初来日のステージも素晴らしかった!
Title:SARAWOGA
Musician:OLIVER 'TUKU' MTUKUDZI&THE BLACK SPIRITS
ジンバブエが産んだアフリカ音楽のスーパースター、オリヴァー・ムトゥクジのニューアルバム。8月に富山で行われたワールドミュージックのフェス「スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド」で初来日を果たし、私も見に行きました。こちらは昨年リリースされたオリヴァーの60枚目(!)となる最新アルバム。ライブの内容も素晴らしかっただけに、もちろん、このアルバムも聴いてみました。
そのライブでも感じたのですが、彼の音楽の特徴は、そのサウンドとメロディーがとても優しいという点。ギターを中心としたサウンドは、ともすればフュージョンっぽささえ感じられそうな、コンテンポラリー色の強いサウンド。メロディーにしても、60歳になる彼の深みのあるボーカルが生かされるような、しんみりと聴かせるものが多いのが特徴的です。
そのため、楽曲としては、かなり垢抜けたものを感じました。やはりアフリカ音楽は、欧米のポップスとはちょっと異なる癖のあるメロやサウンドが多い中で、彼の楽曲はポップという感覚で聴ける、かなり聴きやすい作品なのではないでしょうか。
ただ、その一方で、決してアクの抜けたコンテンポラリー音楽に終わっていない点は強調しないといけないでしょう。アフリカ音楽らしい、ボーカルとコーラスのコール&レスポンズに、オリヴァーの伸びやかで包容力あるボーカルがやはり耳を惹きます。
さらにそこに所々入るパーカッションのリズムがまた魅力的。このパーカッションにからむギターとのコラボもまた絶妙で、それにオリヴァーの伸びのあるボーカルが重なることによって、独特の魅力を生み出して、ついつい聴き入ってしますアルバムになっています。
ちなみに今回のアルバム、2010年に交通事故で亡くした彼の息子に対して捧げられたアルバムだったとか。国内盤についてくる大意訳によると、「Haidyoreke」では「時間は取り戻せないから賢く使おう」と歌ったり、「Unoterera」は「後悔先にたたず」という意味だったり、さらには「Muteuro」は「主の祈り」として、聖書の一節をつかったりしているそうです。さらにタイトルの「Sarawoga」自体が「ひとりぼっち」という意味らしく、息子を失ったその心境を、歌詞から強く感じることが出来ます。
もっとも、先日の「スキヤキ」で行われた、オリヴァーへの公開インタビューの際、ジンバブエで行われたオリヴァーの、なくなった息子に対する追悼ライブイベントに参加した方の話が出たのですが、その時も、決して悲しい雰囲気になることなくエンタテイメントなステージを見せてくれたとか。このアルバムでも、楽曲の雰囲気として暗い部分はほとんどなく、実に楽しく魅力的なポップソングを聴くことが出来ます。あくまでも音楽は楽しむもの。先日のその公開インタビューでも彼は音楽の「癒し」の側面を強調していましたが、様々な背景を抜きにして、純粋にその音を楽しむことこそ、オリヴァーの意図するところかもしれません。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
Election Special/Ry Cooder
昨年11月に行われたアメリカ大統領選挙に焦点をあわせてリリースされた、タイトル通りの「選挙スペシャル」。露骨に民主党を支持し、共和党をこき下ろした内容で、日本で言えば、先日に参院選にあわせて「アンチ自民党」なアルバムを出すようなもの。アメリカのAmazonでのレビューを見る限り、強烈なアンチもいるものの、概ね高評価で受け入れられている点、日本とは政治に対する土壌の違いを感じます。
アルバム自体は、ルーツ志向で、その主張の強さと反して、肩の力が抜けたようなアルバムに仕上がっています。選挙にあわせてリリースするため、必要以上に凝らなかったのが、逆に良い効果となっているのでしょうか?その歌詞の内容はともかく、メロディー、サウンドに関しては、彼らしい傑作になっていたと思います。歌詞にしても、個人的にはこういういいたいことをストレートに主張できる土壌は、アメリカの良い点ですね。日本でも、別に露骨な自民党批判をする必要はないですが、もうちょっと政治に対してメッセージを発するミュージシャンとか増えてもいいと思うのですが・・・。
評価:★★★★★
Ry Cooder 過去の作品
Pull Up Some Dust And Sit Down
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