今のヒットシーンの状況がわかるオムニバス
Title:モバうた
いわゆる「着うた」でヒットした曲を集めたオムニバスアルバム。
青山テルマの「そばにいるね」や、Spontania feat.JUJUの「君のすべて」といった、「着うた」からヒットして話題になった曲がズラリと並んでいます。
いかにもなジャケットから、手にとるのはためらわれるアルバムなのですが、ザッと今時のヒットシーンの状況を知るためには、手っ取り早い1枚と言えるでしょう。「今どきのヒット曲はよくわからない」なんて言い出したおじさんおばさんにはピッタリのアルバムかも(笑)。
まあ、いまさらかもしれないのですが、この「着うた」主導のヒット曲を聴いて感じるのは、露骨にリスナーを泣かせようとする曲が多いという点でした。「そばにいるね」「君のすべて」をはじめといい、「愛しい人へ」や「1/6000000000」、さらにはラストの「旅立つ日~完全版~」といった曲まで、「泣き」を目的に機能化したような曲が並んでいます。
この「泣かせる曲」というのは、「着うた」に限らずここ最近の傾向みたいで、こんなそのまんまな番組が放送されていたり、こんなアルバムまでリリースされていたりします。
なぜ、こういう「泣ける曲」がヒットしているのでしょうか?「昨今の不況の影響で・・・」といいたいところなのですが、少なくとも青山テルマがヒットした頃は、まだ世の中は、(格差社会など暗い話題もあったものの)好況にわいていました。
個人的に思うのは、ここ最近、多様化社会、情報化社会となり、ありとあらゆる価値観の人たちがあらわれ、ありとあらゆる情報が入ってくるようになった結果、世の中が、簡単に善悪で割り切れない複雑な状況になった影響があるんじゃないかなぁ、と思います。
その結果として、単純な感情の発露である「泣く」という行為を求められるようになったのではないでしょうか。しんみりとする曲、悲しい曲を聴いて泣くという行為に、難しい背景は不要です。世の中のしくみが複雑で、様々な人の立場を考えなくてはいけなくなった今の世の中だからこそ、難しいこと抜きに感情を発揮できる「泣ける曲」を人たちが求めるようになったのではないでしょうか。
もちろん、「泣く」ことに機能化してしまった曲は、全く深みがなくて曲としての面白みはありません。このアルバムに収録している曲も「ここにいるよ」「そばにいるね」くらいまではまだしも、その後は女性ボーカル+ラップというスタイルの縮小再生産の薄っぺらい曲ばかり。もうひとつの軸である「泣けるレゲエ」路線も、結局似たような曲ばかりが並んでいます。
でも、ひとつの機能に特化した曲がヒットシーンを席巻するという現象って、今にはじまった話じゃないですよね。80年代はディスコブームの中、「踊る」という機能に特化した、軽薄なディスコソングが、90年代はカラオケブームの中、「歌える」という機能に特化した曲が次々とヒットを飛ばしました。そう考えると、今の「泣ける曲」ブームも、繰り返されるヒットシーンの流れのひとつに過ぎません。
おそらく、ここに収録されている曲の大半が、5年後、いや2,3年後には嘲笑と共に思い起こされるような曲になるでしょう。ただ、それは80年代のディスコブームや90年代のカラオケブームの時と同じこと。ここらへんの軽薄な「着うた」系ヒット曲を取り上げて、「今のヒットシーンはつまらん」なんて言うつもりは全くありません。むしろ、これらの曲がチャートを占拠することなく、アイドル系、アニメソング、ビジュアル系、バンド系、HIP HOP系が割拠する今のヒットチャートは、ビーイング系、小室系がベスト10を占拠していた90年代のヒットチャートよりもよっぽどおもしろいのではないだろうか、とすら思います。
曲の良し悪しはともかく、今という時代を実によく反映した、今の時代のヒット曲がずらりと並んだ、ある意味「よく出来たオムニバス」だと思います。今、この瞬間だからこそ聴く価値のあるアルバム。多分、1年後・・・いや半年後だと、もう聴けなくなっているかも(^^;;
以下、何曲か個別に思ったことを・・・
にんげんっていいな/ガガガDX・・・実はこのアルバムを聴こうと思った理由の半分以上はこの曲を聴きたかったから(^^;;ご存知、ガガガSPの拡大版企画モノバンドで、この曲はあの「まんが日本昔ばなし」のエンディングのカバー。曲自体は原曲を単純にOiパンク風にアレンジしただけでおもしろ味もなにもないのですが、ノスタルジーを感じて、私はこの曲で泣けてきました(笑)。この曲が流れていた土曜日の夜って、「まんが日本昔ばなし」→「クイズダービー」→「全員集合orひょうきん族」の黄金編成だったんだよなぁ。当時はまだ土曜日が休みじゃなかったから、休みの前日ということで、すごく楽しい気分になりながら、テレビに食いついていたんだよなぁ・・・・・・すいません、おやじモードで(笑)。
六本木~GIROPPON~/鼠先輩・・・あれだけプッシュされながらほとんど売れず、売れなかったにも関わらず「売れた」ことにされてしまっている不思議な曲(笑)。すごいチープな曲なんだけど、こういうチープな笑いって嫌いじゃないんだけどなぁ。ただ、「ぽっぽ」繰り返すだけの単調な笑いが狙いすぎていてつまんなかったのと、鼠先輩というキャラクターが受けなかったのと・・・まあ、後付の考察ですね。何がヒットするかって、本当にわかんないです。
旅立ちの日~完全版/JULEPS・・・ある意味、もっとも露骨な「泣ける歌」(苦笑)。「人の死」という普遍的なテーマをモチーフにして、歌詞から徹底的に具体性をなくすことによって誰もが「自分にもあてはまる」と錯覚させる手法は、ヒット曲の王道(笑)。簡単に書いていてけど、そう簡単に出来るものじゃなくて、それをさらりと書けてしまうのはさすが秋元康といった感じかなぁ。ただ、最高位11位でお世辞にも「大ヒット」とは言い難いところは微妙なのですが。狙いが露骨すぎたのかな?
評価:★★★
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コメント
>これらの曲がチャートを占拠することなく、アイドル系、アニメソング、ビジュアル系、バンド系、HIP HOP系が割拠する今のヒットチャートは、ビーイング系、小室系がベスト10を占拠していた90年代のヒットチャートよりもよっぽどおもしろいのではないだろうか
いいえ、自分、24ですが、90年代の方が曲のクオリティが高いと思うし、今聴いても良いと思います
投稿: | 2009年3月29日 (日) 03時11分
うーん、ここでどちらが曲のクオリティーが高いか、といわれても、こればかりは主観的になる上に、90年代のつまんない曲は、今、ほとんど耳に入ることがなくなっている上に、単純な比較は難しいと思いますよ。私も、単純に、90年代より今のヒット曲の方がおもしろい、と断言するつもりはありません。
ただ、私がいいたいのは、90年代のヒット曲よりも今の方がバリエーションが多いのは間違いないですし、単純に「今のヒット曲はつまらない。昔がよかった」という懐古主義には走りたくないなぁ、ということです。
投稿: ゆういち | 2009年3月29日 (日) 15時58分