ラジオの時代
興味深いコンピレーションアルバムが発売されました。「ラジオの時代」と題されたこのコンピレーションアルバムは、「オールナイトニッポン」などの深夜ラジオがはじまった1967年から1976年までの10年間にリリースされた楽曲を集めたコンピレーションアルバム。ラジオが若者文化の中心であった時代に、そのラジオから流れてきた曲を集めたコンピレーションアルバムです。
このコンピレーションアルバムで一番ユニークな点は、洋楽と邦楽を1枚のアルバムにおさめているところでしょう。過去のヒット曲を年代順にまとめたコンピは以前から多くリリースされています。ただ、基本的には洋楽と邦楽が別々。しかし実際、リアルタイムでは若者たちは洋楽と邦楽を同時に聴いていたわけですから、洋邦まとめて並べたほうが、よりその時代の音楽シーンの状況を知ることが出来るわけで、そういう意味ではとても興味深いコンピレーションアルバムだと思います。
また、あくまでもラジオで流れていたような曲をメインとする選曲のため、基本的には若者向けで、かつ、ヒットした曲が主体。そのため、時代の先端をいきながらも、決してアングラでもない、ちょうどその時代の音楽シーンの中心にいたような曲を並べています。そういう意味でも、その時代のシーンをよくあらわしたコンピになっていると思います。
なおこのアルバム、TSUTAYAとユニバーサルの合同企画のため販売はTSUTAYAのみということだそうです。
さて、全10枚のコンピを、今日から3日間にわけて順番に紹介していきたいと思います。
Title:ラジオの時代 1967年
まず第1弾は1967年。時代はビートルズ全盛期。この年は、ロック史に残る名盤「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」がリリースされた年でもあります。また、ジミヘンやジャニス・ジョップリンなどが世界でデビューしたのもこの年。The Doorsのデビューも1967年。まさにロック全盛期真っ最中。時代的にはヴェトナム戦争への反戦運動が大きな盛り上がりを見せた頃でもありました。
この年の邦楽洋楽を並べて聴くと、目立つのは邦楽と洋楽の差。洋楽は、ロックはもちろん、ブラックミュージックでも「ダンス天国」やDiana Ross&TheSupremes「恋にご用心」、ロック勢ではTHE WHOの「リリーのおもかげ」といったナンバーが並ぶ中、邦楽勢はグループサウンズ全盛期。ザ・スパイダーズの「バラ・バラ」のカバーなど、ロックンロールを懸命に取り入れようとしている曲もあるものの、ムード歌謡曲風の曲の連続は、洋楽と邦楽の距離感の遠さを感じます。まだまだ遥かなる海外というイメージが強く残る1枚でした。
評価:★★★★
Title:ラジオの時代 1968年
ビートルズがいわゆるホワイト・アルバムを、ストーンズが「Beggars Banquet」をリリースしたのがこの年。日本では、いまだにグループ・サウンズ全盛時代。ちなみにこの年の日本では三億円事件が発生し、大きなニュースになっています。
この頃のグループ・サウンズは、前年に増してムード歌謡曲化。ますますロックから離れていく中、この年の邦楽勢でフォーク音楽の台頭が目立っています。高石ともやの「受験生ブルース」や、ある意味学生運動の象徴的な楽曲にもなっている岡林信康の「友よ」なども収録。また、邦楽ロックの先駆け的存在ジャックスの「からっぽの世界」も収録。若者主導の音楽文化が日本でも花ひらいてきたことを感じます。
洋楽勢はMarvin Gayeの「悲しいうわさ」などのソウル勢や、The Beach Boysの「恋のリバイバル」など、あいかわらずロック、ソウルともに勢いの良さが目立ちます。このコンピではそんな中でも、Scott Walker「ジョアンナ」のようなムーディーな雰囲気の曲や、The Human Beinz「ノー・ノー・ノー」のようなガレージロックが目立ったように思います。いずれにしろ、洋楽邦楽ともに、ポップスに勢いがある幸せな時代だったことがこのコンピからも伝わってきました。
評価:★★★★★
Title:ラジオの時代 1969年
1969年という年は、ロックにとって非常に意味のある年であることは有名な話かと思います。8月にアメリカでウッドストックが開催。「ラブ&ピース」という理念が現実化したロックがもっとも幸せだった一瞬が訪れたかと思いきや、12月にはオルタモントの悲劇が起こり、「ラブ&ピース」が幻想だったことを一気に思い知らされた、ロックにとっては大きな転換点になった1年です。
洋楽の収録曲に関しては、ウッドストックなどに関わる有名どころがさほど取り上げられていないため、いまひとつそこらへんの空気感が伝わってこないのが残念。ただSteppenwolfの「ロック・ミー」などは70年代のハードロックの先駆け的な楽曲として、その時代の空気を感じます。
一方日本では学生運動真っ只中。五つの赤い風船の「遠い世界に」や高田渡の「自衛隊に入ろう」など社会派な曲や、カルメン・マキ「時には母のない子のように」や浅川マキ「夜が明けたら」のような暗い雰囲気の曲が、まさに時代の空気をダイレクトに反映しているように感じました。
評価:★★★★
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コメント
はじめまして。ラジオの時代を企画・監修・選曲をしました今野ともうします。
本日初めてブログを拝見しましてお礼を申し上げたくメールをさせて頂きました。
今回の企画はTSUTAYAさんはもとより各メーカーの担当者のの皆さんには並々ならないお力添えをいただきました。例えば洋楽は邦楽と一緒のアルバムに入れてはいけない海外権利保有者からの規定。国内協会の規定で洋楽曲はレンタルまで販売後一年をしてはいけない等をすべて各方面を説得して頂き実現しました。当初500曲を選曲し全ての曲の著作権者を調べどうしても使えないものは省き(ビートルズ、ローリングストーンズ、カーペンターズ、矢沢永吉、松任谷由美、ボブディラン等はすべてコンピレーションは禁止されています。ご指摘のありましたプログレ系等は曲が長く途中で切ることが出来ないという状況もありました)更には発売日ではなく実際にヒットしたのは何年になるのかも確認の上で選曲と曲順への作業となりました。ヒット曲と言っても現在のようにヒットさせるべき作るのではなく、若者が音楽に潜む力を信じて次から次へと新しい音楽を生み出してきた時代です。1970年代前半からディスコやTVのCMソング、プロモ-ションビデオやミュージックビデオの紹介番組と音楽紹介のツールは移っていきました。現在ではインターネットの画像を始め映像なくして音楽が広がらないのではとも思えてきます。しかし現在のポップス、ロック、歌謡曲の原点ともいえるのが、この時代に生まれ育った来たことを理解している若者も増えてきています。このアルバムを通じて更に深い意味での音楽のルーツ探しをしてくれたら幸いです。最後に改めて、深い洞察のうえ企画をご理解いただきご紹介して頂いたことを心からお礼申し上げます。
投稿: いまの | 2013年12月26日 (木) 13時16分
>いまのさん
こんにちは、はじめまして。なんと、「ラジオの時代」を企画をされたご本人からの書き込み、とてもうれしいです!そしてお褒めの言葉も恐縮です。
選曲にあたってのご苦労のお話し、どうもありがとうございます。
貴重な裏話(洋楽は邦楽と一緒のアルバムに入れていけないとか、ビートルズやストーンズなどはコンピ禁止だとか←これはなんとなくそうじゃないかなぁ、と思っていましたけど)もありがとうございます。今回の企画を実現されるべく、様々なご苦労があったこと、本当に頭が下がります。
こういうコンピをきっかけに、今の音楽のルーツ探しをしてくれる音楽ファンがもっともっと増えればうれしいですね!このような素晴らしい企画、どうもありがとうございました。
投稿: ゆういち | 2013年12月31日 (火) 15時41分