異例の大ヒット
Title:佐村河内守:交響曲第1番 HIROSHIMA
Musician:大友直人指揮 東京交響楽団
今回、このサイトでは、はじめてクラシックのアルバムを紹介しようと思います。現在、アルバムチャートで大ヒットを記録していますので、クラシックに興味のない方もご存知でしょう。両耳の聴力を失いながら作曲を続け、日本のベートーベンとも呼ばれる作曲家、佐村河内守の手による交響曲。昨年11月にNHKの情報番組に取り上げられ、オリコンチャートの9位にランクイン。さらに今年3月にはNHKスペシャルにも取り上げられ、一気にオリコンチャートで2位という、クラシックのアルバムとして異例とも言える大ヒットを記録しています。
今回、普段はほとんど聴かないクラシックのアルバムを聴いたのは、それだけ話題のアルバムなだけに、ミーハー心から取りあえず聴いてみた、といったところでしょうか。それだけに、この手の交響曲に詳しい人の感想ではないので、あらかじめご了承ください。
これだけ大ヒットを記録したアルバムですが、その内容は、決して簡単に聴きやすいものではありません。CD容量いっぱいというフルボリュームの長さに、例えばモーツァルトだったりベートーベンだったり、一発で覚えられるようなわかりやすいフレーズが登場する訳ではありません。むしろ、ちょっと不条理な構成の音が登場したり、イメージとしては、現代音楽に近いものがあります。
ただ、とはいってもその一方、「HIROSHIMA」というテーマ性の下でのわかりやすさも感じました。第1楽章と第2楽章では、静寂と悲しげで、しかし心揺さぶられるような音には、広島という街の悲劇性と、魂の叫びを感じますし、その一方では、第3楽章では明るい雰囲気を感じ、その向こうにある希望を感じさせます。
決して聴きやすい内容ではないこのアルバムが、ヒットチャート2位を記録するほど売れたという事実は、やはりテレビで取り上げられた話題性が大きいのは否定できません。ただ、楽曲のテーマ性のわかりやすさがあればこそ、テレビを見た多くの視聴者がCDを買いに走った大きな理由とも言えるかもしれません。
また、それに加えて、このアルバムの大ヒットには、多くの人たちが音楽に飢えているのではないか、ということも感じました。今、30代以上の世代が、音楽を聴こうとした時に、どんな曲を聴けばいいのか、選ぶことが出来ません。それは、今の音楽がつまらないから、ではなく、何がヒットしているのかよくわからない、というのが大きな理由のひとつではないでしょうか。90年代から、日本のヒット曲は、発売第1週に、どれだけ売れるかが勝負の、極端な初動偏重主義に陥っています。その初動偏重主義の行き着いた先が、ちょうど今週のチャートで驚異的な初動売上を記録した、AKB48の「CD付人気投票券」という手法というわけです。
ただ、この初動偏重主義のため、日本のヒットチャートは毎週、めまぐるしくヒット曲が変わっていっています。その結果、時間に余裕のある学生や、私のような音楽マニア、ヒットチャートマニアはともかく、普通に仕事を抱えて、時間に余裕があるわけではない社会人にとっては、今、何がヒットしているのか、全くわからないような状況に陥ってしまっています。そして、この「ヒット曲がわかりにくい」状況こそが、音楽不況の大きな理由のひとつだと、私は思います。
そんな中、あらわれたのが今回のアルバム。テレビで取り上げられただけに話題性もありますし、また、クラシックというジャンルの関係上、30代40代以上の世代にとっても、難なく楽しめるであろうことは容易に想像できます。まさに、「音楽を聴きたいけど、何を聴いていいかわからない」という層にはピッタリのアルバムだったのではないでしょうか。その結果、決して聴きやすいわけではないこのアルバムがヒットしたのでしょう。
クラシックに興味があるけど、何を聴いていいかわからない・・・という方が最初に聴くべきアルバム・・・では正直ないと思います。私自身も、クラシックに詳しい訳ではないため、テレビ的な話題を除いて、この作品が、世界レベルでどの程度の内容なのか、正直、わかりかねる部分があります。ただ、確かに、「何か音楽を聴きたいけど、何を聴いていいかわからない」という方には、今の「ヒット曲」として、聴きやすい最適なアルバムかもしれません。このヒットを機に、久しぶりにCD屋に足を運んだ、という方が増えれば、音楽ファンとしてもうれしいのですが・・・。
評価:★★★★
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