日本語ラップの歴史
先日、「文科系のためのヒップホップ入門」を紹介しましたが、この本で取り上げられていないのが、日本のヒップホップシーン。で、そんな日本語ラップの歴史を語った、うってつけの本が発売されました。
ロベルト吉野とのユニットで活動を続けるサイプレス上野と、東京ブロンクスの2人が、日本語ラップの代表的な名盤を1枚ずつ取り上げ、そのアルバムと、それにまつわるシーンを語る1冊。2007年にbounce.comに連載されたコラムに、今回、追加の対談も収録され、書籍として発売されたそうです。
取り上げられているアルバムは、キミドリからはじまり、ライムスターやスチャダラパー、ザ・ブルーハーブにリップスライム、さらには日本語ラップの黎明期を支えたいとうせいこうまで取り上げられており、幅広く、満遍なく網羅されている感じが。アルバムによっては、そのシーンの関係者も招き、トークに参加しています。
本人たちが「音楽語ってねー」と話していますが、アルバムの内容自体よりも、そのアルバムにまつわるシーンの空気を多く語っているのが特徴的。「文科系のためのヒップホップ入門」で、ヒップホップは、その「場」を楽しむことこそが楽しみである、と書かれていますが、さすがシーンの第一線で活躍している彼ら。ヒップホップの楽しみ方の壺を心がけている感じです。ただ、「文科系」の私にとっては、もうちょっと音楽の面も言及してほしかったのですが(^^;;
用語に注釈はついていますが、全体的には、少々「初心者」には入りにくい感もいなめません。特に、内輪的な話が多いので、私も「文科系のための~」を読んでいなかったら、かなりとまどったかも。もっとも、話を読んでいくと、そのアルバムも聴きたくなってしまうのは、なによりお2人の、ヒップホップに対する純粋な愛情を感じられるから。彼らが本当にヒップホップを愛してやまないんだなぁ・・・というのが、心からわかる文章になっています。
ただ、「文科系のための~」の感想でも書いた通り、この「内輪」的な空気は、やはり気になってしまいます。会話の中で、「ゲームにエントリーしないやつには発言権もないっていうのがヒップホップのルール」という発言があるのですが、正直、素直にはうなずけません。確かに、門外漢の意見は、事情を全く把握しておらず、トンチンカンであるケースは多いのですが、ただ、そういう意見に耳をふさいでいては、いつかはシーン全体が誰も見向きをされなくなってしまいます。一度、世の中に発表される作品は、どんな意見も甘受すべき。これが社会のルールではないでしょうか。
そういう意味では、「文科系のための~」で感じた、ヒップホップの限界を、この本でもまた感じてしまいました。今はシーンに活気があり、勢いがあるだけに、内輪的な空気が、逆に魅力にすらなっているとは思うのですが・・・。
とはいえ、ここで紹介されているアルバムには、非常に興味を持ちました。また、機会を見つけて、少しずつ聴いていきたいなぁ。
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