2人キリンジのラストアルバム
Title:Ten
Musician:キリンジ
今年4月の全国ツアーで、弟の堀込泰行が脱退を発表し、兄、堀込高樹1人のユニットとなったキリンジ。タイトル通り10枚目のアルバムとなった本作は、2人キリンジが最後に発表するアルバムとなりました。
しかし、このアルバムには、2人キリンジとして最後、というような強い意気込みは感じません。むしろ、アコースティック主体の変なひねりもなくシンプルにまとめた、極上のポップアルバムに仕上がっていました。10枚目だから「Ten」というタイトルといい、鉛筆絵のシンプルなジャケット写真といい、余計な装飾はなく、無駄なものを省いた作品と言えるかもしれません。
ひとつひとつの楽曲も、堀込兄弟それぞれ、肩の力を抜いたような楽曲が多いのですが、逆に変な力が入っていない分、それぞれ実に彼ららしいポップソングが産まれています。高樹作品では、お化け屋敷を、爽やかに歌い上げる「きもだめし」は、そのユーモラスな視点が、堀込高樹らしい作品ですし、「ナイーヴな人々が世界をいっそう美しく変える」と歌うのは、キリンジ流前向き応援歌「ナイーヴな人々」は、その歌詞の優しい視点が心に響きます。
泰行作品でも、オールディーズ風の軽快なリズムが楽しい「ビリー」や、トラッド風のインストナンバー「dusty spring field」など、彼の世界観がしっかりとアルバムの中に反映されています。両者とも、シンプルでメロディアスな楽曲が特徴的ながらも、独特の視点の歌詞に、どちらかというと軸足を置く堀込高樹と、サウンドの面で、様々な試みを行みを行う堀込泰行。似ていながらも、微妙に交わらないこの2人が一緒に活動することが、キリンジの大きな魅力だと思っていたのですが・・・それが、このアルバムがラストというのが非常に残念な限りです。
ただ、シンプルな作風の中、それぞれのらしさを存分に発揮したこのアルバムで、2人キリンジとして2人がやれることをやりきったということなのかもしれません。そんなアルバムのラストを飾るのが、東日本大震災を彷彿とさせる歌詞の「あたらしい友だち」。こちらも、ストレートに震災を歌うのではなく、その向うにある新たなはじまりを歌にしている点が、キリンジらしくてユニーク。最後の曲の作曲名義が「キリンジ」という点もちょっと泣けますし、新たな旅立ちという点で、作詞堀込高樹による、キリンジを去る弟へのエールともとれる作品になっています。
これがラストだと信じられないくらい、息のあった内容になっていますし、2人とも、その才能は全く衰えていません。衰えていないどころか、キリンジのアルバムの中でも最高傑作に近い出来かも?
このアルバムが最後、というのがつくづく残念になる作品なのですが、これからの2人の活躍を願って。また、これからも傑作なポップソングを世に送り出すことを、期待していましょう!
評価:★★★★★
キリンジ 過去の作品
KIRINJI 19982008 10th Anniversary Celebration
7-seven-
BUOYANCY
SONGBOOK
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