戦前のイメージがちょっと変わりました。
「ジャズはアメリカの進駐軍が日本に持ってきた」
この本の冒頭の出だしですが、現在においては、一般的なジャズのイメージとして、このように思われることが少なくありません。しかし、実際には戦前、既にジャズは日本に入ってきており、かつ、社会現象的なブームにまでなったことがあるそうです。音楽ライターの毛利眞人氏による著書「ニッポン・スウィングタイム」は、そんな戦前の日本のジャズシーンを、丹念に掘り起こした力作でした。
もともとは、おととしの11月に販売された書籍。販売当初から、書店でその存在は知っていたものの、読んでみるまでには至らず、興味を持ったのは、昨年、日本経済新聞の文化面で著者の活動が紹介されてから。その後、昨年より、著者が企画監修する「ニッポン・モダンタイムス」というCDシリーズが発売され、その内容に興味を惹かれたことから、音源を聴くと同時に、是非、本も読んでみたい、と思い、おくればせながらこの本を手に取ることにいたりました。
文章は、難しい音楽理論の話は抜きでわかりやすく、丁寧に調べられた内容の充実さから、音楽的な興味もさることながら、戦前の文化史、庶民の歴史という面からも、とても興味深い内容だったと思います。
特に戦前、アメリカの音楽がリアルタイムで日本にもたらされていたと言う点、よくよく考えれば、鎖国していた訳ではないし当たり前なのですが、なんとなく「戦前の日本=暗い」という中で見過ごされていた事実。この本を読んでいるうちに、大正から昭和1桁にかけての日本には、生き生きとした明るい暮らしがそこにあったんだなぁ、ということを感じ、戦前のイメージがちょっと変わった感すらありました。
また、この本でも中心的に取り上げられている戦前の人気ジャズシンガー二村定一氏に関して、新聞の記事で著者は、J-POPの源流と語っていました。確かに、日本では、戦後、日本的で泥臭い「歌謡曲」の流れに対して、西洋音楽の要素を取り入れた音楽の流れが別にありました。それが、時代により、「ニューミュージック」と呼ばれたり、最近では「J-POP」と呼ばれたりして、日本的な歌謡曲とは、つかずはなれずの状態で、ある意味、日本の音楽文化の両軸を担ってきた、というイメージがあります。
この本を読むと、その構図は戦前も同様で、非常に日本的な流行歌や浪花節などと対比する形で、バタ臭いジャズという音楽が流行していた、という構図があったんだあぁ、というが実感できます。つまり、ジャズという音楽は、今でいうところのJ-POP的な存在であって、だからこそ、二村定一は、J-POPの源流、という意味になるのでしょうか。
他に、戦前でも多くの本場のミュージシャンが来日していた事実や、多くのインディーズレーベルがあって、シーンを形作っていた点など、戦前も活発なミュージックシーンが日本にもあった、という点は、非常に興味深く感じました。
音楽の本としてだけではなく、歴史の本としても、とても興味深い1冊。この本を読むと、自然に戦前のジャズにも興味が出てきました。そんな訳で、上にも書いた「ニッポン・モダンタイムス」シリーズでリリースされたCDを何作か、聴いてみたわけですが・・・その感想は(あしたはシングルチャート評なので)明後日に!
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