まさに私あたりの世代がターゲット
Title:クライマックス ロマンティック・ソングス
90年代のヒット曲を集めたコンピレーションアルバム。最近多いよね、この手のアルバム。この時代に中高生だった世代が、ちょうど30代となり、金銭的に余裕が出てきて、懐かしさから買ってしまうんですね。ってか、まさに私あたりの世代がターゲットなわけです。
というわけで、ここに収録されている曲は、まさにリアルタイムで聴いていた世代。それなりの思い入れがあるナンバーも多く、懐かしさを強く感じながら聴いていました。
このコンピレーションの冒頭を飾るのはCHAGE&ASKAの「YAH YAH YAH」。どちらかというとチャゲアスのメガヒットといえば、「SAY YES」の印象が強いのですが、こちらも240万枚の大ヒットを記録しています。
ただ、このあたりから、「ロングヒットはしていないけど、売上枚数だけは妙に売れている」というケースが増えてきたような印象があります。要するに、今でもなお続く、売上のほとんどを初動で稼ぐというパターン。「YAH YAH YAH」も1位獲得は2週のみで、「SAY YES」に比べると、大ヒットしたなぁ、という印象はあっても、ロングヒットしたなぁ、という印象はちょっと薄いんですよね。この頃から、大ヒットシングルの売上のパターンが、今に似てきた印象を受けます。
90年代のヒットシーン的に大きなブームといえば、ビーイング系ブーム。このコンピレーションでもWANDSの「もっと強く抱きしめたなら」、T-BOLANの「Bye For Now」、TUBEの「夏を待ちきれなくて」が収録されています。まあ、TUBEはビーイングブームで出てきたバンドではありませんが。
深夜のテレビ番組で、しつこいくらいにビーイング系のCMが流れまくり、Mステには毎週のようにビーイング系ミュージシャンが出まくり(「テレビには出ない」みたいによく言われていたZARDも、デビュー当初は、Mステによく出ていました)、一気にヒットチャートを席巻しました。
ただ事実上の全盛期はかなり短かったですね。1993年の5月にリリースされたZARDの「揺れる想い」あたりがピークだったけど、10月に出たWANDSのミニアルバム「Little Bit...」あたりで、「もう飽きたよね」という声があがっていたような。ほとんどの曲を織田哲郎が手がけた結果、似たような曲が多くなってしまった点。また、ミュージシャンをほとんど表に出さない戦略を取った結果、ミュージシャンにファンがつかず、固定ファンを確保できなかった点がブーム短命の理由でしょうか。まあ、その後も一応、WANDSの「世界が終わるまでは」とか大黒摩季の「ら・ら・ら」のようなヒットは続くのですが、一時期のような勢いは結局取り戻せませんでした。
そんなあっという間に終わったビーイングブームに続いたのが小室系の一大ブーム。このコンピレーションでも、いまや、女優としてすっかり大成した篠原涼子が小室哲哉と組んだ「恋しさとせつなさと心強さと」と、trfの「BOY MEETS GIRL」、そして華原朋美の「I'm proud」が収録されています。ビーイング系はどちらかというと、泥臭いロック系の音が多かっただけに、小室哲哉の爽やかで、かつダンサナブルな電子音は、「新しい音」として強烈な印象を残しています。小室哲哉が曲に取り込んだ、ユーロビートのリズムやラップの手法などは、当時のヒットチャートの中では、かなり新鮮に映りましたね。小室系ブームはこのあと、安室奈美恵という大物の登場により、ビーイングブームよりは長くは続きましたが、結局小室哲哉ひとりに頼ったブームであったことから、これまた似たような曲が多くなり、衰退していくのはご存知の通りです。
このように、この当時って、ひとつのブームが起きると、似たような曲がチャートを埋め尽くしてして、ブームを模倣したミュージシャンが次々と出てくるんですよね。正直、「出逢った頃のように」が収録されているEvery Little Thingなんて、完全に小室系のパチモン的な感じで出てきたし・・・。
そんな流れから一歩はなれた位置にいたのが、このコンピレーションでいえばTHE BOOMの「島唄」や、奥田民生の「愛のために」でしょうか?PUFFYの「アジアの純真」なども今から考えると、アンチ小室(この頃はもうビーイングブームは終わっていたので)みたいな位置付けだったのでしょうが、当時は、小室系と同じような売れ線のアイドルユニットって雰囲気だったような。ただ、アンチビーイング、アンチ小室の代表格といえば、間違いなくMr.Childrenとスピッツの2大巨頭(?)。90年代を代表するこの2バンドが、このコンピレーションに収録されていないのはとても残念です。
なんか、90年代のヒットシーンを簡単に語ってしまいました。上にも書いたとおり、ミスチル、スピッツが収録されていないし、同じく90年代の代表格といえるB'z、ドリカムが収録されていないという点では、90年代を語るにはかなり物足りないコンピレーションなのですが、それでも、この時代の空気は感じられるコンピレーションかなぁ、とは思います。
ただ、ひとつ強調したいのが、この手のコンピレーションが出るとよく語られがちな、「あの時代はよかった」的な意見。リアルタイムに聴いていた人間から言わせていただくと、今と比べて当時のヒットシーンの方がよかったなんて、口が裂けてもいえません。上にも書いたとおり、当時のヒットチャートは、ひとつのブームが起こると、似たような曲が埋め尽くされ、非常に均質化されちゃっていたんですよね。レコード会社側からすれば、とても売りやすいチャートだったのかもしれませんが。このアルバムに収録されていないだけで、つまんない曲もたくさんヒットしていましたし(ってか、このコンピレーションに収録されている曲が、すべてが名曲だとは思わないし)。
ヘタすれば、ロックありHIP HOPありポップスあり、アニソンありビジュアル系あり(あ、そういえば、90年代のブームのひとつ、ビジュアル系のバンドの曲も収録されていないなぁ・・・)アイドル歌謡曲ありの今のヒットシーンの方がバラエティーがあってよっぽどおもしろいんじゃないかなぁ、とすら思います。
ま、そんな訳で、リアルタイムにこれらの曲を聴いていて、懐かしいなぁ、と思う方にはお勧め。今の中高生は興味があったら・・・という感じのコンピレーションです。でも、これからもこの手のアルバム、増えそうだなぁ。で、また、聴いちゃいそうだなぁ・・・(^^;;
評価:★★★★
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