3月11日以降の日本への・・・
Title:TOTAL
Musician:THA BLUE HERB
ここ最近、特に日本では、となるのでしょうが、「歌詞」から強烈なメッセージを発しているのは、いわば「反体制」を標榜していたロックやパンクではなく、HIP HOPというジャンルだったりします。もちろん、ラップの性質上、1曲に多くのメッセージをのせられるということもあるのでしょうが、例えば雑誌のインタビューなどを読むと、大学のサークルのりの延長が多いような若手ロックバンドと比べて、HIP HOPのミュージシャンは、なにげにシーンに対して真摯に向き合って、音楽に対して、よく考えているなぁ、ということを感じる場面が少なくありません。
THA BLUE HERBの新作に関して、やはり昨年の東日本大震災と、その後の日本の状況が大きく影響しているのでしょう、より強いメッセージ性を秘めたラップを綴っています。シーンに対して強烈なメッセージを放つ「UNFORGIVEN」や、タイトルそのまま「LOST IN MUSIC BUSINESS」はもちろんなのですが、一番強烈だったのが「GET READY」。政治に対する皮肉を綴ったこの曲。歌詞の内容と相反するようなトラックがポップにまとめられているのがとてもユニークなのですが、それがまた、この曲にインパクトを与えています。
ただ、このアルバムで一番強烈だったのは、実は本編ではなく、付属のCDに収録されている「NUCLEAR,DOWN」。タイトル通り、原発問題を真正面から取り組んで、原子力発電への思いを、これでもかというほど綴った楽曲。あまりにもストレートな内容が、心に突き刺さります。特に忘れられないが
「勇気の使い方は学校じゃ習わなねえ ここで学ばなかったらバカだぜ」
(「NUCLEAR,DOWN」より 作詞 BOSS THE MC)
というメッセージ。でも、あの原発事故の後、何も学んでいないこの国に悲しくなります・・・
今回のアルバムは、3月11日以降も、何も変わらないこの国に対する、BOSS THE MCの静かな怒りのメッセージでしょうか。対するO.N.O.のトラックは、基本的にいままでの路線を継承した形で大きな変化はありません。音数を絞ったタイトなトラックは、緊張感があふれるもの。ただ、今回は、ピアノを効果的に取り込んだ、より悲しげなトラックが多く、BOSS THE MCのメッセージを、よりインパクトのあるものにしているように感じました。
地元札幌について綴ったリリックもあいかわらず多く、そういう意味では、怒りのメッセージも含めて、自分たちの生まれ故郷への愛にあふれたアルバムと言えるかもしれません。今年を代表する傑作です。
評価:★★★★★
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2012年」カテゴリの記事
- 私たちの身に染み付いたサウンド(2013.02.12)
- まだまだ現役!(2012.12.27)
- 素朴な曲が心に響く(2013.01.04)
- 懐かしい名前の復帰作(2013.01.05)
- 沖縄発世界一周?(2012.12.20)
コメント