戦前の大衆文化のパワーを実感
そんな訳で、戦前のジャズを取り上げた、「ニッポン・モダンタイムス」シリーズ。とりあえずは、オムニバスアルバムを聴いてみました。
Title:Swing Time 1928-1941
まずは日本コロンビアからリリースされたオムニバス。序盤に並ぶ、二村定一の曲が、とても楽しく、耳を惹きます。特に、「アラビヤの唄」や「あほ空」は、シンプルなメロディーが、今でも思わず口ずさんでしまいそうな、普遍性を持っており、とても魅力的。どちらも大ヒットした曲なので、どこかで聴いたことある方も多いかも。「あほ空」は、今でも時々使われる「狭いながらも楽しい我が家」という常套句の元ネタだそうです。さらにこの「あほ空」は、アメリカの「My Blue Heaven」を日本に輸入、翻訳した曲で、元曲はアメリカでも大ヒットを記録しており、あのロックンロールの元祖的存在のファッツ・ドミノもカバーしており、さらにそのカバーとして、Norah Jonesもカバーしていたりします。アメリカの大衆文化というと、戦後に一気に押し寄せたというイメージがあるのですが、実際は、戦前も、アメリカの大衆文化は日本にもちゃんと伝わっていたんですね。
さらに「百萬円」という曲がかなりユニーク。「探偵!ナイトスクープ」に取り上げられて話題になったそうですが、まさにエログロナンセンスという歌詞は、今聴いても、かなりインパクトがあります。
他には、おなじみのをスウィング調にアレンジしてとてもユニークな「もしもし亀よ」があったり、ジャズのスタンダードナンバー「Sing Sing Sing」は、当たり前ですが、ちゃんとスウィングした演奏には、戦前の日本のジャズバンドとしての実力も感じます。また、「お祖父さんの時計」は、あの有名な「大きな古時計」。戦前には全く違う訳詩でヒットしていたみたいですね。こちらも、今聴くと、歌詞に違和感があるのがユニーク。
また、「つもりつもりだ」は、戦時下の時代性を感じさせる歌詞。「~をやったつもりでがんばろう」的な歌詞なのですが、どこかユーモラスで皮肉的な要素も感じられ、暗い時代の中、みんなで出来るだけ明るくがんばっていたんだなぁ、ということを感じさせます。
評価:★★★★
Title:SWING GIRLS 1935-1940
こちらはテイチクから販売された、女性ボーカリストの曲をあつめたオムニバス盤。冒頭を飾る川畑文子の大人の色気を感じさせるボーカルがとても魅力的。調べたところ、もともとアメリカ出身の日系人で、ブロード・ウェイの舞台にも立ったことがあるとか・・・実は、かなりとんでもない経歴の持ち主の実力派なんですね。今聴いても、そのボーカルはとても魅力的です。
魅力的といえば、続くチェリー・ミヤノのボーカルもとても魅力的。どこか舌ったらずなボーカルで、どこかチャイルディッシュなところが、とてもかわいらしい雰囲気。「ニッポン・スウィングタイム」によると「容貌、キャラともにフィギアスケートの浅田真央選手に似た少女」だそうで、歌声からもなんとなく納得。今ならいわゆる「萌え」の対象になりそうかも(笑)。
その他、全体的にタンゴ風の楽曲が多かったような印象が。しんみりと、しっとりとしたボーカルで聴かせるような楽曲が多かったのも、大きな特徴でしょうか。
評価:★★★★
Title:Sweet Voices~ニッポンのスウィング・エラ~KING&TAIHEI collection 1934-1942
で、こちらがキング・レコード盤。正直言うと、この3組の中では、一番印象が薄かったかもしれません(^^;;ただ、それでもこちらも、戦前のジャズシーンの勢いがわかる曲が並んでいます。個人的に印象的だったのが、長谷川顕で、ユーモラスなコミックソングが3曲。コミックソングの方が、ともすれば時代の空気をそのまま反映していて、後世に聴くと、意外と楽しめたりするのが不思議。
あと、このアルバムには、「ダイナ」や「青空」など、ヒット曲がいろいろなミュージシャンによってカバーされ、複数収録されたりしていますが、その聴きくらべも魅力的。特に最後を飾る宮下昌子の「ダイナ」は、軽快なデキシーランド・ジャズが耳を惹くアレンジが印象的でした。
評価:★★★★
そんな訳で、戦前のジャズソングを網羅的に楽しめるオムニバス盤を3枚聴いてみたのですが、今聴いても、意外なほど本格的にジャズを演奏しているのがビックリ。よくよく考えれば、戦前は鎖国していたわけではないので当たり前なのですが西洋の、特にアメリカの文化が戦前から、きちんと日本の大衆文化に入り込んできていたんだなぁ、ということを感じさせます。
また、ユーモラスなコミックソングをはじめ、軽快なポップスの数々は、戦前が、決して「軍靴の響き」と言われるような暗い時代ではなかったんだなぁ、ということに気がつかされます。もちろん、ジャズというジャンルは、戦前の大衆文化の一側面でしかないわけで、それだけで全ては推し量れないのかもしれませんが、戦前の一般人のパワーを垣間見れた感じすらしました。
ジャズだけではなく、タンゴとかハワイアンなども多いのも印象的で、哀愁あるメロディーが日本人には受けていたのでしょうか?どちらも今の日本では、あまりヒットしないジャンルなだけに、ちょっと意外な印象も。
楽曲によっては、ムード歌謡や、バリバリの歌謡曲路線になっていて、やはり日本人は、どうしてもこちらの路線に走ってしまうのね、と思ったりもしたのですが、全体的には、洋楽テイストの強い、いわば「バタ臭い」楽曲が多く、ここらへんの曲は、ある意味、今の私たちの耳にも十分違和感なく楽しめると思います。「戦前の」と身構えなくても、今の感覚で、とても魅力的なポップソングが並んでいた作品でした。個人的には、この3枚の中では「Swing Time」が一番楽しめたかなぁ。最初、このオムニバス盤3枚だけ聴く予定だったのですが、予想以上によかったので、その後、同じシリーズの他の作品も聴きはじめてしまいました。そちらの方の感想は、また近いうちに!
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