアイテムとして残したくない、と思っているミュージシャンもいるのかも。でも、今となっては貴重な映像ばかりなのでもったいないなぁ・・・なんとかDVD化してほしいなぁ・・・。

80年代後半に活躍したミュージシャンが勢ぞろいしているこの映画は、まさに「おっさんホイホイ」な内容(笑)。個人的にはここで登場したミュージシャンの全盛期をリアルタイムでは知らない世代なのですが、それでも十二分に楽しめた映画でした。当日券2,500円と、ちょっと高めの値段設定をしているのですが、それだけの価値がある内容だと思います。ここに登場したミュージシャンたちに「ピン」と来た方、これを掲載している段階でまだ上映が続いているようでしたら、是非足を運んでみてください!お薦めです。

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コメント

「BEATCHILD」に関しては、BOOWY関連の書籍におけるディスコグラフィーにて紹介されていたりとかで知識としては前から知っていましたが、改めてこの映画化という機会で発表された情報を読むと結構もの凄いロックフェスだったという事ですね。尾崎豊氏とBOOWYというこの時代のカリスマアーティストが同じステージに立った事があるというのも以前に情報として知っていましたが、このフェスだったのですね。もしかしたらこれが最初で最後だったのでは?
音楽評論家の田家秀樹氏がパーソナリティーを務めているFM番組にてこのフェスについての解説がされていて、もの凄い豪雨で低体温症に罹った観客が続出した事やイベント翌日には熊本市内の靴屋という靴屋から靴が売れに売れた事(これは初めて知りました)が説明されていましたが、やはり当日ステージに立ったアーティスト達はそういった悪天候にもめげる事無く熱いステージを展開したと語られていました。
ラジオはもとよりテレビの情報番組でもこの映画についての宣伝にて当日のステージの断片的な情報というものが10月頃から11月初頭にかけてされていた事もあって、断片的にはライブ映像を見たりしていましたが、個人的に忙しかったりあるいは身近な所の映画館では公開が終わっていたり(短期上映のような形だったような)とかで観られる機会がもの凄く低かったりします。都内の大型映画館などでのリバイバル上映はもとより、ゆういち様もおっしゃられているように是非ともDVD化して欲しいとも思っています。アーティストによっては自身の映像作品にて自分達のライブシーン限定で収録されていたりしますが、通してどのようなイベントであったのか観てみたいというのが本心でもありますので。権利が複雑に絡んでいて実現が難しいというのも分からなくもないのですが。しかしながら最近はこのような1980年代の音楽界のムーブメントが再評価の機運が今まで以上に高まっているように見受けられますが、この映画に関してもそういった流れの一つのように感じられます。このイベントの2年前に国立競技場にて開催された大規模なジョイントコンサート「国際青年記念ALL TOGETHER NOW」の秘蔵音源が今年全国区のラジオにて放送されたりした事もありましたので(「BEATCHILD」の出演者の内では、佐野元春氏と白井貴子さん、渡辺美里さん〈白井さんのコーラスとして〉がこちらの方に出演されていました)。
私自身野外ライブというものはこれまでの人生でも何度か行ったりもしましたが、複数のアーティストが出演しかつオールナイトとなると未だに行った事がありません。ライブを通して日の入りから日の出までを体感してみたいと思っていますが、なかなかこういった機会にも恵まれていなかったりします。

余談ですが、このフェスが行われたのと同時期にTHE ALFEEが静岡の日本平ホテル・ミュージックランドでワンマンにてオールナイトライブを行っていましたが、このライブも豪雨に見舞われながらも終盤あたりは雨も止み夜明け頃には富士山が顔を出したとのようですが、野外のオールナイトライブには大雨と感動的な日の出というのはつきもののようにも思えたりもします。ただ自分としては途中で大雨に見舞われるような事があると、くじけてしまいそうな気もするのですが・・・・・。

投稿: MoTo | 2013年11月21日 (木) 13時15分

>MoToさん
この映画は本当に素晴らしかったです。
登場するミュージシャンの全盛期をリアルタイムに体験されていた世代なら、間違いなく感涙モノの作品だと思いますよ。どうも大晦日にリバイバル上映されるようなので、もし機会があれば是非!しかし、これをDVD化しないというのは本当に惜しい感じもします。
>イベント翌日には熊本市内の靴屋という靴屋から靴が売れに売れた事
MoToさんの書き込みではじめて知りましたが、これはユニークですね(^^;;
確かに、あのどしゃぶりの中、一晩過ごしたら、靴は使い物にならなくなりそうですね・・・(笑)。
>国際青年記念ALL TOGETHER NOW
こちらの公演もはじめて聞きました。かなり豪華なイベントだったようですね。
こちらも音源や映像など公開されないかなぁ。
なにげに邦楽でも豪華なライブイベントの音源や映像がまだまだ眠っているような。
オールナイトの公演といえば、今も続いているエゾロック。札幌のロックフェスですが、こちらは感動モノでした。私が参加した時はちょうどステージのすぐ横あたりから太陽が昇るのですが、あの経験はいまでも忘れられません。
最近はオールナイトの野外フェスもいろいろと実施されているので、機会があれば是非!

投稿: ゆういち | 2013年12月 2日 (月) 23時47分

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