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2013年8月18日 (日)

「腹ペコ」どもが満腹になれる傑作

Title:予襲復讐
Musician:マキシマム ザ ホルモン

先日のアルバムチャート評でも書いたのですが、おそらく、今、最も勢いのあるロックバンドが彼ら、マキシマム ザ ホルモンではないでしょうか。先日のロック・イン・ジャパン・フェスではメインステージの登場にも関わらず、まさかの入場規制。このアルバムも初動15万枚という数字を叩き出し、チャート1位を獲得しました。

ただ(これもチャート評の繰り返しになるのですが)、彼らに限らず、今ヘヴィーな音を出すバンドの人気があがりつつあります。MAN WITH THE MISSIONなんかもその最右翼ですし、もうちょっとポップ寄りだとONE OK ROCKなんかもそんなバンドのひとつです。

でも、その理由ってなんとなくわかるんですよね。チャートを席巻するアイドル系やK-POP。確かにそういう曲にもいい曲は少なくないんでしょう。ただ、やはりロックを聴きたいんですよね。それもおもいっきりヘヴィーでガツンとくるバンドサウンドに、シャウトするボーカル、さらに自分たちの言葉を代弁するような飾りのない歌詞。そんなロックというジャンルだからこそ得られるカタルシスを感じたい。ホルモンは、自分たちのファンのことを「腹ペコ」と呼んでいるみたいですが、ホルモンのファンならずとも、最近のポップソングに腹をすかしている若者たちが多いんじゃないでしょうか。

マキシマム ザ ホルモンの曲には、ロック好きがほしがるようなカタルシスが、すべて収められています。メタル直系のサウンドにダイスケはんのデスボイスにまずはガツンと来ます。かと思えば、亮君やナヲのボーカルのポップなパートが入り、ヘヴィーだけではなくパンクやポップなホルモンの一面があらわれます。他にもメロコアやラップメタル的な要素などもあり、今時のロックバンドの要素がすべてつめこまれているバンド、それが彼ら、マキシマム ザ ホルモンなのではないでしょうか。

個人的には、上ちゃんのスラップ奏法のベースが、ホルモンのサウンドにファンキーな要素も加えていて、個人的には壺。また、川北姉弟のボーカルも見た目によらず(失礼!)端整でポップ。そのため、メタルが苦手な私みたいなリスナーにとっても、抵抗なく聴ける点も大きなポイント。ここらへんの「ヘヴィー」さと「ポップ」さのバランスが実に絶妙で、彼らの大きな魅力になっています。まさに「腹ペコ」どもの空腹を満たすには、これとないバンドでしょう。

最近は、個人的な興味がソウルだったりブルースだったり、あるいはワールドミュージックなどに向いていたのですが、彼らの音楽を聴いていて、久しぶりにロック好きとしての血が騒いでくるのを感じました。この爆音を味わいたくて、ここ最近、何度も聴いています。まじではまってしまいました(笑)。

さて、今回のアルバムのもうひとつ大きなポイントが、全156ページにも及ぶ解説本が(それも初回限定盤とかではなく)ついてきている点でしょう。漫画までつかって、このアルバムの曲の、特に歌詞の解説をしています。作詞作曲を担当しているマキシマムザ亮君がその歌詞の世界まで、その意図も含め、100%すべてをリスナーに伝えたいがために、この分厚い「解説本」だそうです。

個人的には、ミュージシャンが一度世の中に発表した楽曲について、その解釈は人によって違うのが当然だし、そうあるべきだと思っています。極端な話、作り手が「ラブソングだ」といってつくった曲が、リスナーによっては「反戦歌だ」と受け止められても、それは仕方ないことだし、世間に広く自分の作品を公表するというのは、そういうリスクも受け止めるべきものだと思っています。

もっとも、亮君にしてもれば、そんな話は100も承知の上でしょう。また、一方では、ミュージシャンは、自分の意図を伝えるために、いろいろと工夫したり、考えたりすべきだとも思います。わかる人だけにわかればいい、という姿勢は単なるオナニー。亮君の、こういうリスナーになんとか伝えようとする姿勢は、おそらく楽曲自体にも反映されており、それもまた、ホルモンの曲が多くのファンを獲得している理由かもしれません。

なんか、これだけ力を入れられた歌詞についても触れざるを得ないのですが(^^;;解説本にしっかり書かれているように、彼の中学時代の鬱屈した感情をそのまま楽曲に詰め込んだ今回のアルバム。ただ、ここ最近、「中2病バンド」と言われているバンドとは大きな違いを感じます。それは、「中2病バンド」が、中学時代の妄想の上澄みの部分だけをきれなままで取り出しているのに対して、亮君の歌詞は、その妄想の下でグツグツと煮立っている、汚い部分までそのまま曲にぶっかけています。

その上で、そんな感情を抱く自分を、受け止めて認めている、それが亮君の歌詞ですし、そこに客観性を感じ、中2病バンドとは一種違うものも感じました。まあ、本人も、「最近のバンドの中で『中2』を感じるアーティストなんて滅多にいないし」って言っていますしね。ただ、個人的にはちょうど先日紹介したばかりの筋肉少女帯あたりが、この世界観に近いものを持っていると思うんだけどなぁ。どうでしょう?

そんな訳で、文句なしの傑作だった今回のアルバム。ロック好きにとっては、まさに腹いっぱいになる満足感たっぷりの傑作でした。いろいろな意味でアクの強い部分のあるバンドですが、もしまだ聴いていないロック好きがいたら、是非ともチェックしてみてください。人気の理由がわかると思いますよ~。

評価:★★★★★

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