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2013年4月15日 (月)

デトロイトの人たちの叫び

Title:SEARCHING FOR SUGAR MAN Original Motion Picture Soundtrack
(邦題「シュガーマン 奇跡に愛された男」オリジナル・サウンドトラック)
Musician:RODRIGUEZ

アカデミー賞授賞で話題となったドキュメンタリー映画「シュガーマン 奇跡に愛された男」。1970年代初頭に、大きな期待の下、アメリカでデビューしたものの、全く売れなかったロドリゲスというシンガーが、はるか海を越えた南アフリカの地で大ブレイクしたという事実に基づくドキュメンタリー映画で、私も先日、映画館で見てきました(その時の感想はこちら)。非常におもしろい映画で、その中で流れるロドリゲスの歌も印象的。映画を見た後、その映画で使われた曲を収録した、このアルバムも購入してしまいました。

楽曲は、ジャンル的にはフォーク、あるいはフォークロックにカテゴライズされそうな、アコギ主体のメロに、力強いロドリゲスのボーカルが載るスタイル。ボブ・ディランとの比較をよく行われているのですが、乱暴に言ってしまえば、確かに近い雰囲気を持ったミュージシャンとは思います。

正直言ってしまうと、若干、「時代」を感じてしまうのも事実。ただ、一方ではメロディーにインパクトもあり、十分、ヒットポテンシャルも感じます。まあ、実際、アメリカでは全く売れなかったものの、映画で取り上げたとおり、南アフリカで大ブレイクし、英語版Wikipediaによると、オーストラリアでもそこそこ売れたみたいなので、アメリカでもきっかけさえあれば、ブレイクできたのかもしれません。

妙に耳なじみやすいメロディーも大きな魅力のひとつなのですが、一番インパクトがあったのが歌詞。彼の出身地はデトロイトだそうですが、既に70年代に入ると、失業率も高く、中心部の荒廃が進んでいたとか。そんな街に生きる人たちの声を代弁するかのような、メッセージ性の強い歌詞が特徴的。デトロイトに住む一介の若者である彼が、いわば労働者階級の叫びや、政府や社会に対する静かな怒りを表現しています。

例えば「CAUSE」では

「Cause they told me everybody's got to pay their dues
And I explained that I had overpaid them」

(訳「やつらに言われたよ 人は皆苦労すべきなのだと
だから言ってやったんだ 十分すぎるくらい経験してきたと)
(作詞 Rodriquez 訳詩 安江幸子 「CAUSE」より)

なんて歌詞、まさに苦労を重ねる人たちの心の叫びとも言える歌詞が印象に残ります。

また、特にそんな中でも、そんな社会を変えようとする歌詞もインパクトがあり、個人的に、このアルバムの中で一番印象に残ったのが、「INNER CITY BLUES」の一節。

「The curfew's set fot eight
Will it ever all be straight
I doubt it」

(訳「門限を8時にしたって
保守的な生活になどなるだろうか
疑問だね)
(作詞 Rodriguez 訳詩 安江幸子 「INNVER CITY BLUES」より)

なんて歌詞は、昔のままがよいとする人たちに、世の中は変わっていくんだという事実をつきつけた、かなり痛快な一節になっています。

映画のサントラ、といっても、基本的に彼の曲がそのまま使われていたわけで、事実上、ロドリゲスのベスト盤のようになっているアルバム。とりあえずは映画を見て、その上で映画を楽しめたのならば、おそらく無条件で楽しめるアルバムだと思います。ちなみに、「サントラ盤売上による印税はロドリゲス氏本人に支払われます」という記載があり、映画を見た人ならば気になる点も、ちゃんとフォローされているのがユニーク(笑)。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Bastards/Bjork

ビョークの最新アルバムは、2011年にリリースした「バイオフィリア」の楽曲を、新進気鋭のミュージシャンたちがリミックスしたEPシリーズ「バイオフィリア・リミックス・シリーズ」をまとめて1枚のCDとした作品。エレクトロニカのミュージシャンがメインで、そのため、楽曲もエレクトロニカのアレンジがほとんどなのですが、曲により雰囲気が異なっている点がおもしろい内容になっています。

そんな中で異色を放っていて、個人的にもおもしろかったのが、Omar Souleymanというシリアのミュージシャンによるリミックス。アラビア色の強いフレーズがインパクトがあり、妙にチープは電子音も印象的。他の楽曲とは異なる、エキゾチックな雰囲気が大きな魅力のリミックスになっていました。

個人的に、ちょっと意気込み過ぎな点を感じたオリジナルアルバムよりも、バリエーション豊富で、各ミュージシャンたちがそれぞれの色を出していた、こちらのリミックスの方が聴きやすく、楽しめたかも?それだけ、よく出来たリミックスが揃った1枚でした。

評価:★★★★★

Bjrok 過去の作品
biophilia
2012-02-12 NY Hall of Science,Queens,NY

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