ネット配信の可能性と疑念
Title:TO NA RI
Musician:原田郁子+高木正勝
今回紹介するアルバムは、音楽配信サイト「OTOTOY」限定で配信された作品です。「サウンド&レコーディング・マガジン」主催で行われる「Premium Studio Live vol.2」という企画で録音された作品で、スタジオに、実際にファンを入れて、ライブ形式で録音が行われたそうです。今回の配信では、よくあるmp3形式のみではなく、DSDという、より高音質で聴けるファイル形式での配信も同時に行ってます。当日は、2台のピアノを並べて、タイトル通り、「隣り」に並んで録音が行われたそうです。基本的にピアノの音色をメインとして、時にはピアノの天板を叩いてリズムを取る音や、オーディエンスの手拍子などの音も入っています。
まるで会話をするように美しく折り重なる2台のピアノの音色がとても魅力的なのですが、それ以上に、ライブレコーディングの一発録りというスタイルから来る緊張感が、音からアリアリと感じられるのが非常に魅力的でした。
なによりも、DSD形式で聴く音色が私のような素人でもわかるくらいとてもクリアで、ライブレコーディングで、周りの観客がかたずを飲む雰囲気まで伝わってくるよう。空間の広がりも感じられ、当日、その現場に居合わせたような感覚を得ることが出来ました。
ただ、緊張感といっても、ほどよい緊張感といった感じでしょうか。ピアノが奏でる音色はとてもポップで、2人とも、ピアノで会話し音楽をつむぐのを楽しんでいるのようも感じました。原田郁子も高木正勝も、美しいメロディーを聴かせてくれるミュージシャンですが、2人の個性が上手くマッチした好企画だったと思います。配信限定ということで、聴き逃している方もいるかもしれませんが、ファンならずとも要チェックの作品だと思います。
評価:★★★★★
CDからネット配信というと、どうもまだ、ネガティヴに捉えられている方も少なくありません。ただ、この企画のように、ネット配信により、CDというフォーマットにとらわれない音楽活動をはじめているミュージシャンも少なくありません。特に、今回のアルバムを配信したOTOTOYでは、より高音質のファイルを提供していたりします。CDよりも高音質のファイルで配信を行っている場合もあり、CDからネット配信により、より音楽の可能性が広がる場合も少なくはないと思います。
ただ・・・ちょっと心配しているのは、今回紹介した作品もそうなんですが、ネット配信オンリーの作品って、今後、ちゃんと私たちがいつでも聴けるような状態で管理され続けるのかなぁ・・・なんてことを思ったりします。ネット配信オンリーの作品だと、月日がたつと、ダウンロードできるページが、過去ログの彼方に行ってしまい、探しにくくなってしまったり、場合によっては配信サイト自体が閉じてしまうと、CDで販売されるよりも、貴重な音源が散逸してしまう可能性が高くなってしまうんじゃないかなぁ・・・とふと心配に感じてしまいました。まあ、レコードやCDで販売された音源でも、時代が経つにつれ、廃盤になったり、散逸してしまうケースも多いので、ネット配信だけの問題ではないのかもしれませんが。
ほかに聴いたアルバム
クラダ・シ・キノコ/キノコホテル
なんか、ちょっとおしゃれな感じのタイトルですが・・・つまり「蔵出しキノコ」ってことですね(^^;;最近人気上昇中のキノコホテルの初期音源集。ほとんどの曲については、リアレンジされ、メジャー盤でも聴けますが、こちらでも全く遜色なく楽しめます。若干、ファンズアイテム的な内容ですが、この1枚が最初、といっても何ら問題ない内容かと。
評価:★★★★
Family Record/People In The Box
前作「Ghost Apple」も素晴らしかったですが、このアルバムも素晴らしい!パッと聴いた感じだと、よくありがちなギターロックバンドのようなポップなメロディーを奏でるバンドなのですが、よくよく聴きすすめていくと、「旧市街」では、次々と変わっていく曲の構成に驚かされますし、「ストックホルム」も、明るいポップソングとおもいきや、どこかひねったメロディーラインが癖になりそう。複雑なリズムやダイナミックなバンドサウンドがとても魅力的で、聴き終わった後はすっかり彼らのとりこになってしまいそう。メロディーにもっとインパクトのあるキラーチューンが1曲出れば、もっともっと評価が高まりそうな予感も。
評価:★★★★★
People In The Box 過去の作品
Ghost Apple
TEENS FILM/カジヒデキとリディムサウンター
カジヒデキが、ギターポップバンドRiddim Saunterと組んだ作品。ベースは、いつも通りのカジヒデキ。キュートなギタポチューン全開なのですが、Riddim Saunterの奏でるリズムがなかなかおもしろいです。跳ねるようなリズムが楽しい「可愛い革命の詩~灼熱のサーヴィス・エリア」や、ちょっとアフロビートっぽい雰囲気を感じる「スローモーション」など、全体的にはちょっとブラックミュージック的な要素が入ったような。
なにげにカジヒデキって、王道の路線を貫きつつ、アルバム毎にちょっぴり新しい要素を入れてきたりするんですよね。なんだかんだいっても、まだまだ前線で活躍しつづける秘密ってそんなところなのかも。
評価:★★★★
カジヒデキ 過去の作品
LOLIPOP
STRAWBERRIES AND CREAM
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