苦悩の中から産まれた作品
Title:ゴーストライター
Musician:柴田淳
今回のアルバムジャケット、どこかおびえたような、彼女の顔写真が印象的です。柴田淳の今回の作品、制作にあたり、かなり苦悩したらしく、「引退まで考えた」と本人が語るほど、苦しい精神状態の中でつくられた作品だそうです。ジャケット写真は、そんな彼女の精神状況をあらわした、というところなのでしょうか。
ただ、そういう精神状態の中でつくられた、という意識で聴くと、ちょっと予想した内容とは異なるかもしれません。内容は基本的にいつも通りのポップチューン。若干、暗く、切ない雰囲気の曲が多かったかもしれませんが、不安定な精神状況が、彼女の楽曲をガラリと変えてしまった・・・という感はありません。
そういう意味では、彼女は生粋のポップスシンガーなんでしょうね。ロックとポップス、単なるジャンルの違いでしかないかもしれません。ただ、個人的な解釈では、ロックというのが、自己を主張する音楽であるのに対して、ポップスの主人公はあくまでもリスナー。必要以上に自己を主張せず、あくまでもリスナーにとって心地よいポップな楽曲を綴っているという点が、ポップスとロックの大きな違いではないでしょうか。
ただ、そんな中でも、彼女の今の心境が反映された曲がありました。それが、このアルバムのトップを飾る「救世主」。
苦しい状況の中で産まれた希望の光というこの曲は、実際、そんな彼女の心境を歌ったのでは?と思われる内容になっています。
「空に何か蠢いている
幻 白い影
頭の中 写し出された
不気味な傷跡」
(「救世主」より 作詞 柴田淳 以下、斜字の部分は同じ)
と、彼女の精神状況をあらわした、ちょっと不気味な歌詞からスタートするこの曲。
「何かがまた始まって
私の前 現れては消える
肩代わりをしたような顔で
笑ってと 誰かがまた言う」
という歌詞も、どこか彼女の追い込まれた状況を想像させます。ただ
「暗い道を抜け出したくて
あなたを選んだ」
と歌う彼女。やはり音楽の道を進んでいくという、強い意思を感じさせます。
本人は、この曲に関して、「納得のいくロックがつくれた」とインタビューで答えています。この「ロック」という表現。確かにこの曲は、ディストーションの効いたヘヴィーなギターが特徴的なロック風アレンジのナンバーになっています。
ただ、彼女の自己をさらけだして表現したこの曲は、アレンジという表面的な側面だけではなく、実に柴田淳流のロックになっている作品だったといえるのではないでしょうか。
続く、フュージョン風のギターが爽やかなシティーポップチューン「透明光速で会いに行く」も、ちょっと新しいタイプのナンバーかな?他にもかわいらしいポップチューン「うちうのほうそく」や、哀愁たっぷりに聴かせるバラードナンバー「蝶」など、魅力的な大人のポップスも並んでいます。
新たな一歩・・・というよりも、柴田淳の新たな決意を感じさせる新作でした。
評価:★★★★★
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