2021年3月 8日 (月)

名カバーが並ぶトリビュート盤

Title:TRIBUTE TO TRICERATOPS

1997年にシングル「Raspberry」でデビュー。今年、デビューから24年目を迎えたロックバンド、TRICERATOPS。大ヒット曲こそ、1999年の「GOING TO THE MOON」以降、目立った大ヒットはないのですが、「踊れるロック」をテーマとしたルーツ志向でかつポップなロックミュージックと、魅力的なライブパフォーマンスで根強い人気を持続している彼ら。そんなトライセラの楽曲を数多くのミュージシャンがカバーした、初のトリビュートアルバムがリリースされました。特に区切りの年でもないこのタイミングでなぜ?という印象も受けるのですが、2018年以降、活動休止状態に入っていた彼らが、昨年末から活動を再開。その活動再開の嚆矢としてのアルバム、ということなのかもしれません。

数多くのミュージシャンがトライセラの曲をカバーしたこのトリビュートアルバムですが、この手のトリビュートとして非常に理想的な、素晴らしいアルバムに仕上がっていました。それぞれのミュージシャンがそれぞれの個性を発揮しつつ、一方では原曲の良さをきちんと残したカバーになっており、カバーしたミュージシャンとトライセラのそれぞれの個性が、ほどよくバランスされた名カバーばかりが収録されたアルバムになっています。

まさにそんな典型例が1曲目の奥田民生による「ロケットにのって」でしょう。ヘヴィーなバンドサウンドによるアレンジは原曲からほとんど変わりませんが、奥田民生のボーカルが乗ることにより、完全に奥田民生の曲になっています。さらに続く「2020」は、デビュー時期が近く、特にデビュー当初は両者共通のファンも多かった、盟友GRAPEVINEのカバーなのですが、ギターのアルペジオをベースに、ゆっくりと聴かせるカバーは、GRAPEVINEの色にもピッタリとマッチ。GRAPEVINEの新曲といっても違和感ないカバーになっています。

スキマスイッチの「if」もBase Ball Bearの「Raspberry」も、原曲から大きな変化はなく、それぞれ原曲の良さをきちんと感じつつも、スキマスイッチ、Base Ball Bearらしさもきちんと発揮されたカバーになっていますし、特にカラッとしたギターサウンドで軽快に聴かせるLOVE PSYCHEDELICOの「New Lover」やピアノとアコギで幻想的に聴かせる山崎まさよしの「シラフの月」などは、完全にデリコ、山崎まさよしのフィールドにトライセラの曲を引きずり込んだ形のカバーに。ただ、原曲の良さはこれらのカバーでも失っていません。

CHABOの色が濃く出た、ブルージーな「New World」もユニークですし、このアルバムの中である意味、最もユニークで挑戦的だったのがKANの「トランスフォーマー」でしょう。全編打ち込みを取り入れたエレクトロポップに生まれ変わっている、KANちゃんらしいユニークなカバー。ただ、このエレクトロサウンドが「トランスフォーマー」に意外とマッチしており、楽曲の新たな魅力を引き出したカバーに仕上げています。

ミスチルの桜井和寿とトライセラがタッグを組んだQuattro Formaggiの「ラストバラード」も完全に桜井の曲になっています。そしてラストを締めくくるのは和田唱と小田和正の「Fever」。TBSの番組「クリスマスの約束2017」で披露された音源だそうですが、基本的に小田和正はコーラスに徹しているのですが、聴き終わった後は小田和正の印象も強く残ってしまう点も印象的。この2曲については、桜井和寿、小田和正のボーカリストとしての個性の強さを感じるカバーになっています。

そして、これだけ素晴らしいカバーが並んだもう1つの大きな要因は、間違いなく原曲が魅力的だから、ということでしょう。特に和田唱の書くメロディーラインがしっかりメロディアスでインパクトを持っているからこそ、多少乱暴なカバーをしたり、カバーするミュージシャンの個性を前に押し出したりしても、原曲の良さが失われないという点が、今回、数多くのミュージシャンが名カバーを披露した大きな要素になっているのではないでしょうか。

個人的にはTRICERATOPSというバンドは、日本でもっとも過小評価されているバンドのひとつだと思っているのですが、今回のカバーアルバムを聴いて、参加ミュージシャン個々の魅力はもちろんなのですが、それ以上にTRICERATOPSの実力、魅力を再認識したアルバムに仕上がっていたと思います。昨年末から活動を再開したトライセラ。次はついに、彼らのオリジナルアルバムのリリースとなるのでしょうか。早くトライセラの新譜も聴きたいです!

評価:★★★★★

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2021年3月 7日 (日)

アレンジャー4名で新たな挑戦

Title:蓮の花がひらく時
Musician:柴田淳

途中、カバーアルバム「おはこ」を挟んだものの、オリジナルアルバムとしては約2年2ヶ月ぶりとなるしばじゅんのオリジナルアルバム。今回のアルバムの大きな特徴としては、アレンジャーが4人に増やしたという点。いままでの彼女の楽曲にも参加してきた松浦晃久、森俊之に加えて、冨田恵一、山本隆二という2人のアレンジャーを追加し、アレンジャー全4名体制という中で制作されたアルバムとなっています。

今回は、この「サウンド」面にも相当力が入っているようで、初回盤は収録曲のインスト版が収録されたアルバムがDisc2としてついてくるあたり、その力の入れようがわかります。また、実際に全体的にはよりバラエティーに富んだサウンドに仕上がっている点が大きな特徴。4人のアレンジャーの個性がよく出ている作品になっており、序盤の「はじまりはじまり」「ループ」を手掛けた松浦晃久は、ロック系のダイナミックな音作りが特徴的。しばじゅんのボーカルに比べて前に出てくるアレンジになっているため、賛否はわかれそうなアレンジなのですが、アルバムの中ではひとつのアクセントとなっていました。

富田恵一は全編、プログラミングにより手掛けたアレンジが特徴的。ラテン調に挑戦した「ハイウェイ」などバラエティーに富んでおり、全編彼による打ち込みであるため、きめ細やかさを感じさせるアレンジが魅力的。そして山本隆二と森俊之はストリングスやピアノなどアコースティックな楽器を用いて、比較的シンプルなアレンジでしばじゅんの声を前に出して生かそうとするアレンジになっていました。

結果としてはバラエティー富んだ作風になっている一方、統一感に欠ける部分もあり、そういう意味では良い側面と悪い側面が同時に出たかな、という印象もあります。ただ、その一方で今回のアルバムは、バラエティーあるサウンドを前に押し出すために、あえて統一感をはからなかったのではないか、という印象も受けました。あらたな挑戦ということもあるのでしょうが、アレンジャーそれぞれにしばじゅんのボーカルをどのように味付けしていくのか、楽曲毎に比較の出来る作品だったと思います。

ただ、その上で、それだけ挑戦心のある試みでありながら、ちょっと無難にまとまっていたかな、という印象も受けました。松浦晃久はかなり攻めているのですが、結果、アレンジの主張が強すぎ、逆に山本隆二や森俊之はしばじゅんの声を生かそうとしているのですが、少々無難な感じに。富田恵一も、若干彼らしい個性は薄いような感じがします。ラテンやビックバンドなど、それなりに挑戦した曲もあったのですが、アレンジャーを前に押し出すのなら、しばじゅんのボーカルとの意外な相性を感じさせるユニークなアレンジがあってもよかったのではないかな、とも感じてしまいました。

一方、歌詞については、今回も悲しい失恋の歌がメイン。ここ最近、この胸をしめつけさせるような失恋の歌に純化したようなアルバムが続いていました。ただ、今回のアルバム、「はじまりはじまり」「ループ」「ハイウェイ」と、かなりヘヴィーな失恋の曲が並びつつ、後半になるに従い、徐々に明るさや希望も感じさせるような曲も増えてきています。「シャンデリアの下で」でも、未知の世界に踏み出そうとする人に対してエールを送るような曲になっていますし、ラストの「エンディング」も内容的には失恋のナンバーながらも、

「いつかこの人生を歩んだ意味を
知れたらいいと思う
君と出逢えた僕 という奇跡を」
(「エンディング」より 作詞 柴田淳)

とかなり前向きな姿勢で、次へ進む姿が見て取れます。

今回のアルバム、本人曰く「自信作」と語っているように、いろいろなところ、特にアレンジに力の入ったアルバムになっているように感じました。ただ、個人的にはこれといったインパクトのあるフレーズもありませんし、サウンドにしても、もうちょっと挑戦した方がおもしろかったのかも、とも思うアルバムになっていました。全体的にはいいアルバムだと思いますし、歌詞の面でもボーカルでもしばじゅんの魅力を強く感じる作品なのは間違いないと思います。今回、様々なアレンジャーと組んだ結果が、次のアルバムにどう生かされてくるのか・・・その点も注目です。

評価:★★★★

柴田淳 過去の作品
親愛なる君へ
ゴーストライター
僕たちの未来
COVER 70's
あなたと見た夢 君のいない朝
Billborda Live 2013
The Early Days Selection
バビルサの牙
All Time Request BEST~しばづくし~
私は幸せ
プライニクル
おはこ

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2021年3月 6日 (土)

懐かしさは感じるが

Title:ミリオンデイズ〜あの日のわたしと、歌え。〜 mixed by DJ和
Musician:DJ和

2017年にリリースした、2000年代のヒット曲を集めてDJミックスとして編集したアルバム「ラブとポップ ~好きだった人を思い出す歌がある~ mixed by DJ和」が大ヒットを記録して一躍注目を集めたDJ和。こちらは主に90年代のヒット曲を集めてDJミックスとしてつないだアルバム。個人的には、ちょうど中高生の頃のヒットした曲がメインであり、ターゲットとなる世代にドンピシャな選曲。そんな選曲の懐かしさに惹かれて聴いてみました。

まあ、そんな訳で、懐かしさにつられて聴いてみた、というこのアルバムの戦略にすっぽりはまって聴いてみた訳ですが、ただ、このアルバムに関しては(というか以前リリースされた「ラブとポップ」なんかも同じなのですが)率直に感じるものがあります。それはこの内容のアルバムなら、自分にもつくれるんじゃない??という身もふたもない感想。はっきりいって、このアルバムにDJ和なるDJの才能や実力はほとんど感じられません。選曲された曲は、「90年代のヒット曲」と言われて多分10人中10人が選びそうな無難なセレクト。妙にビーイング系の選曲が多いのは「バックにビーイングが協力しているんじゃない?」と大人の事情を感じてしまいますし、同じく、ソニー系が妙に多いのも(以下略)。曲の並びにしても、アップテンポな曲はアップテンポな曲でつなげて、ミディアムテンポな曲はミディアムテンポで、と特に工夫は感じませんし、つなぎの部分についても、特にこれといって特徴もありません。はっきり言ってしまえば、DJ和なる人物を取り上げなくても、ソニーミュージックの社員による企画で同じようなCDを作れちゃうんじゃない?とは思ってしまいます。

ただ一方で同時に感じるのは「そうはいってもコロンブスの卵で、この発想力と企画力はやはり評価されるべきなのでは?」とも思います。もともとWikipediaでDJ和なるものの経歴を調べると、通常の洋楽中心のDJで活動していたのですが、その中にJ-POPの曲を混ぜるとフロアが盛り上がることに気づき、J-POPをかけはじめたのだとか。クラブシーンにはさほど詳しくありませんが、彼がDJとしてデビューした頃には、すでにJ-POPをクラブでかけるような人がいたようにも記憶しているだけに、このスタイルの先駆的存在かどうかは不明なのですが・・・ただ、DJというスタイルにJ-POPを取り入れるという方法論の面では先見の明があったということが言えるのかもしれません。

さて、そんなアルバムの選曲なのですが、前述のとおり、主に中学生から高校生、さらには大学生の頃に聴いた曲の連続に唯々懐かしいな、と感じる一方で、正直言って、30年近く前の曲にも関わらず、楽曲としてあまり変化がない、ここらへんの曲が「今」リリースされていても、なにも不思議でないあたり、薄々感じていたのですが、ポピュラーミュージックの停滞ようなものも感じてしまいます。

あと、これはちょうど私が中高生の頃にあたるからなのかもしれませんが、ヒット曲の内容から考えると、非常に音楽シーンが濃かったな、ということを感じます。このアルバムの中の選曲の中で一番古いのはおそらくプリンセスプリンセスの「Diamonds」、一方、比較的新しいと思うのはORANGE RANGEの「花」。「Diamonds」というと、かなり昔の曲と感じる反面、「花」は比較的最近の・・・と思ってしまうのですが、「Diamonds」が89年、「花」が2004年の曲なので、この間、わずか15年程度なんですよね。逆に「花」はもう、18年も前の楽曲になってしまう訳で・・・。15年の間に数多くのミリオンヒットが生まれたこの時期は、本当に日本の音楽シーンが盛況だったんだな、ということをあらためて感じてしまいます。

ただし、90年代のヒット曲ということですが、ミスチルもスピッツもチャゲアスもB'zもサザンも未選曲。ここらへんは、レコード会社の都合を感じてしまいます。おそらく許可が下りなかったんだろうなぁ。そういう意味でも「企画もの」の域を超えるアルバムではなく、DJ和としての実力はほとんど感じられなかったのですが、純粋に企画ものとして懐かしさを感じたいのならば、聴いてみて損はないかと思います。もっとも、DJミックスですので、途中でブツ切りになってつながっている内容で、フルバージョンは聴けませんので、その点だけご注意ください。

評価:★★★

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2021年3月 5日 (金)

究極のオールタイムベスト

Title:ここにいるよ
Musician:中島みゆき

今回紹介するのは、中島みゆきの「セレクトアルバム」という位置づけでリリースされたニューアルバム。公式サイトに記載された「売り文句」によると、コロナ禍の中で、彼女の「糸」や「時代」「ファイト!」などに勇気を得て、それらの曲へのリクエストやCDアルバムに注文が集中したことから企画されたアルバムだそうで、全2枚組の内容で、1枚目が「エール盤」、2枚目が「寄り添い盤」と名付けられ、それぞれのコンセプトに沿った彼女の楽曲が収録されています。

そんなこともあって、アルバムのスタンスとしてはコンセプチュアルなセレクションアルバム、という立ち位置の作品ではあるのですが、選曲的には彼女の「オールタイムベスト」と言ってもいいような、代表曲を惜しみなく並べたような作品になっています。中島みゆきのベスト盤はいままで何度か発売されていますが、彼女の代表曲、特に大ヒット曲が網羅的に収録されるベスト盤は意外と発売されていません。直近のベストアルバムは「中島みゆき・21世紀ベストセレクション『前途』」ですが、こちらはタイトル通り、2000年以降にリリースされた曲だけ収録されているので、大ヒットした「地上の星」は収録されていますが、90年代以前のヒット曲は未収録です。90年代の大ヒット曲が比較的網羅されているのはミリオンセールスを記録した2002年の「Singles2000」ですが、こちらは「空と君のあいだに」から「地上の星」までのシングルが網羅されているものの、「時代」のようなそれ以前の曲は未収録となっています。

しかし、今回のベストアルバムは、Disc1の1曲目からいきなり「空と君のあいだに」からスタート。さらに「旅人のうた」と続き、その後も「糸」「ファイト!」「時代」そして「地上の星」と、大ヒット曲が出し惜しみなく続きます。Disc2もいきなりデビュー作「アザミ嬢のララバイ」からスタートし、「悪女」「たかが愛」のような代表曲、「タクシードライバー」のようなアルバム収録曲ながらも人気の高いナンバーもしっかりと網羅。初期のナンバーから最近のナンバーまでしっかりと網羅しています。

彼女のヒット曲の中で収録されていないのは、あとは「わかれうた」「浅い眠り」あたりでしょうか。ここらへんは、さすがにテーマに沿ってないと判断されたのか未収録になっているのはちょっと残念。ただ、その点を差し引いても、40年以上のキャリアを持つ彼女の、数多くのヒット曲、代表曲のうち、特に有名な曲をわずかCD2枚という短さで網羅的に聴けるという意味では、「究極のオールタイムベスト」といっても過言ではないセレクトだったと思います。

楽曲の良さについてはいまさら言うまでもありません。特に歌詞については、「エール盤」「寄り添い盤」という名前の通り、人々に対する「応援歌」的な位置づけになっているか・・・と思いきや、厳しい現実にしっかりと立脚し、甘くない現状を見せつける歌詞の世界は、まさに見事のひとこと。単純にうわべだけの応援歌になっていないからこそ、逆に、人々の心に深く刻み込まれるのでしょう。典型的なのが「ファイト!」で、ともすればサビの部分だけで単純な応援歌と誤解されがちなのですが、歌詞の中に登場してくるのは、現実社会の中で立ち行かなくなった一人の女性。「ファイト!」はそんな女性が自分を鼓舞するために歌うフレーズであり、その言葉はずっしりと鉛のように重くのしかかってきます。

あと、今回のアルバムであらためて感じたのが、彼女の曲のメロディーが持つ強度。一度聴いたら忘れられないフレーズが連発されているだけではなく、思わず一緒に歌いだしてしまうような、いい意味でわかりやすいメロディーラインが大きな特徴。その歌の力強さをあわせて、このアルバムを聴いてから、いまでも中島みゆきの曲が頭の中でかけめぐっています(笑)。あらためて彼女の曲の持つすごさを感じました。

そんな訳で、わずか2枚組の中島みゆきの入門的には最適なベストアルバムですし、また、彼女の代表曲をあらためて聴いてみたい方にもおすすめできるアルバム。ただ、そういえば彼女って、オールタイムベストってリリースしていないよなぁ。そろそろ、4枚組くらいのオールタイムベストを聴いてみたい気もするのですが・・・。

評価:★★★★★

中島みゆき 過去の作品
DRAMA!
真夜中の動物園
荒野より
常夜灯
十二単~Singles4~
問題集
組曲(Suite)

中島みゆき・21世紀ベストセレクション『前途』
中島みゆきConcert「一会」(いちえ)2015~2016-LIVE SELECTION-

相聞
中島みゆき ライブ リクエスト -歌旅・縁会・一会-
CONTRALTO


ほかに聴いたアルバム

モルモットラボ/キュウソネコカミ

バンド結成10周年と「ねずみ年」が重なった2020年。対となる2枚のミニアルバムをリリースし、昨年、1作目として「ハリネズミズム」をリリースしましたが、本作はその2作目となるミニアルバム。タイトル通り、ちょうど3分の内容となっている「3minutes」からスタートし、序盤は彼ららしい疾走感あるパンキッシュなナンバーからスタート。ヘヴィーなギターリフを聴かせる「囚」や、逆にポップ色の強い「薄皮」「シュレディンガー」に、フォーキーな「ぬいペニ」のような楽曲まで、いままでにないバラエティーの豊富さが楽しめます。終盤も「シャチクズ」「ポカリ伝説」みたいなユニークな歌詞の曲も。毎作、キュウソネコカミらしさをしっかりと感じさせつつ、傑作というには少々パンクロック的な勢いに頼りすぎな感があった彼らですが、本作は、勢いのあり、なおかつバラエティー富んだ作風でバンドとしての底力を感じさせる傑作になっていました。次はフルアルバムでしょうか。楽しみです。

評価:★★★★★

キュウソネコカミ 過去の作品
チェンジ ザ ワールド
ハッピーポンコツランド
人生はまだまだ続く
キュウソネコカミ -THE LIVE-DMCC REAL ONEMAN TOUR 2016/2017 ボロボロ バキバキ クルットゥー
にゅ~うぇいぶ
ギリ平成
ハリネズミズム

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2021年3月 4日 (木)

声優系が目立つチャートに

今週のHot Albums

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

まず人気の声優勢によるラップバトルのアルバムが1位獲得です。

今週の1位はどついたれ本舗 vs Buster Bros!!!「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle- 2nd Division Rap Battle『どついたれ本舗 vs Buster Bros!!!』」が獲得しました。声優によるラッププロジェクト「ヒプノシスマイク」から、架空のラップチーム同士のバトルをCDとしてリリースされるアルバム。その「2nd Division Rap Battle」の第1弾となるのが本作だそうです。CD販売数1位、ダウンロード数2位、PCによるCD読取数3位。オリコン週間アルバムランキングでは初動売上7万6千枚で1位初登場。

2位はEXILEの弟分のグループ、THE RAMPAGE from EXILE TRIBE「REBOOT」がランクイン。CD販売数2位、ダウンロード数7位、PCによるCD読取数16位。オリコンでは初動売上4万9千枚で2位初登場。前作「THE RIOT」の7万枚(3位)からダウンしています。

3位初登場はジェル「Believe」。You Tubeやツイキャスなどを中心に活動を行っている6人組グループ、すとぷりのメンバーによるソロアルバム。CD販売数3位、ダウンロード数27位、PCによるCD読取数20位。オリコンでは初動売上4万8千枚で3位にランクインしています。

続いて4位以下の初登場盤。今週は1位に声優によるラッププロジェクト、ヒプノシスマイクのアルバムがランクインしてきましたが、4位以下でもこの声優系のアルバムが目立ちました。まず6位に「バンドリ! ガールズバンドパーティ! カバーコレクションVol.5」がランクイン。CD販売数6位、PCによるCD読取数13位。アニメキャラによるガールズバンドプロジェクトBanG Dream!から派生したゲーム「バンドリ! ガールズバンドパーティ!」の中で使用されたカバー曲を集めたアルバムの第5弾。オリコンでは初動売上1万5千枚で6位初登場。同シリーズの前作「ガルパ ボカロカバーコレクション」の1万4千枚(4位)から微増。

さらに7位には「ディズニー 声の王子様 Voice Stars Dream Selection III」がランクイン。CD販売数7位、ダウンロード数38位、PCによるCD読取数28位。人気声優がディズニーの曲をカバーしたアルバムで、本作が第7弾となります。オリコンでは初動売上1万4千枚で8位初登場。同シリーズの前作「Disney 声の王子様 Voice Stars Dream Selection Ⅱ」の初動2万5千枚(4位)からダウンしています。

そんな声優系意外の初登場盤は・・・まず4位にDISH//「X」がランクイン。CD販売数4位、ダウンロード数9位、PCによるCD読取数27位。スターダストプロモーション所属の男性アイドルグループ。今年2月に、メンバーの北村匠海が、You Tubeチャンネル「THE FIRST TAKE」で歌った楽曲「猫」が再生回数1億回を突破するなど話題となりました。一時期、Hot100でもランクアップしてきたのですが思ったほどの大ヒットにはつながっていません。とはいえ、今週のHot100でも19位にランクインしているのですが。本作では、その「THE FIRST TAKE」で録音した「猫~THE FIRST TAKE ver.~」も収録されています。オリコンでは初動売上3万6千枚で4位初登場。前作「CIRCLE」の1万2千枚(5位)からアップしています。

5位には同じスターダストプロモーション所属の女性アイドルグループ、ももいろクローバーZ「田中将大」がランクイン。CD販売数5位、PCによるCD読取数15位。今年、東北楽天ゴールデンイーグルスに復帰し、さらなる活躍が期待される田中将大。熱心なももクロのファンとしても知られていますが、本作は、彼が登場曲として使用した楽曲や、メジャー時代に田中投手への応援歌して作成された楽曲が収録されたコンピレーションアルバム。かなりストレートなタイトルですが・・・。オリコンでは初動売上1万5千枚で7位初登場。直近作の「月色Chainon【ももいろクローバーZ盤】」の8千枚(6位)からはアップしています。

8位には韓国の男性アイドルグループSHINee「Don't Call Me:SHINee Vol.7」がランクイン。韓国盤で、ビルボードではCD販売数はカウントされないものの、ダウンロード数で1位を獲得し、ベスト10入りとなりました。オリコンでは輸入盤が初動売上7千枚で13位にランクイン。前作「THE STORY OF LIGHT EPILOGUE」の6千枚(8位)から微増。

最後、9位にはYUI「NATURAL」がランクイン。CD販売数8位、ダウンロード数9位、PCによるCD読取数32位。2012年いっぱいでソロとしての活動を休止し、バンドFLOWER FLOWERのボーカルとして活動していた彼女ですが、昨年11月に行われたYouTube上の配信ライブ「THE FIRST TAKE FES Vol.2」でYUIとして8年ぶりに活動を再開。本作はベスト盤をのぞけば実に9年3か月ぶりとなるYUI名義のアルバムで、自身の過去の作品をセルフカバーしたアルバムとなります。オリコンでは初動売上1万枚で9位初登場。前作は2枚同時リリースしたベストアルバム「GREEN GARDEN POP」「ORANGE GARDEN POP」となりますが、両者のそれぞれ11万6千枚(2位)、11万5千枚(3位)からはそれぞれ大きくダウンしてしまっています。

今週の初登場盤は以上ですが、一方、ロングヒット盤として今週、YOASOBI「THE BOOK」が10位にランクインし、8週目のベスト10ヒットを記録しています。ただ、順位的には先週の5位から10位に大きくダウン。今後のさらなるヒットは難しそう。さらに先週までベスト10入りしていたMr.Children「SOUNDTRACKS」は今週18位にダウン。ベスト10ヒットは通算9週でストップとなりました。

今週のHot Albumsは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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2021年3月 3日 (水)

3週連続ジャニーズ系が1位

今週のHot100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

これで3週連続ジャニーズ系が1位獲得となりました。

今週、初登場で1位を獲得したのはジャニーズ系。Kis-My-Ft2「Luv Bias」が獲得。CD販売数、PCによるCD読取数、Twitterつぶやき数でそれぞれ1位。ほか、ラジオオンエア数13位、You Tube再生回数は15位でしたが、総合順位では1位獲得となりました。TBS系ドラマ「オー! マイ・ボス! 恋は別冊で」主題歌。オリコン週間シングルランキングでは初動売上21万3千枚で1位初登場。前作「ENDLESS SUMMER」の初動18万4千枚(1位)よりアップ。

2位は先週3位にダウンした優里「ドライフラワー」がワンランクアップで2位に返り咲き。ストリーミング数は今週で6週連続の1位。ダウンロード数も4位から3位にアップ。ただし、You Tube再生回数は反対に3位から4位にダウンしています。これで15週連続のベスト10ヒット&5週連続のベスト3ヒット。

一方で、最近では「歌詞を子供に歌わせたくない」と親世代にも話題になるなど、お茶の間レベルのヒットとなったAdo「うっせぇわ」は4位から3位にアップし、2週ぶりにベスト3返り咲き。こちらはYou Tube再生回数が5週連続で1位獲得。ストリーミング数も3週連続の2位、ダウンロード数も先週から変わらず2位なのですが、ストリーミング数の影響で、「ドライフラワー」になかなか勝てません。

続いて4位以下の初登場曲です。まず4位にOfficial髭男dism「Universe」がランクイン。CD販売数4位、ダウンロード数20位、ストリーミング数53位、ラジオオンエア数2位、PCによるCD読取数3位、Twitterつぶやき数75位、You Tube再生回数63位。先週の40位からCD販売にあわせてランクアップし、初のベスト10ヒットとなりました。映画「ドラえもん のび太の宇宙小戦争2021」主題歌。オリコンでは初動売上3万7千枚で3位初登場。前作「I LOVE...」の1万5千枚(5位)からアップしています。

映画「ドラえもん のび太の宇宙小戦争2021」はタイトル通り、1985年の映画「ドラえもん のび太の宇宙小戦争」のリメイク。オリジナルの主題歌といえば、ドラえもん映画の主題歌として屈指の名曲として知られる武田鉄矢の「少年期」なのですが、リメイクで同曲が主題歌とならなかったのは非常に残念に感じます・・・。一方で、私がヒゲダンのことをはじめて知ったのは、彼らのインディーズ時代の曲「黄色い車」がアニメ「秘密結社鷹の爪GT」主題歌に起用されたことがきっかけだったのですが、同じアニメ主題歌でも、ついにドラえもんの主題歌にまで上り詰めたか・・・と感慨深くも感じてしまいました。

もう1曲初登場は8位の22/7「僕が持っているものなら」。秋元康プロデュースによる声優ユニットのアイドルグループ。CD販売数は2位でしたが、ラジオオンエア数65位、PCによるCD読取数17位、Twitterつぶやき数13位そのほかは圏外となっており、総合順位はこの位置に。オリコンでは初動売上7万3千枚で2位初登場。前作「風は吹いてるか?」の初動5万4千枚(2位)からアップしています。

続いてロングヒット組ですが、まずBTS「Dynamite」は先週から変わらず5位をキープ。You Tube再生回数は先週から変わらず2位をキープし、これで5週連続の2位に。一方、ストリーミング数は3位から4位にダウンしています。これで28週連続のベスト10ヒットとなりました。

YOASOBI「夜に駆ける」も今週6位をキープ。これで45週連続のベスト10ヒットとなりますが、You Tube再生回数は5位をキープしているものの、ストリーミング数は4位から5位にダウン。少しずつランクダウンしていく傾向が続いています。ちなみに2曲同時ベスト10入りを続けていたもう1曲「怪物」は今週12位にダウンです。

そしてもう1曲ロングヒット、LiSA「炎」は8位から10位にダウン。ストリーミング数は7位から9位に、You Tube再生回数も7位から8位にダウン。これでベスト10ヒットは19週連続となりましたが、さすがに後がなくなりました。

今週のHot100は以上。明日はHot Albums!

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2021年3月 2日 (火)

80歳目前でのアルバムデビュー!

Title:Found! One Soul Singer
Musician:Sonny Green

今回紹介するミュージシャンは「知る人ぞ知る」的な存在だったらしい、アメリカはルイジアナ出身の男性ソウルシンガー。来年80歳になるという超ベテランミュージシャンなのですが、なんと、これがデビューアルバムとなるそうです。ただもっとも、80歳間際で超遅咲きのデビューを果たしたシンガー、という訳ではなく、1969年にシングルデビュー。1973年にはシングル「Don't Write A Check WIht Your Mouth」がR&Bチャートで89位にランクインするスマッシュヒットも記録しているそうです。ただ、その後はコンピレーションアルバムなどへのゲスト参加はあったものの録音は途絶え、音楽フェスなどに参加するなど、歌い続けてはいたそうですが、アルバムをリリースする機会には恵まれなかったそうです。

そんな「知る人ぞ知る」的な存在だった彼ですが、なんと、ここに来てアルバムリリースを果たし、齢80歳間際になり、待望のアルバムデビューとなりました。個人的には、そんな彼を知ったのは雑誌「BLUES&SOUL RECORDS」誌で取り上げられていたのがきっかけなのですが、アルバムを聴いてみて、ソウルシンガーとしてのパワーにまずは驚かされます。アルバムはボビー・ブランドのカバー「I'm So Tired」からスタートするのですが、ドスの効いた力強いだみ声のボーカルをまずは聴かせます。声に伸びがあり、艶すら感じられるその歌声は、80歳間際だとは信じられないくらい。緩急つけたボーカルも感情たっぷりで、これだけの力を持ったソウルシンガーが、いままで埋もれてきたことにもビックリ。70年代から録音が途切れていた彼ですが、現役感が全く失っていないのは、その後も歌い続けてきたからでしょう。

アップテンポでパワフルなソウルボーカルを聴かせるような曲も素晴らしいのですが、それ以上に彼のシンガーとしての実力を感じさせるのがバラードナンバーで、「Are You Sure」は、震えるようなボーカルも聴かせる、まさに泣きのバラード。感情こもったピアノをバックに聴かせるボーカルが素晴らしく、やさしい歌声を聴かせてくれたかと思えば、一転、パワフルなボーカルでリスナーの耳を奪い取ります。60年代70年代の彼のシングル曲は聴いたことないのですが、おそらくボーカリストとしての衰えが全くないであろうことを感じさせます。

8曲目の「If You Want Me To Keep Loving You」も本作の聴きどころの1曲。もともとは1971年にリリースされたシングル「Jody's On The Run」のB面曲だったそうですが、次のシングル「Come And See Me」のB面にも収録され、彼の「代表曲」とも言える楽曲だそうで、今回のアルバムでもリメイクされ収録されているあたりに、彼のこの曲の対する思い入れの深さを感じます。確かに、ミディアムブルースのこの曲は、彼がそのボーカルをパワフルに歌い上げている、ボーカリストとしての持ち味をよく発揮されているブルースナンバーとなっており、思い入れの深さも納得。彼のボーカリストとしての実力を存分に感じる曲になっています。

アップテンポなソウルナンバーではパワフルに歌い上げるボーカルを聴かせ、ブルースナンバーでは、感情こもったボーカル、さらにソウルバラードでは、伸びやかで艶のあるボーカルでリスナーを魅了する・・・これだけのソウルシンガーがいままで埋もれていたのが不思議になるのと当時に、それだけアメリアのミュージックシーンの奥の深さを感じてしまうアルバムでした。ラストを飾る「Be Ever Wonderful」もタイトル通り、まだまだソウル/ブルースシンガーとして現役だ、ということを主張するようにファルセット気味のボーカルも入れて、伸びやかな歌声を聴かせるバラードナンバー。タイトル通り、まさにソウルシンガーを見つけた!!と主張したくなるような、驚くべき魅力的なボーカルを最後の最後まで聴かせてくれます。

衰えのない現役感あふれるボーカルでこれだけ魅力的な歌声を聴かせてくれるだけに、80歳とはいえ、まだまだこれからの活躍も期待したくなってしまう1枚。とはいえ、年齢が年齢なだけに「ご無理しないように・・・」とは言いたくなってしまうのですが、でも、次のアルバム、さらには可能であれば来日ライブまで期待したくなってしまうほど!まさに「見つけた!」と言いたくなるシンガーでした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Song of Sage: Post Panic!/Navi Blue

本作が2作目となるアメリカのラッパーによるアルバム。ピアノやストリングスを用いた、美しいトラックをループさせ、その上に語るようなスタイルのラップを載せるスタイルが印象的。非常に美しいサウンドが終始、耳を惹くアルバムになっており、聴いていて心地よさを感じます。淡々と語るような落ち着いたラップもサウンドに絶妙にマッチ。ついつい聴き惚れてしまう、そんな傑作アルバムでした。

評価:★★★★★

Heaux Tales/Jazmine Sullivan

フィラデルフィア出身の女性ソウルシンガーによる4枚目のオリジナルアルバム。全14曲入りのアルバムですが、うち約半数は様々な女性の語りによるトラック。伸びやかで美しい歌声で歌い上げる正統派のソウルに、ラップなどの要素も加わり、トラック的にも今どきへしっかりとアップデートされた作品に。ただ、アカペラ的な「Lost One」やアコギをバックにしんみり聴かせる「Girl Like Me」など、やはり彼女の歌声を中心に据えてしっかりと聴かせる楽曲が大きな魅力になっている作品でした。

評価:★★★★★

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2021年3月 1日 (月)

貴重な音源を収録した津軽民謡の記録

Title:真説じょんがら節 甦る津軽放浪藝の記憶

今回もまた、2020年のベストアルバムとして各種メディアで取り上げられた作品のうち、未聴だった作品を後追いで聴いた作品。今回はMUSIC MAGAZINE誌のワールドミュージック部門で10位を獲得したアルバム。ワールドミュージック・・・といっても、本作はタイトルからわかる通り、アフリカの作品でもアジアの作品でもありません。れっきとした日本の音楽。1920年代から40年代の戦前戦後の津軽民謡のSP盤を収録したアンソロジーアルバム。全2枚組のアルバムの中に、津軽民謡の貴重な音源が収録されたアルバムとなっています。

三味線と太鼓をバックに、伸びやかに歌い上げる津軽民謡は、もちろん今でも現役で、多くの民謡歌手が活躍されている分野。おそらく多くの方にとっては、どういう形であれ、多かれ少なかれ耳にしたことがある音楽であるかと思います。ただ一方で、しっかりとした音源でまとまって聴いているという方は、少なくとも当サイトに遊びに来てくださっているような世代では少ないのではないでしょうか。

今回紹介するアルバムに収録されている音源は、いずれも戦前戦後直後の音源。戦前及び戦後直後のSP盤ということで、曲によってはレコードのノイズが酷い曲もあることにはあるのですが、全体的には比較的、保存状況は良く、聴きやすい音源がまとまっていました。そしてあらためて、津軽民謡をこのような音源の形で聴くと、その魅力を強く感じることが出来ました。

まず大きな魅力のひとつは、なんといってもその歌声でしょう。力強く伸びやかで、張りのあるその歌声の迫力は、100年近くが経過した今のリスナーの心も大きく揺さぶるのではないでしょうか。アルバムの1曲目、工藤美栄子による「津軽じょんがら節」の伸びのある歌声にまずは耳を奪われるのは間違いなし。そして特にDisc1の中で印象に残るのが、12曲目「じょんがら節」から15曲目「津軽三下り」まででその歌声を聴かせる津軽家シワ(津軽家シワ子)など歌い手。どこか色っぽさを感じさせつつ、同時にドスが効いたようなパワフルなボーカルが強い魅力。CD付属のブックレットの曲紹介でも「澄んだ声と艶、切れのよさは、津軽の芸人中、最高だろう」と評されていますが、本作の中でもその歌声は非常に印象に残ります。

そしてもうひとつの主役が三味線。こちらも曲によってはかなりアグレッシブな演奏が魅力的で、Disc2の18曲目に収録されている「津軽あいや節」では切れのある澄んだ歌声の佐藤りつの歌も魅力的ですが、アグレッシブに勢いある演奏を聴かせる三味線も耳を惹きます。この三味線を弾いているのは高橋竹山。津軽三味線を全国に広めた第一人者と言われる方で、私でもその名前を聴いたことある方。確かに、このアルバムの中でも特に耳を惹く演奏が魅力的で、その実力を感じさせます。

また、本作で意外な発見だったのは、「じょんがら節」と一言で言ってもそのバリエーションの多彩さ。津軽民謡というと、「三味線に張り上げたこぶしを効かせた歌」というお決まりのスタイルを思い浮かべるでしょうし、実際、そのような典型的なタイプの曲も少なくありません。ただ一方ではDisc2の2曲目「津軽イタコ口ヨセ」のような、歌とほぼ太鼓のみで、「イタコ口ヨセ」を再現した不気味な雰囲気の曲もあったり、Disc2の8曲目「たんと節」のように、男女の掛け合いでコミカルさを感じさせる曲もあったりと、楽曲にもバリエーションを感じさせます。

さらに、その時代の出来事をそのまま歌詞として読みこんだ曲も少なくありません。Disc1の6曲目「津軽小原節」では、1920年にロシアのニコラエフスクで発生した、ソ連の赤軍パルチザン(共産主義のゲリラ部隊)による日本人捕虜殺害事件(尼港事件)をそのまま題材にしていますし、Disc2の15曲目「津軽小原節(上)」、16曲目「津軽よされ節(上)」では1932年の第一次上海事変の最中に、爆弾を抱えて敵陣を突破して自爆し、突撃路を切り開いたという爆弾三勇士を題材としています。この時代の津軽民謡が、決して「伝統芸」ではなく、現役の「ポピュラーソング」だったということを感じさせます。

私自身、決して普段、民謡をよく聴いているという訳ではないのですが、非常に聴きごたえのあるコンピレーションアルバムで、予想以上に楽しめた作品でした。企画としても貴重なSP盤を多く収録していますし、素晴らしい企画だったと思います。普段、民謡に縁のない方でも意外と楽しめるかも。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

#4 -Retornado- /凛として時雨

2005年にインディーレーベルよりリリースされた、彼ら初のフルアルバム「#4」をリマスターした作品。「#4」については今回はじめて聴いたのですが、疾走感あるギターサウンドとマイナーコード主体のメランコリックなメロディーラインを歌い上げる、切迫したようなボーカルという凛として時雨のスタイルはこの時期にすでに確立しており、曲によっては、確かに若々しさを感じさせる部分もあるのですが、今のアルバムと並べて聴いても全く違和感ない作品に。リアルタイムではほとんど売れなかったため、おそらく多くの方にとってははじめて聴く作品なだけに、「凛として時雨の新譜」的にも楽しめるアルバムでした。

評価:★★★★

凛として時雨 過去の作品
just A moment
still a Sigure virgin?
i'mperfect
Best of Tornado
es or s
#5

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2021年2月28日 (日)

「一発屋」の匂いも漂うが・・・

Title:すっからかん
Musician:瑛人

昨年、突如大ヒットを記録した男性シンガーソングライター、瑛人の「香水」。もともとリリースされたのは2019年4月だったのですが、TikTokなどで徐々に話題となり、昨年一気にブレイク。「ドルチェ&ガッバーナ」という具体的な固有名称が登場してくる点でも話題となりました。さらにこの曲は、メジャーどころかインディーレーベルからのリリースでもなく、完全な「自主制作」による楽曲で、それが最終的には紅白出場まで決める大ヒットまでつながったという点でも話題となりました。

ただ一方で、正直言ってしまうと「香水」でのヒットのインパクトが強すぎて、「一発屋」の雰囲気が漂っているのも否定できません。「香水」以降も配信オンリーで5枚のシングルをリリースしているものの、どの曲もヒットチャートの上位には入ってきていませんし、このアルバムも発売日の都合もあったものの、ビルボードで最高位9位、オリコンでは11位止まりと、「香水」のヒットと比べると、かなり厳しい結果となってしまっています。

私も正直言うと、「香水」のイメージが強すぎたので、アルバム単位ではあまり期待してしませんでした。ただ、アルバムを聴いてみた結果としては「思ったよりはよかった」というのが正直な感想です。まず楽曲的には、「香水」のイメージから大きく変わるものはありません。基本的にアコースティックギターでしんみり聴かせるミディアムチューンのナンバーがメイン。固有名詞も飛び出すような具体的な描写が印象的だった「香水」と同様、具体的な舞台や物語が用意されているような歌詞の世界の曲が並びます。

ほかにも隣の部屋の女の子に片思いしている「僕はバカ」や、既に結婚してしまった昔の恋人を思い出している「カルマ」なども、「香水」と同様、かなり具体的な恋愛心理の描写があり、聴いていて胸がズキッと痛くなるような歌詞が印象的。歌詞の内容もリアリティーある描写となっていて、ちょっと女々しい歌詞の内容も含めて、個人的には結構嫌いではありません。

また、ある意味一番驚いたのが「ハッピーになれよ」で、この曲、酒癖の悪いDV気質の父親の下でも家族について歌った、「香水」のイメージからするとかなりヘヴィーなナンバー。実体験だとしたら、かなりヘヴィーな内容で、聴いていて、失恋の歌とは別の意味で切なくなってくるようなナンバー。「香水」のようなラブソングのシンガーだとイメージすると、かなり意外性を感じる方も少なくないのではないでしょうか。

ただ、ここらへんの歌詞は意外と魅力的だったのですが、それでもアルバム全体を聴いた印象としては「これは一発屋になりそうだ・・・」と思ってしまったのが正直な感想でした。その理由としてはいくつかありますが、まず、メロディーの面でもサウンドの面でもインパクトが弱い点。それなりにわかりやすいフレーズを聴かせてくれるのですが、似たようなタイプの曲が多く、全体としては印象は薄めになってしまいます。また、歌詞にしてもメロディーラインにしてもサウンドにしても、「愚直」といった印象を受けるような、無難な作風に仕上げており(前述の「ハッピーになれよ」のような例外はありますが)、インパクトの弱さの大きな要因に感じます。

そして、それらの事項を含めて、結果として「一発屋」感が強い最大の理由としては、瑛人としての個性がほとんど感じられない点でしょう。はっきり言うと、ここで収録されている曲は、彼でしか歌えない、といった曲はありませんし、彼にしかもっていない特色をあげろ、と言われると、言葉につまってしまいます。ここに収録されている曲を聴いて感じる満足度は、同じ男性シンガーソングライターとして、例えば斉藤和義だとか、秦基博だとかを聴けば事足りてしまう、といって間違いではありません。斉藤和義とか、秦基博じゃだめなんだ、瑛人じゃなくては!といった感触は、残念ながらこのアルバムからは感じられませんでした。

「香水」があれだけヒットを出しただけに、今後についてそう簡単に困ることはないのかもしれませんが、率直に、次のヒットは厳しいだろうなぁ、と感じてしまうアルバムでした。ただ、決して悪いアルバムではないので、「香水」が気に入った人や、アコースティック系のSSWが好きな方なら聴いて損のないアルバムだとは思います。「香水」の次にも注目したいのですが、どうなるのでしょうか?

評価:★★★★


ほかに聴いたアルバム

廻廻奇譚 / 蒼のワルツ /Eve

動画投稿サイトへの歌唱動画投稿や、ボカロPとしても活躍していた男性シンガーソングライターによるミニアルバム。彼のアルバムを聴くのは「おとぎ」「Smile」に続き3作目ですが、ボーカルスタイルとして落ち着きが増し、マイナーコード主体のアップテンポチューンという、ネット発ミュージシャンによくありがちなタイプの楽曲から、もうちょっと落ち着いて聴かせる楽曲が増えた印象。曲名はいかにも自意識過剰系のネット発という印象は否めないのですが、全体としてはいい意味でポピュラリティーが増した印象。ポスト米津玄師になれるか?

評価:★★★★

Eve 過去の作品
おとぎ
Smile

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2021年2月27日 (土)

ダイナミックなサウンドが心地よい

Title:Chants de femmes des Asturies
Musician:MUGA

今回も2020年のベストアルバムの後追いで聴いた1枚。本作は、Musici Magazine誌ワールドミュージック部門で9位を獲得したアルバム。スペインの北西部、アストゥリアス州の女性シンガー、クララ・ディアス・マルケスと、同じくスペインはブルターニュ地方のヴァイオリニスト、トマス・フェルダーとギタリストのマルタン・シャプロンによる3人組のユニット。そこに4人のゲストを迎えて作成されたのが本作だそうです。

ジャンル的にはヨーロッパトラッドということになるのでしょう。まず耳に飛び込んでくるのは、クララの力強いボーカル。ちょっとしゃがれた渋みのあるボーカルながらも声量がありパワフルなボーカルが強い魅力。うなるようにこぶしを利かせた節回しと、伸びやかなボーカルが耳を惹きます。ケルト民謡も彷彿とさせるようなメランコリックさと、勇壮さを感じさせる彼女のボーカルが、まずこのバンドの大きな魅力となっています。

そして、このボーカルと同じくらい惹かれたのが、非常にパワフルで力強いバンドサウンドでした。アルバムの冒頭「Anada de Viodo」は、いきなりヘヴィーでノイジーなギターサウンドからスタート。さらにバスドラの力強いリズムと、分厚いバイオリンの音色が重なり、ダイナミックな楽曲に仕上がっていました。続く「Ramu la Madalena de Tresmonte」も、まずは飛び込んでくるヘヴィーなギターとドラムスの音色に、ヨーロッパトラッド以上にロック的な要素を感じさせます。その後入ってくる、エキゾチックなフィドルの音色と、クララののびやかなボーカルが加わることにより、ロック的なダイナミズムさとトラッド的なエキゾチックな雰囲気が混ざり合う、独特の音楽性を醸し出していました。

その後も「Los Titos de Benllera」に至っては、ハードロックか、メタルじゃないか?というほどのヘヴィーなギターリフを前面に押し出していますし、ラストの「El Corri-Corri」もサイケデリック的な要素を感じさせるサウンドが魅力的。最初から最後まで、ある種「ロック的」と言えるダイナミックなバンドサウンドが大きな魅力となっているアルバムに仕上がっています。

そしてそんなパワフルなバンドサウンドに正面から対峙するクララのボーカルと、トマスのヴァイオリンの音色がまたパワフルかつスリリング。ゲストを加えたメンバーそれぞれが、真正面からそれぞれの音をぶつけ合い、そしてひとつのサウンドに昇華していく、ある種のすさまじさを感じる作品になっており、彼らの奏でる歌やサウンドに終始圧巻される作品でした。

ヨーロッパトラッドが好きならもちろんのこと、この作品、なにげに実はロックリスナーが楽しめるアルバムなのでは?とも感じるようなダイナミックな作品。聴き終わった後に、すさまじいものを聴いたと、しばし茫然としてしまうようなアルバムでした。こういうバンド、ライブで聴いたらすごいことになるんだろうなぁ・・・コロナ禍が終わったら、是非一度、日本にも来てほしいなぁ・・・。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

ManifestaSITI2020/Dato Siti Nurhaliza

こちらも2020年ベストアルバムの後追い。Music Magazine誌ワールドミュージック部門で、こちらは7位となったアルバム。マレーシアを代表する女性シンガーによる新作。哀愁感たっぷりに歌い上げる楽曲が並ぶ作品で、まさに「大衆歌手」といったイメージがピッタリくるようなアルバム。メロディーや節回しには歌謡曲的な部分も強く感じられ、日本人にとっても耳なじみやすい作品だと思います。確かにマレーシアを代表するような大物然とした雰囲気が漂ってくるアルバム。いい意味で、日本とマレーシア、同じアジアなんだなぁ、とも感じた作品でした。

評価:★★★★

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