名曲の坩堝
Title:坩堝の電圧
Musician:くるり
昨年6月、突然の新メンバー加入が発表され、新体制となったくるり。その後、新加入直後のメンバーがすぐに脱退してしまうなど、ゴタゴタもありましたが、4人組新生くるりとなって、はじめてとなる待望のニューアルバムがリリースとなりました。
アルバム毎に、その色をかえつつ進化してきたくるり。最新アルバムは、どんなアルバムになっているか、非常に期待していたのですが、とてもバンドらしい作品になった、という印象を受けた作品でした。
「バンドらしい」といっても、決してバンドサウンドが前面に押し出された、という意味ではありません。確かに、先行シングルとなり、新たなくるりのスタンダードナンバーとなりそうな、「everybogy feels the same」みたいな、ロックな楽曲もあります。ただ、そうではなく、岸田繁以外のメンバーも前に出てきている楽曲が目立つ、という意味で、バンドらしい作品になっていたと思います。
一番顕著なのは、岸田以外のメンバーにより作詞作曲が行われ、それぞれのメンバーがメインボーカルを取った曲がおさめられている点。佐藤征史作詞作曲+ボーカルの「jumbo」や、新メンバー吉田省念による「dog」がそれ。他にも、新メンバーのファンファンがボーカルをとった「china dress 私を見つけた」に至っては、ファンファンと、サポートの堀江博久以外は、演奏にすら参加していません(作曲は岸田繁)。
確かに、岸田繁以外のメンバーが曲を書き、ボーカルを取ったケースは以前にもありました。ただ、佐藤征史との2人組になってからは、ほぼ全ての曲が岸田繁作詞作曲となっており、岸田繁のワンマン色がより鮮明になっていた印象があります。今回、新メンバーを入れてからも、すぐにメンバーの脱退があったなど、正直、岸田繁ワンマンっぽい部分は垣間見れるものの、間違いなく、メンバー4人あわせてくるりだ、ということを強く意識した作品だと思います。
また、楽曲としてのバリエーションも格段に増えた感じがします。ロック色の強い先行シングルもそうですが、他にも「o.A.o 咲く花は夢のよう」は、名曲「ばらの花」を彷彿とさせるポップソングになっていますし、震災や原発事故の影響を受けた、相馬市について歌った「soma 相馬」は、哀愁たっぷりのナンバー。「argentina」は、ラテン風のムード歌謡曲、「dancing shoes」は、ヘヴィーなロックチューンになっています。
楽曲自体のバリエーション以外にも、空耳をあえて作り出したような歌詞が印象的な「chili pepper japones」みたいなユーモラスな曲があったり、原発事故について歌った「crab,reactor,futere 蟹と原子炉の未来」みたいな、社会派なナンバーがあったりと、硬派軟派いりまじるアルバムになっていました。
もちろんどの曲も、岸田繁(ばかりじゃないですが)のメロディーセンスが冴えまくる曲ばかり。全72分というフルボリュームのアルバムだったのですが、最後までだれることは全くありませんでした。タイトルとなった「坩堝」という言葉は、様々なものが混じりあっている状況を指す言葉だったりしますが、まさにタイトルの通り、くるりというバンドが生み出す、様々なタイプの音楽が混じりあうアルバムになっていました。
新メンバーになり、あらたな一歩を進みだした彼ら。昨年、岸田繁が初のソロ名義の作品を発表しましたが、それもくるりというバンドが、岸田繁のソロではやれない様々なことをやれるバンドに成長した、ということを意味するのでしょう。これからも、楽しみです!(もっとも、この編成がいつまで続くかわかりませんが(苦笑))
評価:★★★★★
くるり 過去の作品
Philharmonic or die
魂のゆくえ
僕の住んでいた街
言葉にならない、笑顔を見せてくれよ
ベスト オブ くるり TOWER OF MUSIC LOVER 2
奇跡 オリジナルサウンドトラック
ほかに聴いたアルバム
DIVISION/the GazettE
前作「TOXIC」は、打ち込みも導入し、楽曲のバラエティーも増え、おもしろい作品でした。それだけに、本作も楽しみにしていたのですが・・・うーん、出だしの「[IX]」こそ、エレクトロなインストナンバーだったのですが、全体的には、メロが平凡。普通の歌謡曲といった感じで、耽美な雰囲気が、ちょっと鼻につく感じ。所々のインダストリアルメタルなアレンジは耳を惹くのですが・・・。
評価:★★★
the GazettE 過去の作品
TRACES BEST OF 2005-2009
DIM
TOXIC
ASIAN KUNG-FU GENERATION presents NANO-MUGEN COMPILATION 2011
ご存知、アジカン主催のライブイベント、NANO-MUGEN FES.の出演者の曲を集めたコンピ盤。毎回のことなのですが、おそらくアジカンのメンバー好みのパワーポップやエレクトロポップのバンドがメイン。アジカンの曲の源泉でもあると思われるため、アジカンが好きなら気に入りそう。the HIATUSやMANIC STREET PREACHERSみたいな有名どころから、はじめて聴くミュージシャンまで選り取り見取りなのですが、なにげにはじめて聴いたミュージシャンがおもしろかったりして、アジカンの選曲センスの良さを感じます。オオルタイチの「Venus」など、チープなエレクトロサウンドが妙にユーモラスでインパクトがあって、印象に残りました。
評価:★★★★★
NANO-MUGEN COMPILATION 過去の作品
ASIAN KUNG-FU GENERATION presents NANO-MUGEN COMPILATION 2008
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2012年」カテゴリの記事
- 私たちの身に染み付いたサウンド(2013.02.12)
- まだまだ現役!(2012.12.27)
- 素朴な曲が心に響く(2013.01.04)
- 懐かしい名前の復帰作(2013.01.05)
- 沖縄発世界一周?(2012.12.20)
コメント
くるりのアルバムのレビューで“全72曲”ってなってますけど、“全72分”の間違いではないですか?
(“全72曲”のオリアルってのも、くるりならちょっとありえるかも…いやないな(((^_^;))
投稿: 通りすがりの読者 | 2012年11月20日 (火) 23時43分
>通りすがりの読者さん
ご指摘ありがとうございます。すいません、ご指摘の通り、72「分」の間違いです(^^;;さっそく修正しておきました。
投稿: ゆういち | 2012年11月24日 (土) 22時44分