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2008年6月20日 (金)

日本語のHIP HOP

Title:歪曲
Musician:Shing02

●Shing02“歪曲”CD(2008/6/18)

日本のHIP HOPというスタイルを本当の意味で模索する。

前作「400」から約6年。Shing02が目指したものは、HIP HOPという音楽を日本という国で演る意味、そして日本という国で行うべきHIP HOPの形ではなかったでしょうか。

そして出来上がってきたこの作品では、徹底的に日本でのHIP HOPというスタイルを追求した結果を聴くことが出来ます。

カタカナ英語を含めて、徹底的に外来語を排除し日本語にこだわったリリック、尺八や琵琶、三線といった和楽器を取り込んだトラック、この作品のハイライトともいえる「美獣」では、薩摩琵琶の弾き語りすら、楽曲に取り込んでます。

本作は、いままでの作品に比べて、ライムを踏んだリリックが比較的多く感じられるのですが、それも、日本語でライムを踏むことにより、日本語HIP HOPのさらなる可能性を模索した結果ではないでしょうか。

しかし、これだけ日本のHIP HOPというスタイルを追求していながら、アルバム自体、日本的であることをほとんど意識しないで聴けてしまいます。

それは第一に、「日本的」であることを意識することによってよくやりがちな、「ベタな和風の音を入れる」「富士山、桜など日本的なものを無意味に取り入れる」などといった安直な和風テイストを取り入れていないからでしょう。

また、和楽器にしても、このアルバム全体に流れるジャズ風のトラックの中に、実に自然に取り込まれてます。そのため、和楽器であることを意識しないで、トラックの音のひとつとして、自然に聴くことが出来るのです。

日本におけるHIP HOPの姿を明確に提示した傑作だと思います。Shing02によって、日本HIP HOPはさらにひとつ上の次元に到達したのではないでしょうか?普段、「日本語のHIP HOPってカッコワルイなぁ」なんて斜に構えてる方にこそ、聴いて欲しいアルバムです。

さて、このアルバムの内容をもっと具体的に見ていきたいと思います。

基本的にトラックは、ジャズをベースにした、生音主体のサウンドとなっています。25名にも及ぶ参加ミュージシャンにより奏でられた生音を、サンプリングの手法で構築していくトラックは、単純なバンドサウンドとも異なり、圧巻であり、独特の世界が築かれています。

ただ、このサウンドに関しては、後半になると少々単調気味になる印象を受けました。しかし、一方、後半になるに従い、リリックが印象的な曲が増えていきます。ひょっとしたら、リリックを際立たせるため、トラックを抑え気味にしたのかもしれません。

本作でのリリックは、内省的な内容が多くなっています。もちろん「焦燥」みたいな社会風刺的な内容もあるのですが、人の内面に切り込んだ作風が多いのが特徴的。また、「櫛と簪」「玉響」のような、ストレートなラブソングも収録されています。このラブソングが、意外や意外、かなり純情でストレートなのがおもしろく、特に「玉響」なんて、そのまま結婚式でつかえちゃいそうな内容になっています。

彼がつむぐ日本語のラップはひとつひとつの言葉がとても丁寧につむがれていて、思わず聴き入ってしまうドラマ性もあります。HIP HOPを普段聴かない方も含めて聴いて欲しい作品。間違いなく、今年を代表する傑作の1枚でしょう。

評価:★★★★★

余談。

「接近」で参加している女性ラッパー、誰かと思ったらたむらぱんかよ・・・

たむらぱん

ブタベスト(初回限定盤)

ラッパーとしてもめちゃくちゃカッコいいんだけど(^^;;意外だ・・・。

余談2

「銃口」の歌詞の内容が、露骨に「北斗の拳」なのがおもしろい。

「あたたたたたたた十六分音符
羅列、頭破裂する殺し文句」

(「銃口」より 作詞 Shing02)

なんて、そのまんまだし。つーか、Wikipediaで調べると、自分より1歳年上なだけなんですね。あぁ、同世代・・・・・・。

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