懐かしくも新しい2000年代にフォーカス
Title:Y2K!
Musician:Ice Spice
最近、アメリカで注目度が急速に高まっている女性ラッパーIce Spice。昨年リリースした「Like...?」は当サイトでも紹介しましたが、昨年はイギリスのシンガーソングライターPinkPanthernessとコラボした「Boy's a Liar Pt.2」がビルボードで3位、Nicki Minajとコラボした「Pincess Diana」が4位、さらには同じくNickiとコラボした「Barbie World」が7位と3曲がベスト10入り。一気に注目を集めました。
前作「Like...?」はEP盤でしたので、純然たるオリジナルアルバムとしては初となる本作。「Y2K」というタイトルは、ある一定以上の世代の方についてはちょっと懐かしさを感じさせる言葉ですが、彼女の誕生日である2000年1月1日にちなんでつけられた名前だとか。しかし、誕生日が2000年の1月1日というのはすごいですね・・・。
楽曲は、前作同様、全編、強いエレクトロビートがとにかく耳を惹く、リズミカルでダンサナブルなトラックがインパクト大。ちょっと不気味な雰囲気の「Phat Butt」からスタート。続く「Oh Shhh...」ではTravis Scottがゲストで参加。ただ、どちらかというとTravis Scott的な要素以上にIce Spiceらしさが前に出たような作品に。逆に同じくラッパーのGunnaが参加した「...Bitch I'm Packin'」ではトラップ色が強くなっており、こちらはゲスト側の影響でしょうか。
他にもメロディアスなフレーズが流れ、ポップに聴かせる「Did It First」や、ビートにトライバルな要素が加わった「Gimmie A Light」や「GYAT」、どこかメランコリックさを感じるラップに、ポップさを感じる「Think U The Shit」など、バラエティーを加えつつ、ただ、全体的にはヘヴィーなエレクトロのビートをリズミカルに聴かせるスタイルのラップがメイン。正直、そういう意味では似たようなタイプの曲が多いのですが、一方でアルバム全体としても11曲25分という短さで、そのため、似たタイプの曲が多くても、最後まで飽きることなく一気に聴いてしまえるアルバムとなっていました。
また、今回のアルバムの大きな特徴なのが2000年代前後のヒット曲をサンプリングしている点。例えば「Phat Butt」ではDem Franchize Boyzの2004年のヒット曲「Oh I Think Dey Like Me」をサンプリング。「Gimmie A Light」では、Sean Paulの2002年のナンバー「Gimme the Light」からサンプリングしているなど、2000年前後のカルチャーを積極的に取り込んでいるとか。最近、2000年前後のファッションが再度注目を集めているそうですが、彼女もまた、流れに沿ったアルバムとなっています。日本でもかつて70年代が注目を集めたり、80年代が注目を集めたりしましたが、既に20年以上前になった2000年代。懐かしくも一定以下の世代には逆にある種の新しさを感じさせる点、注目を集めている要素でしょうか。(2000年代に青春期を過ごした世代が、会社の上席者となり、いろいろな意思決定が出来るような世代になった点も大きいかもしれませんが)
そんな懐かしくも新しい作品。ただ、HIP HOP等の詳しくない方にとっては、どこまで懐かしさを感じるのかは微妙なのですが…。ただ、リズミカルなエレクトロビートを軸とした楽曲は、HIP HOPをあまり聴かない層にとっても耳なじみやすく、25分という短さもあって、飽きることなく最後まで楽しめるアルバムになっていました。シングルのヒットにもかかわらず、本作はビルボードのHot Albumsではベスト10入りは逃しており、まだまだ彼女自身の人気の面ではこれからの部分もあるのですが、今後、さらなる人気の上昇も期待されます。今、もっとも注目すべきHIP HOPミュージシャンの一人であることは間違いないでしょう。今後の活躍にも注目です。
評価:★★★★★
Ice Spice 過去の作品
Like...?
ほかに聴いたアルバム
Absolute Elsewhere/Blood Incantation
アメリカのデスメタルバンドによる4枚目のアルバム。彼らのアルバムを聴くのは前々作「Hidden History Of The Human Race」以来となるのですが、ダイナミックでヘヴィーなバンドサウンドとデス声という組み合わせは、いかにもデスメタル然とはしているものの、今回のアルバムではエレクトロサウンドを取り入れたり、トライバルなリズムを取り入れたり、様式美に陥らない様々な試みがユニーク。バンドとしての挑戦心も感じられる作品でした。
評価:★★★★
Blood Incantation 過去の作品
Hidden History Of The Human Race
Maple to Paper/Becca Stevens
ジャズやフォークのジャンルで活躍するアメリカのシンガーソングライターによる新作。本編はすべて弾き語りによる作品で、アコースティックギターのみの演奏をバックにメランコリックに歌い上げる優しいボーカルが魅力的な作品に。清涼感あるボーカルで、時には優しく、時には切なくメランコリックに聴かせる歌声も魅力的な作品でした。
評価:★★★★
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