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2008年5月24日 (土)

NIN入門

Albumthumbnail_5 前作「Ghost I-VI」では、自らのサイトからのダウンロードによる先行販売が話題になりましたが、早くもニューアルバムが発売されました。

さらに、なんと本作は、自らのサイトで無料ダウンロードを実施!さらには、ダウンロードできるファイルのタイプも選択でき、ファイルによっては、なんとCDより高音質の音源がダウンロードできる、ということで大きな話題となっています。

参考URL:NINE INCH NAILSがニュー・アルバム『THE SLIP』の無料ダウンロード配信を開始

ダウンロードサイト:http://dl.nin.com/theslip/
(↑上のサイトでアドレスを登録すると、登録アドレスにファイルがダウンロードできるURLを記したメールがおくられてきます。)

「Ghost I-VI」は、全編実験的な作品が収録されていて、いわば「企画盤」的なアルバムだったのですが、本作は、正真正銘のNINのニューオリジナルアルバムとなっています。

ただし、無料ダウンロードという形式ゆえ、はじめてNINの作品に触れる、という方も意識したのでしょうか、ある種、NINE INCH NAILS入門とも言うべき作風になっていました。イントロといえる「999,999」が終わると、ストレートでポップなロックンロールの影響を強く感じる「1,000,000」がはじまります。ヘヴィーでダウナーな、NINのインダストリアルサウンドをイメージすると、その期待を裏切る作品になっています。

その後も「disciplne」では、4つ打ちのリズムが導入されていて、ともすればダンスチューンの様相を見せていますし、「head down」は、ファンクのリズムの影響を感じる、こちらもリズムが心地よいナンバーと続いています。

ただ、その根底には、しっかりとNINらしいインダストリアルのサウンドが流れているんですけどね。

このように、徐々にNINの世界に慣れてきたら、後半は彼の本領発揮です。「lights in the sky」の不気味なピアノの音が、さらにディープな世界へとリスナーをいざなっていきます。

そして、その後は、いかにもNINといった雰囲気の、ヘヴィーなインダストリアルのナンバーが続きます。やがていつのまにかリスナーはNINの世界観にどっぶりとはまっている・・・そういう展開のアルバムに仕上がっていました。

とにかく、NINE INCH NAILSというバンドをいままで聴いたことのない方は、上のサイトをクリックして、これを機に、聴いてみませんか?もちろん、ファンでも十分楽しめる、ポップとヘヴィーな世界が両立した、傑作に仕上がっていたと思います。

評価:★★★★★


RADIOHEADの「IN RAINBOWS」の販売以降、アルバムのダウンロード販売の是非をめぐって、ここ最近、様々なミュージシャンの発言が目立つようになりました。

NINE INCH NAILSのトレント・レズナーは、RADIOHEADのやり方を非難しているみたいですし(参考URL:Nine Inch Nailsのレズナー氏、Radioheadのオンライン販売手法を批判)、また元リバーティンズ、現Dirty Pretty Thingsのカール・バラーも、RADIOHEADのような手法を批判しています(参考URL:カール、コールドプレイの無料ダンロードに異議あり)。

ただ、上記の両者は、完全に論調としては微妙にずれていて、トレント・レズナーは、むしろダウンロードを推進する考え。カール・バラーは、ダウンロードは否定しないものの、無料での楽曲提供というスタイルを否定する考えのようです。

うーん、ここらへん難しいところ・・・というよりも、現在、「どういうスタイルで音楽を提供するのか」「ミュージシャンはどうやってお金を稼ぐのか」という音楽業界の基本的な構造が、大きな転換点に差し掛かっていると思います。そして、インターネットのブロードバンドの急激な普及により、私たちは今、予想以上に急激な構造の変化を迎えています。そのため、この基本的な問題に対して、かなりシーン全体としてかなり混乱しているのではないでしょうか。

ただ、ひとつ間違いなく言えるのは、今後、どのくらいの先の話になるかはわかりませんが、CDのような媒体は廃れて、ダウンロード販売が主流になる、これは確実ではないでしょうか。

それはちょうど、昔、楽譜を売ることがミュージシャンにとって収入を得る糧だったのが、レコードの販売にかわったように、音楽全体の流れから考えると、音楽を提供するメディアが変わるというのは別に珍しい話ではありませんし、だからといって、音楽が廃れる、なんてことは絶対にありえない、と思います。

そういう視点から考えると、正直、カールの発言は、少々賛成しかねる部分もあります。というのは、ここでもうひとつの問題「ミュージシャンはどうやってお金を稼ぐのか」という部分にかかってくるのですが、もし、RADIOHEADやNINE INCH NAILSのようなやり方で、十分、ミュージシャンが収入を獲得できるとわかった場合、一気に、この問題も解決する訳です。つまり、音楽の提供媒体がCDからダウンロードに変わっても、ミュージシャンは十分に生活の糧を得ることが出来る、と。それが証明できたとすると、レコード会社などのダウンロードに対する見方も一変するでしょう。そして、そういう実験を出来るのは、RADIOHEADやNINE INCH NAILSみたいな大物しかいないわけです。

もちろん、現実の話をすれば、カールの意見はもっとも、という側面もあるかと思いますし、単なる音楽ファンである私が、無責任にとやかく言う話ではないのかもしれません。ただ、現在、音楽シーンの基本的な構造そのものが大きく変わりつつある、それだけは間違いないでしょう。ただ、シーンがどのように変化しても、ミュージシャンにはいい音楽を作り続けてほしい・・・・・・陳腐な結論になってしまいましたが、音楽ファンのひとりとしては、素直にそう思います。

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