「生きる」ことへの情念を感じさせる傑作
私を抱いて下さい(DVD付)
アーティスト:中村中 | |
昔から、ポピュラーミュージックというジャンルでは、しばしば一般社会では「マイノリティー」といわれる層が、その中心となり、傑作を産み出してくる、という例が数多く見られます。
例えば、ジャズやR&B、ソウル、最近ではHIP HOPももともとはアメリカの黒人層から生まれた音楽ですし、ロック自体もまた、起源は、黒人の音楽にたどり着きます。
また、日本でも、ミュージシャンや芸能人の中では、在日韓国人/朝鮮人や、いわゆる同和地区出身者がかなりの割合を占めているといわれています。
おそらく、マイノリティーに属している人たちが、マイノリティーとして虐げられている日々を払拭するために、自分たちのアイデンティティーを確保する手段として、また、マジョリティーに対する主張の手段として、「音楽」という手段を用いているのでしょう。
そして中村中、彼女も性同一障害という一般社会ではマイノリティーと言える障害を抱えています。
このアルバム、そんな彼女の心の叫びでしょうか、心に迫るような凄みを感じさせます。具体的には、「生きる」あるいは「自分自身のアイデンティティー」に関する執着や渇望を、切なくも力強い歌声にのせて歌い上げています。
ある意味この彼女の心の叫びは、彼女の持つ「障害」ゆえに産まれてくるものであり、決して普遍性はないのかもしれません。そのため、その歌詞は、時としてラブソングなどに形態を変え歌われています。それでも、そんな彼女の主張は、しっかりと私たちの心の中に響いていきます。
昨年末の紅白歌合戦に出場し、話題となった彼女。ただ、残念ながら、性同一性障害という側面ばかり取り上げられたためか、紅白出場後、その曲が大ヒットを記録した、ということはありませんでした。また、彼女の曲は、やはりその主張ゆえに少々重く、また、その重たさをポピュラリティーに変えているか、といわれると、少々、そこまでこなれていないという印象を受けます。残念ながら、私も紅白で彼女のステージを見た段階では、そこまで惹かれることはありませんでした。
しかし、このアルバムを聴けば、必ず彼女の持つ主張や凄みというのを感じることが出来ると思います。前述の通り、重さと、主張をポピュラリティーに転嫁しきれていない部分がマイナスポイントなのですが、今後、とんでもないアルバムを作ってくるような予感も感じられるアルバムです。
評価:★★★★★
ちなみに、曲とは直接関係ないんだけど、Wikipediaの記述を見ると、所属レコード会社がavexということもあって、一昨年のa-nationなんかに出てるんだね。でも、彼女みたいなタイプの曲が、a-nationのリスナー層に受けるとはとても思えないんだけどなぁ・・・。なんか、どうもavexって、浜崎とかみたいな、メディアを大々的に使って売れるタイプではなく、口コミや、音楽ファン層の支持から売れるようなタイプのミュージシャンの売り方がすごい下手なような感じがする・・・。
ほかに聴いたアルバム
Shining/Crystal Kay
冬をテーマとした企画盤のミニアルバム。聴きやすいアルバムにはなっているけど、全体的には、少々マンネリも感じてしまうかも。悪くはないけど、全体的にポップ路線に走りすぎている感も。
評価:★★★★
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