2019年10月14日 (月)

歌詞の雰囲気は魅力的だが

Title:boys
Musician:My Hair is Bad

途中、ミニアルバムのリリースを挟みつつ、フルアルバムとしては約1年7ヶ月ぶりとなるMy Hair is Badのニューアルバム。ブレイク作となった2枚目のフルアルバム「woman's」以降、コンスタントにアルバムをリリースするとチャート上位に食い込んでくるなど、しっかりとした人気を確保しています。

具体的な風景描写とそれに伴う心理描写が描きこまれている具体性ある切ない歌詞の世界とほどよくノイジーなバンドサウンドが魅力的なギターロックがインパクトのある彼ら。バンドサウンドの方はよくありがちなギターロック路線といった感じで目新しさはないもの、確かに歌詞に関しては、昨今の夏フェスバブルの中で雨後のたけのこのように出てくるギターロックバンドの中では一線を画するものがあり、彼らの人気の大きな要因になっているように感じます。

例えば本作でも「君が海」では学生時代を彷彿とさせるようなノスタルジックな風景描写と切ない恋を想像させるような言葉が曲の中にちりばめられておりとても魅力的。続く「青」も学生時代の思い出をそのままパッケージしたような歌詞が魅力的で、懐かしさと切なさを感じられる楽曲になっています。

ふたりの心境を観覧車に反映させて描く「観覧車」の歌詞も詩的で見事なものがありますし、「僕の最後になっておくれよ」と歌う「虜」もストレートなその歌詞に心惹かれるものがあります。女性の立場から、好きな人がほかの女のもとへと向かう姿を見送る心境を歌う「化粧」などは楽曲の雰囲気を含めて、まさに歌謡曲の世界観。全体的にウェットな雰囲気の楽曲が多く、いい意味で実に日本的なものを感じるロックバンドだったりします。

ただ一方では正直言うと、大絶賛するにはどこかあと一歩の惜しさを感じてしまうのも本作の特徴。前述のとおり、シンプルなギターロックは良くも悪くも特徴がありませんし、後半になると「舞台をおりて」のようなへヴィネスさが増したサウンドが聴けたりもするのですが、サウンドだけで惹きつけるには物足りなさもあります。

楽曲のバリエーションにしても「怠惰でいいとも!」のようなコミカルな曲があったり、ラップを取り入れた曲があったりとそれなりにバリエーションを出そうとしているのですが中途半端。また歌詞も非常に魅力的な歌詞ではあるものの、これといったキラーフレーズがないためひっかかりが弱かったり、心理描写にしても比較的表層的で、「あっ」と思わせるような言葉には残念ながら出会えません。その中途半端さが特徴的なのはインターリュード的な「one」で、演劇的なセリフのみで構成された実験的な「曲」なのですが、いまひとつ言いたいテーマが不明確なまま終わってしまっています。

要するに歌詞にしてもサウンドにしてもあと一歩のひねりがほしかったな、と思う中途半端さが残念に感じてしまいます。もっとも逆に言えば、歌詞にしてもサウンドにしてもあと一歩という感じであるため、上手くはまればとんでもない傑作がリリースされるような予感もするアルバム。そういう意味では間違いなく今後が楽しみ、と言えるバンドだと思います。ここ数作のアルバムがチャート上位に食い込んでいるものの、「大ブレイク」という意味では「あと一歩」の感もある彼ら。とんでもない傑作がリリースされれば、一気にお茶の間レベルの人気バンドになる、かも?

評価:★★★★

My Hair is Bad 過去の作品
woman's
mothers
hadaka e.p.


ほかに聴いたアルバム

今は今で誓いは笑みで/ずっと真夜中でいいのに。

ACAねという女性ボーカリストを中心としたユニットずっと真夜中でいいのに。の2枚目となるミニアルバム。ビルボードのHot Albumsやオリコンでも1位を獲得し、人気上昇中のユニットなのですが、感想としては前作とほぼ同じ。ハイトーンボイスの女性ボーカルと疾走感あるサウンドは良くも悪くも昨今のネット中心に人気を確保するミュージシャンにありがちなスタイルで聴き飽きた感もありますし、意味がありげなのですが、どうも深さを感じさせない歌詞の世界観にもどうもピンと来ません。今年のフジロックにも出演した彼女たち。最近フジロックは観客動員のためか、以前に比べると「売れ線」の邦楽ミュージシャンも積極的に呼ぶようになってきたのですが、それにしてももうちょっと選んでもいいのでは?とすら思ってしまいます。前作「正しい偽りからの起床」に続いて彼女たちの作品を聴くのはこれが2枚目なのですが、3枚目はさすがにもうスルー・・・かなぁ。

評価:★★★

ずっと真夜中でいいのに。 過去の作品
正しい偽りからの起床

PACIFIC/クレイジーケンバンド

デビュー21年目を迎えるクレイジーケンバンド。以前はほぼ毎年、オリジナルアルバムをリリースし続けてきた彼らでしたが、前作「GOING TO GO-GO」は約3年ぶりとちょっとスパンの空いた久々のニューアルバムとなりました。しかし今回のアルバムは再び前作「GOING TO GO-GO」からわずか1年というスパンでリリースしてきており、彼らの変わらぬ勢いを感じさせます。

ただ、楽曲的には1曲1曲、相変わらず高いクオリティーで安定した出来栄えの曲が並んでいるものの、アルバム全体として核になるような曲がなく、アルバム全体を聴き終わった後にいまひとつ印象に残らないような内容に・・・。一番インパクトを感じたのが「南国列車」のVIDEOTAPEMUSICによるリミックスだった、というのがちょっと残念な感じ。出来としては決して悪くないだけに、1曲2曲程度、強いインパクトのある曲だったり、いつもとちょっと違う雰囲気の曲が入っていれば、全然印象が変わるアルバムになっていたと思うのですが・・・。来年リリースされるであろう、次のアルバムに期待したいところです。

評価:★★★★

クレイジーケンバンド 過去の作品
ZERO
ガール!ガール!ガール!
CRAZY KEN BAND BEST 鶴
CRAZY KEN BAND BEST 亀

MINT CONDITION
Single Collection/P-VINE YEARS
ITALIAN GARDEN
FLYING SAUCER
フリー・ソウル・クレイジー・ケン・バンド
Spark Plug
もうすっかりあれなんだよね
香港的士-Hong Kong Taxi-
CRAZY KEN BAND ALL TIME BEST 愛の世界
GOING TO A GO-GO

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2019年10月13日 (日)

結成30周年の記念ライブ

フラワーカンパニーズ presents DRAGON DELUXE DELUXE

フラワーカンパニーズ/スピッツ

会場 名古屋国際会議場センチュリーホール 日時 2019年10月4日(金)

今年、結成30周年を迎えた名古屋出身のベテランロックバンド、フラワーカンパニーズ。その結成30周年を記念したライブイベントが先日、彼らの地元名古屋のセンチュリーホールで開催されました。以前から彼らが主催して行っていたライブイベント「DRAGON DELUXE」のさらに「DELUXE」と題された今回のライブ。以前、フラカンについては2011年におこなわれた今は亡き夏フェス「Rock on the Rock」でそのステージを見て、とても素晴らしいライブだったので一度見ていたい・・・と思いつつ、それから8年。今回のこのライブイベント開催を知り、じゃあ是非見てみよう、ということもありチケットを確保しました。

今回のライブイベント、ゲストミュージシャンの名前が伏せられており、一般販売が開始された後もしばらくは名前が公表されないような状況でした。そのため、おそらく発表されたらセンチュリーホールクラスはあっという間にソールドアウトしてしまうような大物なんだろうなぁ、という期待をしつつチケットを確保。そしてしばらくするとゲストミュージシャンがスピッツと発表。これにはおもわずガッツポーズしてしまいました(笑)。そんな訳で、通常ならアリーナクラスのライブではないとなかなかチケットが確保できないスピッツのステージを思いがけず彼らとしては狭めの会場で見ることが出来ました。

Flower01

←そんな訳で、スピッツのおかげ(?)で見事、会場もソールドアウト。もっとも、フラカンのステージでは会場全体が盛り上がっていましたので、決してスピッツのみが目当ての観客が多かった訳ではなく、私のようにはじめて来た観客や久々に足を運んだファン、遠隔地からのファンも多かったのでしょう。当初開演時間をしばらくすぎると、まずはフラワーカンパニーズの4人がステージに姿を現します。まずは挨拶と開幕の宣言、そしてゲスト、スピッツの紹介と続き、まずは待望のスピッツの登場となりました。

メンバーのうち、ベースの三輪テツヤは素肌にサスペンダーデニムといういで立ち。このスタイル、フラカンのグレートマエカワのスタイルを真似ており、それで笑いのような歓声も(笑)。そしてライブは「ハイファイローファイ」そして「メモリーズ」とライブ映えするロックな曲が続きます。

その後は挨拶を兼ねたMCがあり、リリース予定の新譜「見っけ」からの新曲。さらに「魔法のコトバ」と続きます。そして、それに続いてはフラワーカンパニーズのナンバー「ビューティフルドリーマー」のカバー!これには会場からも大きな歓声が。その後のMCでは草野マサムネが「フラカンと自分たちって似たようなタイプのバンドなんだよね」「先日、RADWIMPSの『前前前世』のカバーをやったんだけど、全然違う。フラカンだと自分が思った通りに曲が展開していく」「きっと同世代のバンドだからなんだろうけど・・・」という話をしていました。

さらに最新シングルの「優しいあの子」を挟んだ後、「トンガリ'95」「8823」とライブ映えするアップテンポなナンバーが続き、最後は彼らの大ヒット曲「涙がキラリ☆」で会場を盛り上げ、約45分でステージから去っていきました。

そして15分程度のセットチェンジの後、お待ちかねのフラワーカンパニーズの登場。まずはいきなり彼らの代表曲「深夜高速」からスタート。さらには「はぐれ者賛歌」「永遠の田舎者」と続き会場を盛り上げます。以前のフェスの時にも感じたのですが非常に力強い迫力ある演奏にまずは惹きつけられつつ、MCへ。鈴木圭介が「普段は東京に住んでいるけど名古屋人です!」といったら、グレートマエカワに「普段は東京人って言ってるじゃん」と突っ込まれたりして(笑)いましたが、やはりそこは名古屋出身のバンド、30周年の記念ライブは名古屋でやることを決めていたとか。この日はグレートマエカワと竹安堅一の母校である高校の同窓会からもお祝いの花束が届いていました。Flower2

(写真右:その母校の同窓会からの花束。ちなみに自分の出身地と同じく「区内」の地元中の地元で、そういう意味ではちょっとうれしくなったりして)そんなMCを挟みつつ、その後は最新アルバム「50×4」からのナンバーなどが続きます。さらに「名古屋にいた時につくった曲」ということで25年以上前の「暖かいコーヒー」という曲を。こちらはタイトル通り、アコースティックで暖かい雰囲気の曲となっていました。

そしてその後はメンバー紹介から「真冬の盆踊り」へ。この曲では会場全体が手を上にあげて一体となって踊りまくります。途中、メドレー的にスピッツの「メモリーズ」のカバーに会場からも歓声が。会場全体が盛り上がった中、ラストチューンということで「サヨナラBABY」で締めくくり。全50分のステージでした。

その後はもちろん盛大なアンコールへ。正直、フラカンのステージがたった1時間弱でちょっと早いな・・・と思っていたのですが、セットチェンジではドラムセットが2つセット。マイクもステージ前方に6本用意され、やがて出てきたフラカンのメンバーも「お気づきだとは思いますが・・・」とスピッツのメンバーを呼び出します。ここらからは、なんとフラカンとスピッツのメンバー合同によるステージに。草野マサムネ曰く、ボーカリストとして1人だけ参加したセッションは多かったけど、バンド全体が一緒にやるということははじめてでは?ということでした。

そんな豪華なセッションライブ。まず最初は鈴木圭介からのリクエストということでスピッツのデビューシングル「ヒバリのこころ」からスタート。基本的に楽器部隊は全員そろっての演奏で、鈴木圭介と草野マサムネは1番ずつ交互に歌うスタイル。ちょっと意外な選曲に、曲が終わった後、草野マサムネが「なんでこの曲?」と聴いたら、「ただただ好きなんです!」とちょっと恐縮したように答えていました。

その後はフラカンの「最後の夏」、そしてスピッツの「野生のポルカ」とお互いの曲を交互に披露。曲の合間にMCが入るのですが、草野マサムネの方が先輩ということで鈴木圭介が妙に恐縮していました(笑)。さらに「野生のポルカ」の後は地元ネタということでスガキヤの話も。この日はバックステージのケータリングでスガキヤが提供されたとか。またスピッツがフランスでジャケットの写真を撮影した時、なぜか街中でスガキヤのカップラーメンを売っていた話などで盛り上がります。マサムネもそんなにたくさん話すタイプではないし、鈴木圭介も先輩の前で恐縮していたのに、「お互い50歳を過ぎちゃうと、なぜか話が長くなったうんだよね」となぜかタラタラとMCが続きます(笑)。で、終電になってしまう人もいるから、ということで「スピッツにないナンバーを」(byマサムネ)と「恋をしましょう」へ。確かにスピッツにはないハードなナンバーで、ラップ気味のハイテンポな歌詞を歌う草野マサムネという貴重なカバーを聴くことができました。

そして、曲が終わると、スペシャルゲストということで、なんと!スガキヤのキャラクター、スーちゃんが登場!そっか、スガキヤの話をしていたのは、この前振りなのか(笑)。意外なゲストに、この日一番ではないか?というほどの大歓声が上がりました(ちなみに大きなビニール製の着ぐるみの人形ですよ、念のため)。そしてこの日最後は、「フラカンの曲でもスピッツの曲でもない曲を」ということでなぜかCHAGE&ASKAの大ヒット曲「YAH YAH YAH」へ。いや、なぜフラカンのイベントでチャゲアス???と思いつつも、この曲で盛り上がらないのは嘘でしょ、といった感じで会場は大盛り上がり。観客も私と同じくらいのアラフォー世代がメインなので、この曲はちょうど世代的にピッタリなんでしょうね。フラカンとスピッツによる「YAH YAH YAH」のカバーという貴重なステージを堪能しつつ、このアンコール(というより第三部)は約45分、9時15分頃にライブは幕を下ろしました。

最初、フラカンのステージが1時間弱で終わった時は予想よりもかなり早いな、と思ったのですが、結果としてアンコール、というよりも最後のジョイントのステージも含めて事実上、3部構成のようなライブとなっており、スピッツの演奏も前座的なライブのゲストという感じではなく、フラカンと同様にお腹いっぱい楽しむことが出来ました。

久しぶりにフラカンのステージを見たのですが、やはり迫力満点のステージは非常にカッコよく、センチュリーホールのような大きめな会場もいいのですが、ライブ会場も似合いそうなそんな印象も強く受けました。またライブバンドとしても非常に魅力的なバンドであることを再認識しました。スピッツももちろん、すばらしいメロの曲にあらためて聴きほれつつ、ロックバンドとしての骨太さも感じられたステージ。スピッツのライブも2011年に見たワンマンライブ以来久しぶりだったのですが、やはりスピッツのライブはいいなぁ、とあらためて感じたステージでした。

そんな訳で、フラカンとスピッツという2組のバンドが同時に見れる非常にお得感の強いライブイベント。最初から最後までとても楽しむことが出来ました。どちらもちょっと久々となってしまいましたが、またもうちょっと間をあけずに彼らのステージを見てみたいなぁ。とても楽しめた3時間弱のイベントでした。

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2019年10月12日 (土)

エレクトロサウンドを取り入れた明るいポップアルバム

Title:Lover
Musician:Taylor Swift

世界的に高い人気を誇るポップミュージシャン、Taylor Swiftの約1年9ヶ月ぶりとなるニューアルバム。アメリカのビルボードチャートでもイギリスのナショナルチャートでも当然のように1位を獲得。日本でもアルバムチャートでベスト3に食い込むなど、世界的に高い人気を今回のアルバムでも見せつけています。

Taylor Swiftといえば、もともとはカントリーミュージシャンとしてその名を広めたミュージシャン。デビュー当初はアコースティックで言うまでもなくカントリー色の強いポップスを奏でてきました。しかし徐々にカントリー色が薄まりポップ色が強くなり、特に前作ではエレクトロサウンドを全面的に取り入れたアルバムとなってきました。

そもそもカントリーといえばアメリカ国内のみで熱烈な支持を受ける地域性が強くかつ保守的というイメージも強い音楽。もともとデビュー当初から彼女の音楽はアメリカ国内の人気に留まらないようなポピュラリティーを持った曲だったのですが、世界で人気を広げた結果、カントリーという枠組みに捕らわれない、世界を視野に入れたポップスを歌い出した、ということなのでしょう。

今回のアルバムでも前作と同様、エレクトロサウンドを取り入れたポップな曲調が特徴的。ただ、比較的暗めの作風の曲が多く、結果としてインパクトが薄かった前作に比べるとピンクを基調としたジャケット写真からもわかるように明るい雰囲気の曲調の多くなった本作では、楽曲のインパクトもグッと増したように感じます。「I Think He Knows」のような明るく軽快なエレクトロポップや「London Boy」のようなキラキラしたアレンジがかわいらしい雰囲気すら感じるポップチューンが並びます。

そんなポップミュージックには正直言うと目新しさはほとんどありません。今時のミュージシャンにありがちな、例えば今風のベースミュージックの要素を入れてくるとか、トラップ風のリズムを入れてくるとか、そういう部分は皆無。エレクトロサウンドといってもちょっと懐かしさすら感じるようなサウンドが特徴的で、良くも悪くも安心して聴けるポップチューンに。また、だからこそ幅広く人気を確保しているのでしょう。

もっとも一方では「Cornelia Street」のようにR&B的な要素を感じさせる伸びやかなポップチューンがあったり、ムーディーに歌う「False God」のような曲もあったりとバラエティー豊富でリスナーを最後まで飽きさせません。またカントリーミュージシャンであるDixie Chicksも参加した「Soon You'll Get Better」は初期の彼女を彷彿とさせるようなカントリーバラードとなっており、決して彼女がカントリーを捨てた訳ではないことを感じられます。この音楽的なバリエーションの豊富さも彼女の人気の秘訣なのでしょう。

日本でも高い人気を誇るミュージシャンなのですが、それも納得の、いい意味で万人が楽しめる良質なポップアルバムに仕上がっていました。ちょっと地味目だった前作と比べるとアルバムのインパクトも増してエレクトロサウンドもいい感じで彼女のスタイルになじんできているように感じます。すっかり世界的なシンガーとなった彼女。その人気はまだまだ続きそうです。

評価:★★★★

TAYLOR SWIFT 過去の作品
FEARLESS
RED
1989
REPUTATION

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2019年10月11日 (金)

奥深き、阿波踊りの世界

ここでも毎作紹介している、久保田真琴プロデュースにより阿波踊りを「音楽」として収録しアルバムとしてリリースしているぞめきシリーズ。先日、その第7弾と第8弾が同時にリリースされました。

Title:ぞめき七 徳島阿波おどり 純情派

まず第7弾はいつも通りの「ぞめき」シリーズ。「躍動するリズムと瑞々しいメロディーで、清らかな響きを感じさせる徳島の6連を収録」という紹介をされています。いままでの「ぞめき」の作品でも躍動するリズムを感じられたので、今回の作品が本当にそこまでこのテーマ性に沿ったものなのかどうかは微妙なのですが、今回収録されている6組についてはいずれも同じ阿波踊りといってもそれぞれの個性を感じられる魅力的な録音が並んでいました。

個人的にこの6組の中でも気に入ったのが「本家大名連」。強いビートを前に押し出した演奏と、そこに重なる鐘を強く打つ音色がインパクトある演奏で、CDの解説文にも「ファンキー」という表現をされていましたが、まさにそんな印象を受ける独特のビート感が癖になりそうな演奏となっています。

ほかにも冒頭の「葉月連」は軽快なリズムが特徴的で、今回の「ぞめき七」のテーマ、「躍動するリズムと瑞々しいメロディー、清らかな響き」というイメージがピッタリくる演奏。「殿様連」は全体的にちょっとしっとりとした雰囲気。「やっこ連」はハイテンポなビートで疾走感あるリズムが印象的。「藝茶連」はエッジの効いたタイトなリズムが印象的で、演奏からも迫力を感じさせます。そしてラストを締めくくる「無作連」はある意味王道的なイメージ。シンプルなサウンドながらも力強さを感じさせる躍動感あふれる演奏が大きな魅力となっています。

今回の録音は、いままで行ってきた公民館や体育館でのレコーディングと異なり、四国大学音楽科のスタジオを利用して録音されたとか。そのため久保田本人も「今までで一番音の分離がよくてクリアだと思う」と語っているようですが、確かに素人の耳で聴いてもいままでの作品に比べると、より音像がはっきりした形で耳に飛び込んできており、演奏のリアリティーが増しているように感じました。個人的に今回の「ぞめき七」、最高傑作に近い出来栄えにも感じられたのですが、それは今回のこの録音状態の良さに起因する点が大きいようにも感じました。

しかしそれにしても今回で第7弾となる「ぞめき」ですが、いまだにこれだけの演奏を収録できるとは、その奥の深さにあらためて感心させられます。特にこういうビートミュージックが日本の民俗芸能として古くから存在しているという事実にまた、うれしくなってしまいます。このシリーズ、毎作チェックしているのですが、今後の展開も楽しみです。

評価:★★★★★

Title:ぞめき八 Re-mixes Stupendous!

で、その「ぞめき」シリーズ第8弾はリミックス作品。デンマーク在住のコンゴ人とポーランド人のハーフのプロデューサーでDJのMooLatteやブラジル北東部のパライバ州出身のChico Correaなど久保田麻琴本人がセレクトしたリミキサーによるリミックス。その人選からもわかるように、ワールドワイドな人選を行っており、ほかにもイスラエル、カメルーン、ウクライナなどのミュージシャンが参加。また日本からも、水曜日のカンパネラとの仕事で話題となったオオルタイチもリミキサーとして参加しています。

それぞれが阿波踊りのビートを独自の解釈で行っているリミックスは非常にユニーク。Chico Correaによる「Zomeki no.61"Paraiba Dub"」やイスラエル出身のサーフロックバンドBoom Pamのリーダー、Uriによる「Zomeki no.65 "Jaffa Strut"」などダブを取り入れたリミックスが目立つのですが、一方ではウクライナ人マルチ楽器奏者のOMFOによる「Zomeki no.63 "Obake Odori"」のように和太鼓や琴の音色を取り入れて、あえて「日本風」を強調したようなリミックスやWho?Me?とカメルーン人ラッパーValのユニット、Ambient Chameleonによる「Zomeki no.64 "Awa Gnawa"」のようにHIP HOP的なサウンドを取り入れたもの。さらには映画音楽やアニメ音楽で活躍する石川智久のユニット、TECHNOBOYS PULCRAFT GREENFUNDによる「Zomeki no.66 "Mayuzuki goes to Bollywood"」のような、阿波踊りの鐘のビートをトランシーに取り入れたリミックスなどユニークなリミックスが並びます。

そんな訳で、個々のリミックスについてはバラエティーに富んでおり、阿波踊りのビート感を上手く取り入れた良作が並んでいます。しかし、例えば「ぞめき七」と比べてしまうと、リミックスで原曲に付加したリミックスのアレンジはどうしても蛇足に感じてしまいます。エッジの効いた躍動感あるリズムという阿波踊りの大きな魅力がリミックスにするとどうも薄れてしまっているような感もあり、リミックス作品単体としては優れているように感じたのですが、阿波踊りの魅力を感じるには、やはり何もアレンジを加えない元の演奏の方がよいのでは?と強く感じてしまいました。

阿波踊りをリミックスするという試みは非常に面白いとは思うのですが、正直言って、それで魅力が増しているか、と言われるとかなり疑問を感じてしまう作品。まあ、こういうのもありかもしれないけどね、という消極的な評価になってしまいます。ミュージシャンとしてこういう試みをしてみたくなることはわかるような気もするのですが・・・。

評価:★★★★


ほかに聴いたアルバム

Never Grow Up/ちゃんみな

「練馬のビヨンセ」という愛称を持つ女性ラッパーの2枚目となるアルバム。トラップなど今風のHIP HOPの要素を取り入れつつ、歌モノの要素も非常に強いアルバム。ただ、全体的にHIP HOPというよりもR&Bの色合いが強かった前作に比べるとHIP HOP寄りにシフトした感の強いアルバムに。全体的にダウナーな雰囲気の作風になっているのですが、

「正直 1人で生きていける
だから可愛げがなさすぎる
この国はそんな子は
モテない呪いがあるんだ」
(「Can U Love Me」より 作詞 ちゃんみな、Marlon"Chordz"Barrow)

といった男性社会を皮肉った歌詞にドキリとさせられるような部分も。女性の本音を赤裸々に切り取った歌詞が特徴的なのですが、こういう男性陣をドキリとさせるような攻撃的な歌詞がもっと増えればインパクトもさらに増しておもしろいと思うのですが。

評価:★★★★

ちゃんみな 過去の作品
CHOCOLATE

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2019年10月10日 (木)

人気上昇中のロックバンドが見事1位獲得

今週のHot Albums

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

タイトル通り、見事1位獲得です。

今週1位を獲得したのはMrs.GREEN APPLE「Attitude」。これが4枚目のアルバムとなる人気上昇中の5人組ロックバンド。CD販売数は3位、PCによるCD読取数は10位でしたが、ダウンロード数が1位を獲得し、総合順位でも1位を獲得しました。オリコン週間アルバムランキングでは初動売上2万6千枚で4位初登場。前作「ENSEMBLE」の1万5千枚(3位)からアップ。順位こそダウンしてしまいましたが、初動売上は大幅にアップしており、その人気ぶりをうかがわせる結果となっています。

一方2位はベテランバンドGLAY「NO DEMOCRACY」がランクイン。デビュー25周年を記念してリリースされた約2年3ヶ月ぶりのオリジナルアルバム。CD販売数はこちらは1位を獲得したものの、ダウンロード数4位、PCによるCD読取数は7位に留まり、総合順位でも惜しくも2位に留まりました。オリコンでは初動売上3万9千枚で2位初登場。直近作は過去作のリアスタリング盤「HEAVY GAUGE Anthology」の5千枚(8位)から大きくアップ。ただしオリジナルアルバムとしては前作「SUMMERDELICS」の5万2千枚(1位)からはダウンしています。

3位初登場は神宮寺レン(諏訪部順一 )「うたの☆プリンスさまっ♪ソロベストアルバム 神宮寺レン『Rose Rose Romance』」。CD販売数は2位でしたが、PCによるCD販売数15位で総合順位はこの位置に留まりました。オリコンでは初動売上3万枚で3位初登場。同シリーズでは前作、一ノ瀬トキヤ(宮野真守)「うたの☆プリンスさまっ♪ソロベストアルバム一ノ瀬トキヤ『Target is you!』」の3万3千枚(3位)からダウン。

続いて4位以下の初登場盤です。まず4位に虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 「Love U my friends」がランクイン。アニメキャラによるアイドルプロジェクト「ラブライブ!」の一環である「ラブライブ! スクールアイドルフェスティバル」に登場するキャラクターによるキャラソン。CD販売数4位、ダウンロード数10位、PCによるCD読取数14位で、総合順位は4位獲得。オリコンでは初動売上2万枚で5位初登場。前作「TOKIMEKI Runners」の2万2千枚(5位)からダウン。

5位には韓国の男性アイドルグループSuperMのデビューアルバム「SuperM」がランクイン。テミン(SHINee)、ベクヒョン、カイ(EXO)、NCTよりテヨン、マーク(NCT 127)、ルーカス、テン(WayV)というメンバーで構成されているスーパーグループで本作が全世界デビュー作。国内盤のリリースがないためダウンロード数のみ2位にランクインして総合順位でもベスト10入りです。

6位初登場はハロプロ系のアイドルグループこぶしファクトリー「辛夷第二幕」。「辛夷」はこれで「こぶし」と読むそうです。CD販売数6位、ダウンロード数8位、PCによるCD読取数54位。オリコンでは初動売上1万4千枚で7位初登場。前作「辛夷其ノ壱」の9千枚(11位)からダウン。

7位にはユニコーン「UC100W」がランクイン。今年は「ユニコーン再結成10周年」、現メンバー体制となった「アルバム『服部』から30周年」、「ドラム川西幸一還暦、つまり60周年」で合わせて100年ということで、「ユニコーン100周年」を掲げている彼らの、今年2年目となるオリジナルアルバム。CD販売数5位、ダウンロード数29位、PCによるCD読取数23位。オリコンでは初動売上1万3千枚で8位初登場。前作「UC100V」の1万8千枚(5位)からダウン。

8位初登場はNissy(西島隆弘)「Nissy Entertainment 5th Anniversary (BEST DOME TOUR at TOKYO DOME 2019.4.25)」。AAAのメンバーのNissyこと西島隆弘のタイトル通り、4月に東京ドームで行われたライブ音源が配信リリース。ダウンロード数で3位にランクイン。配信オンリーながらもベスト10入りしてきました。

初登場最後は10位に人気女性声優の内田真礼「you are here」がランクイン。全6曲入りのミニアルバム。CD販売数7位、ダウンロード数19位、PCによるCD読取数30位。オリコンでは初動売上1万枚で9位初登場。前作「Magic Hour」の1万3千枚(7位)からダウンしています。

今週はベスト10のうち9作まで初登場という新譜ラッシュとなりました。その影響もありロングヒット中だった嵐のベスト盤「5×20 All the BEST!! 1999-2019」は13位までダウン。ベスト10ヒットは連続14週で残念ながら一度、幕引きとなりました。

今週のHot Albumsは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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2019年10月 9日 (水)

今週も強い3組のミュージシャン

今週のHot100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

まずAKB系の女性アイドルグループが1位獲得です。

まず1位を獲得したのは日向坂46「こんなに好きになっちゃっていいの?」がランクイン。相変わらずの清純派路線の王道的なアイドルポップスに仕上げています。CD販売数1位、ダウンロード数5位、PCによるCD読取数2位、Twitterつぶやき数4位。一方、ストリーミング数は41位、ラジオオンエア数は34位に留まっています。オリコン週間シングルランキングでも初動売上47万6千枚で1位獲得。前作「ドレミソラシド」の44万8千枚(1位)からアップしています。

さて、2位以下は今週もまた、圧倒的な強さを見せている3組のミュージシャン、Official髭男dism、米津玄師、あいみょんがズラリと並んでいます。まずはOfficial髭男dism。2位に「Pretender」がまずランクイン。先週よりワンランクアップ。今週もストリーミング数で1位を獲得したほか、You Tube再生回数でもついに初となる1位を獲得しています。他にも今週は「イエスタデイ」が先週と変わらず5位をキープ。「宿命」も6位をキープと今週も3作同時ランクインとなっています。さらにストリーミング数では今週も2位「イエスタデイ」、3位「宿命」とベスト3を独占。まだまだヒゲダン旋風は続きそうです。

3位は米津玄師「馬と鹿」がワンランクダウンながらもベスト3をキープ。これで8週連続のベスト10ヒットとなり、「Lemon」はさすがに今週も14位にとどまっており、ここまで感が強いのですが、それに代わり、新たなロングヒット作となりそうです。ちなみにFoorin「パプリカ」は今週13位にダウン。ただ、こちらはまだまだ返り咲きも期待できそう。

そしてあいみょん「空の青さを知る人よ」が先週の15位から一気に4位にアップし、ベスト10に返り咲いています。これは今週、CDがリリースされてCD販売数がランキングに加味された影響。ただし、CD販売数は9位に留まっており、相変わらずストリーミングやダウンロードではヒットするのにCDはさっぱり売れない、という状況が続いています。ただ本作はラジオオンエア数で見事1位を獲得したものの、ダウンロード数及びストリーミング数も9位、You Tube再生回数も7位に留まっており、ロングヒットはちょっと厳しいか?オリコンでは初動売上7千枚で7位初登場。前作「真夏の夜の匂いがする」(18位)から横バイ。

なお、あいみょんは今週、「マリーゴールド」も先週から変わらず9位をキープし、ベスト10入りを続けています。こちらはまだストリーミング数及びYou Tube再生回数で5位を記録しており、まだまだヒットは続きそうです。

さて、そのほかの初登場曲です。まず7位に香取慎吾「10%」がランクイン。ご存じの通り、先日10月1日に消費税が10%にアップしましたが、それにちなんで10月1日に突然配信でリリースされたソロシングル。ただ、増税のネガティブなイメージとはあえて反するような軽快でダンサナブルなファンクチューンに仕上がっています。ダウンロード数3位、ラジオオンエア数27位、Twitterつぶやき数で2位を獲得し、配信オンリーながらも見事ベスト10入りです。

8位には男性声優によるラッププロジェクト、ヒブノシスマイクよりDivision All Stars「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle- +」が先週11位からランクアップし、2週目にしてベスト10入り。ストリーミング数38位、Twitterつぶやき数12位、You Tube再生回数15位ながらもダウンロード数で2位を獲得し、こちらも配信オンリーながらも見事ベスト10入りです。

初登場組最後は10位にTHE RAMPAGE from EXILE TRIBE「SWAG&PRIDE」が先週の88位からCD販売にあわせてランクアップしベスト10入り。EXILEの弟分的なボーカルグループで、楽曲的にはよりワイルドな雰囲気を売りとしている模様。CD販売数は2位だったのですが、ダウンロード数及びTwitterつぶやき数40位、ストリーミング数80位、ラジオオンエア数及びPCによるCD読取数14位と軒並みふるわず、総合順位ではギリギリのベスト10入りとなりました。オリコンでは初動売上3万3千枚で2位初登場。前作「WELCOME 2 PARADISE」の5万7千枚(3位)からダウン。初動売上ダウンは10月30日リリース予定のアルバムからの先行シングルであることが影響している模様。

今週のHot100は以上。明日はHot Albums!

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2019年10月 8日 (火)

話題のラッパーのデビュー作

Title:So Much Fun
Musician:Young Thug

ここ数年来、HIP HOPシーンを席巻しているトラップというムーブメント。ちょっと前までは「新しいジャンル」として注目され、メディアにもよく取り上げられていましたが、ここ最近ではあまりそのような形で取り上げられることが少なくなったような感じもします。ただ、それはブームとして収束した・・・という話ではなく、むしろここ最近は様々なミュージシャンがトラップの要素(特にハイハットの連続音に特徴づけられる独特のリズム)を取り入れることにより、トラップというジャンルがわざわざ新しいムーブメントとして取り上げる必要のないような、音楽シーンの中で根付いたジャンルになりつつあるように感じます。

個人的には正直言って、あまりトラップというジャンルにピンと来ることがなく、積極的に聴くようなことはあまりありませんでした。もちろん毛嫌いしていた、とかいう話ではなく、例えば日本でトラップを取り入れた第一人者であるゆるふわギャングなどは好んで聴いていましたし、ミュージシャン単位では好き嫌いがあったのですが、それも特にトラップというジャンルが気に入っていた訳ではありませんでした。ただ、ここ最近、耳が慣れてきたのか、あの独特のリズムに妙な中毒性を感じるようになってしまっていました。

今回紹介するYoung Thugというミュージシャンも、そんなトラップシーンを代表するラッパーの一人。奇抜なファッションも話題となったり、同じくトラップシーンの代表格のラッパー、Futureと喧嘩したニュースも話題となったそうです。ただ、Futureとは後に和解。本作でもFutureが参加したトラック「Sup Mate」が収録されています。本作はそんな話題のラッパーによるスタジオアルバムとしてはデビュー作(いままではミックステープという形態でのみのリリースだったので)。ただ、高い注目を集め、ビルボードチャートでは見事1位を獲得しています。

楽曲的にはもちろんトラップをベースとしたサウンドが大きな特徴。トラップの特徴であるハイハットを多用した高音の細かいリズムで、軽快でリズミカルなサウンドが終始流れており、大きなインパクトとなっています。ただ、そんな特徴以上に大きく印象に残ったのが、トラップをベースにしつつ、非常にメロディアスでポップなメロが流れているという点。1曲目「Just How It Is」から物悲しげなメロディーラインが前に出ている楽曲になっていますし、「Surf」もラップがメインながらもしっかりとしたメロディーラインが流れています。「What's The Move」も鳥の声をサンプリングして爽やかさを感じるメロディーが流れていますし、「I'm Scared」もトラップのリズムの中で爽快なエレクトロサウンドが流れ、ポップでメロディアスな作風の曲に仕上がっています。

楽曲のバリエーションとしてもちょっとコミカルさを感じる「Jumped Out The Window」やメタリック感のある歪んだサウンドが不気味に鳴り響く「Pussy」などバラエティー豊富。最後はJ.ColeとTravis Scottという豪華な面子がゲストで参加している「The London」というリズミカルなトラップチューンで締めくくっています。

意外と人懐っこさすら感じるメロディーラインに、1時間2分という長さながらも19曲入りで1曲あたり3分程度の短さというテンポの良さ、さらには楽曲のバリエーションという要素も重なり、いい意味でポップで聴きやすい内容となっており、ビルボードチャート1位という人気も納得の内容。また、ポップで耳馴染みやすい作風だからこそ、そんな中で流れているトリップのリズムの中毒性に知らず知らずにはまっているようなアルバムにも感じました。ま、正直、トラップのリズムがあふれている現状だからこそ、その状況が今後どれだけ続いていくかは非常に微妙なのですが、そんなことはさておき、純粋に優れたHIP HOPのアルバムとして楽しめる傑作アルバムだったと思います。HIP HOPに興味ある方はもちろん、そうでなくても意外と楽しめるかも?

評価:★★★★★

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2019年10月 7日 (月)

歌は世につれ

今日はまた、最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。

今回読んだのは芸能ライターのとみさわ昭仁による「レコード越しの戦後史」という一冊。戦後に生じた様々な出来事を、それに関連して発売された歌謡曲とリンクさせて紹介して戦後史を概観しようと試みた一冊です。

「歌は世につれ世は歌につれ」というのは歌謡曲を語る際によく言及される言葉ですが、この本で紹介されている曲はまさに「歌は世につれ」を体現化している曲がいろいろと紹介されています。もっとも必ずしもヒットしたり話題となった曲ばかりではなく、便乗商法的に売り出された曲やほとんど流通しなかったような「知る人ぞ知る」曲も含まれているため、重箱の隅をつつくような選曲も少なくないのですが、ただ、パンダが日本にやって来た時は本書曰く「100種類以上」のパンダに関連するレコードがリリースされたり、ほかにも80年代に都市伝説として一躍話題となった口裂け女にちなんだレコードが存在していたり、アポロ11号の月面着陸にちなんで「月の世界でランデブー」(椿まみ)、「静かの海のブルース」(宝田明)なんて歌謡曲がリリースされたりと、ある種の節操のなさに歌謡曲のしたたかさを感じてしまいます。

最近では良くも悪くもこの手の便乗歌がグッと減ってしまったような感じがします。もっとも最大の理由がそもそもCDが売れなくなってしまい、世の中の出来事に便乗した曲を作ったとしてもお金儲けが出来なくなってしまったから、という理由が大きいのでしょう。まあ、安直な便乗ソングには閉口することも少なくはないのですが、そういう曲が少なくなってしまうことには寂しさも感じられます。もっとも、以前よりも少なくなったとはいえ、世の流行に便乗する曲の存在がなくなることはなく、今回、この記事を書くにあたっていろいろと調べてみたところ、タピオカブームに乗った↓みたいな曲をみつけてしまいました。ちなみに歌っている方を含めて全くの初耳です。

またこの本でひとつ興味深かったのが、「あとがき」の記載。この本に美空ひばりの曲が1曲も紹介されていない、という点でした。「あとがき」で著者曰く「彼女の300曲を超えるシングル盤には、本書の企画趣旨に合う曲がなかった」という記載があるのですが、安直に世の中のトピックに便乗した曲を作らなかった、というのはおそらく彼女の矜持なのでしょう。いまほど「国民的歌手」として評価が定着していなかった活動初期の頃から、そのような曲を作っていなかったという点にも彼女の高い志も感じますし、安直に時代に便乗した曲を作らなかったからこそ、逆に多くの人に愛される曲を歌い続けることが出来た、ということもあるのかもしれません。

そんな訳で、なかなか興味深く楽しみながら読むことの出来た一冊ではあるのですが、率直に言って、読み終わった後の感想としては中途半端なものを感じてしまいました。本の構成としては、戦後史の出来事を主軸として、それに関連する歌を紹介する流れとなっています。確かにトピックによっては歌謡曲と上手くリンクさせて記述できたような項目もあるのですが、ただ単に戦後史の出来事を記述したあと、欄外のトピック的に関連する歌謡曲を紹介するだけで終わっている項目も少なくありません。かと思えば、あくまでも関連する歌謡曲が発売されていることを前提としているため、戦後史の重要な出来事であっても関連する歌謡曲がない場合は全く言及されることはありません。個人的には、歌をまず紹介した上で、それに関連する戦後史のトピックを紹介するような構成の方が本のテーマがより明確になってよかったような感じがします。この構成だと、戦後史の紹介としても戦後史と歌謡曲のリンクという意味でも中途半端な印象が強く残ってしまったのが残念に感じました。

エッセイ的にそれなりに楽しめた本ではあるものの、もうちょっと時代と歌謡曲のリンクの在り方についてはつっこんでほしかったように感じます。2,000円近い値段の本としてはちょっと物足りなかったかなぁ。雑誌などの一コーナーとしてなら興味深くおもしろい内容であったとは思うのですが・・・。

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2019年10月 6日 (日)

奇跡の復活ライブ

TOUR「NUMBER GIRL」

会場 名古屋ダイアモンドホール 日時 2019年9月27日(金)19:00~

1995年に福岡市博多区にて結成。1999年にシングル「透明少女」でメジャーデビュー後、瞬く間に絶大な支持を集めたNUMBER GIRL。結果としてメジャーデビュー後わずか3年の活動の後に解散したものの、いまだに多くのロックバンドへ影響を与え、今や「伝説のバンド」の感も強くなった彼らですが、なんと解散から15年を経て今年、奇跡の再結成。チケットはかなりの争奪戦となったようですが、無事チケットを確保。NUMBER GIRLの復活第1弾ライブに足を運んできました。

Numbergirllive

個人的にNUMBER GIRLはかなり思い入れの深いバンドで、デビュー直後に当サイトに遊びに来てくださっている方から薦められてライブを見に行き、その後もコンスタントに足を運び、何度もそのライブを見てきました。今回のライブは、東京でのラストライブとなった2002年のZepp Tokyoでのライブ以来、約17年ぶり(!)となるステージ。ほぼ定刻通りの19時に、Televisonの「Marquee Moon」にのってメンバーが登場しましたが、この4人が再び同じステージに立つなんて・・・と感慨深いものがありました。

大歓声の中スタートした1曲目は「鉄風 鋭くなって」からスタート。その音が奏でられた瞬間から「あぁ、ナンバガの音だ・・・」と唯一無二のサウンドに感動し、懐かしさも感じると共に、17年ぶりにも関わらずバンドとして一体感のある迫力ある演奏に驚きもしました。さらにアヒト・イナザワの「1、2」という掛け声にうれしさを感じつつ2曲目は「タッチ」。これも個人的にかなり聴きたかったナンバーなだけにはじまった瞬間、思わず歓声を上げてしまいました。

さらに「ZEGEN VS UNDERCOVER」に「IGGY POP FUNCLUB」とライブの定番曲が続きます。そしてここでようやく向井秀徳のMC。「ナゴヤシティー!」という掛け声が第一声。そしておなじみの「福岡市博多区からやってきましたNUMBER GIRLです」という自己紹介に胸が熱くなりつつ「裸足の季節」へ。その後は曲の前に曲のタイトルにちなんだ向井秀徳の口上が入り、これまた彼らの代表曲「透明少女」へ。さらに「そんなあの子は17歳」というおなじみの口上から「YOUNG GIRL SEVENTEEN SEXUALLY KNOWING」と続きます。さらに「今日の良き日に…」という口上からスタートしたのは「NUM-AMI-DABUTZ」!以前と何ら変わりのないエッジの効いた演奏にテンションも上がっていきます。

その後も「SENTIMENTAL GIRL'S VIOLENT JOKE」「DESTRUCTION BABY」さらには向井秀徳の「漫画の歌」という簡単な紹介からスタートした「MANGA SICK」、「SASU-YOU」と続いていきます。さらに「U-REI」では以前のライブバージョンに比べるとかなり激しいギターノイズを前に押し出したサウンドに。「TATOOあり」の出だしの歌も、以前に比べるとかなり哀愁感の増した向井秀徳の歌を聴かせてくれます。

ここでまさかの「水色革命」。以前のライブでもあまり聴いた記憶はなく、再初期のナンバーなだけに他の曲と比べて爽やかでポップな作風のナンバーがここで演奏されるのはかなり意外な印象が。さらに「もはや日常か非日常かわからなくなった私に捧げます」という口上に軽い笑いも起きつつ「日常に生きる少女」へと続いていきます。

そして、「ナゴヤシティー!また来ます」という短いMCから「福岡市博多区からやってまいりましたNUMBER GIRLです。ドラムス、アヒト・イナザワ」というおなじみの口上からアヒトのドラム、そしてそして、待ってました!「omoide in my head」へ!これにはテンションが上がりまくり。この曲は以前のライブでは最後の曲としておなじみだっただけに、これでラストか?と思いきや、最後にもう1曲「I don't know」でシャウト、そしてすさまじい轟音を聴かせつつ、本編は幕を閉じます。

以前から必ずしもアンコールのあるバンドではなかっただけに、どうなるのかなぁ、と思っていたのですが会場は明るくならず、やがてメンバー4人が再登場。これまた意外性ある選曲だった「大あたりの季節」から、なぜかこの日2回目の「水色革命」へ。なぜ2回目?1回目の出来に納得がいかなかったのかなぁ・・・とちょっと訝しく感じてしまいました。ただ演奏は2回とも素晴らしいと思ったのですが・・・。

最後は「TRAMPOLINE GIRL」から、再び「福岡市博多区からやってまいりましたNUMBER GIRLです。ドラムス、アヒト・イナザワ」からラストとしては定番中の定番の「omoide in my head」をこの日2回目。こちらもかなり意外だったのですが、こちらは他のライブでも2回演ったようで、素直にファンサービスでしょうか?もちろん会場のテンションは最高潮のまま終了。最後は簡単なメンバー紹介から「また会いましょう」といううれしい一言があった上で、これまたおなじみの「乾杯」の、実に向井秀徳らしい締めセリフで終了しました。

そんな訳で全編2時間弱。おなじみのナンバーの連続で、17年前に戻ったのかのような胸の熱くなってくるステージでした。特にステージ上の演奏はいい意味で昔と変わっていないテンションと切れの鋭さ、そして迫力を感じさせ、久しぶりというのが信じられないくらいの素晴らしいステージを見せてくれました。

ただ一方では以前から変化を感じるような部分も少なくなく、特に向井秀徳のボーカル。「IGGY POP FAN CLUB」や「TATOOあり」では感情のこもった歌声が強い印象に残ります。ただただシャウトするだけだった以前と比べるとボーカリストとしての深みを感じさせるステージで、以前よりも彼の歌声に強いインパクトを感じます。それだけ彼が年齢と経験を重ねて味が出てきたということでしょうか。この彼のボーカリストとしての「進化」が大きく印象に残りました。

さらに強い印象に残った曲が「日常に生きる少女」。こちらはイントロと途中にこれでもかというほどのギターノイズを展開する迫力ある轟音を披露。かと思えば向井秀徳の歌を前面に押し出したような部分もあったりと、緩急つけたバンドサウンドも印象的。以前と比べるといい意味での複雑さが増したナンバーへの進化を遂げていました。ほかにも「YOUNG GIRL SEVENTEEN SEXUALLY KNOWING」が以前に比べるとちょっとゆっくり目の演奏となり17歳の少女の感情をより伝えようとする演奏になっていたりと、以前と比べるとより味わい深さを感じさせるステージになっていたように感じます。

また、ステージ全体としては最初から最後までテンションがはりつめたようなステージでした。観客からの呼びかけにも基本的に応じることもなく、メンバー間のやり取りもなし。MCも基本的にお決まりの口上だけ。おそらく昔からのファンによる「お互い歳を取ったな!」という掛け声にも向井秀徳本人は応じることなく、中尾憲太郎がちょっと苦笑いをした程度(笑)。ただ、逆にこの日のステージ全体が彼らにとって練りこんで作り込まれた一種の芸術作品の完成品にすら感じてしまいました。さらにある種の馴れ合いを排じたステージだけに最初から最後まで一切テンションが切れることのなく、バンドとしての一体感を強く感じさせるステージになっていたように思います。

そんな訳で17年のブランクを一切感じさせない…どころか、ここに来てバンドとしての進化すら感じさせるようなステージになっていました。個人的な思い入れもあって、非常に懐かしさに胸が熱くなってくるライブだったのですが、そんな感情を抜きとしてもすさまじいステージだったと思います。これはまたナンバガのライブに何度も足を運ばないといけないですね!今後は再びコンスタントに活動を続けて行くのでしょうか?若干、このテンションを今後も維持していくのは大変そうだなぁ、と感じる部分もあるのですが、これからの彼らの活動に期待したいところです。いや、すさまじいステージでした。

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2019年10月 5日 (土)

ダイナマイトボディが繰り出すパワフルなボーカル

Title:Cuz I Love You
Musician:Lizzo

そのふくよかな身体を惜しむことなくさらけ出しているジャケット写真が大きなインパクトを受ける本作は、今、注目を集めている女性シンガー/ラッパー、Lizzoのニューアルバム。本作はアメリカのビルボードチャートで4位を獲得し、一気にブレイクしています。また、このジャケット写真が典型的ですが、自分のありのままの体型を受け入れて愛そう、というボディポジティブムーブメントの象徴的なミュージシャンとしても注目を集めているようで、今回のジャケット写真もそんな彼女の考えを象徴したものと言えるのでしょう。

そんな彼女の最大の魅力は、そのダイナマイトボディからも想像できるようなパワフルなボーカル。今回のアルバムでも1曲目の「Cuz I Love You」はまさに本作を代表するようなナンバーで、分厚いサウンドをダイナミックに聴かせつつ、そんなサウンドに負けていない・・・というよりも彼女のボーカルを支えるにはそれだけ力強いアレンジが必要となるんだろうなぁ、ということを感じてしまうようなパワフルでソウルフルなボーカルをこれでもかというほど聴かせてくれます。

その後も伸びのあるボーカルを力強く聴かせる「Soulmate」やシャウトを入れつつファンキーに聴かせる「Better In Color」など、そのパワフルなボーカルにまずは耳を奪われます。一方で力押し一辺倒かと思いきや、「Lingerie」ではしんみりと感情を込めたスモーキーな歌声を聴かせてくれたりして、表現力を伴う緩急をつけたボーカルが実に魅力的。ボーカリストとしての実力を存分に感じることができます。

サウンドは「Tempo」のような、今風のトラップの要素を取り込んだような曲もありましたが、全体的にはオーソドックス、というよりも昔ながらである種の懐かしさを感じるサウンドがメインとなっていました。例えば「Juice」は完全に80年代を彷彿とさせるリズミカルなエレクトロチューンですし、「Cry Baby」も分厚いギターサウンドにかけられたエフェクトは、今となってはあまり聴かれないような懐かしいスタイル。「Heaven Help Us」もゴスペル調のサウンドを盛り上げるピアノを入れたサウンドには一昔前の懐かしさを感じます。

トラップなどの最近の楽曲はどちらかというと音数を絞ってシンプルなサウンドが目立ちますが彼女のサウンドメイキングはむしろ逆。音を入れて埋め尽くすようなサウンドメイキングのスタイルは最近の時代の潮流に逆らっているような感もあります。ただ、彼女のそのふくよかな身体から存分に繰り出されるパワフルなボーカルを支えるには、おそらくこのアルバムのような分厚いサウンドの方がピッタリ来るのでしょう。実際、彼女のソウルフルなボーカルは懐かしさを感じるサウンドにピッタリとマッチしているように感じました。

昔ながらのスタイルゆえにどこかベタさも感じる部分もあるのですが、それを含めて懐かしさを感じるサウンドがとても心地よく、そんな中にちょっと入っているトラップの要素がまたちょうどよいスパイスとなった傑作アルバムに仕上がっていました。いい意味で耳なじみあるサウンドが多様されているだけに幅広い層にアピールできそうな彼女の音楽。今後、日本でももっと注目を集めるかもしれませんね。これだけパワフルなボーカルはライブでも聴いてみたいなぁ。これからが楽しみな女性シンガーです。

評価:★★★★★

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