2025年3月15日 (土)

両者の良さを上手く融合

Title:Step Into Paradise -LIVE IN TOKYO-
Musician:矢野顕子×上原ひろみ

ご存じ、日本を代表するシンガーソングライターの一人として数多くの名曲を世に生み出してきた矢野顕子と、同じく日本を代表するジャズピアニストとして、日本のみならず世界を股にかけて活躍を続ける上原ひろみ。もともと2004年にテレビの音楽番組での共演を通じて意気投合。いままで2枚のコラボアルバムをリリースしてきましたが、このたび、その第3弾がリリースされました。今回は2024年9月24日25日の2日間、東京オペラシティコンサートホールにて行われたレコーディングライブの模様を収録したもの。レコーディングライブということで音源リリースを前提としたパフォーマンスながらも、ライブとして臨場感あふれる演奏を聴かせてくれています。

20年にもわたって共演を続けているあたり、二人の相性の良さを感じるのですが、確かにこの演奏を聴いても2人の相性の良さが感じられます。大きな特徴として、2人ともフリーキーな演奏に共通項があります。上原ひろみも、もちろんジャズピアニストとして自由に鍵盤の上を行き来する自由な演奏が特徴的ですし、矢野顕子もまた、ピアノの演奏以上にその歌のスタイルはかなり自由度が高く、これでもかというほどフェイクを取り入れた歌を聴かせてくれています。

ある意味、同じ方向性のミュージシャンなのですが、一方で主戦場は上原ひろみはピアノ、矢野顕子はボーカルということで微妙に異なっているあたり、両者が激突しないで、お互い尊重しつつ曲を作り上げているという点でも相性がいいのでしょう。今回のアルバムでも、1曲目は矢野顕子の「変わるし」のカバーですが、矢野顕子のボーカルと、それと同じくらい主張する上原ひろみのピアノがしっかりとマッチしたコラボらしい曲に仕上がっています。

両者のコラボという意味でピッタリなのがそれに続く「げんこつアイランド」で、前半は、童謡「げんこつ山のたぬきさん」を矢野顕子流のアレンジで歌い上げており、一方、ハービー・ハンコックの「カンタロープ・アイランド」を取り入れ、こちらでは上原ひろみがフリーキーなピアノを力強く聴かせてくれています。ジャズと童謡というユニークな組み合わせもまた、このコラボならでは、といった感じでしょう。

「Just the Two of Us」のカバーもまた魅力的。こちらに関してはメロウな矢野顕子のボーカルも魅力的ですが、それ以上に上原ひろみが力強く美しいピアノプレイを聴かせてくれます。序盤の美しく歌うように聴かせるピアノも印象的ですが、特に後半に行くにつれて徐々に力強くなっていくピアノが印象的。彼女のピアノの魅力を存分に聴かせてくれます。

また終盤の「ラッパとあの娘」も印象的。朝ドラで話題となった笠置シヅ子のカバーで、おそらく朝ドラでの話題を意識した選曲と思います。矢野顕子のボーカルは、笠置シヅ子みたいに力強く歌い上げるタイプではないのですが、軽快にスウィングするそのスタイルは、笠置シヅ子とはまた異なる魅力がありますし、上原ひろみのスウィングするピアノも迫力たっぷり。矢野顕子と上原ひろみ流のカバーも笠置シヅ子に決して負けていません。

今回もまた相性の良さを感じさせる作品になっていましたし、さらにコラボが進むにつれて、より矢野顕子と上原ひろみのそれぞれの良さを上手く引き出したカバーに仕上がて来ているように感じます。今後もこのコラボは数多くの名演奏を聴かせてくれそう。これからの活躍も楽しみです。

評価:★★★★★

矢野顕子 過去の作品
akiko
音楽堂
荒野の呼び声-東京録音-
Get Together~LIVE IN TOKYO~(矢野顕子×上原ひろみ)
矢野顕子、忌野清志郎を歌う
飛ばしていくよ
JAPANESE GIRL - Piano Solo Live 2008 -
さとがえるコンサート(矢野顕子+ TIN PAN)
Welcome to Jupiter
矢野顕子+TIN PAN PARTⅡ さとがえるコンサート
(矢野顕子+ TIN PAN)
矢野山脈
Soft Landing
ラーメンな女たち
矢野顕子×上原ひろみ)
ふたりぼっちで行こう
音楽はおくりもの
君に会いたいんだ、とても
矢野顕子・野口聡一)

上原ひろみ 過去の作品
BEYOUND THE STANDARD(HIROMI'S SONICBLOOM)
Duet(Chick&Hiromi)
VOICE(上原ひろみ featuring Anthony Jackson and Simon Phillips)
MOVE(上原ひろみ featuring Anthony Jackson and Simon Phillips)
Get Together~LIVE IN TOKYO~(矢野顕子×上原ひろみ)
ALIVE(上原ひろみ THE TRIO PROJECT)
SPARK(上原ひろみ THE TRIO PROJECT)
ライヴ・イン・モントリオール(上原ひろみ×エドマール・カスタネーダ)
ラーメンな女たち(矢野顕子×上原ひろみ)
Spectrum
Silver Lining Suite(上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテット)
BLUE GIANT(オリジナル・サウンドトラック)
Sonicwonderland(上原ひろみ Hiromi's Sonicwonderland)


ほかに聴いたアルバム

こんなところに居たのかやっと見つけたよ/クリープハイプ

怖い怖い怖い怖い怖い・・・・・・このアルバムタイトルにジャケットのイラスト、完全にホラーかサスペンスで、主人公(もしくはヒロイン)が、敵から逃げ回り、なんとか物陰に隠れたところに敵がやってきて、敵が言うセリフとその時の「絵」ですよね、完全に。狙ったのかわかりませんが、どう考えてもこのアルバムタイトルとジャケットはホラーだ・・・。

といっても内容的にはいつものクリープハイプ。切なくも、現実を見据えたようなラブソングや、かなり皮肉めいた歌詞を尾崎世界観の一度聴いたら忘れられないハイトーンボイスで聴かせるギターロックというスタイル。良くも悪くもいつものクリープハイプといった感じで、いい意味で安定感はありますし、ちゃんとメロもインパクトを抑えています。ある意味、このジャケットとタイトルも彼ららしいといった感じもしますが。

評価:★★★★

クリープハイプ 過去の作品
吹き零れる程のI、哀、愛
クリープハイプ名作選
一つになれないなら、せめて二つだけでいよう
世界観
もうすぐ着くから待っててね
泣きたくなるほど嬉しい日々に
どうにかなる日々
夜にしがみついて、朝で溶かして
だからそれは真実

生きるとは/熊木杏里

ちょうど2年ぶりとなる熊木杏里のニューアルバム。メランコリックで爽やかなポップソングを聴かせるスタイルはいつも通り。今回の作品は、特にアレンジにシンセを入れたサウンドが特徴的で、ちょっといままでのフォーキーさは薄れた感もあります。一方、今回の大きな特徴は、タイトル通り「生きるとは」をテーマとしたちょっと重めの作風で、タイトル曲の「生きるとは」「一度死んだぼくら」では、まさに「生」をテーマとした曲に。「地球から愛はなくならない」では「愛」をテーマにするなど、ちょっと重めな作風となっています。かと思えば、ちょっとコミカルさもある牛乳讃歌「牛乳サンキュー」なんかが飛び込んできたりして、アルバム全体が重くなりすぎないようにバランスを保っている感もあるのですが。しっかりと強いテーマ性を感じさせるアルバムでした。

評価:★★★★★

熊木杏里 過去の作品
ひとヒナタ
はなよりほかに
風と凪
and...life
光の通り道

飾りのない明日
群青の日々
殺風景~15th Anniversary Edition~
人と時
熊木杏里 LIVE “ホントのライブベスト版 15th篇" ~An's Choice~
なにが心にあればいい?
風色のしおり

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2025年3月14日 (金)

HIP HOPシーンの「今」を考える

今回もまた、最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。

「ele-king presents HIP HOP 2024-25」。もともとはテクノ専門誌として発刊し、現在はクラブカルチャーに関連するジャンルを中心に、様々な音楽関連の書籍を発行しているele-kingが手掛けた1冊。「書籍」ではなく「雑誌」という扱いであり、それも「年刊誌」ということ。今後は、毎年、同じようなスタイルの雑誌を同じような時期に発刊する、ということなのでしょうか。

ここでもHIP HOPのアルバムをよく取り上げているように、個人的に音楽ファンとしての立ち位置から、話題となったHIP HOPのアルバムについては、なるべくチェックしようとしています。ただ、そういった中で感じるのはHIP HOPシーンというのは非常にわかりにくいという点。以前、ここでも紹介し、その後も何度か引用している「文科系のためのヒップホップ入門」の中で「ヒップホップとは『場』を楽しむものである」という指摘がありました。それだけにHIP HOPという「場」を常に追いかけている訳ではない自分にとっては、HIP HOPシーンというのはわかりにくさがあり、それを少しでも理解するためには最適な1冊として本書を読んでみました。

そんな本書はHIP HOPの現状について、端的にわかりやすくまとめられていました。ライターの池城美菜子と渡辺志保による対談形式で、HIP HOPシーンの今について大まかに概観したあとで、様々なライターがいろいろな視点からコラムとしてHIP HOPシーンの現状を取り上げ、またチェックすべきHIP HOPアルバムの指針として、2024年の年間ベストアルバムも紹介されています。特に年間ベストアルバムの上位については、既に聴いているアルバムも少なくありませんが、やはり聴いていないアルバムも多く、何枚か、これを機に聴いてみたいと思いました(後日、同サイトでも取り上げたいと思います)。

まさに私のようなHIP HOPに興味はあるものの、熱心に追いかけている訳ではないようなライトリスナーにとっては、ほどよくシーンをまとめている最適な1冊とも言える本書。ただ、読んてみて感じてしまったのは、やはりHIP HOPシーンというのは、どこか内輪向けであり、そして外部の人間からするとわかりにくい、という点でした。

典型的なのはそのリリックであり、この中のコラムとしてもリリックを詳しく解説したコラムがあります。様々な事象を重層的に組み合わせ、英語のたとえなどもふんだんに入れて、その当時、起こった社会的ネタやゴシップもうまく取り入れたリリックは非常に興味深く、奥深さを感じさせる反面、コミュニティーの外側の人間からすると非常にわかりにくく、特に英語の壁がある私たち日本人にとっては、それを読み解くのは容易でないものを感じます。特に昨今ではCDが、それも邦訳付きの国内盤がリリースされるHIP HOPのアルバムは皆無に近い状況になってきており、私たち日本人にとっては、詳しい人の解説抜きでリリックを読み取るのは、ほぼ不可能という状況になってしまっています。

昨今、若者の「洋楽離れ」が叫ばれ、かつ、同書の中でも「若いラッパーやリスナーの子でアメリカのヒップホップを聴いていない子が多い」という指摘もされているのですが、やはり現在、特にアメリカのヒットシーンの主流を占めているHIP HOPシーン全体が限られたコミュニティー向けであり、外部から理解するのが困難という点が、大きな理由ではないか、ということも感じてしまいました。

また、HIP HOPシーンの内向性からもうひとつ気になった点があります。それは先日行われたアメリカ大統領選との関係。本書でもHIP HOPとアメリカの大統領選との関係についてのコラムもありますが、ポップフィールドのミュージシャンがほぼ全員、民主党のカマラ・ハリス陣営についたのに対して、HIP HOPのミュージシャンは、ハリスとトランプと、ほぼ半々にわかれたそうです。

ただ、保守とリベラルの嗜好を考えた時、(以前、ネットでこの点を指摘した書き込みがあり、ハッと気が付かされたのですが)保守は得てして自分たちの身内を一番大切に考える一方、リベラルは身内に限らず、全世界のあらゆる人を大切にしていこうという傾向にあります。いままでは(そしてある意味現状でも)HIP HOPコミュニティーの中心であるアメリカ黒人層はマイノリティーであるがゆえに、リベラルと親和性が強かったのですが、ただ、自分たちのコミュニティーを大切にしようとするHIP HOPシーンの嗜好性は、本質的にはむしろ、保守系と親和性が強い傾向にあるように感じます。だからこそ、今回の大統領選においても、HIP HOPのミュージシャンたちは、右と左にほぼ半々にわかれてしまったのではないでしょうか。

アメリカのトランプは極端にしろ、現在、世界中ではどちらかというと身内を守ろうとする保守の方向が目立つように感じます。現在、世界的にロックが退潮傾向にあり、変わってHIP HOPがシーンの中心になってきています。もちろん、リベラル寄りのHIP HOPミュージシャンも少なくありませんし、ロック=左でHIP HOP=右というのは少々乱暴な切り口かもしれません。とはいえ、HIP HOPミュージシャンのアメリカ大統領選の動向を見る限り、ひょっとしたら、HIP HOPの躍進は、そんな保守化する世界の傾向とリンクするものではないだろうか、そんなことも感じてしまいました。

そんなことは気になりつつも、ただとはいえ、勢いのあり、次々と新しいジャンルや音が登場してくるHIP HOPシーンは音楽的には非常に魅力的であることは間違いありません。個人的にも、そういう意味でも今後も出来るだけシーンの動向を追いかけていきたいのですが・・・。そんな中、この冊子はシーンについてよくまとまっており、非常によくできた雑誌だったと思います。年刊誌ということで、おそらく今後も、毎年、同じ時期に年間のシーンをまとめた1冊がリリースされるのでしょう。発売間隔が長く、かつ雑誌業界は非常に厳しい状況であるだけに、今後、どれだけ続けられるのか、不安な部分もあるのですが・・・今後にとても期待したい雑誌でした。

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2025年3月13日 (木)

1、2位は先週と変わらず

今週のHot Albums

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

今週の1位2位は先週と変わりませんでした。

Timlesz

今週1位は元ジャニーズ系アイドルグループ、SexyZoneの改名後のグループtimelesz「Hello! We're timelesz」が2週連続で1位を獲得。ストリーミング数は先週と変わらず1位。ダウンロード数は1位から2位にダウンし、総合チャートでは2週連続の1位となりました。

2位も先週から変わらずMrs.GREEN APPLE「ANTENNA」が獲得。ストリーミング数は先週から変わらず1位。これで通算25週目のベスト10ヒット&通算15週目のベスト3ヒットとなっています。さらに「Attitude」が先週の4位から3位にランクアップしベスト3返り咲き。こちらは通算13週目のベスト10ヒット&通算9週目のベスト3ヒットとなりました。

続いて4位以下ですが、初登場盤は1枚のみ。スターダストプロモーション所属の男性アイドルグループM!LK「M!X」が10位初登場。CDランキングで1位を獲得し、総合チャートもベスト10入りとなりました。

ロングヒット盤ではVaundy「strobo」「replica」は先週から変わらず、それぞれ5位6位をキープ。「strobo」は通算13週目、「replica」は通算17週目のベスト10ヒットに。Number_i「No.I」は8位から7位にアップ。こちらは通算15週目のベスト10ヒット。米津玄師「LOST CORNER」は逆に7位から8位にダウン。こちらは通算18週目のベスト10ヒットとなっています。


今週のHeatseekers Songs

https://www.billboard-japan.com/charts/detail?a=heat_seekers

Heatseekers Songsは今週も柊マグネタイト「テトリス」が獲得。これで12週連続の1位となりました。動画再生回数は8位から7位に再びアップ。Hot100も55位から51位に若干アップしています。


今週のニコニコVOCALOID SONGS

今週1位はDECO*27「テレパシ」が先週の3位からランクアップ。チャートイン3週目にして初の1位獲得となりました。ちなみにDECO*27は「モニタリング」も2位にランクインしており、1、2フィニッシュという結果となっています。

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2025年3月12日 (水)

今週もアイドル系が1位に

今週のHot100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

Hot100は今週もアイドル系が1位を獲得です。

まず1位は旧ジャニーズ系男性アイドルグループTravis Japan「Say I do」が獲得。CD販売数及びダウンロード数で1位を獲得。テレビ朝日系ドラマ「ホンノウスイッチ」主題歌。CDシングルとしては、これが初のリリースとなります。オリコン週間シングルランキングでは初動売上14万3千枚で1位初登場。

2位はMrs. GREEN APPLE「ライラック」が先週と変わらず2位を獲得。ストリーミング数は5週連続、カラオケ歌唱回数は9週連続の1位。ただ、動画再生回数は1位から2位にダウンしています。これで47週連続ベスト10ヒット&通算33週目のベスト3ヒットに。

3位もサカナクション「怪獣」が先週から同順位をキープ。ダウンロード数は3位から4位、ラジオオンエア数も1位から4位にダウンしたものの、ストリーミング数は先週から変わらず2位をキープ。ロングヒットになるそうな予感がします。

続いて4位以下初登場曲ですが、今週は初登場曲は1曲のみ。7位にあいみょん「スケッチ」が初登場。CD販売数5位、ダウンロード数13位、ラジオオンエア数1位。映画「ドラえもん のび太の絵世界物語」主題歌。オリコンでは初動売上9千枚で5位初登場。前作「会いに行くのに」の初動7千枚(14位)からアップ。

今週、初登場曲はこの1曲のみでしたが、先週、新譜ラッシュだった反動で、ベスト10からの返り咲き曲も。まず米津玄師「BOW AND ARROW」が先週の19位から6位にランクアップ。2週ぶりのベスト10返り咲き。ストリーミング数が13位から9位、ダウンロード数も10位から3位とアップしていますが、特に動画再生回数が先週のベスト20圏外から一気に1位にランクアップし、ベスト10返り咲きの主要因となっています。

また、Mrs.GREEN APPLE「ケセラセラ」も11位から10位にアップ。2週ぶりのベスト10返り咲きを果たしています。これで通算37週目のベスト10ヒットに。また、「ダーリン」も6位から4位にアップ。ストリーミング数は先週と変わらず3位をキープ。これで今週、Mrs.GREEN APPLEは3曲同時ランクインとなっています。

他のロングヒット曲は、ロゼ&ブルーノ・マーズ「APT.」が10位から8位にランクアップ。ストリーミング数は4位から5位にダウンしていますが、動画再生回数は6位から3位にアップ。ダウンロード数も20位から15位にアップしています。これでベスト10ヒットは連続20週に。

今週のHot100は以上。明日はHot Albums&Heat Seekers&ボカロチャート!

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2025年3月11日 (火)

懐かしさがあふれ出す短冊CDのディスクガイド

今回は最近読んだ音楽関連の書籍の感想です。

「短冊CDディスクガイド 8cmCDマニアックスー渋谷系、レア・グルーヴ、アイドル、アニメ、テレビ番組、企業ノベルティまで」。本屋で立ち読みしていたのですが、個人的に非常におもしろい内容だったため、買って読んでみた1冊です。ディスク百合おんという、ナードコアテクノのミュージシャンであり、8cmCDのみをまわすDJである方による監修で、同じく、90年代J-POPや8cm CDに興味のあるようなDJ、ライターが執筆する形でのディスクガイドとなります。

短冊CDとは、主に90年代に一世を風靡したCDシングルの形。短冊のような縦長のケースに収められていたことから「短冊CD」と呼ばれています。90年代に、メディアがレコードからCDに変わった頃に登場し、2000年代にはシングルも通常の12cmCDで収録された「マキシシングル」が主流になるため、主に流通したのはわずか10年程度という短い期間でしたが、一方で時代はJ-POP全盛期。ミリオンセラーどころかダブルミリオンのシングルが連発されていた時期なだけに、その流通量は相当の程度だったと思います。

個人的にこの90年代というのは、ちょうど中学から大学に至る時期であって、音楽をいろいろと聴きはじめた頃。そういうこともあって、短冊CDはたくさん買いましたし、やはり思い入れもあります。そのため、本書を読んてみて、非常に懐かしく感じる部分も強く、衝動買いに近い感じで買ってみた訳ですが、おそらく私と同じくらいの30歳後半から50歳初頭あたりの世代にとっては同じように感じる方も少なくないのでしょう。この短冊CDをあえて愛好している方も少なくないみたいですし、本書では、そういった方が執筆陣として加わっており、また、同じく短冊CDで多くの作品を発表していたようなミュージシャンたちへのインタビュー記事も収録されています。

そんな訳で本書は、そんな好事家たちが取り上げた多くの短冊CDが収録されています。フルカラーでのジャケット写真の紹介と、それに関する短い説明文が並び、間にはインタビューやコラムが挟まれているスタイル。この紹介されている短冊CDが非常に面白く、興味深く一気に読み進むことが出来ました。

ただちょっと気を付けなくてはいけないのはここで紹介されている短冊CD、決してその時代を代表する作品ではありません。選曲の基準はおそらくクラブ映えするような、「レアグルーヴ」感のあるCDがメイン。そこにユニークな珍盤奇盤が加わるスタイルで、一世を風靡したビーイング系や小室系、または渋谷系などのCDは、何枚かは紹介されているのですが、有名なヒット曲はほとんど紹介されていません。

とはいえ、非常におもしろいのがこの珍盤奇盤の数々。この短冊CDは、販売価格が500円~1000円程度と安価だった上に、薄っぺらくかさばらないものであったために、おそらくノベルティーグッズなどとして相性がよかったのでしょう。かつ、時代的にも音楽業界に活気がある時期だっただけに、「よくこんなCD販売しようと思ったな」的なCDが数多く紹介されており、この点では非常に90年代という時代を反映されたラインナップとなっています。

個人的には、リアルタイムに知っている世代とはいえ、もちろん知らない曲も多く、「こんなCDもあったんだ」と興味深く読みすすんだ一方、やはり読んでいて一番楽しかったのは「あったあった、こんなCD!」と当時を懐かしく思い出した瞬間でした。すっかりと記憶の片隅に追いやられていた思い出が引っ張り出されてくる快感がとても心地よく、あの頃を思い出しつつ、本書を読み進めることが出来ました。

またおもしろかったのが、「あの人がこんなことをやっていたんだ」とか「あの人がこんなCDを出していたんだ」といったことを知れたことも。例えば本書であのダンス☆マンがもともと別のバンドをやっていたことをはじめて知りましたし、他にも知られざる有名人の前歴もチラホラ。また、今となってはコンプライアンス的に厳しそうな内容のCDがあったり、またジャケット写真でもアイドルの写真に目を惹かれたり、楽しい体験をすることが出来た本書。CDの解説については、スペースの関係上、最低限であるため、気になったミュージシャンについてはスマホで調べつつ読むのもおもしろいかも。ただ、ネット上でほとんど情報のないCDやミュージシャンも少なくないのですが。

すっかり時代のあだ花的に追いやられていた短冊CDが、このように珍重されているというのが興味深く感じられ、また同時代を生きた世代としては気持ちは非常にわかる気がします。いままで、昔のレコードを並べて紹介しただけの本は数多く出版されていたのですが、そのような本を懐かしく楽しむ世代が、私たちの世代にも降りてきたということなのでしょう。ただ一方でちょっと気になるのが短冊CDが事実上流通していたのは10年程度という短い期間だったという点。いまでも愛好家の多いSPなどに比べると、あまりにも短い期間です。そういう意味で、この短冊CDが、今後より大きなブームとなるのか、やはり一部の好事家だけが楽しんで、あっという間に時代の彼方に忘れ去られてしまうのか・・・今後どうなっていくのか気になってしまいます。

個人的には非常に楽しめた1冊で、一気に読むことができましたし、久しぶりに実家で眠っている短冊CDをあらためて取り出してみようかなぁ、という思いにも至りました。おそらく実家にも珍盤奇盤とされそうな短冊CDが何枚か転がっているはず・・・。一方でただ本書、万人におすすめできるかと言われると微妙な部分があり、前述の通り、90年代J-POPの代表曲が紹介されている訳でもありませんし、90年代をリアルタイムに経験していなかった世代が読んだとしても、よっぽどの好事家以外は面白いと感じられないように思います。そういう意味では、読み手を選ぶ本ではあると思うのですが、一方で私のように世代的に壺にはまる方にとっては、非常に興味深くおもしろい1冊だと思います。おそらく30代後半から50代初頭くらいの世代の方で、青春時代に音楽にはまっていて、かつ、それなりにマイナーな曲まで手を伸ばしていたような方にとっては、かなりたまらない1冊かと。あの頃をあらためて思い出しつつ、90年代J-POPの奥深さを感じる1冊でした。

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2025年3月10日 (月)

重いメッセージ性をつめた作品

Title:“NO TITLE AS OF 13 FEBRUARY 2024 28,340 DEAD”
Musician:Godspeed You! Black Emperor

カナダのポストロックバンド、GODSPEED YOU!BLACK EMPERORのニューアルバム。今回のアルバムは非常に重い、社会派的なテーマを扱っています。まずこのアルバムタイトル。直訳すれば「2024年12月13日現在、タイトルなし。28,340人が死亡」ことになります。これは現在も進行しているイスラエル・ガザ地区におけるイスラエル軍とアラブ人勢力ハマスとの戦闘における、パレスチナ人の死者数を表しています。かなりストレートなタイトルが示すように、このイスラエルで今もなお起こっている戦争をテーマとしたアルバムで、不安定になりつつある現状に対しての警鐘を鳴らしています。今回、バンドはこのアルバムリリースに際して、次のようなメッセージを出しているようです。

”小さな死体が落ちてくる間どんなジェスチャーが意味をなすのか? どんな文脈があるのか? どんな壊れたメロディがあるのか? 負のプロセス、増え続ける山を示すただの数字と日付。かつての世界秩序はかろうじて気にかけるふりをしていた。しかしこの新世紀はもっと残酷になるだろう。戦争がやってくる。あきらめないで、どちらか一方を選んで、しがみついて、愛して。 “

アルバムは不気味なギターノイズを静かに聴かせる「SUN IS A HOLE SUN IS VAPORS」というナンバーでスタートします。このどこか不安気になるスタートに、暗雲を感じるのですが、後半になると徐々に伸びやかで優しいサウンドになってくるのが特徴的。続く「BABYS IN A THUNDERCLOUD」は、直訳すると「カミナリ雲の中の赤ちゃん」となるのでしょうが、これは戦争状態の中でも生まれてくる、あらたな生命の芽吹きをあらわしているのでしょうか。実際、ダイナミックでノイジーなバンドサウンドの中、途中にはストリングスなどの音色で、どこか明るさも感じさせるような作品になっています。

3曲目「RAINDROPS CAST IN LEAD」も、最初は静寂の中からスタートし、徐々にサウンドが分厚くなり、ダイナミックに展開していくGYBEらしい複雑な構成の楽曲。どこか優しくメロディアスなメロディーが流れる楽曲で、直訳すると「鉛で鋳造された雨しずく」と、どこか鉄砲の玉を彷彿とさせる表現ながらも、希望も感じさせる楽曲となっています。

ただ、非常に不気味なのが後半の「PALE SPECTATOR TAKES PHOTOGRAPHES」で、ゆっくりヘヴィーなギターサウンドがダウナーに、地を這うように展開していく楽曲は、まさに戦争の悲劇性を感じさせるような作品。直訳すると「青白い観客が写真を撮る」というタイトルになるのですが、何かのメタファーなのでしょうか。ひょっとしたら、安全な地域から、テレビやネットの画像で戦争を傍観している私たちを皮肉っているのかもしれません。

この不気味な雰囲気は最後の「GREY RUBBLE-GREEN SHOOTS」まで続きます。分厚いストリングスでダイナミックにスタートするこの曲は、最初、非常に悲しいメロディーラインでスタートします。いわばこの戦争の死者に対する鎮魂歌のよう。しかし、中盤からは徐々に切なさの中にやさしさを感じられるメロディーに。最後はストリングスと静かなギターで優しく幕を閉じます。この曲のタイトルを訳すると「灰色の瓦礫-緑の芽」・・・まさに戦争の悲劇と、そしてその先にある希望を綴ったような曲になっていました。

基本的にヘヴィーでノイジーなギターサウンドにストリングスを加えて、ミニマル的なフレーズをダイナミックに展開していくスタイルは、いつものGYBEと同様。そういう意味では大きな変化はありません。ただ今回のアルバムは、そんなダイナミックで、時には物悲しく、時には優しく聴かせてくれる彼らの楽曲を、戦争というテーマにリンクさせ、戦争の悲劇性と、それでも乗り越えていかなくてはいけない人類の希望を奏でているように感じました。まさに今の時代だからこそ、そして彼らだからこそ、聴かせてくれる、傑作アルバムに仕上がっていたと思います。あらためてこのアルバムで、イスラエルで行っている戦争について考えさせられる1枚でした。

評価:★★★★★

Godspeed You! Black Emperor 過去の作品
'Allelujah! Don't Bend! Ascend!
Asunder, Sweet and Other Distress
Luciferian Towers
G_d's Pee AT STATE'S END!


ほかに聴いたアルバム

Gente/Nanvy Vieira

こちらは2024年の各種メディアでベストアルバムとしてあげられた作品のうち、聴き逃していた作品を後追いで聴いた作品。こちらはミュージック・マガジン誌ワールドミュージック部門で第2位にあげられていたカーボベルデを代表する歌手の新作。カーボベルデはアフリカの西部に位置する島国で、その場所がら、ポルトガル、ブラジル、アフリカといった様々な地域の音楽の影響を受けており、本作もそのためポルトガルのファドやアフリカの音楽、さらにはブラジル音楽の影響も垣間見れる、文化の交差点的な楽曲がユニーク。ムーディーにしっかりと聴かせる彼女の歌声も魅力的なアルバムに仕上がっていました。

評価:★★★★

Vacilón Santiaguero/Kiki Valera

こちらも同じく、2024年ベストアルバムを後追いで聴いた1枚。こちらはミュージック・マガジン誌ラテン部門で第1位を獲得したアルバム。キューバの伝統的なバンド、ファミリア・バレラ・ミランダ出身のミュージシャンによるソロ作。楽曲は典型的なラテン、キューバ音楽といったイメージで、ホーンセッションやパーカッションを入れつつ、軽快なリズムとメランコリックなメロが楽しめる作品に仕上がっています。

評価:★★★★

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2025年3月 9日 (日)

明るく楽しいセンバを聴かせる

Title:Kamu'Ndongo O Príncipe do Semba
Musician:Eddy Tussa

Eddytussa

今回も、2024年で各種メディアでベストアルバムとして取り上げたアルバムのうち、まだ聴いていなかった作品を後追いで聴いた1枚。今回はミュージック・マガジン誌ワールドミュージック部門で6位を獲得したミュージシャン。アンゴラの国民的音楽であるセンバを、新しい世代に引き継ぐ元ラッパーによるアルバムだそうです。

アンゴラは中部アフリカのうち大西洋に面した国。日本人にとってはあまりなじみのない国で、アンゴラウサギが思いおこされますが、このアンゴラ(angora)は国名のAngolaとは綴りが異なり、直接の関係はないようです(ちなみに某芸人はこのウサギの方が由来らしい・・・)。ただ、このセンバという音楽は、音楽的にはなかなか興味深い音楽のジャンルのようで、このセンバにカリブ海の音楽の影響が加わったのがルンバだそうで、さらにはブラジルのサンバも一説にはこのセンバの影響を受けた音楽だとか。特に中南米の音楽シーンには幅広い影響を与えた音楽のジャンルのようです。

実際、かなりラテンの要素の強い作品で、1曲目「Bessangana」も親指ピアノとパーカッションで奏でるラテンなリズムが軽快なナンバー。続く「Kaçule Kamy」もイントロのリズムは典型的なラテンの陽気なリズム。こちらはしんみりと哀愁たっぷりに歌い上げるメロディーラインが完全に歌謡曲といった感じで、メロディーの面でも強いインパクトを感じます。もっとも、「ラテンのリズム」と言っても、こちらの方が本家本元なんですが。

アルバム全体として、この南国の海辺を彷彿とさせるような陽気なリズムが大きな魅力で、アルバム全体として明るい雰囲気が漂っています。トライバルなリズムが軽快なのですが、ここらへんの陽気な空気感はまさにラテン系のノリ。アンゴラのお隣の国はアフリカ音楽ファンにはおなじみのコンゴで、トライバルやリズムなどにはお隣らしいどこか似たような雰囲気はあるのですが、この太陽の陽の光の下で奏でられる音楽を彷彿とさせる突き抜けた陽気は、コンゴの音楽とはまた異なるものを感じます。

また、もうひとつ特徴的なのは、特にアルバム前半について、アレンジの中にチープなシンセが入って、これがちょっとしたレトロ感を醸し出している点。「Pra te agradar」のサウンドなんかは、まさに80年代あたりを彷彿させるシンセの音が鳴っていて、ひと昔前のAOR風な曲調となっていますし、続く「Fala comigo」も軽快なホーンセッションの中、エレピの音がどこかひと昔前の雰囲気を醸し出しています。こういうチープなエレクトロサウンドは、アフリカの音楽を聴くとよく聴くことが出来て、アフリカの音楽制作環境が影響しているのかもしれませんが、ただ、こういう系統の音が好まれるのでしょうか。どこか感じるレトロな雰囲気がまた、ノスタルジックな要素を醸しだしておりとても魅力的でした。

一方後半は、トライバルなビートやコールアンドレスポンスを押し出したような曲が多く、「Ka ki Banga」や、ラストの「Ubeka」などは、こちらはむしろアフロビートからの流れも感じさせる楽曲になっており、ラテン風だった前半から一転、ある意味、一般的にイメージする「アフリカ」っぽさを感じる作品に。ここらへんのバラエティー富んだ展開もとても楽しい1枚でした。

全体的には明るい雰囲気の作風が楽しい本作。野外ライブで聴くと、みんなで踊って楽しそうだなぁ、ということを感じさせてくれるアルバムでした。ちょっと懐かしく、時には歌謡曲的ですらある哀愁あるメロディーも大きな魅力。年間ベストの上位にランクインされるのも納得の傑作アルバムでした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Tchopo/Kate Griffin&Matchume Zango

Tchopo 

こちらも同じく、2024年ベストアルバムを後追いで聴いた作品で、ミュージックマガジン誌ワールドミュージック部門で、こちらは5位を獲得した作品。イギリスのバンジョー奏者、Kate Griffinと、モザンビークのチョピ人で、伝統楽器のティンビラ奏者であるMatchume Zangoのユニット。Kate Griffinの爽快で西洋的なバンジョーの音色と、Matchume Zangoが奏でるトライバルなサウンドのギャップが非常におもしろく、西洋的なサウンドとアフリカ的なサウンドが融合した独特の音色を生み出しています。異色な楽器同士の組み合わせに、微妙な違和感もあるのですが、その違和感も含めて非常にユニークな作品でした。

評価:★★★★★

Prelude to Ecstasy/The Last Dinner Party

こちらも2024年のベストアルバムを後追いで聴いた1枚。昨年、本作でデビューし話題となったロンドン出身の5人組バンド。「rockin'on」誌の年間ベストで2位に入っていた他、各種メディアのベストアルバムを集計したAOTYでも21位にランクインしていました。ピアノやストリングスを入れて荘厳さを増したサウンドながらもメロディーラインはポップにまとめている点が特徴的。ただ、この荘厳さにしてもポップスさにしても、若干中途半端な印象も。どうせ仰々しくするのならMUSEくらい振り切れて欲しかった感も。良くも悪くもこれからが勝負といった感も。

評価:★★★★

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2025年3月 8日 (土)

アヴちゃんの妖艶なパフォーマンスと力強い演奏が魅力的

女王蜂 全国ホールツアー2025「狂詩曲~ギャル爆誕~」

会場 Niterra日本特殊陶業市民会館 フォレストホール 日時 2025年2月28日(金)19:00~

Jooubachilive

今回は、独特なルックスの奇抜なファッションが特徴的のロックバンド、女王蜂のワンマンライブに足を運びました。女王蜂は、もちろん音源は聴いているのですが、ライブを見るのはイベントライブ等を含めて今回がはじめて。どんなステージになるのか楽しみにしつつ、会場に足を運びました。

この日のファン層は、7割程度が20代~30代の女性といった印象で、予想していたよりもファン層は低く、女性割合が多かった印象が・・・。チケットは比較的容易に入手できたのですが、この日は4階席までビッシリとファンで詰まっており、ほぼ満員といった感じ。その人気の高さをうかがわせます。

ライブは定時を5分すぎた頃にスタート。メンバーの3人+サポートのドラムス+キーボードの5人編成でのスタート。最初はボーカルのアヴちゃん除いた4人での演奏からスタートし、ウェディングドレス風の白いドレスに身を包んだアヴちゃんが登場し、会場から大きな歓声が起こります。最初は「もう一度欲しがって」からスタートです。

で、彼らのライブの定番グッズが、派手な羽根のついた扇子、いわゆる「ジュリ扇」だそうで、この日も会場にはこのジュリ扇を持った人たちが詰めかけ、観客席は派手なジュリ扇を振り回して踊っていました。かなり派手な雰囲気なのですが、これが女王蜂の雰囲気ともピタリとマッチしていました。

そして2曲目はアニメ「【推しの子】」のエンディングにもなった「メフィスト」で、これまた会場は大盛り上がり。ここでアヴちゃんはロングスカートを投げ捨て、動き回りやすい短いスカートにチェンジ。その後も「MYSTERIOUS」「首のない天使」「失楽園」などで会場を沸かせます。

ライブは特に妖艶さもあるアヴちゃんのボーカルが目を惹きますが、それと同じくらい耳を惹いたのがロックバンドとしての彼らの演奏。かなりヘヴィーな力強い演奏が耳を惹き、ロックバンドとして、しっかりした足腰の強さを感じさせますし、奇抜なルックスや衣装というギミック的な部分を差し引いても、しっかりとした実力を持ったバンドであるという点を、今回初となるライブで強く感じることが出来ました。特に「バイオレンス」ではヘヴィーなギターリフからスタート。さらに中盤の「BL」でも同様の非常に重厚なバンドサウンドで迫力たっぷりのパフォーマンスを聴かせてくれるなど、ロックバンドとしての実力をこれでもかというほど前面に押し出したステージとなっていました。

ライブは基本的にMCは一切なし。妖艶さを感じさせるアヴちゃんのパフォーマンスを見せながら、比較的淡々と進むステージ。中盤の「火炎」ではステージ前方に薄い幕が張られ、そのバックで演奏しつつ、バンド前方のスクリーンにライトが投影されます。ここらへんはタイトルの「火炎」をイメージしたのでしょうか?

次の曲がはじまるとアヴちゃんは一度ステージから去り、最初は他のメンバーだけのインストからスタート。しばらくしてアヴちゃんが戻って来るとオレンジのドレスに衣装替えし、「つづら折り」へと進みます。

その後の「空中戦」の後の「杜若」では、最初、バンドメンバーが去り、アヴちゃんのアカペラからスタート。今度はアヴちゃんのボーカリストとしての実力を見せつけます。一方、途中からバンドメンバーが戻り、そのアヴちゃんに負けないダイナミックなパフォーマンスを。楽曲の最後の歌詞「ほんとよ」を叫んだあと、一気にバンドの演奏がストップし、ライブ会場が一瞬静寂に。そこから次の「Q」への展開にはゾクゾクっと来るものがありました。

ライブの終盤は「十」の後、はじめて簡単にアヴちゃんが「ありがとう」の一言。その後の「聖戦」の後にも「ありがとう」の一言のあと、ファルセットで思いっきり「行くよ!!」と観客をあおり、一気に「HALF」「金星」と続き、ライブはファイナルへ。最後はアヴちゃん一人がステージに残り、お辞儀、そしてみんなを抱きしめるように両腕を包み込むようなポーズを見せ、会場を去っていきました。

途中のMCはほとんどなし。次々と楽曲を展開していくパフォーマンスで、20曲近い曲を演奏しつつ、ライブ時間はわずか1時間10分程度という予想以上の短さでした。ただ一方、力強い迫力ある演奏にロックバンドとしての実力を感じさせ、さらにはアヴちゃんのパフォーマンスにも惹かれるものがあり、短い時間とはいえ非常に充実度のあるステージで、おなか一杯になるライブだったと思います。個人的には予想以上に満足度の高いステージで、非常に楽しめ、ほどよい余韻のもと、ライブ会場を後にすることが出来ました。

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2025年3月 7日 (金)

10周年の初のベスト盤

Title:All the Greatest Dudes
Musician:GLIM SPANKY

松尾レミと亀本寛貴による男女2人組ロックデュオ、GLIM SPANKY。ゴリゴリのギターサウンドでヘヴィーに聴かせる、ルーツ志向のロックンロール路線に定評があり、音楽ファンのみならずミュージシャンたちにも高い評価を得てきました。そんな彼女たちも2014年にシングル「焦燥」でデビューしてから早10年。今回、メジャーデビュー10周年を記念して初のベストアルバムがリリースされました。ファンからのリクエストを中心にセレクトした全28曲が収録された、2枚組のベストアルバムとなります。

ただ、過去のレビューを遡って読んでもらえばわかるとは思うのですが、私自身、どこか彼女たちをもろ手あげて絶賛することが出来ず、微妙な評価を続けていました。その理由としてこのベスト盤を聴いて感じるのですが、まず全体的にどこか似たタイプの曲が多いという点。ヘヴィーなブルース基調のガレージサウンドでゴリゴリに聴かせるというスタイルはシンプルではあるのですが、バリエーションという観点でどうしても難ありとなってしまいます。また、メロディーがベタで歌謡曲っぽすぎるというのもマイナスポイントのように思います。かといって、同じルーツ志向のロックを演りながら、J-POP寄りにシフトしたSuperflyみたいに、ベタなダイナミックさを出す訳でもなく、ちょっと中途半端さも否めません。

とはいえ、そんなマイナスポイントを抱えつつも、こうやってベストアルバムで彼女たちの代表曲を並べて聴くと、やはり素直にカッコいいロックバンド(ロックユニット?)ということを強く感じます。これでもかというほどゴリゴリにヘヴィーに聴かせるギターサウンドと、力強いボーカルで歌い上げる歌。ルーツ志向のガレージロックというよりも、70年代のツェッペリンやハードロックに通じるようなサウンドだと思うのですが、ロックのダイナミックを魅力的に感じられる曲が並んでいます。

個人的に今回のベスト盤で注目したいのは、このベスト盤の先行シングルとしてリリースされた「愛が満ちるまで」で、本作はなんとLOVE PSYCHEDELICOとコラボ。GLIM SPANKYの路線って、遡ると、Superfly、さらにはLOVE PSYCHEDELICOと同じ路線で遡っていくのですが、そのGLIM SPANKLYの先輩格ともいえるLOVE PSYCHEDELICOとのコラボはちょっとビックリ。楽曲的にはデリコとSLIM SPANKYの中間を行くようなタイプのロックになっているのですが、やはり両者、非常に相性はよく、魅力的なコラボに仕上がっています。

また、今回のベスト盤であらためて感じたのは、GLIM SPANKYを支える大きな魅力というのが間違いなく松尾レミのボーカルという点でしょう。ヴィジュアル面では、いかにも今風の美女といった感じの彼女ですが、ボーカリストとしてはしゃがれ声を前面に押し出したパワフルなボーカルが実に魅力的。ともすればこの手のしゃがれ声のパワフルなボーカリストというと、大柄のシンガーが多い中、スタイル的には華奢な彼女がこんな声を出して、あれだけパワフルなボーカルを聴かせてくれるというのは驚かされます。間違いなく、彼女のボーカルはGLIM SPANKYの個性を形作っていますし、また大きな魅力となっています。

そんな訳で、個人的にはもろ手あげて絶賛は出来ないような引っ掛かる部分はあるものの、ベスト盤として彼女たちの代表曲を聴くと、やはりロックの魅力、ダイナミズムを体現化している、実に魅力的なミュージシャンということを改めて認識しました。メジャーデビューから10年を迎えた彼女たち。これからの活躍も楽しみです。

評価:★★★★★

GLIM SPANKY 過去の作品
ワイルド・サイドを行け
Next One
I STAND ALONE
BIZARRE CARNIVAL
LOOKING FOR THE MAGIC
Walking On Fire
Into The Time Hole
The Goldmine


ほかに聴いたアルバム

Re:Born Tape/MIKADO

Mikado

本作は2024年度のベストアルバムとして各種メディアが取り上げているアルバムのうち、まだ聴いていないアルバムを後追いでチェックした作品。本作は「ミュージック・マガジン」誌「ラップ/ヒップホップ【日本】」部門で1位を獲得したアルバム。和歌山出身のラッパーによる初のソロ・ミックステープ。基本的には今どきのトラップベースのサウンドで、ダウナーに刻むラップが印象的。「これから」と「これまで」をつめたミックステープに自身を取り巻く環境や心境をつづったミックステープだそうで、彼の出身地である和歌山市築港をそのまま歌った「築港」なんで曲もあったり、最後の「Legends」ではラッパーとしてのこれからをラップしたりと、身の回りのことや自らの心境を綴ったラップが印象に残ります。これからの活躍にも期待のラッパーです。

評価:★★★★

ほろよい小唄/うめ吉

俗曲師として、寄席などを中心に活躍するうめ吉のニューアルバムは、ある意味、彼女の王道、本家本元ともいえる江戸の小唄をあつめたアルバム。基本的に1曲1分程度の短い曲が並び、歌詞もフレーズもワンアイディアといった感じの、まさに「小さい唄」と書いて「小唄」と呼ぶにふさわしい内容になっていますが、江戸時代の歌詞でありつつも、現代の私たちにも共感できる内容や、コミカルな内容もあり、小唄に親しみのないような方でも十分楽しめそうな感じが。また、東京に行った時には、彼女の出演する寄席にも足を運んでみたいです。

評価:★★★★

うめ吉 過去の作品
お国めぐり 其の二
うめ吉玉手箱~寄席うた俗曲集
ALL ABOUT UMEKICHI
うめ吉の唄う 童謡・唱歌 其の二
明治大正はやりうた 其の二

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2025年3月 6日 (木)

Hot Albumsも1位はアイドル系

今週のHot Albums

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

アイドル系が大量にランクインしてきた今週のHot100でしたが、Hot Albumsも1位はアイドル系がランクインしています。

Timlesz

1位初登場は元ジャニーズ系アイドルグループ、SexyZoneの改名後のグループtimelesz「Hello! We're timelesz」がランクイン。彼らの代表曲を収録した12曲入りのプレイリストで、配信限定でのリリースとなります。ダウンロード数及びストリーミング数で1位を獲得し、総合チャートでも1位となりました。

2位は先週3位だったMrs.GREEN APPLE「ANTENNA」がワンランクアップ。これで通算24週目のベスト10ヒット&通算14週目のベスト3ヒットとなります。ただし、先週まで10週連続1位だったストリーミング数は、timeleszに1位を奪われる形で2位にダウンしています。一方、「Attitude」は先週から変わらず4位をキープ。ただし、こちらもストリーミング数は2位から4位にダウン。これで通算12週目のベスト10ヒットとなりました。

そして3位はONE OK ROCK「DETOX」がワンランクダウン。ストリーミング数は先週と変わらず3位なのですが、先週から「Attitude」と順位を入れ替わる形となっています。

4位以下の初登場盤では、9位に韓国のアイドルグループPLAVE「Caligo Pt.1」がランクイン。CD販売数では本作が1位を獲得しています。

ロングヒット盤ではVaundy「strobo」5位「replica」6位は先週から変わらず。これで「strobo」は通算12週目、「replica」は通算16週目のベスト10ヒットに。米津玄師「LOST CORNER」は9位から7位にアップ。これで通算17週目のベスト10ヒット。Number_i「No.I」は先週から変わらず8位をキープ。通算14週目のベスト10ヒットとなりました。


今週のHeatseekers Songs

https://www.billboard-japan.com/charts/detail?a=heat_seekers

Heatseekers Songsは今週も柊マグネタイト「テトリス」が獲得。これで11週連続の1位となりました。ただし、動画再生回数は7位から8位にダウン。Hot100も36位から55位と大幅にダウンしています。


今週のニコニコVOCALOID SONGS

https://www.billboard-japan.com/charts/detail?a=niconico

先週、いわゆる「ボカコレ」参加曲が一気にランクインしてきたボカロチャートですが、今週も先週に引き続き、「ボカコレ2025冬」TOP100ランキング優勝作あばらや「花弁、それにまつわる音声」が2週連続で1位を獲得しています。2位もTOP100で2位だったr-906「匙ノ咒」が2週連続で獲得しています。

今週のHot Albums&Heatseekers&ボカロチャートは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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