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2009年6月29日 (月)

くるりの「魂」

Title:魂のゆくえ
Musician:くるり

魂のゆくえ

くるりというミュージシャンは、いままで、アルバムごとに新たな挑戦を行い、シーンに波紋を広げてきました。前作「ワルツを踊れ」でも、ロックのリズムに、管弦楽の音を取り込むなど、ロックの可能性を切り開く音づくりをしています。

そんな彼らにとって、今回のアルバムは、ともすれば「地味」に感じられるかもしれません。

本作は、くるりにとって原点に立ち返った作品、といえるでしょう。ルーツ志向の作品が多く、派手なアレンジや、真新しい音はありません。しかし、今回のアルバム、ここに至って彼らが、自らの土台を固めるために選択した音、といえるのかもしれません。

そんなこのアルバムを聴くと、ひとつ感じることは、くるりというミュージシャンは、ソウルやブルース以上に、カントリーやフォークからの影響が強いんだなぁ、という点でした。

日本のロックバンドで、ルーツ志向というと、どちらかというとソウルやブルース、ブラックミュージック志向に偏りがちです。また、各種音楽誌や「ロックの歴史」のような書籍も、ブラックミュージックは比較的大きく取り上げるものの、カントリーやフォークについては、ほとんど取り上げません。

もちろん、くるりの音楽からも、ソウルやブルースの影響は強く感じられます。このアルバムでも、「デルタ」や、そのものズバリ「太陽のブルース」など、ブラックミュージック色の強い作品も聴くことができ、彼らのソウルやブルースからの影響も感じられます。

その一方で、カントリー調の「夜汽車」やフォーク調の「Natsuno」など、アルバム全体としては、カントリーやフォークらしい、カラリとしたポップスが目立ったような気がします。まあ、実際、いままでの彼らの作品も、カントリーやフォーク調の曲が多かったのですが、その影響をあらためて前に押し出したようなアルバムになっていました。

また、これだけ地味な作風になっているからこそ、あらためて印象深く感じられるのが、くるり岸田繁の書くメロディーの素晴らしさでした。

以前から、くるりの肝は、岸田繁の天性のメロディーセンスだと思っていました。彼の書くメロディーは、決して派手ではないものの、しっかりと耳に残るメロディーを書いてきており、なにより、勢いだとか、サビの不自然の盛り上がりとかではなく、しっかしと音の構成によって、美メロを書き上げる彼の天性の才能は、素晴らしいものがあると思っていました。

このアルバムも、そんな岸田繁の書くメロディーの素晴らしさが、全編にあふれています。「愉快なピーナッツ」「つらいことばかり」など、ポップな作品も多く、聴いた後、しっかり耳に残るメロディーが繰り広げられていました。

そして、最後に特筆しておかなければいけないのは、今回のアルバム、なにより印象的だったのが、そのピアノの音。

なんと今回、ピアノに、元筋肉少女帯の三柴理が参加!実は個人的に以前から大好きなピアニストでして、くるりのサポートに彼が参加した、というニュースを聴いた時、大喜びしました。

今回聴ける、三柴理のピアノは、筋肉少女帯の時のような、狂ったような演奏ではなく、くるりの楽曲の中にしっかり溶け込んでいます。ただ、そんなくるりの音の中でも、しっかりと個性の強いピアノの音を強調しており、思わずピアノの旋律に耳を傾けてしまうような、パワーを持っていました。

このアルバム、その内容こそ渋い雰囲気を持ったアルバムでしたが、タイトル通り、くるりの「魂」のゆくえを指し示した傑作だったと思います。今後の彼らも、ますます楽しみになってくるような、そんな作品でした。

評価:★★★★★

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コメント

はじめましてm(_ _)m

僕もくるり大好きです。

この新作は上半期ベスト5にも入ってますね。まだ未聴なのですが絶賛する声も多いようにみえます。
しかしここ2,3年のくるりは何か今までとは変わってしまったような気がします。作品は高レベルで素晴らしいと思います。でも何か、音楽性云々でなく、自分の好みと少しずつはずれてきているような気がします。何と言ったらいいか、くるりが「大人」っぽくなっている感じがします。青臭さが抜けたというか…「ワルツ」とか、その後のシングルを聞いてそう思いました。

今作も聞いてみたいですが、何か怖さも反面…
どうなんでしょう…

投稿: たっくん | 2009年7月12日 (日) 13時49分

>たっくん さん
はじめまして!書き込みありがとうございます。うーん、どうでしょう、この作品、初期の作品が好きなら、気に入るかもしれないですよ~。感想にも書きましたが、原点に戻ったようにも感じられる作品なので・・・。機会があったら、一度聴いてみても損はないかも・・・。

投稿: ゆういち | 2009年7月16日 (木) 00時35分

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