徹底した記号化
Title:ハイファイ新書
Musician:相対性理論
前作「シフォン主義」が大きな話題を呼び起こしたバンド、相対性理論の新譜。ヒットチャートで、いきなりベスト10入りするなど、本作も、その話題と期待の大きさをうかがえます。
前作に比べて、本作で一番かわったのは、ギターロック路線から一変。とことんサウンドがシンプルになった点。ニューウェーヴ路線、といえないこともないのですが、徹底的にノイズなどをそぎおとし、ただただサウンドをシンプルにすることを意図しています。
その結果、彼らの最大の特徴である、ユニークな言葉遊びのような歌詞が、くっきりと浮かび上がってきています。この言葉遊びのような歌詞という特徴が、前作ではギターサウンドに埋没されてしまっている部分もあっただけに、サウンドを思い切ってシンプルにするという決断は、ある意味、見事の一言です。
そしてそのシンプルになったサウンドといい、言葉遊びのような歌詞といい、このアルバムから感じられるのは、音楽の徹底した記号化、ということでした。彼らの音楽でただ鳴り響くのは、強烈に耳に残るけど、どれだけ意味を持つのか不明な、ユニークな歌詞。それをのせる女性ボーカルも、かわいらしいけれどもどこか無機質に感じられます。
この徹底した記号化は、普段の彼らの活動にもあらわれているようで、メディアには一切露出せず、メンバーの写真も公表されていません。彼らは、音楽の後ろにある「物語性」を一切排除し、徹底的に音楽を無機質化、記号化することにより、メロディーや歌詞それ自体が持つ魅力を、最大限に引き出そうとしているように感じます。その徹底さゆえ、このアルバムはポップで耳を惹きつける一方、どこか狂気すらも垣間見れます。
彼らの音楽に関して、もうひとつ感じるのは、その歌詞に描かれている「女性観」。どーも、妙に純情無垢に描かれていて、ぶっちゃけていうと、もてない野郎の妄想みたいな描き方をしているんですよね。
そんな歌詞を、ボーカルやくしまるえつこの、かわいらしいけど、癖のないボーカルで歌われると、リアリティーがなく、お人形さんの女の子が歌っているようにすら感じてしまいます。そういうリアリティーのなさもまた、彼らの音楽の記号化の一貫をになっているように感じます。
ただ、この音楽の記号化が、妙に癖になるおもしろさをひめているんですよね。記号化したゆえに、歌詞のもつ言葉遊びのユニークなリズムが、雑音なしに耳に響いてくるんです。前作は、どうも中途半端さを絶賛できない部分があったのですが、その中途半端さを、ある意味過剰なほど排除した、傑作アルバムが誕生しました。
もっとも、一方で、あまりにも狙いが明確で、彼らの計算高さも同時に感じました。相当頭のいいバンドだと思うよ、彼らは。
評価:★★★★★
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