ハードなサウンドの中にユーモアあり
Title:ドクタートーキョー
Musician:般若
般若といえば、どうもマッチョイズムは保守志向というイメージがあり、少々敬遠している部分がありました。
ただ、この新作は、随所で評判も良かったので、聴かず嫌いはどうも・・・ということでこの作品を聴いてみたのですが
これが、当初のイメージに反して、かなりポップテイストが強く、聴きやすいアルバムになっていました。
いや、ポップテイストが強い、と言うと、セルアウトしているように誤解する方も多いかもしれません。
でも、彼の作品は決して「セルアウト」したポップスさじゃないんですよね。しっかりとハードコアなHIP HOPに足をつけつつ、エンタテイメント性も発揮している。ハードであることばかりを志向し、リスナーを楽しませることを忘れてしまったようなラッパー(特にハードコアと言われる人たち)が多い中、彼のユーモア性を含ませたエンタテイメントセンスは、特筆すべきものだと思います。
例えば、「夢の痕」は、80年代のロックテイストを感じる、ポップで聴きやすいナンバーですし、「Ah Yeah」はとにかく楽しいパーティーチューン。一方では「月が散りそう」では、しっとりとしたラブソングを聴かせてくれます。
そしてもうひとつ大きな特徴だったのが、そのハードな社会派の歌詞。それもリアリティーを含ませつつ、決して教条主義に走らず、淡々と現実を描写する手法は印象的。下流社会を淡々と描いた「路上の唄」や、児童虐待を描いた「プランA」など、とても心に響いてくる作品になっています。
また、このアルバム、当初あまりにも過激な内容に、すべて内容をとり直したらしい(参照:wikipedia)のですが、それでも過激な内容がチラホラ。一番過激だったのが、某信徒団体と芸能界の関係をおちょくった「関係あんの?」なんて、直接的に言ってはいないとはいえ、よくリリースできたな、なんて心配になるほどの内容(笑)。ただ、それをユーモアをもって描いているあたりが、彼のあくまでもエンタテイメント性を重視する姿勢を感じさせます。
長渕剛をプロデューサーに迎えて話題となった「チャレンジャー」なども収録。これに関しては、少々アルバムの中で浮いていた印象も(^^;;
最近は、本当に次から次へと新しいラッパーが傑作をリリースしているHIP HOP界。その中でこのアルバムは、例えばはじめてTHA BLUE HERBやShing02、MSCなどを聴いた時のような、全く新しいスタイルがはじまったというような衝撃は受けませんでした。
しかし、このアルバムは、既存の日本におけるHIP HOPのスタイルを、一歩前に推し進めるアルバムだったと思います。ハードな社会派の歌詞やディスソングなども加えつつも、全体としてはしっかりとエンタテイメントとしてまとめあげ、かつHIP HOPの持つ先駆性、一種の「やばさ」を失わないバランス感覚は見事だと思います。文句なしの傑作です。
評価:★★★★★
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