歌の力を感じる傑作
Title:街道筋の着地しないブルース
Musician:中川敬
ソウル・フラワー・ユニオン、中川敬のソロアルバム。中川敬が、アコースティックギターで弾き語るアルバム・・・って、いいアルバムなのは間違いないんだろうけど、ちょっと地味だなぁ・・・。
というのが、アルバムを聴く前に感じた感想。
しかし、実際に聴いてみると、もう、文句なしに素晴らしい傑作で。本当に聴きほれてしまいました。
ソウル・フラワー・ユニオンといえば、その歌詞や、日本や韓国の民謡やアイリッシュ・トラッドなど、土着の音楽を取り入れた、祝祭色あふれるリズムにメロディーというのが耳を惹くのですが、彼らの魅力はそれだけではなく、そのメロディーライン自体も多くのリスナーの耳を惹く、素晴らしいメロディーラインを書いてくるバンドだったりします。
そんな訳で、中川敬が、ギター1本で弾き語る今回のアルバムは、中川敬の描くメロディーラインの良さを、これでもかというほど感じられる作品に感じました。正直、やはり決して派手なメロディーではないかもしれません。ただ、リスナーの琴線に、妙に触れてくるような暖かいメロディーラインが、とても魅力的です。
そして、それにくわえて感じたのが、中川敬のボーカリストとしての魅力。パワフルなボーカルでも美声でもないかもしれませんが(失礼!)、どこか泥臭いボーカルに、ある種のボーカリストとしてのリアリティーを感じます。今回は、ソウルフラワーのセルフカバーの他に、浅川マキのカバー「少年」や、チューリップのカバーなども収録されていますが、彼のこのボーカルによって、中川敬の作品の1曲として、他の曲とも違和感なく、アルバムにおさまっています。
今回のアルバムでは、作成途中で東日本大震災が発生したそうです。例えば「いちばんぼし」などは震災後に書かれた作品だそうですが、震災の影響は、アルバムにも反映されています。
ただ、震災前に書かれたという作品と、震災後に書かれたという作品は、私は、根本の部分には大きな違いを感じませんでした。それは、市井の人々たちの視点で、時に社会に翻弄されながらも力強く生きていく人たちの姿を描く彼の以前からの曲も、今回の震災を受けてもなお、普遍的なメッセージ性を持ち続けているからでしょう。
また、阪神大震災でのボランティアの影響を受けて産まれた「満月の夕」が示すように、彼の被災者に対する感情は、決してとってつけたものではありません。このアルバムでは、直接的に震災について語った曲はありませんが、それでも震災後の日本にいるからこそ、なおのこと心に響いてくるようなアルバムだったように感じました。
間違いなく今年を代表する傑作ですし、ある意味、2011年だからこそ産まれた傑作のようにも感じました。
評価:★★★★★
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