世界中でヒット??
Title:1969
Musician:由紀さおり&ピンク・マルティーニ
由紀さおりが、アメリカのジャズミュージシャン、ピンク・マルティーニと組んでリリースした新譜。アメリカのビルボードジャズチャートで1位を獲得したほか、iTunesの各種チャートで上位につけたことから、日本のマスメディアでは「世界中で大ヒット」という報道がなされ、話題となりました。
確かに、日本ではなく海外でもそれなりに売れたのは間違いないでしょう。ただ、ヒットしたか、ということについては、かなり眉唾物。確かにビルボードジャズチャートで1位を獲得しているものの、ビルボードの各種チャートの売上は、かなり微妙で、実際、総合チャートでは200位にもランクインしていません。
そもそも、Wikipediaの記述を見ればわかるとおり、海外では、ピンク・マルティーニのアルバムとして捉えられていて、彼ら自身、過去にはビルボードの総合チャートで30位を獲得したこともある人気ミュージシャン。そう考えると、このアルバム、由紀さおりが海外で売れた、というよりも、ピンク・マルティーニのアルバムだから売れた、という見方の方が正しいのではないでしょうか?
日本のマスメディアは、ともすれば、自分たちの知識の中で、知っている人が海外で少しでも名前が出ると大騒ぎするので、「海外でヒット」みたいな類の報道に関しては、かなり疑ってかかった方がいいかと思います。おそらく、売上的には、DIR EN GREYがアルバム「UROBOROS」で記録した、ビルボード総合チャート114位の方が、上だと思われるのですが、当時、日本のメディアでほとんど騒がれた記憶はありません。
ただし、売れたかどうか、という話とアルバムの出来がどうか、というのは全く別な話。由紀さおりがアメリカの人気ジャズミュージシャンと組んだということは、本来それだけでひとつのニュースだと思います。
それだけに、「歌謡曲とジャズの融合」みたいな路線を期待してこのアルバムを聴いたのですが・・・聴こえてきたのは、バリバリの歌謡曲でした。
まだ、昔懐かしい時代の音、ならおもしろかったものの、流れてきたのは完全に、様式化されてしまった歌謡曲。確かに、海外ではこの手の音もものめずらしいのかもしれませんが・・・あまりに様式化されたアレンジに、聴いていておもわずガクっと来てしまいました。
とはいえそれは前半の話。そもそも、なんだかんだいっても由紀さおりのボーカルは一級品なのは間違いありませんし、ピンク・マルティーニの奏でるハーモニーも、極上の一品。確かに、教科書的で、新鮮味みたいなものはありませんが、中盤から、「Puff,The Magic Dragon」や「Is That All There Is?」のような、歌謡曲っぽくない曲も混じりはじめ、ポップスアルバムとしては、素直にその美しいメロディーと声を楽しめるアルバムになっていたと思います。
そういう意味では、ある種正統派な歌謡曲のアルバム。アルバムの作りこみ方としては、間違いなく一流の仕事だったと思います。ただ、良く出来すぎていて、遊びみたいな部分はなく、新鮮味が薄かったかも。まあ、逆に耳なじんだ音とメロディーは、普段、音楽を聴かないような40代50代あたりの年代層には受け入れられそうな感じもします。
「世界でヒット」の報道を受け、オリコンチャートでも順位を上げていますが、普段、CDを買わない人たちが手を伸ばしそうなアルバムで、そういう人たちをCD屋に向かわせたという意味では、大きな意義のあるアルバムかもしれません。特に、アルバムの新譜のリリースが少ない、年末年始から1月にかけて、ヒットを飛ばしそう・・・。
評価:★★★★
ほかに聴いたアルバム
studio vacation/DORIAN
昨年、「Our Favorite Things」や「TOYOTA ROCK FESTIVAL」で見て、いいな、と思ったDORIANの最新アルバム。リスナーの壺をついたのような、テクノサウンドがとても心地よかっただけに、アルバムも期待したのですが・・・ちょっと期待していたのとは違ったような。夏の海辺を思い出すような爽やかなサウンドは、ちょっと80年代テイスト。それはそれで、確かに、いい意味でのわかりやすさはあるものの、ライブで感じたような高揚感はなかったなぁ。悪いアルバムではないけれども、ちょっとサラッと流せ過ぎてしまう1枚に感じました。
評価:★★★
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