泣ける
Title:矢野顕子、忌野清志郎を歌う
Musician:矢野顕子
矢野顕子のニューアルバムは、文字通り、2009年に惜しまれつつこの世を去った忌野清志郎のカバーアルバム。今回のアルバムは、彼に捧げたトリビュートアルバムではなく、あくまでも矢野顕子のアルバムとして、彼の曲をカバーしただけ、ということだそうです。
そういうこともあって、曲に対するスタンスはいつもの矢野顕子。忌野清志郎の歌を解体し、矢野顕子らしい、フェイクたっぷりのボーカルでカバーしています。そのため、忌野清志郎のファンが、清志郎の曲を求めて聴くと、ひょっとしたら気に入らないかもしれません。矢野顕子が、自分の解釈で歌っているため、曲から清志郎の色がほとんど消えています。ただ、そのため、その向こうにある純粋な歌詞やメロディーの良さが浮き彫りになり、曲自体が持つ力を、より感じることが出来るカバーになっていたと思います。
ただ、トリビュートではなく、あくまでもカバーとはいっても、今回カバーした楽曲の節々から、彼女の、清志郎に対する思いが歌われているようにも感じてしまいました。例えば「デイドリームビリーバー」の最後の歌詞、「ずっと夢見させて くれてありがとう」はまるで清志郎に対して歌われているみたいですし、「雑踏」で歌われる「会いたい人がいる」という歌詞にしろ、「約束」で歌われる「また今度会いたいね」という歌詞にしろ、どこか清志郎に対して歌われているように思ってしまいます。
もっとも、彼女はインタビューで、今回の選曲は、90年代や00年代の楽曲を中心に、自分の歌いたい曲を歌った、と言っているので、決して、意図的に清志郎へのメッセージのような曲を選択したわけではないのかもしれません。ただ、彼女の情感をこもったボーカルで歌われると、どうしても清志郎に対するメッセージのように感じてしまい、目頭が熱くなるものがありました。
そして、やはり決定的だったのが一番最後。彼女の曲「ひとつだけ」が収録されているのですが、忌野清志郎とのデゥオになっています。もともと、2006年に彼女のアルバム「はじめてのやのあきこ」の1曲として収録された曲をリマスタリングして収録した曲ですが、「会いたい」と歌われた曲の最後に清志郎の声が聴こえてくると、「やっと会えたね」と、胸が熱くなってきてしまいます。
うがった見方をすれば、いかにも狙ったような、ちょっとずるい構成なのですが、矢野顕子の心に響く叙情感たっぷりのボーカルの中では、そんなことを忘れて、ただただ、やっと聴こえた忌野清志郎のボーカルに感動を覚えてしまう、そんなアルバムになっていました。
もちろん、そういうことを抜きとして、矢野顕子が本来意図していた、純粋な矢野顕子のニューアルバムとしても非常に素晴らしいアルバム。基本的に弾き語りをベースとしたシンプルなアレンジになっており、彼女のボーカルの魅力、清志郎の曲自体が持つ魅力が、実に高いレベルで融合した傑作だったと思います。
清志郎が好きな人に、というよりも、あくまでも矢野顕子のアルバム、なのですが、清志郎の曲の魅力を十分すぎるほど伝えている、そんな傑作でした。
評価:★★★★★
矢野顕子 過去の作品
akiko
音楽堂
荒野の呼び声-東京録音-
Get Together~LIVE IN TOKYO~(矢野顕子×上原ひろみ)
ほかに聴いたアルバム
and then...~20th anniversary BEST~/古内東子
タイトル通り、デビュー20周年を迎えた彼女のベスト盤。女性の心理を読み込んだ、切ないラブソングが心に響く、安定感のあるポップソングが並びます。ただ、バラード主体の選曲のため、ちょっと似たような曲が多くなってしまった感があるのがマイナスか。注目は、ゲストを迎えた新録曲。平井堅を迎えた「さよならレストラン」もよかったのですが、絶品なのが槇原敬之が歌う「誰より好きなのに」。彼の暖かい歌声が曲にマッチして、原曲とはちょっと雰囲気の異なる曲に生まれ変わっています。マッキーのボーカリストとしての素質を感じることが出来る1曲でした。
評価:★★★★
古内東子 過去の作品
IN LOVE AGAIN
The Singles Sony Music Years 1993~2002
Purple
透明
夢の続き
超克/BRAHMAN
震災後の救援活動でも大きな評価を得たBRAHMAN。その彼らの5年ぶり、震災後初のアルバムという訳で、当然、大注目のアルバムとなった今回のアルバム。そんな期待の声に応えるかのような傑作アルバムに仕上がっていました。ハードコアがベースながらも、メロディアスなメロディーが底辺には流れ、ハードなサウンドを押し出したかと思えば、パッと音が引き、静かな時が流れる、そんな静動あわせたサウンドが迫力あり、緊張感を生み出している、そんなアルバムでした。
評価:★★★★★
BRAHMAN 過去の作品
ANTINOMY
ETERNAL RECURRENCE~永劫回帰~
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