3枚組フルボリュームのオールタイムシングルベスト
Title:歌うたい15 SINGLES BEST 1993~2007
Musician:斉藤和義
この作品に収録されているせっちゃんのシングルのうち、なんといっても大好きな作品なのが「アゲハ」です。
20代から30代にかけての、ひとりの女性の自分さがしと成長を、第三者的視点で、描いている本作。その率直な心理描写は多くのリスナーの共感を呼び、なんでも、女性のファンにとっては、No.1人気の曲だとか。その理由もよくわかる気がします。また、おそらく男性にとっても共感を呼ぶ内容ではないでしょうか。なんど聴いても、胸がキュンとなってしまうような傑作だと思います。
「アゲハ」が女性心理をついた傑作ならば、男性心理を素直に歌った傑作が、「真夜中のプール」でしょう。これまた、個人的に大好きな傑作です。
こちらは、かつての彼女が結婚した話を聴き、どこか寂しく感じてしまう男性の率直な心境を歌った曲。モトカノに対して決して未練があるわけではなく、「今が好き」と素直に歌っていながらも、ノスタルジックな心境を抱く感覚は、男性なら(女性でも?)共感を呼ぶ内容だと思います。これまた、個人的に、聴いていて、胸がキュンとなってしまいます。
そして、逆にほのぼのとした日常描写がほほえましい傑作が、「やわらかな日」。これもまた、私が大好きな作品です。
なにげない恋人(夫婦?)の日常のヒトコマを描いて、なにげない日常に幸せを感じさせる曲です。なんでもないことが幸せだ、と声高に叫んでいるわけではないのですが、なにげない日常会話が繰り広げられて、それがとてもほほえましく感じられる曲です。シングルのジャケットともども(笑)、かわいらしい曲といったところでしょうか。
そして、これらの曲に共通して、斉藤和義というミュージシャンの大きな魅力があらわれていると思います。それは、現実に対するゆるやかな肯定という点。例えばデビュー作「僕が見たビートルズはTVの中」でも、ビートルズがいた時代を懐かしみながらも「タイムマシンはない」と、今を受け入れて、生きるべきことを歌っています。
彼の現実に対する肯定は、決して安直な現状容認ではありません。ただ、今の現実をありのままに受け入れて、その上で、次の一歩を進んでいこう、というのが彼の各曲を通じてのメッセージではないでしょうか。まさに、前述の「アゲハ」のラストでこう歌っているように。
「もう許してあげよう 月を見上げた時
あの日見かけたアゲハが肩に舞い降りる」
(「アゲハ」より 作詞 斉藤和義)
また、彼の曲のもうひとつの大きな魅力、それは等身大の自分の素直な感情を歌った曲が多いという点ではないでしょうか。「君の顔が好きだ」なんていうのは素直すぎるにしても(笑)、別れた彼女についてある意味、女々しい感情を吐露する「彼女」や、前述の「真夜中のプール」など、これでもかというほどの素直な感情を歌にしています。
まあ、ストーカー(?)に対する感情をそのまま歌にしてしまった「ポストにマヨネーズ」みたいな曲を作っちゃう(そしてシングルカットしてしまう)ところはすごいとは思うのですが(笑)。
もちろん、言わずもがな、そんな歌詞をうまくのせて歌い上げるポップなメロディーもまた魅力的。ビートルズやボブディランあたりからストレートな影響を感じるポップスは、ひねりこそないものの、歌詞の内容にあわせて、時には激しく、時には優しく、そして時にはブルージーに、歌い上げています。あくまでも歌詞とメロディーが主体の曲づくりをしているだけに、より歌詞の世界がストレートに心に届くのです。
そんな彼の魅力がつまった、3枚組フルボリュームのシングルベスト。まあ、最近は、「黒盤」「白盤」に「紅盤」だの、企画盤が続いていたりして、その上でのベストなだけに、ちょっとリリースしすぎなんじゃないの?なんてことも思ったりするのですが、それを差し引いても余りある、魅力的な作品がつまっています。3枚組なだけに、最初に彼の曲を聴くには、ボリュームありすぎる気もするし、そういう意味では、前述の「黒盤」と「白盤」の方がお勧めかもしれませんが、是非とも聴いてみてほしいベスト盤です。あらためて、斉藤和義の魅力にはまってしまうアルバムでした。
評価:★★★★★
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