ヒップホップの魅力と限界
最近、ちょっと話題になっているヒップホップの入門書。遅ればせながら、読んでみました。
「文科系のためのヒップホップ入門」。ヒップホップに詳しいライターの長谷川町蔵氏と、ヒップホップの壺が最初はわからず、最近、ようやく聴き始めたというライターの大和田俊之氏の対談形式により、ヒップホップの歴史や、ヒップホップの楽しみ方などを解説している本。「文科系」という書き方をしていますが、対象は、ヒップホップの聴き方がいまいちわからない、理論派(というか理屈派?)音楽ファンのための、といった感じでしょうか?
「ヒップホップは音楽ではない」と言い切り、「ヒップホップは『場』を楽しむものである」というのが長谷川氏の主張。「ヒップホップは『少年ジャンプ』である」「ヒップホップは『プロレス』である」「ヒップホップは『お笑い』である」という大胆な主張は、わかりやすく、かつおもしろい。正直、ともすれば突飛にも感じられる主張は、「本当?」とも思ってしまったのですが、書評などを見ると概ね好評に捉えられているところから、間違いではないのでしょう。「ヒップホップとロック」などで語られるロックとの対比など、ちょっと単純化しすぎているのでは?とも思う部分もあるのですが、非常にユニークな主張が興味深かったです。
と、ここらへんの大胆な主張に関して概ね高い評価を得ているのですが、個人的に、この本で一番おもしろかったのは前半のヒップホップの歴史。いままで、ヒップホップの成り立ちについては、何冊か本も読んだのですが、この本は、ヒップホップの進化が、とてもわかりやすくまとめられていて、いままでいまひとつピンと来なかった部分も腑に落ちる内容になっていました。
特に、長谷川氏は「ヒップホップは『音楽』ではない」と主張しているのですが、音楽的な説明が詳しいのが特徴的。具体的な曲名もあげられているため、You Tubeなどで試聴しながら、ヒップホップの歴史について、わかりやすく、壺をおさえながら理解できる展開になっています。
ただ、この本を読んで感じたのは、ヒップホップというジャンルの限界でした。ヒップホップが「場」を楽しむ文化であるとすれば、おそらくそう遠くない将来、ヒップホップは一気に縮小してしまう危険性を感じます。それは、昔は国民的人気を誇ったプロレスが、いまや日本では一部のファンだけが楽しんでいるスポーツになってしまったのと同じく。「場」を楽しむためには、そのジャンルをよく知らなければいけません。それはともすれば「初心者お断り」になりかねません。
いままで私は、これだけヒップホップというジャンルが隆盛を誇りながら、例えば昔のビートルズのように、全世界から熱狂的に迎えられ、社会現象にまでなるようなスターが出てきていないということに、以前から少々疑問に感じていました。それは、ラップにはメロディーがなく、そうすると広い層が楽しめないから・・・と思っていたのですが、この本を読む限り、おそらくそうではないんでしょうね。「場」を楽しむ文化だからこそ、どうしてもリスナーを限定してしまう。それがヒップホップの魅力でもある一方で、限界でもあるように感じました。
ただ、この本を読んでいると、無性にヒップホップが聴きたくなりました(笑)し、聴いてみると、なんとなくいままで見えてこなかったような魅力が見えてきたような・・・。そういう意味では、ヒップホップの入門書として非常に優れた一冊だと思います。ヒップホップに興味があって、アルバムを何枚か聴いたけど、いまひとつよくわからない・・・という方、お勧めです。
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コメント
宇多丸とスチャがHIPHOP本について
(チラッと)語っているポッドキャスト面白いですよ~
http://www.tbsradio.jp/utamaru/2011/01/2010_1.html
この本(文科系のための~)について語ってた回もいつだったかあった気がします.
投稿: ヒノキオ | 2012年4月29日 (日) 04時29分
>ヒノキオさん
お、なんか、このポッドキャスト、おもしろそうですね~。スチャとの回以外に関してもおもしろそうです。あとで聴いてみますね!情報ありがとうございます。
投稿: ゆういち | 2012年5月11日 (金) 00時20分