伝説のミュージシャン
Title:俺たちに明日はない
Musician:頭脳警察
ロック=反権力、という、既に使い古されたような図式があります。
欧米では、RAGE AGAINST THE MACHINEのように、明確に「反権力」を打ち出しているバンドもいますし、また、かなり多くのバンドが積極的に政治的な発言を行うように、ロック=反権力という図式は、いまなお有効なように思われます。
ところが日本では、このロック=反権力という図式は、あまり当てはまりません。日本と欧米の、政治に関わるスタンスの違いもあるのかもしれませんが、日本のミュージシャンで政治的な発言をするミュージシャンは(ソウル・フラワー・ユニオンみたいな一部のバンドをのぞいては)ほとんどいません。あげくの果てには、ロックバンドと名乗るミュージシャンが「友達を大切にしよう」だの「親を大事にしよう」だの、道徳の教科書のようなことを歌いだす始末。
そんな日本でも、デビュー以来、強烈な「反権力」のスタンスを貫き、「伝説のバンド」とも呼ばれたミュージシャンがいます。頭脳警察。かなりインパクトのある名前ですが、フランク・ザッパの曲のタイトルからバンド名を拝借したこのバンドは、3億円事件の犯人モンタージュ写真をジャケットにしたデビューアルバムが、政治的な理由から発売中止になり、大きな話題を呼びました。
1975年に解散後、なんどか再結成を繰り返した彼ら。そしてこのたび発売された約18年ぶりとなるニューアルバムが本作です。
偉そうに語っておいて何なのですが、頭脳警察に関しては、再発売された話題のデビューアルバムだけが、私のCDラックの中に並んでいました。「赤軍兵士の詩」やら「銃をとれ」やら、あまりにも時代性を感じさせる政治的な歌詞が強烈的。ただ、その一方で、時代に寄り添いすぎた歌詞は、21世紀の今聴くと、違和感を覚えますし、おそらく、共感を覚えるという方は少ないのではないでしょうか。
例えばはっぴいえんどやフラワー・トラベリン・バンド、あるいは村八分などといった、日本ロックの黎明期で「伝説」と呼ばれるようなバンドの作品が、いまなお普遍的な魅力を放っているのと対象的に、彼らのデビュー作は決して「時代を超えた普遍的な傑作」ではありません。
しかし、時代に寄り添うというのもまた、ポピュラーソングの大きな魅力なのは間違いないでしょう。
さて、そう考えると今回の作品。あいかわらず「反権力」というスタンスが貫かれているのが彼ららしいところ。ここらへん、デビューから40年近くたつのに、そのスタンスは全くかわっていません。ただし、今回の作品でアンチの対象となっているのは、マスメディアやら社会全般やら、もっと広く抽象的な対象。「時代に寄り添う」という感覚はちょっと薄まっています。
ただし、その歯に衣着せぬ歌詞の数々は相変わらず。ロック=反権力は使い古された、と冒頭に書いたものの、やはり世の中のタブーに果敢に挑戦しようとするスタイルは、純粋なカッコよさを感じます。ジャケットも、見るからに悪そうなおやじ2人組なだけに(笑)、アウトロー的な魅力を放っています。
そして、頭脳警察の魅力って、単純な反権力じゃなくて、どこか歌詞にユーモアが混ざっていることなのではないでしょうか。このアルバムも、「死んだら殺すぞ」やら「ヒトを喰った話」やら、タイトルもどこかユーモラス。権力に対して真正面からこぶしを振り上げて反抗するのではなく、どこか斜めから皮肉めいて攻撃するスタイルが、単純な反権力ではなく、反権力をロックというエンタテイメントに昇華させているのでしょう。
さて、これだけ反権力、反権力といいながら、さて、CDを聴いてみようと実際にアンプのプレイボタンを押すと、あまりにポップなメロディーにビックリするのではないでしょうか。正直、もっとパンキッシュな作品を予想していた私も、彼らの作品を最初に聴いた時、意外に端正な作風に、ちょっと驚かされました。
ただ、シンプルなメロディーとサウンドなだけに、より歌詞の凶暴さが際立つのかなぁ。もちろん、そのポップなメロディーもなにげにインパクトが強くて魅力的。「頭脳警察1」の頃と大きく変化はないのに、歌詞と違ってメロディーは、時代を超えた普遍性を持っています。これもやはり彼らの大きな魅力でしょうか?
最後に。ちょっとビックリしたこと。ドラムスがLINDBERGの小柳"Cherry"昌法だったこと(笑)。かなり意外な組み合わせにビックリしました。
評価:★★★★
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