2020年9月21日 (月)

原点回帰の新作

Title:Purple Noon
Musician:Washed Out

アメリカの男性ミュージシャン、アーネスト・グリーンによるソロプロジェクト、Washed Out。2011年にリリースされたアルバム「Within and Without」が高い評判を得て、一躍、注目を集めました。そこで話題となった音楽のジャンルが「チルウェイヴ」という音楽。チープな打ち込みをバックに、ノスタルジックなメロディーラインを載せている点が特徴的な音楽で、80年代的なシンセポップと、今風のHIP HOPが融合されている音楽、ということだそうです。

Washed Outというミュージシャンは、このチルウェイヴというジャンルを確立し、その後のシーンに大きな影響を与えたミュージシャンでした。ただ、その後は若干音楽性が変化し、特に前作「Mister Mellow」はダンスミュージックやHIP HOP寄りにシフトした作品になっていた……そうです。聴いていないので詳しくは知らないのですが…。

しかし、今回のアルバムはそんな彼が「原点回帰」ということで、デビュー作の方向性に近い、チルウェイヴの作品を作り上げてきました。まずその傾向は1曲目から顕著。「Too Late」はちょっとチープさを感じる打ち込みのリズムがまさに80年代的テイストで、ノスタルジックな雰囲気を感じる哀愁感漂うメロディーラインからして完全にチルウェイヴのイメージにピッタリ来ています。

さらに続く「Face Up」「Time to Walk Away」は、80年代的ながらも、どこか洒落た感のある打ち込みのサウンドとメロディーラインに、ここ数年、世界中で注目を集めているシティポップの要素を強く感じます。Washed Outが確立したチルウェイヴの音楽性は、まさにシティポップの要素を兼ね備えたような部分を強く感じるのですが、そのような音楽を、今から約10年前の2011年に、まだ80年代的なシティポップがほとんど注目されていないような時期に打ち出したWashed Outの先見性をあらためて今回のアルバムでは強く感じました。

またこのチルウェイヴの音楽の特徴とした「霧にかかったようなホワイトノイズ」という説明を見受けます。実際、デビュー作「Within and Without」でもこの霧にかかったようなサウンドという点が大きな特徴となっていました。ただ今回の作品に関しては、特に前半においてこの「霧にかかったようなサウンド」という特徴はあまり強くはありません。ただ、中盤の「Game of Chance」「Leave You Behind」は、まさにこの「霧にかかったようなホワイトノイズ」という特徴を兼ね備えた楽曲になっており、そういう意味ではしっかりとチルウェイヴの要素を踏まえた作品として仕上げていました。

そんな訳で、まさに原点回帰となった今回のアルバム。といっても個人的には彼のアルバムを聴いたのはそのデビュー作以来なので、彼のその後の変化は知らないのですが…。ただ、懐かしく、メランコリックで妙に人懐っこいメロディーラインは非常に魅力的。ほどよいノイズもまじり、非常に心地よさを感じる音楽になっていました。メロディーラインもいい意味でわかりやすく、日本人にとっても壺をついたようなメロディーと言えるのでは?良質なポップソングとしてお勧めできるアルバムでした。

評価:★★★★★

Washed Out 過去の作品
Within and Without


ほかに聴いたアルバム

Microphones in 2020/The Microphones

アメリカのロックバンドによるThe Microphones。1999年から活動を開始し、2003年に解散。ただし、その後は再結成で散発的な活動を続け、このたび実に約17年ぶりとなるアルバムとなったのが本作。とはいえ本作、約44分にも及び1曲のみが収録されているという作品。シングル…ではなく一応アルバム扱いのようですが。ただ、この手のアルバムでありがちな、非常にマニアックな聴きにくいアルバムといった感じではなく、終始メランコリックなメロディーが流れつつ、フォーキーな作風になったりノイズギターが入ったりと徐々に形式を変えつつ展開していくような内容に。44分という長さで聴きどころも多く、あっという間に楽しめるような作品でした。

評価:★★★★★

Twice as Tall/Burna Boy

ナイジェリアのシンガーソングライターによる5枚目のアルバム。Beyonceのアルバム「The Lion King:The Gift」への参加でも話題を集め、前作「African Giant」も傑作アルバムに仕上がっていました。それだけに期待して聴いた今回のアルバム。確かにアフリカ音楽やレゲエにHIP HOPなどを融合させた音楽性は非常にユニーク。ただ、全体的にはレゲエ的な要素も強く、メランコリックなメロディーが前に。良くも悪くも垢抜けた感はあり、アフリカの音楽と西洋音楽の融合というイメージは前作に比べると薄くなってしまった感もありました。欧米ポップ寄りにグッとシフトした1枚。この方向性が次回作以降、吉と出るか凶と出るか・・・。

評価:★★★★

Burna Boy 過去の作品
African Giant

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2020年9月20日 (日)

地球の真逆同士の音楽ながらも相性抜群

Title:民謡クンビエロ(フロム・トーキョー・トゥ・ボゴタ)
Musician:民謡クルセイダーズ&フレンテ・クンビエロ

「民謡しなけりゃ意味ないね!!」をキャッチフレーズに、福生在住のギタリスト、田中克海と民謡歌手、フレディ塚本を中心として結成されたバンド、民謡クルセイダーズ。日本の民謡を、カリブ、ラテン、アフリカ音楽などを融合させた独特の音楽性は大きな話題を呼び、2017年にリリースされたアルバム「エコーズ・オブ・ジャパン」は各所で大絶賛。一気にその知名度を上げる結果となりました。

今回のアルバムはコロンビア出身のミュージシャン、マリオ・ガレアーノによるクンビア・プロジェクト、フレンテ・クンビエロとのコラボによるアルバム。クンビアといえば南米コロンビアを代表する音楽のジャンルで、10年くらい前、エレクトロサウンドの要素を取り入れたデジタル・クンビアがクラブシーンを中心に、ちょっとしたブームになった記憶があります。今回のアルバムでは、日本の民謡と南米のクンビアを融合させた、彼らにしか出来ない音楽を展開しています。

クンビアといえば、前作「エコーズ・オブ・ジャパン」でも、「串本節」をクンビアでアレンジして聴かせてくれましたが、これが想像以上にピッタリとマッチしていた絶妙なアレンジとなっていました。今回のアルバムも日本の民謡と南米のクンビア、まさに地球の真逆の位置する地域の音楽ながらも不思議に相性のよさを感じさせる楽曲が並びます。

その相性の良さを感じさせるのがまさに冒頭を飾る「虎女さま/TORA JOE」でホーンセッションが軽快に響くラテンのリズムが終始鳴り響くナンバーながらも、張りのあるこぶしの利いた歌声で聴かせる日本の民謡のフレーズとピッタリマッチ。まったく異質な音楽であるはずなのに、その相性の良さを感じさせます。

続く「クンビア・デルモンテ・富士/CUMBIA DEL MONTE FUJI」は哀愁感たっぷりのダンスチューン。こちらは完全にクンビアに寄ったナンバーになっており、ちょっとエキゾチックな雰囲気のメランコリックなメロは歌謡曲テイストを感じさせるものの民謡的な部分はあまり濃くはありません。ただ、軽快なリズムには日本の音頭にも通じる部分があり、やはり日本とコロンビアが上手くブレンドされた楽曲になっています。

 軽快なマンボのリズムを聴かせる「マンボネグロ大作戦/MAMBONEGRO DAISAKUSEN」も楽しい雰囲気の楽曲ですし、ダビーなサウンドで湿度の高い雰囲気を醸し出しつつ、どこかコミカルな節回しが楽しい「オッペケペー節/ OPEKEPE」も、民謡とクンビアのリズムが見事に融合させた作品。「クンビア・デルモンテ・デ・東京/CUMBIA DEL MONTE DE TOKYO」は、手拍子と簡単なパーカッションのみをバックにみんなで歌っている楽曲。みんなで集まり音楽を心から楽しんでいる、そう感じさせるようなナンバーになっていました。

どの曲も、本当に日本の民謡とクンビアの相性の良さを感じさせるナンバーばかり。こういうアレンジが出来る民謡クルセイダーズとフレンテ・クンビエロのセンスの良さも光るアルバムなのですが、やはり地球の真逆に位置する人たちの音楽とはいえやはり人間。心地よく感じる節回しやリズムにはどこか共通するものがあるのでしょう。だからこそ、距離の離れた2つの音楽が、ここまで相性よく混ざりあうことが出来た・・・前作「エコーズ・オブ・ジャパン」でも感じたのですが、今回のアルバムでもまた、同じようなことを感じました。

言うまでもなく前作に引き続きの傑作アルバム。日本人が昔からなじんできた民謡の素晴らしさ、そして世界の音楽の素晴らしさをあらためて認識させてくれるアルバムでもありました。しかし、このアルバムもライブで聴いたら気持ちいいだろうなぁ。コロナ禍でなかなかライブにも足を運べませんが・・・コロナがおさまったら、彼らのライブ、是非、足を運んでみたいです。

評価:★★★★★

民謡クルセイダーズ 過去の作品
エコーズ・オブ・ジャパン


ほかに聴いたアルバム

HELLO EP/Official髭男dism

飛ぶ鳥落とす勢いのヒゲダンの新作は4曲入りのEP。4曲いずれもシングルカットされても不思議ではないインパクトある楽曲が並びます。表題曲「HELLO」はフジテレビ系「めざましテレビ」のテーマ曲に起用されているのですが、いかにも同番組で流れていそうな爽やかなナンバー。ほかの3曲も、いずれも大物然としたスケール感と、ある種の余裕を感じられる、しっかりと壺を抑えた完成度の高い楽曲が並びます。まさに脂がのりまくっている彼らの状況を反映された作品。いまだにアルバム「Traveler」がヒットを続ける彼らですが、来るべく次のアルバムもすごい作品になりそうな予感が…。

評価:★★★★★

Official髭男dism 過去の作品
エスカパレード
Traveler
TSUTAYA RENTAL SELECTION 2015-2018
Official髭男dism one-man tour 2019@日本武道館
Traveler-Instrumentals-

LIVE : live/AK-69

「AK-69の本質である「LIVE」(ライブ)と人生を表す「live」(リブ)をコンセプト」としたアルバムだそうです、AK-69の約1年半ぶりのニューアルバム。ただ、とはいえライブ志向の作品が並んだアルバム、といった感じではなく、良くも悪いもいつも通り、AK-69らしい作品が並びます。今時のトラップなリズムをほどよく取り入れつつ、メロウなラップや哀愁感ある歌モノを聴かせる内容。ちゃんとリスナーが期待するAK-69の壺を抑えたような作品になっており、こういうところが人気の秘訣なんだろうなぁ・・・と思ったりしたりして。

評価:★★★★

AK-69 過去の作品
THE CARTEL FROM STREETS
THE RED MAGIC
The Independent King
Road to The Independent King
THE THRONE
DAWN
無双Collaborations -The undefeated-
THE ANTHEM
ハレルヤ-The Final Season-

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2020年9月19日 (土)

期待のインディーロックバンド

Title:A Hero's Death
Musician:Fontaines D.C.

最近、ヒットシーンはすっかりHIP HOP系で埋め尽くされており、ロック系にはいまひとつ勢いがありません・・・・・・なぁんてことを言いたくなったりもするのですが、ちょっと待ってください。なにげに最近、おもしろいロックバンドは少なくありません。当サイトの私的アルバムランキングの上半期1位となったDoglegもそもそも注目のポストロックバンドですし、Mannequin Pussy、IDLESなどといったポストパンク組は、ここ数年、傑作アルバムを連発しており、なにげに注目すべきロックバンドは増えているように思います。

今回紹介するアイルランドはダブリン出身のロックバンド、Fontaines D.C.もそんな今、注目したいロックバンドの一組でしょう。デビューアルバムとなった前作「Dogrel」も大きな注目を集めたようですが、続く2作目である本作も、今年を代表する1枚となりそうな注目を集める傑作アルバムに仕上がっています。

サウンド的には、基本的に全編ダウナーな雰囲気のギターロック。ボーカルもかなり淡々とした歌い方になっており、全体的にはローファイ気味なインディーロックを奏でるバンドとなっています。アルバムの冒頭を飾る「I Don't Belong」などはまさにそんなローファイ気味なサウンドで淡々と奏でる、いかにもなインディーロック然としたような曲調。この荒削りなバンドサウンドは、ちょっと80年代のインディーロック的な部分も感じられ、バンドの大きな魅力にもなっています。

その後も「Televised Mind」「I Was Not Born」のような分厚いギターノイズを響かせながらも、疾走感あるバンドサウンドを聴かせるような楽曲や、「A Lucid Dream」や「Living In America」のようにエフェクトをかけたサウンドのかたまりを響かせて、サイケロックの様相も呈している楽曲などはロックが好きならかなり壺にはまるのではないでしょうか。

ローファイ気味で淡々とした作風ながらも、一方では意外なメロディーセンスも感じられるのもバンドの特徴で、中盤の「You Said」「Oh Such A Spring」で聴かせるようなメランコリックなメロディーラインも魅力的。最後を締めくくる「No」もミディアムテンポのノイジーなサウンドをバックに、意外とメロディアスでポップなメロディーラインをしっかりと聴かせてくれる歌モノの楽曲に仕上がっており、メロディーメイカーとしての才も垣間見れる作品となっています。

この荒々しい80年代のインディーロック的なサウンドに意外とポップなメロディーライン・・・ということで強い影響を感じさせるのがPixiesで、特に語るようなボーカルとへヴィーなギターサウンドのタイトルチューン「A Hero's Death」なんかは、完全にPixiesの影響を感じさせるような楽曲に。ほかにもSonic Youthあたりが好きなら、間違いなく気に入りそうなバンドだと思います。

そんな訳で、まだまだおもしろいロックバンドはたくさん出てきているんだなぁ、ということを実感させられる1枚。サウンド的には懐かしさと新しさが同居しているようにも感じる部分もあるのですが、勢いのあるギターサウンドは、今でも十分すぎるほど魅力的なノイズを響かせています。これからの活躍も楽しみです。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Such Pretty Forks in the Road/Alanis Morissette

一時期に比べると、話題に上ることも減ってしまったアラニス・モリセット。久々の新譜と思いきや、実に約8年ぶり。とはいえ、イギリスのナショナルチャートではちゃんと8位にランクイン(米ビルボードでは16位)にランクインしており、一時期ほどの熱狂的な人気はないものの、確固たる人気も感じさせます。

そんな今回のアルバムは基本的にアラニスらしい楽曲。ミディアムテンポでスケール感を覚えるダイナミックな曲調を、彼女の力強く、かつねっちりと感情のこもったボーカルで歌い上げるスタイル。デビュー当初のイメージから変わらないアラニスのスタイルといった感じで、目新しさはない反面、安心して聴けるアルバムになっています。ただ、アラニスの歌声を久しぶりに聴くと、やはり日本の女性ボーカリストは直接的にしろ間接的にしろ彼女の影響下にある人が多いですね。今回のアルバムを聴くと、あきらかに椎名林檎や鬼束ちひろのボーカルスタイルのルーツとしてのアラニスの姿が感じられます。そういう意味でも、椎名林檎や鬼束ちひろのような、情熱系の女性シンガーが好きな方は、改めて本作をチェックしてもよいのでは?

評価:★★★★

Alanis Morissette 過去の作品
Flavors Of Entanglement

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2020年9月18日 (金)

2020年を代表する大ヒット盤

Title:STRAY SHEEP
Musician:米津玄師

今、おそらく日本で最も勢いがあり「売れている」ミュージシャンは米津玄師でしょう。このCDがほとんど売れなくなってしまった今、オリコンで初動売上87万9千枚という驚異的な売上をたたき出し、2週目でミリオンセールスを記録。なんといってもこのアルバム、ストリーミングが解禁されている状態の下でのこの記録となっており、本当に支持されるアルバムというのは、やはりストリーミングや配信ではなく、CDという形で持っておきたい…そう考える人がまだまだ多いという証拠でしょう。その中で、彼は、その音楽が多くの人たちから本当の意味で支持されているからこそ、これだけのメガヒットをたたき出すことが出来た、ということでしょう。

そして、間違いなく2020年を代表する大ヒット作となった本作ですが、その大ヒットも納得の、米津玄師のすごさを実感できるアルバムとなっていました。まず感じるのは、どの曲をシングルカットしても大ヒットしそうなインパクトあるメロディーライン、思わず聴き入ってしまう歌詞の世界、そしてしっかりと作られたサウンドの曲の連続となっており、まさに彼の勢いがそのまま体現化したアルバムとなっています。1曲1曲非常に完成度の高い楽曲は、ある種、大物然とした雰囲気を感じさせます。

前作「BOOTLEG」までは、基本的にオルタナ系のギターロックを主軸とした作品となっていたのですが、今回のアルバムは、「ギターロック」という、よくありがちなタイプのサウンド志向からは完全に脱却しています。和風なメロで妖艶さを感じる「Flamingo」、ホーンセッションを入れてムーディーでファンキーな「感電」、打ち込みを入れたエレクトロダンスチューン「PLACEBO」、ストリングスを大胆に入れてスケール感を出した「馬と鹿」、ストリングスとエフェクトかけたボーカルでダイナミックに仕上げた「海の幽霊」など、もともと雑食性嗜好の強かった彼ですが、その方向性は本作ではより顕著に、さらにより完成度の高い、バラエティー富んだ作風を作り上げています。

また、ボカロP出身のミュージシャンにありがちな、情報量過多で、早くの歌詞が聴き取りにくいスタイルも完全に脱却。まあ、前作「BOOTLEG」あたりから完全に脱却していたのですが、しっかりと言葉を噛みしめるように歌うスタイルもすっかりと定着し、それゆえに歌詞の世界観がより胸に響いてきますし、サウンド的にも無駄をそぎ落としたような構成がグッと多くなったような感じがします。その方向性がもっともよく出たのが、子供たちにとっての国民的大ヒットとなった「パプリカ」のカバーではないでしょうか。比較的賑やかな原曲と比べ、音を比較的シンプルにし、また噛みしめるようにしっかりと歌う米津玄師のスタイルが印象的な楽曲は、明るい雰囲気の原曲とは雰囲気がグッと異なり、エキゾチックのサウンドを聴かせつつ、大人の心にもしっかり響いてくる優れたセルフカバーに仕上がっています。

歌詞の世界観も、初期の作品に見受けられたファンタジックな雰囲気はほとんどなくなり、広い層にアピールできるような言葉を選んだ歌詞を綴っています。ファンタジックな雰囲気がなくなってしまったのは賛否ありそうですし、個人的にはここらへん、初期米津玄師の世界観もよかったんだけどな、とは思うのですが、ただ、初期から続く、社会に対して疎外されたような人の視点から歌われているというスタイルはしっかりと健在。そういう意味では初期の米津玄師とは変わらない方向性も感じられます。

2020年を代表する1枚として、いい意味でのスケール感と完成度を兼ね備えた、優れたポップスアルバム。彼のブレイク以降、ボカロP出身のミュージシャンが多くデビューしていますが、正直言って、格の違いを感じさせる境地に至ってしまった大傑作アルバムだったと思います。ただ一方、ちょっと気になるのが、サウンドはともかくメロディーラインに関して、マイナーコード主体の比較的、似たタイプの曲が多かったという点。ここらへん、現時点においては曲の勢いやクオリティーが勝っているだけに気にならないのですが、ただ、今度、この勢いにブレーキがかかった時にマイナスに作用しそうな感じがして気になります。ここらへん、もうちょっと吹っ切れて、米津玄師らしからぬメロディーの曲なんてのもあればおもしろいかも、とも思うのですが…。

そんな気になる点もあったものの、文句なく、今年を代表する傑作アルバムと言える1枚だったと思います。こういうアルバムがしっかりとヒットするあたり、日本のミュージックシーンも捨てたものじゃないですね。この勢いはまだまだしばらくは続きそうです。

評価:★★★★★

米津玄師 過去の作品
diorama
YANKEE
Bremen
BOOTLEG


ほかに聴いたアルバム

盗作/ヨルシカ

ボカロPとして活躍していたn-bunaとボーカリストsuisによるユニット、ヨルシカのニューアルバム。本作は「音楽を盗作する男」を主人公に、男の破壊衝動を形にした楽曲が収録されたコンセプトアルバム。ギターロックを中心に、レトロポップやジャズなどの要素を加えた、全体的には悲しげな雰囲気の歌詞とメロディーが特徴的。虚無的な歌詞が印象に残る「レプリカント」やアコギで郷愁感あふれる歌と歌詞が魅力的な「夜行」など、印象的な楽曲も少なくありません。コンセプトからして、この手のネット初ミュージシャンにありがちな、頭でっかちなスタイルなのが気になるところですが、まさに力作という表現がピッタリくるような作品に。ただ個人的には、アップテンポな曲にインパクトをつけるため、ハイトーンで疾走感あるサビを持ってくる、という一本調子は気になったところ。ボーカリストのsuisは、ちょっとハスキーさもある低音部を魅力的に出せるボーカリストだと思うので、もうちょっと低音で、しっかりと表現できるような楽曲の方が、より彼女の魅力が出るように思うんだけどなぁ。ここらへん、メロディーラインはもうちょっと練ってほしい感じがしました。

評価:★★★★

ヨルシカ 過去の作品
エルマ

IT'S ALL ME - Vol.1/AI

AIのデビュー20周年を記念してリリースされたミニアルバム。「IT'S ALL ME」というタイトル通り、ソウル、ラテン、ラップ、バラードなどミニアルバムながらも様々な要素を取り入れた音楽性が特徴的で、それにも関わらず、アルバム全体としてしっかりと「AI」らしさを感じさせるアルバムになっています。「Vol.1」というタイトルがついていますが、これ、第2弾第3弾もリリースされるのでしょうか?しっかりとAIの魅力を伝えるような内容になっていただけに、第2弾、第3弾も楽しみです。

評価:★★★★

AI 過去の作品
DON'T STOP A.I.
VIVA A.I.
BEST A.I.
The Last A.I.
INDEPENDENT
MORIAGARO
THE BEST
THE FEAT.BEST
和と洋
感謝!!!!! Thank you for 20 years NEW&BEST

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2020年9月17日 (木)

あいみょん新譜は惜しくも2位!

今週のHot Albums

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

アルバムでは今年最大のヒットとなった米津玄師「STRAY SHEEP」。今週も先週からワンランクダウンながらも3位をキープ。オリコン週間アルバムランキングでも、3万9千枚を売り上げ3位にランクインするなど、まだまだ高い人気を維持しています。さて、昨年、この米津玄師とロングヒットを争ったのがあいみょんの「マリーゴールド」。今週は彼女のニューアルバム「おいしいパスタがあると聞いて」がランクインしてきて注目を集めましたが・・・残念ながらダウンロード数では1位を獲得したものの、CD販売数及びPCによるCD読取数は1位に留まり、総合順位でも2位という結果となりました。オリコンでも初動売上12万枚で2位初登場。前作「瞬間的シックスセンス」の6万1千枚(2位)の倍増近い結果となりました。

あいみょんの前作「瞬間的シックスセンス」は「マリーゴールド」や「今夜このまま」がヒットしている最中のリリースでありながら、予想より売上枚数が伸びず、意外な感じがすると同時に、あいみょん人気が、彼女自身に対してではなく、単なる曲に対する人気に留まっている感があり、これからの行方が危惧されました。しかし、今年に入って「裸の心」がロングヒットを獲得したり、この作品の売上が初動10万枚を超えてくるなど、ちゃんとあいみょん自身にもファンがついてきた感じがします。今後も続々とヒット作をリリースしてくる予感がします。

一方で、あいみょんを下して1位を獲得したのが韓国の男性アイドルグループSEVENTEEN「24H」。日本盤としては2枚目となるミニアルバム。CD販売数1位、ダウンロード数5位、PCによるCD読取数8位という結果ながらも、総合順位は1位となりました。オリコンでは初動売上24万7千枚で1位初登場。直近のアルバムは韓国盤「An Ode」で、同作の5万2千枚(2位)からアップ。国内盤の前作「WE MAKE YOU」の12万7千枚(2位)からもアップしています。

続いて4位以下の初登場盤ですが、4位にN/A「NO GOOD」がランクイン。元ジャニーズの錦戸亮と赤西仁のユニットによるデビューアルバム。こういうジャニーズ脱退組同士が組んで、ジャニーズ時代のグループとは全く関連ない新たなユニットを結成するというのは珍しい感があります。CD販売数は3位でしたが、ダウンロード数7位、PCによるCD読取数11位で、総合順位は4位。オリコンでは初動売上3万7千枚で4位初登場。錦戸亮ソロの前作「NO MAD」の初動7万6千枚(3位)よりダウン。ただ、赤西仁の直近作のベスト盤「OUR BEST」の2万5千枚(1位)や、直近のオリジナルアルバム「THANK YOU」の2万枚(2位)からはアップしています。

6位には「FINAL FANTASY XIV:SHADOWBRINGERS-EP2」がランクイン。「FINAL FANTAXY XIV」の大型アップデートバッチ5.3「クリスタルの残光」に収録された曲をまとめた配信限定のミニアルバム。ダウンロード数2位にランクインし、総合順位でもベスト10入りしてきました。

7位と8位にはBABYMETAL「LEGEND - METAL GALAXY [DAY-1] (METAL GALAXY WORLD TOUR IN JAPAN EXTRA SHOW)」「LEGEND - METAL GALAXY [DAY-2] (METAL GALAXY WORLD TOUR IN JAPAN EXTRA SHOW)」が並んでランクイン。今年1月に幕張メッセで行われたワンマンライブ「METAL GALAXY WORLD TOUR IN JAPAN EXTRA SHOW LEGEND – METAL GALAXY」を全編収録したライブアルバム。CD販売数はそれぞれ7位、8位、ダウンロード数は8位、9位、PCによるCD読取数は15位、16位といずれもDAY-1、DAY-2の順に並んでいます。オリコンではいずれも初動売上5千枚で9位、10位にランクイン。前作「METAL GALAXY」の7万3千枚(3位)からはダウン。

9位には韓国の男性アイドルグループSHINeeのメンバーであるテミンのソロアルバム「Never Gonna Dance Again : Act 1」がランクイン。韓国盤のため、ビルボードではダウンロード数4位のみのランクインでベスト10入りしています。オリコンでは初動売上5千枚で11位にランクイン。前作は国内盤の「FAMOUS」で、同作の初動売上5万枚(1位)からは大きくダウンしています。

最後10位にはスタァライト九九組「再生讃美曲」がランクイン。ミュージカルやアニメで展開しているメディアミックス作品「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」の劇場盤「少女☆歌劇 レヴュー・スタァライト ロンド・ロンド・ロンド」の主題歌を収録したCD。CD販売数6位、PCによるCD読取数46位で総合順位は10位に。オリコンでは初動売上7千枚で7位に初登場しています。

今週のHot Albumsは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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2020年9月16日 (水)

通算5度目の1位獲得

今週のHot100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

これで5度目の1位獲得となります。

今週の1位は先週の2位からワンランクアップでYOASOBI「夜に駆ける」が獲得。7月27日付チャート以来8週ぶりの1位獲得で、これで通算5度目の1位獲得となりました。ストリーミング数及びYou Tube再生回数は先週から変わらず1位。ただダウンロード数は4位から6位にダウンしています。ちなみに先週ベスト10入りしてきた「群青」も今週8位にランクアップ。今週も2曲同時ランクインとなっています。

2位には韓国の人気アイドルグループBTS「Dynamite」が先週の4位からランクアップ。2週ぶりのベスト3返り咲きとなりました。ダウンロード数は9位から11位にダウンしましたが、ストリーミング数3位、ラジオオンエア数2位は先週と同順位をキープ。ストリーミング数は4位から2位にアップしており、ロングヒットの兆しが見える結果となっています。

3位も韓国発の日本人女性アイドルグループNiziU「Make you happy」が7位から3位に一気にアップ。こちらは先日放送された日テレ系音楽番組「THE MUSIC DAY」でテレビ初パフォーマンス披露となった影響も大きい模様。You Tube再生回数は先週から3位をキープしているほか、ダウンロード数が13位から5位に一気にアップ。ストリーミング数も6位から2位とアップしており、これで11週連続のベスト10ヒットを記録しています。

続いて4位以下の初登場曲ですが、今週は初登場は1曲のみ。9位に名古屋を拠点とする男性アイドルグループBOYS AND MEN「Oh Yeah」が初登場でランクイン。CD販売数1位だったものの、PCによるCD読取数74位、Twitterつぶやき数61位、そのほかは圏外というチャート。完全にコロナ禍の今を意識した、前向きなメッセージソングとなっています。オリコン週間シングルランキングでは初動売上4万2千枚で1位初登場。前作「ガッタンゴットンGO!」の9万5千枚(1位)よりダウンしています。

さらに今週はベスト10返り咲きが1曲。Official髭男dism「Pretender」が先週の12位からランクアップし、10位にランクイン。4週ぶりのベスト10返り咲きとなっています。特にストリーミング数が8位、You Tube再生回数が10位とまだまだ上位にランクインしており、根強い人気を感じさせます。

そして今週は、初登場曲が1曲だけということもあり、4位以下もロングヒット曲が並んでいます。まず4位にあいみょん「裸の心」が先週からワンランクアップ。これで自己最高位タイとなりました。特にダウンロード数が3週連続2位。ストリーミング数も先週から変わらず5位をキープしており、ヒットの大きな要因となっています。ただYou Tube再生回数のみが41位と伸び悩んでいるのが気になるところですが。

5位には米津玄師「感電」が先週の3位から2ランクダウン。You Tube再生回数は5位をキープしていますが、ダウンロード数は3位から8位、ストリーミング数も2位から4位と軒並みダウン。まだどちらも上位をキープしていますが、その動向が気にかかるところです。

瑛人「香水」は6位と先週から同順位をキープ。ただダウンロード数は6位から7位、ストリーミング数は4位から6位、You Tube再生回数も2位から4位と軒並みダウン。ただカラオケ歌唱回数が今週で9週連続1位獲得とがんばっています。確かに、カラオケに合いそうなタイプの曲ですからね…。

一方、LiSA「紅蓮華」はここに来て8位から7位とアップ。特にダウンロード数が7位から3位にアップしているほか、You Tube再生回数も20位から16位にアップ。まだまだ強さを感じさせる結果となっています。

今週のHot100は以上。明日はHot Albums!

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2020年9月15日 (火)

シンプルにメッセージを聴かせる

Title:12發
Musician:般若

2018年には初となるベストアルバム「THE BEST ALBUM」をリリース。さらに昨年は初となる日本武道館ワンマンを実施するなど、その人気を高め、着実に一歩ずつ前に進んでいるラッパー、般若。直近作「IRON SPIRIT」は筋トレをテーマとしたコンセプトアルバムだったので、純然たるオリジナルアルバムとしては「話半分」以来、約2年3ヶ月ぶり、ベスト盤リリース及び武道館ライブ実施後、初となるオリジナルアルバムとなっています。

基本的に般若のスタイルというと、サウンド的には時代の先端を行くようなエッジの効いたもの…といった感じではなく、むしろ比較的シンプルなサウンドながらも、しっかり日本語をかみしめるように、そのメッセージを綴るラップを聴かせるスタイルが特徴的。そのスタイルはアルバム毎に徐々に研ぎ澄まされていった感があるのですが、今回のアルバムもまさに、さらなるシンプルなサウンドでメッセージをしっかりと伝える、そんな般若のスタイルをさらに追及した1枚となっています。

そんな中でもこのアルバム、特に前半はユーモラスなラップを楽しめる作品が続いています。「SORIMACHI」はタイトルは、反町隆史の楽曲「POISON」から、「言いたいこと言えない世の中じゃPOSION」というキラーフレーズからスタートするコミカル、しかし反骨心はふれるナンバー。続く「イキそう」も、HIP HOPシーンに対して中指を立てるような彼らしいナンバーながらも、タイトルから想像できるようなエロ歌詞が展開し、ユニークで笑えるラップに仕上がっています。

続く「今はALONE」は、心が離れていこうとする恋人に対する切ないラブソングで、聴いていて心が切なくなるようなラップになっています……と思えば、続く「花金ナイトフィーバー」はタイトル通りのディスコチューンなのですが、結婚していながらも一夜のアバンチュールをもとめちゃうような不埒ものがテーマになっていて(笑)、ある意味、この2曲の振れ幅もまた、非常にユニークです。

ユニークな前半から変わって、後半はそのメッセージを聴かせる楽曲が並びます。「いつもの道」は…最初、よくわかりにくかったのですが、これ、長く飼っている愛犬へのメッセージですね。でも、家族の一員として犬を愛する気持ちは伝わってきます。さらにアルバムの中で間違いなく泣かせてくるのは「シングルマザー」。タイトル通り、シングルマザーとして育ててくれた母親への感謝の言葉を伝えるメッセージソング。母親へのメッセージ…と言われると、陳腐な感すらするかもしれませんが、シングルマザーとして子供を育てた母親のリアルを描いた歌詞はやはり胸に響きます。さらに仲間たちからのメッセージを綴った「最後のワンピース」に、最後は爽やかなトラックで締めくくる「手」で、前向きなメッセージを提示。コミカルな前半から一転、最後はしっかりと聴かせる楽曲を並べており、聴いた後にほどよい心地よさを感じさせる構成になっていました。

まさにコミカルな般若から、真面目な般若までバランスよく、しっかりと収録したアルバムで、彼の魅力をしっかりと伝えた1枚となっています。いままでのアルバムと比べて、決して目新しさはないかもしれませんが、それでも彼が伝えたいメッセージをしっかりと伝えた、ある意味、非常に真面目な1枚に感じました。タイトル通り、全12曲の内容なのですが、非常に内容の濃さを感じさせるアルバム。そのメッセージ、しかと受け取りました。

評価:★★★★★

般若 過去の作品
ドクタートーキョー
HANNYA
グランドスラム
THE BEST ALBUM
話半分
般若万歳II
IRON SPIRIT


ほかに聴いたアルバム

Funkvision/西寺郷太

NONA REEVESのボーカリストで、最近ではマイケル・ジャクソンやプリンスなどの80年代ポップミュージシャンの評論家としての活躍も目立つ西寺郷太のソロアルバム。昨年放送された、マイケル・ジャクソンの児童虐待について描いたドキュメンタリーの影響で、一時期はキング・オブ・ポップとして絶賛の嵐だったマイケルの取り上げ方が、再び微妙となる中、今回のアルバムでもマイケルの「P.Y.T.(Pretty Young Thing)」のカバーを収録するなど、変わらぬマイケル愛を感じます。今回はコロナ禍の中、自宅スタジオを活用して作られたアルバムということですが、それだけに比較的、シンセを中心としたシンプルなサウンドが目立ったように感じます。基本的には80年代ポップスを引き継いだ、彼の趣味性の高い方向性も特徴的。NONA REEVES楽曲以上に、彼の興味がストレートに反映されたアルバムになっていますが、好き勝手に作ったアルバムだっただけに、NONAの曲に比べると、全体的にインパクトは弱かったかな?良くも悪くも西寺郷太という個性が反映されたアルバムでした。

評価:★★★★

VINTAGE/G-FREAK FACTORY

このアルバムが、いきなりオリコンチャート9位にランクインしてきて、非常にビックリしました。え?G-FREAK FACTORYって、10年以上前にライブによく足を運んでいたころ、インディー系バンドのイベントで、よく名前を見かけたバンドだったよね?なんで今さら??と思いつつ、実際、結成から20年以上のキャリアを誇るベテランバンドなんですよね。途中、活動休止などもありつつ、徐々に人気を上げ、8枚目のアルバムで見事初となるオリコンでのベスト10ヒットを獲得したようです。

ただ名前だけは昔から知っていて、レゲエ系のバンド、ということも知っていたのですが、なにげに音をきちんと聴くのは今回がはじめて。楽曲としてはヘヴィーロックにレゲエのリズムを入れたスタイルのロックバンド。方向性はSiMに近いのでしょうが、楽曲的にはもうちょっと爽やかでポップな感じ。確かに、いい意味で野外ライブ向けのバンドといった感じがします。長年、活動を続けてきたバンドなだけに、尖った感じはないのですが、安心して楽しめるロックといった感も。コロナ禍でロックイベントがなかなか開催できないのは彼らにとって逆風でしょうが、ただ、これだけの楽曲を作っていれば、コロナ禍も乗り切れられそう。ベテランバンドですが、彼らの活躍はまだまだ続きそうです。

評価:★★★★

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2020年9月14日 (月)

Arcaのパーソナリティーが反映

Title:KiCk i
Musician:Arca

ベネズエラのトラックメイカーArca。Bjorkのアルバムのプロデュースで話題となり、さらにはKanye WestやFKA Twigsとの仕事も話題となり、一躍注目を集めるミュージシャンとして活躍しています。そんなArcaの約3年ぶりとなるオリジナルアルバムなのですが、まず、ジャケット写真に驚かされます。どこか日本のフィギュアみたいな感じもする武器に身を固め、こちらをじっと見つめる彼女・・・・・・って、あれ?Arcaって女性だったの?と思ってしまうのですが・・・今回、彼女は自らをノンバイナリー(性認識が男性・女性どちらにもはっきりと当てはまらないという考え)であると公言。今回、このようなジャケット写真を公表するに至ったようです。今回のアルバムもいきなり1曲目は「Nonbinary」という曲からスタートします。

ただもっとも、Arca自身、いままで音楽に対してそのパーソナリティーを前面に出してきたようなミュージシャンではありません。そういうこともあって今回、彼女がノンバイナリーとしてその姿をあらわしたとしても、さほどの違和感はありませんでした。ただ、今回のアルバムの特徴としては、彼女がノンバイナリーであることを公表し、それを前面に出したことによって、アルバムが非常にパーソナリティーな内容になったように感じます。

そのため、無機質的な感触が強かった以前のアルバムと比べると、楽曲として暖かみが増して、よりポップにシフトした印象を受けます。具体的に言うと、以前のアルバムに比べて「歌モノ」がグッと増えています。1曲目「Nonbinary」からして、おそらく彼女の独白であろうポエトリーリーディングのような語りが展開される楽曲になっていますし、「Calor」「Machote」のような彼女自身がその歌声を聴かせる楽曲も目立ちます。さらにラストを締める「No Queda Nada」では、彼女が伸びやかな歌声で歌い上げる荘厳な楽曲に仕上がっており、Arcaがボーカリストとして前面に出てきている楽曲になっています。

そのほかにも豪華なゲストボーカルが参加した「歌モノ」の曲が目立ちます。アルバムのハイライトとも言えるのが間違いなく、かのBjorkが参加した「Arterwards」で、荘厳なエレクトロサウンドを聴かせる、しっかりArcaらしさを押し出した曲であるのですが、Bjorkの感情たっぷりに歌い上げるボーカルが前面に出ており、完全にBjrokの楽曲になってしまっています…が、相手がBjrokでは仕方ないですね。このままではBjorkの曲として終わってしまうと思ったのか(笑)、最後はArca自身がボーカルで登場し、曲を締めくくりました。

他にもROSALIAが参加した「KLK」ではラテン調のビートを披露しつつ、軽快なポップチューンを聴かせてくれたりしつつ、逆に、「La Chiqui」ではSOPHIEがゲストボーカルとして参加し、幻想的な歌声を聴かせつつ、強烈なハイトーンビートでアバンギャルドな作風に仕上げてきたりと、歌モノをいれつつポップでまとめながらも、Arcaらしい挑戦心、アバンギャルドさはしっかりと健在していました。

セルフタイトルとなった前作「Arca」もポップな方向性にシフトした作品になっていましたが、今回の作品は、よりArcaというパーソナリティーを押し出し、さらなるポップに仕上げた作品に。ただもちろん、以前からのArcaらしさも健在で、彼女にしか作りえないような独特の「ポップス」に仕上がっていました。今後は、より彼女のパーソナリティーを反映した作風にシフトしていくのでしょうか。今後の方向性にも要注目です。

評価:★★★★★

Arca 過去の作品
Xen
Sheep(Hood By Air FW15)
Mutant
Arca

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2020年9月13日 (日)

マンウィズの良さと悪さ

Title:MAN WITH A "BEST"MISSION
Musician:MAN WITH A MISSION

ご存じ、頭はオオカミ、身体は人間という「究極の生命体」(という設定の)5人組から成るバンド、MAN WITH A MISSION。別名「オオカミバンド」としても知られる彼らたちも今年、結成10周年。比較的、結成後は早いタイミングでブレイクしたため、まだ10周年なんか…という感覚もないこともないんですが、今年は、その結成10周年を記念して、様々なアルバムがリリースされました。いままで、Bサイドベストとリミックス集がリリースされましたが、本作はその第3弾となるアルバム。全17曲入り(配信では全20曲入り)となるベストアルバムがリリースとなりました。

MAN WITH A MISSIONというと、デビュー直後から話題になっていたバンドのため、個人的にも比較的、デビュー直後のアルバムからチェックしてきたバンドではあります。ただ、彼らの曲の印象というと、曲単位ではカッコいい曲が少なくないものの、アルバム単位では悪くはないもののいまひとつ絶賛し切れない…そんな作品が続いていたような印象を受けます。具体的に言うと、全英語詞の曲については洋楽テイストも強くカッコよさを感じるものの、日本語詞の曲はどこか悪い意味でJ-POP的なベタさを感じて、いまひとつ面白味に欠ける…そんな印象を受けていました。

いままで漠然とそういう印象を抱えていた彼らでしたが、今回のベスト盤で、彼らの代表曲を網羅的に聴いて、そう感じてしまう理由がはっきりしたように思います。端的に言ってしまうとMAN WITH A MISSIONの楽曲はサウンドは非常にカッコいいのに、メロディーラインが良くも悪くもわかりやすいJ-POP的だから、という理由が大きいのではないでしょうか。

例えばサウンド面で言えば、「Rock Kingdom」などはゲストで参加した布袋寅泰のギターリフ主導のサウンドが非常にカッコいい楽曲。「Get Off of My Way」もファンキーなリズムとラップがカッコいいミクスチャーロックナンバーですし、「Hey Now」も疾走感あってスペーシーなエレクトロサウンドが、どこかBoom Boom Satellitesを彷彿とさせつつ、非常にカッコいいエレクトロロックに仕上がっています。このように今回のベスト盤にも非常にカッコいいサウンドを聴かせてくれる楽曲が並んでいます。

ただ一方で、例えば「higher」などもダイナミックなロックチューンでありつつ、メロディーラインは良くも悪くもわかりやすいJ-POP的なメロディーラインがインパクトに。「My Hero」もサウンド的にはへヴィーに聴かせるもののメロディーは哀愁感ありある種キャッチーな、売れ線のJ-POP的なフレーズと言えるでしょう。このようにサウンドはカッコいいのですが、メロディーラインが悪い意味で「ベタ」と感じさせるような曲が目立ちます。

もっともサウンドの面でもミクスチャーロックにしろエレクトロサウンドにしろ、決して目新しいものではなく、比較的よくありがちな「王道」なサウンドであり、見方によっては「ベタ」と捉えられるようなもの。そのため、ある意味、ベタなもの同士でメロディーラインとの相性もよく、それが彼らが比較的早い段階でブレイクした理由のようにも感じます。ただ、その「ベタさ」が、「耳馴染みやすい」という方向にころぶのか、それとも「よくありがちで平凡」という方向にころぶのかによって印象が大きく変わるように感じます。実際、英語詞の曲に関しては、洋楽テイストが強く出た結果、J-POP的な平凡な印象が薄れ「耳馴染みやすい」という利点がより強く出た一方、日本語詞の曲に関しては「よくありがちで平凡」という印象が強く出てしまった…それが彼らの曲が、曲単位ではカッコいいのにアルバム単位では今ひとつと感じてしまった大きな要因のようにも感じました。

今回のようなベスト盤であれば、彼らの曲の中でも特に優れた曲を並べていることもあり、カッコイイという印象が強く出た内容になっており、最後まで「平凡」という印象をあまり受けることなく、彼らのカッコよさだけを十分に感じるアルバムに仕上がっていました。もっとも、このベタさは「わかりやすい」という意味で、彼らの魅力の一つとも言えるわけで、必ずしも否定できる要素ではないと思うのですが…今度、彼らがどのように展開していくのか、10周年を迎えベスト盤でひとつの区切りを迎えた彼らの今後に注目しましょう。

評価:★★★★★

MAN WITH A MISSION 過去の作品
Trick or Treat e.p.
MASH UP THE WORLD
Beef Chicken Pork
Tales of Purefly

5 Years 5 Wolves 5 Souls
The World's on Fire
Out of Control(MAN WITH A MISSION x Zebrahead)
Dead End in Tokyo European Edition
Chasing the Horizon
MAN WITH A "B-SIDES & COVERS" MISSION
MAN WITH A "REMIX" MISSION


ほかに聴いたアルバム

立ち上がるために人は転ぶ/GAKU-MC

ここ最近、人生の応援歌的な曲が多いGAKU-MCですが、こういうアルバムタイトルを選ぶあたり、行き着くところまで行きついてしまった感もあります。タイトルだけで拒否感を抱く人も少なくないでしょうね。個人的にも若干、懸念をしながら聴き始めました。内容はHIP HOPというよりも爽やかなポップがメインという感じ。まさに人生の応援歌的な曲もあるのですが、さすがにそれなりに年齢を重ねている彼だけに、ただ不必要に頑張れというだけのような、一昔前の「青春パンク」のような露骨かつ単純な歌詞はありませんでしたが…ただ、あまりに漂白されたような歌詞に、鼻白んでしまうのは、ここ最近の彼の曲と同じ。一応アルバム毎に聴いてきたけど、そろそろ聴き続けるのは辛いかなぁ…。

評価:★★★

GAKU-MC 過去の作品
世界が明日も続くなら
ついてない1日の終わりに
Rappuccino

Tragicomedy/SHE'S

4枚目のフルアルバムである本作がいきなりベスト10ヒットを記録した4人組ロックバンド。いままでノーチェックだったのですが、ピアノロックバンドということで、ピアノロックが好きなこともありはじめてチェックしてみたのですが…率直に言うと、期待していたほどおもしろくありませんでした。確かにピアノの音色が主軸となっているサウンドではあるのですが、これといって聴かせるようなピアノのフレーズもなく、ポップで聴きやすいメロディーとはいえ、メロは平凡。悪くはないのですが、特段、これといって良さも感じられず。悪くはなかったので、次の作品も聴いてみてもいいかもしれないですが…うーん。

評価:★★★

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2020年9月12日 (土)

シンプルゆえに味わい深い傑作

Title:folklore
Musician:Taylor Swift

今や、おそらくアメリカで最も人気のあるシンガーソングライターの一人となったテイラー・スウィフト。日本でも高い人気と知名度を誇る彼女ですが、そんな彼女の約1年ぶりとなるニューアルバム。リリース公表日がリリース日の1日前というサプライズリリースということでファンを驚かせましたが、突然のリリースにも関わらず、ビルボードチャートでは当然のように1位を獲得。大ヒットとなっています。

さてそんな今回のアルバムですが、プロデューサーとして以前からの盟友、ジャック・アントノフに加えてThe Nationalのアーロン・デスナーが参加。17曲中11曲をアーロンがプロデューサーとして参加しています。また、コロナ禍の中作成されたアルバムということで、作成は主にリモートによって作成されたようで、さらにほとんどの楽器をジャックとアーロンが演奏するという、ある意味、宅録的なアルバムに仕上がっています。

そんなアルバムということもあって、アルバム全体としては比較的、シンプルな作品として仕上がっています。カントリー色の強い「Seven」やアコギでフォーキーな作風に仕上がっている「Illicit Affairs」「betty」などといった曲もあり、ここらへんは以前からの彼女らしい曲調と言えるかもしれません。ただ、全体的にはカントリー、フォーク色の強い以前の彼女のアルバムのような作品…といった感じではありません。シンセが入って分厚い音を聴かせる「This Is Me Trying」や、ピアノとストリングスで幻想的に聴かせる「Epiphany」といったような、軽く幻想的な作風が本作のひとつの特徴となっています。

他にも打ち込みのリズムをバックにメロディアスに聴かせる「The Last Great American Dynasty」や、静かなギターサウンドをバックに伸びやかなボーカルで聴かせる「Peace」など、シンプルながらもしっかりとメロディーを聴かせるポップチューンがメイン。エレクトロサウンドを取り入れて比較的ポップで派手目な作品が多かった前作「Lover」と比べると「地味目」という印象すら受けるかもしれませんが、The Nationalのアーロン・デスナーがプロデューサーとして参加している影響でしょうか、インディーロックの色合いを強く感じるような作風となっています。そのため、地味という印象を受けるアルバムですが、その実、アルバムのバリエーションも豊かで、聴けば聴くほど味が出てくるような、味わい深い作風になっていたように感じます。

そんなシンプルな作風がゆえに、テイラーの表現力あふれるボーカルの魅力を味わえるのも本作の特徴。清涼感あるボーカルを聴かせる「Mirrorball」や、ピアノをベースとしたシンプルなサウンドをバックに表現力豊かに聴かせる「Mad Woman」などといった、彼女のボーカリストとしての魅力が冴えた作品が並びます。デビュー当初はわずか16歳という若さも話題となった彼女も、今年で既に30歳。女性に対して年齢の話をするのは失礼ではあるのですが、既にベテランの域に達した彼女。しかし、そのキャリアがしっかり裏付けられたボーカルが実に魅力的でした。

さらにアルバムの中のひとつのハイライトと言えるのが4曲目の「Exile」でしょう。この作品はピアノをベースとしたサウンドでゆっくりと聴かせるミディアムチューンなのですが、Bon Iverがゲストボーカルとして参加。彼とのデゥオにより、彼女の清涼感ある歌越えとBon Iverの骨太なボーカルのバランスも実に見事。楽曲としてのスケール感もあり、強いインパクトのある作品に仕上がっています。

リリース以来、各所で大絶賛を受けている本作ですが、確かにそれも納得と言えるような傑作だった本作。個人的にも、最初聴いた時は、地味な作風にさほどピンと来なかったのですが、2度3度聴くうちに魅力にはまっていってしまい、今では彼女の最高傑作であり、年間ベストクラスの傑作ではないか、と思うほどに至っています。こういう地味目な作品をしっかりと聴かせるあたり、本当に実力のあるミュージシャンと言えるのでしょうね。彼女のすごさを見せつけた傑作アルバムでした。

評価:★★★★★

TAYLOR SWIFT 過去の作品
FEARLESS
RED
1989
REPUTATION
Lover

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