せっちゃん、怒る
Title:45 STONES
Musician:斉藤和義
斉藤和義、といえば、やはり今年、もっとも話題になったミュージシャンの一人でしょう。
その理由は、原発行政を強烈に皮肉った「ずっとウソだった」を、突如、You Tube上にアップした、という大きなニュース。レコード会社やマスメディアなどを通さず、You Tubeでダイレクトにアップするという手法や、あまりにもストレートな歌詞の内容が、賛否両論を含め大きな話題となりました。
その後、はじめてリリースされた今回のアルバム、という訳で、当然、その内容にも大きな注目が集まりました。さすがに「ずっとウソだった」は収録されていませんが、「ずっとウソだった」で見せた、3月11日以降の日本社会に対する斉藤和義の怒りが、このアルバムにはつまっていました。
特にストレートだったのが「猿の惑星」と「オオカミ中年」。「猿の惑星」では、原発自体だけではなく、いわゆる「原発村」と言われた、行財政あわせた癒着体質を、ユニークな皮肉でバッサリと切っていますし、「オオカミ中年」では、マスメディアを通じて流された、原発に関する嘘を並べ立てて、もっとストレートに「NO NUKES!=核反対」と叫んでいます。
他にも、本作でのせっちゃんの怒りは止まりません。
「テレビも新聞のニュースも 誰かに気を使ってばかり
そいつを鵜呑みにしてる 思考停止の悦楽主義者
身分不相応の夢を捨てるつもりもなく ただひたすら闇雲に「がんばろう!」」
(「雨宿り」より 作詞 斉藤和義)
と、下手すれば、最近のお気楽J-POPを批判しているようにも取れる内容を歌ったり、かと思えば、
「あれもタブー そしてこれもタブー それじゃ「がんばれ」って言うしかないだろう」
(「おとな」より 作詞 斉藤和義)
と、とかく細かいことまでバッシングにつながりがちな、閉塞的な今の社会も皮肉っています。
そんな怒りに満ちた感情が一気にはきだされたアルバムだからでしょうか、「ボクと彼女とロックンロール」や、「ギター」では、純粋に音楽やロックンロールに対する愛情をうたっていて、こういうクソッたれな社会だからこそ、ロックを奏でようという、強い決意も感じます。
個人的に、原発に対しては反対というスタンスである、ということもあるのですが、怒りや憎しみなどの感情も含めて、ミュージシャンの理屈抜きの素直な感情を曲にこめるべきだ、と思っているだけに、せっちゃんの「ずっとウソだった」以降の行動に対しては、素直に賛同しますし、こういう怒りの感情を込めた曲を並べたことに関しても、個人的には大賛成です。
ただそれでも、今回のアルバムに関しては、怒りの感情が強すぎて、いつものせっちゃんらしい、男女関係の微妙な感情を読み込んだ曲や、複雑な心境を歌いこんだ曲がほとんどなかったのは残念。いつものアルバムに比べて、歌詞についてはいい意味で言うとストレート、悪い意味で言うと、ちょっと雑になったような印象を受けました。
あと、ちょっと細かい話なのかもしれないのですが、気になったのが「ウサギとカメ」の歌詞。
「ほんのちょっと前までパソコンもケータイもなかった
でもなんの不自由もなくて笑っていたんだ」
(「ウサギとカメ」より 作詞 斉藤和義)
と、ネット社会を批判しています。それ自体はいいとは思うのですが、「昔がよかった」みたいな懐古趣味的な文脈はちょっと・・・。いかにもおやじ的な発想で、ロックンローラーとして、正直どうよ?と思ってしまいます。
まあ、今のせっちゃんが、その感情をストレートにぶつけてきた、という意味で、意義の深いアルバムではあるのかなぁ。上にも書いた通り、曲に感情をぶつける、というのは素晴らしいことだと思います。ただ、本作に関しては、ちょっと感情が先回りしすぎたかも。
評価:★★★★
斉藤和義 過去の作品
I (LOVE) ME
歌うたい15 SINGLES BEST 1993~2007
Collection "B" 1993~2007
月が昇れば
斉藤“弾き語り”和義 ライブツアー2009≫2010 十二月 in 大阪城ホール ~月が昇れば 弾き語る~
ARE YOU READY?
ほかに聴いたアルバム
太陽の花嫁/LITTLE TEMPO
LITTLE TEMPOの最新作は、抜群の安定感がある、期待通りの作品といった感じ。心地よいスティールパンの音色をベースに、どこか哀愁あるメロディーラインが魅力的で、まったりとした空気を作り上げています。夏の海辺で、ビールなどを片手に、のんびりと聴きたいアルバム・・・もう冬ですが(^^;;評価:★★★★★
LITTLE TEMPO 過去の作品
山と海
The Soul Extreme EP II/福原美穂
福原美穂のソウルアルバム第2弾。前作でも感じたのですが、やはり彼女はこういうソウルフルな曲を歌いたいんでしょうね、アルバム全体、非常に生き生きしたボーカルを聴かせてくれます。「Get Up!」では和田アキ子と共演。パワフルなボーカル合戦を繰り広げていて、インパクト十分。ただ、和田アキ子のボーカルに、どこか違和感を覚えるのですが・・・どうしてかなぁ?MAROON5のカバー「Sunday Morning」も、KUWATA BANDのカバー「One Day」も、しっかり福原美穂の色に染めています。見事。次は是非、フルアルバムで!評価:★★★★★
福原美穂 過去の作品
RAINBOW
Music Is My Life
Regrets of Love
The Soul Extreme EP
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