大傑作「圏内の歌」収録の新作
Title:リトルメロディ
Musician:七尾旅人
「天才」。いままでの七尾旅人に、メディアなどで多く用いられてきた枕詞です。確かに、類まれなるメロディーラインを書く反面、アレンジは実験性の高い作風の曲が多く、ポップスシンガーとして孤高の存在、というイメージも強いシンガーでした。まあ、口悪く言ってしまえば、いい意味でも悪い意味でも、「評論家受け」しそうなシンガー、ともいえるのですが・・・。
ただ、デビュー当初から彼の作品を聴いているのですが、確かに高い評価を受ける理由は納得がいくものの、彼のアルバムに関しては、はまることはありませんでした。
あまりに実験性の高い楽曲は、ある種「暴走」すらしているように感じられ、ところどころ感じられる、彼のメロディーセンスの良さに、それなりに楽しめるものの、実験性の高い楽曲に関しては、聴いていて辛くなってくるような曲もチラホラ。アルバム単位では、どうも首をかしげたくなるような作品が続いていました。
ただ、そのイメージが大きく変ったのは、昨年足を運んだライブ、「Our Favorite Things」での彼のステージ。前作「billion voices」でも、実験的な作風よりもポップな曲が増えてきた印象があったのですが、ライブでは、基本的にメロディーと歌詞を聴かせる歌モノがメインのステージで、その天才的なメロディーセンスに、あらためて彼の実力を再認識しました。また、「孤高の存在」というイメージからかけはなれた、ユーモラスなMCもまた、彼に対する見方を大きく変えた要因だったのですが(笑)。
で、その時に非常に印象に残ったのが、「圏内の歌」という曲。福島原発事故について歌った曲なのですが、
「離れられない 愛する町」
と歌いながらも、一方では
「子供たちだけでも どこか遠くへ 逃したい」
(斜字は「圏内の歌」より 作詞 七尾旅人)
と切実に歌うこの曲は、まさに被災者の心境をあまりにもストレートに歌った曲で、非常に心うたれました。
そしてその「圏内の歌」が収録されている今回のアルバム。それだけに期待半分不安半分で聴いてみたアルバムなのですが、いままでの七尾旅人のアルバムの中で、はじめてはまったアルバムになりました!
今回のアルバムは、「リトルメロディ」というタイトルの通り、シンプルなメロディーラインを前面に押し出したような曲がメイン。アコースティックなアレンジに、彼のメロディーセンスの良さが光る作品がズラリと並んでいました。
そのシンプルなメロディーの曲も、例えば「サーカスナイト」のような、ソウルの影響を強く感じるような作風が多く、これがまた、彼のちょっとしゃがれたようなボーカルにピッタリマッチ。個人的には、かなり壺にはまる曲が多かったように思います。
また、難解そうなアレンジの曲でも「アブラカダブラ」のようにメロディーがあくまでも主軸になっている曲が多く、タブラをつかった独特のリズムという、「実験的な要素」も含め、ポップに楽しめる曲が多く収録されていました
いままでの七尾旅人のマイナス面が全面的に払拭され、プラス面だけが強調されたような作品で、非常に素晴らしい作品。今年を代表する傑作の1枚だと思います。いままで、難解さから、彼を少々敬遠していた方にも是非ともお薦めしたいポップスアルバムの傑作だと思います。
評価:★★★★★
七尾旅人 過去の作品
billion voices
ほかに聴いたアルバム
荒野の呼び声-東京録音-/矢野顕子
矢野顕子のライブベスト。本人の曲はもちろん、カバー曲も多く収録されているのですが、それがまた「すばらしい日々」のようなユニコーンの曲からツェッペリンの「Whole Lotta Love」やら、「ウナ・セラ・ディ東京」やら、まさにバラバラな作風ながらも、フェイクをいかしつつ、ジャジーに仕上げるアレンジもあり、全曲、完全に矢野顕子色に染め上げているのはさすが。楽曲自体の魅力以上に、矢野顕子というボーカリストの魅力に圧倒されるライブ盤。さすがです。
評価:★★★★★
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