切り口のおもしろさは感じつつも・・・。
ハルメルズ、パール兄弟で活躍し、その後は主に作詞家として、数多くのミュージシャンに詞を提供しているミュージシャン、サエキけんぞうが、メディアとの関わりから、ロック音楽を俯瞰的に捉えた著書「ロックとメディア社会」読了。
基本的に、ロックとメディアをテーマにしながらも、基本的なロック史から綴られており、初心者にも読みやすい内容でした。また、メディア社会から立脚したロックに対する切り口がとてもユニーク。特にGSとヴィジュアル系の共通点の指摘は、目からうろこが落ちた感じですし、また、ハードの進化にあわせてソフトも進化していく、という指摘には、非常に納得のいくものがありました。
また、ロック史の延長線上として、アイドルやアニメなどについて触れているのも、彼らしくとてもユニーク。ここらへんの視点にも、新しいものを感じます。
ただし、アニメに関しては、ちょっと疑問が。確かに、特に今の日本において、アニメ文化が、若者文化のひとつとして、欠かせないものになっているのは間違いないと思うものの、基本的にはメインは動画。アニソンみたいに音楽と深い関わりはもっているとはいえ、ロックを代替するものとは、ちょっと思えません。
「日本のアニメの影響力は英米のロックの影響を超えはじめているのではないか」という指摘もかなりまゆつばもので、例えば、村上隆氏が、「クールジャパン」という言葉に対しての疑問を呈した文脈で、日本のマンガやアニメの影響は、ごく一部のマニアにとどまっている、という指摘をしています。
アニメに限らず、日本のミュージシャンの海外進出に関しての記述でも同じことを感じたのですが、海外での日本の受け入れられ方について、少々過大評価的に感じられました。ただでさえ、日本人の海外進出のニュースは、バイアスがかかって伝えられるケースが多いため、もうちょっと説得力のある丁寧な分析をしてほしかったなぁ、ということを感じます。
ただ、この本で一番疑問に感じたのは、ロックとメディアの関わりをテーマにしていながら、インターネットという、今、いろいろな意味でもっとも重要なメディアとロックの関わりに関しては、ほとんどスルーしている点でした。
例えば、最近ではすたれてしまいましたが、一時期MySpace発で有名になるミュージシャンが話題となりましたし、神聖かまってちゃんみたいに、動画サイトを積極的に利用しているミュージシャンが出てきています。なにより、ニコニコ動画発の同人音楽のように、今、アニメやアイドルと同じくらいのレベルで活況のある分野であり、かつ、まさしく彼がこの本でテーマとしている、メディアの発達により、あらたな進化をとげようとしているジャンルであるにも関わらず、ほとんど触れられていないというのは疑問。このネットと音楽とのつながりについても、ロック史の観点から分析をしてほしかったのですが・・・とても残念です。
そんなわけで、ユニークな切り口が楽しめ、簡単なロック史を読むような感覚で、楽しくよめておもしろい反面、少々疑問が残る部分も多かった1冊でした。彼自身、獨協大学で「ロックとメディア社会」をテーマとした講義を行っているそうで、ひょっとしたら、ネットとロックの関係は、その講義では触れているのでしょうか?そうだとしたら、是非、第2弾で、そこらへんの分析を聴いてみたいです。
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