旅立ちの唄
Title:あしたは晴れますように
Musician:中村中
中村中の今回の作品、テーマは「旅立ち」だそうです。
で、曲のタイトルが
「命日」
・・・ってそっちの「旅立ちかよ!」(^^;;
とおちょくるつもりはないのですが、彼女が歌う「旅立ち」は、ポップスソングにありがちな、「ここではないどこか」や「本当の自分を探す」ような「旅立ち」ではありません。
「あしたは晴れますように」というタイトルも象徴的なのですが、辛い現実から、少しでも「ましな」明日を見つけ出すために一歩を踏み出す、そんな歌詞をつむぎだしています。
そんな彼女の歌詞の主人公は、この社会に受け入れられない疎外感を抱きながら、辛い毎日を生きています。
まさに1曲目「ちぎれ雲」で歌われている
「真っ暗闇明けたとて 陽の光に脅えて
傷を隠しながら 生きる者もいる」
(「ちぎれ雲」より 作詞 中村中)
こそ、このアルバムの主人公の姿。その後も
「風が止んだら 私は帰る ひとりぼっちの冷たい部屋に
雨が止んだら 私を帰す ここに居ろよと言えない貴方」
(「台風警報」より 作詞 中村中)
と、微妙な男女関係を描いていたり、
「使ったナイフは持ち帰ります 争い事にはならないように
明日も来ます もしも嫌なら 部屋の鍵は替えておいて」
(「林檎の皮剥き」より 作詞 中村中)
のような、恋人のいる男性を好きになった女性の姿を描いたり、どこかむくわれなかったり、影を感じさせる歌詞が目立つ作品になっています。
後半、「『側にいること。』」のような、比較的前向きな曲も見受けられるのですが、全体的には、孤独を抱いている主人公を描いており、そんな描写が、ナイフのようにリスナーの心をえぐるような作品になっています。
ただ、こういうリアルな作風を描けて、さらに紅白出場で知名度もアップした割りには、いまひとつブレイクにむすびついていないんだよねぇ、彼女は。
まあ、メロディーラインの方は、一昔前の歌謡曲風のシンプルなメロディーで、斬新とか、耳に残る美メロという訳ではありませんが、彼女の歌詞の作風からすれば、ピッタリはまるようなメロディーであり、アレンジであると思います。
それで思うのですが、やはり歌詞にもう一工夫ほしいんじゃないかな?
しっかり聴くと心に響く描写をしている彼女ですが、サビのワンフレーズでリスナーの心をつかみとるような、そんなインパクトのある表現には、このアルバムでは出会えません。
例えば、同じような「孤独な女性」を描いたら、右に出るものはいない中島みゆきの歌詞。「わかれうた」の冒頭なんていきなり
「途に倒れて だれかの名を
呼び続けたことが ありますか」
(「わかれうた」より 作詞 中島みゆき)
ですよ。街のBGMとして流れていたとしても(まあ、この曲が街のBGMになることはないでしょうが)、すぐ意識が歌に集中し、聴き入ってしまうと思います。
残念ながら、彼女の歌詞には、そういうインパクトが薄く、それが、アルバム全体としてのインパクトの薄さに繋がってしまっているような印象を受けました。
ここらへんの、リスナーを耳をガッと捉えるようなインパクトがほしいんですよね。もっている歌詞の世界観は抜群のものがあると思うんですけどね。今後に期待したいところです。
評価:★★★★
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2009年」カテゴリの記事
- ハードなバンドサウンド(2009.12.29)
- 日本から世界へ???(2009.12.28)
- 間口は広く(2009.12.27)
- バランス感覚の良さ(2009.12.25)
- 直系ガレージパンク!(2009.12.24)
コメント