ジェロで演歌はよみがえるのか?
Title:カバーズ
Musician:ジェロ
「黒人が演歌を歌う」というギャップが話題となり、デビューシングル「海雪」も大ヒットを記録し、一躍、人気ミュージシャンの仲間入りを果たした、黒人演歌歌手のデビューアルバム。
演歌や歌謡曲の名曲を、黒人のジェロがカバーした、ということでこちらも話題となり、演歌のアルバムとしては異例の大ヒットを記録しました。
これを機に、一気に演歌人気に火がついて・・・ともくろんでいる方もいるかもしれません。ただ、ジェロの大ブレイクという事実は、逆に現在の演歌の限界を、浮かび上がらせる結果になったのではないでしょうか。
例えばジェロのヒット曲「海雪」。この曲は演歌とはいえ、秋元康=宇崎竜童という、ポップスのフィールドの作家による曲で、純粋な演歌というよりも、演歌を聴かないような人たちがイメージする、演歌の形を類型化したような作品といえるでしょう。
デビューアルバムがカバーアルバムだった、という事実も、結局、いまの演歌業界が、過去のヒット曲に頼らざるを得ず、演歌というジャンルで名曲を、なかなか生み出せなくなってしまっているという事実を如実にあらわしているといえるでしょう。
また、このアルバムでは、「君恋し」では、SOIL&"PIMP"SESSIONSが参加することによりジャズ風に仕上げ、「釜山港へ帰れ」では、元メガデスのマーティ・フリードマン参加により、ハードロックなギターをアレンジに加えています。これはこれでおもしろいものの、ジャズやロックというジャンルに頼らなければならない点も、演歌の限界をあらわしているといえるかもしれません。
ただ、この一方で、このアルバムは演歌の新たな可能性もあらわしていると思います。
それは、3番目にあげた、ジャズやロックというジャンルを積極的に取り入れている点。もともと演歌は、日本古来の音楽というよりも、浪曲や歌謡曲が様式化した結果、産み出された音楽。だからこそ、演歌は、ロックやジャズ、ポップスの要素を取り込んで、今の演歌とは異なる、あらたな「歌謡曲」として生まれ変わることにより、再び人気を産み出せることが出来るのではないでしょうか。
そんな演歌というジャンルの限界と可能性を感じたカバーアルバムでした。
で、肝心の内容。
前述の通り、ロックやジャズの要素を取り込んでいるおり、さらには、耳なじみある曲が続いているだけに、演歌を全く聴かない人でも、抵抗なく聴けるアルバムになっています。(ってか、最後の「さらば恋人」は演歌じゃないしね)
ジェロの歌自体は、上手いのは間違いないけど、「黒人が日本語で歌っている」というギャップがあるからこそ絶賛されるのであって、歌の上手さだけで勝負できるレベルか、といわれると、現段階では微妙かも。ただ、技巧に頼っている最近の演歌歌手の中では、素直な歌い方をしていて、その歌い方ゆえにまた、幅広いリスナー層を確保できるのではないでしょうか。
悪いアルバムではないとは思うけど、現段階では、やはり話題性が先行している感も否めません。そういう意味では、ジェロが今後生き残れるかどうかは、これから、といった感じかな?次の(純然たる)新作に期待したいところです。
評価:★★★★
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