2023年3月20日 (月)

ブラジル音楽界の巨匠による2作品

今日紹介するのは、ブラジル音楽界の巨匠、レチエイス・レイチに関する2枚のアルバム。今年、日本独自でCD化され、話題を呼んでいるようです。

Title:O enigma Lexeu
Musician:Letieres Leite Quinteto

レチエイス・レイチというミュージシャンは音源はもちろん、名前を聴くのも今回はじめてのミュージシャンです。1959年にブラジル北東部のバイーア州で生まれた彼は、アフロブラジリアンをベースとした音楽で特に2000年代のブラジルの音楽シーンに大きな影響を与えたそうです。残念ながら2021年に新型コロナウイルスにより61歳という若さで生涯を終えました。こちらはそんな彼がクインテットを率いて録音した1枚。もともと2019年に配信限定でリリースされてリアルタイムでも話題になったそうですが、このたび、あらためてCD化されたようです。

音楽の紹介としてはクロスオーバー・ジャズという表現を使っており、類似のミュージシャンとしてウェザーレポートのようなフュージョンジャズ系のミュージシャンの名前があげられています。確かに、基本的にはシンプルで、比較的王道を行くような爽快なジャズがメイン。メロディアスであか抜けたサウンドは、日本でも広いリスナー層が楽しめそうな作品となっています。

特に前半の「Tres Yabas」などは、まさにメランコリックな美しいピアノの調べが耳を惹きますし、「Tramandai」も哀愁感たっぷりのサックスの音色が胸に響きます。ラストの「Mestre Moa do Katende」もテンポのよい軽快なジャズナンバーになっており、日本でもおしゃれなラウンジに流れてきそうな・・・・・・という表現は、あまり誉め言葉にはなっていませんか?

ただ、これだけだとよくありがちなクロスオーバー系のジャズユニットということになるのですが、彼らがユニークなのはアフロブラジリアンというジャンル通り、アフロ系のサウンドを組み込んでいる点でしょう。1曲目の「Casa do Pai」は郷愁感あふれる作品なのですが、パーカッションの音色が響いていますし、その後も軽快でトライバルなパーカッションがアルバムの中のひとつの重要なキーとして機能しています。

フュージョン系ジャズのような耳なじみやすさがありつつ、一方ではトライバルなパーカッションが独特のグルーヴを作り上げている、そんな一味変わったジャズの傑作アルバムになっていました。遅ればせながら、レチエイス・レイチという才能に惹かれた1枚でした。

評価:★★★★★

Title:Cancao da Cabra
Musician:Sylvio Fraga&Letieres Leite

こちらはブラジルはリオ・デ・ジェナイロ出身のシンガーソングライター、シルヴィオ・フラーガがレチエイス・レイチとタッグを組んで作成されたアルバム。こちらも2019年にリリースされた作品が日本限定でCD化されたようです。

クロスオーバー・ジャズがベースだった上記「O enigma Lexeu」と比べると、こちらはあくまでもシルヴィオ・フラーガがメインのアルバム・・・なのですが、かなり多彩な音楽性を聴かせてくれます。1曲目の「Eua」からして、いきなりギターロックの作品になっており、ちょっとビックリしますし、逆に「O Lagarto e o Gato Largado」は「O enigma Lexeu」にも通じるような、弦楽器の重奏を美しく聴かせる作品に。かと思えばタイトル曲である「Cancao da Cabra」はアコースティックギター1本を静かに爪弾きながら、メランコリックな歌声を聴かせる作品になっています。

その後も「Sono do Burgo」「Sei da Cor da Noite」はブラジル音楽の色合いが濃い作品になっていますし、かと思えば終盤「Sao Bernardo」はメタリックなサウンドからスタート。アバンギャルドな作風かと思えば、後半はサックスをベースに伸びやかな歌声を聴かせる曲調に。ラストの「Nevoeiro」もアコースティックギターをベースにしつつ、アバンギャルドさを感じさせる作品に仕上がっています。

全体的にはラテン系やブラジル音楽をベースとしながら、メランコリックなメロを重ねつつ、一方でどこかポストロック的なアバンギャルドさも垣間見れる作品になっていたように感じます。クロスオーバー・ジャズに徹していた「O enigma Lexeu」に比べると、よりレチエイス・レイチの幅広い音楽性が垣間見れる作品になっていたようにも感じました。

どちらもレチエイス・レイチの才能を強く感じられる作品。いまさらながらですが、わずか61歳という早世が惜しまれます。ブラジル音楽好きに限らず、広いリスナー層が楽しめる傑作アルバムでした。

評価:★★★★★

| | コメント (0)

2023年3月19日 (日)

現役感バリバリ

Title:Mercy
Musician:John Cale

先日、御年75歳でバリバリの現役として活躍しているIggy Popのニューアルバムを紹介しました。今回紹介するのは、The Velvet Undergroundのメンバーとしてもおなじみのジョン・ケイル。なんとこの3月で御年80歳!!そんな彼が、なんとオリジナルアルバムをリリース。約6年ぶりとなる新作ということですが、さらにそのアルバムが、非常に挑戦的な作品になっていたというから驚かされます。もともと彼自体、キャリアのスタートからして現代音楽だったようですが、その時の挑戦心が、80歳となった今でも全く衰えていないのが驚かされます。

アルバムはまずタイトルチューンの「MERCY」からスタートしますが、ドリーミーなエレクトロチューン。続く「MARILYN MONROE'S LEGS(beauty elsewhere)」はタイトルとは裏腹に、メタリックなエレクトロサウンドを入れつつ、不気味で、ちょっとドリーミーな雰囲気が独特な作品となっています。

このように基本的に作品はドリーミーなサウンドで展開していきます。そんな中でもお経のような淡々としたボーカルが不気味に響く「THE LEGAL STATUS OF ICE」はメタリックなサウンドが特徴的。メランコリックな歌を聴かせる「I KNOW YOU'RE HAPPY」から、ラストはピアノやストリングスの音を物悲しく聴かせる「OUT YOUR WINDOW」も、金属音を響かせるようなピアノの音色がどこかメタリック。ラストはどこか無機質なメタリックさを感じさせる楽曲で締めくくられます。

そんな本作の中で、もうひとつ特徴なのはジョン・ケイルのボーカルでしょう。上にも書いた通り、御年80歳の彼。もちろん、もう「おじいさん」の声なのですが、そんな渋みのある声をアルバムの中で上手く生かしています。全体的にはサウンドのひとつとして楽曲に溶け込ませているような曲が多いのですが、「TIME STANDS STILL」ではメランコリックに力強く歌い上げていますし、「I KNOW YOU'RE HAPPY」では前述のようにメランコリックな歌を聴かせてくれます。彼の渋みのあるボーカルが、本作では重要な味になっていました。

また、もう一つ大きな特徴が、若手ミュージシャンが多く参加している点。特に「STORY OF BLOOD」では、今話題の女性シンガー、Weyes Bloodが参加。その歌声を聴かせてくれていますし、「EVERLASTING DAYS」ではAnimal Collectiveが参加。他にも様々なミュージシャンが参加しています。ともすればおじいちゃんと孫くらいの年の差がありながら、これだけ多くのミュージシャンに声をかけて参加させているあたり、彼の若々しさと年をとっても変わらない挑戦心を感じます。

もちろん、その結果としてのアルバムの出来が悪いわけありません。あのジョン・ケイルだから、という点抜きとして、現役感をバリバリ感じられる文句なしの傑作アルバムに仕上がっていました。しかし、自分が80歳になった時、これだけ柔軟に生きられるのか・・・ということを考えると、あらためてジョン・ケイルのすごさを感じ入ります。これだけ若々しいんだから、まだまだ次も、次の次も、新作を世に送り出してくれそうですね。いつまでもお元気で!!

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

NO THANK YOU/Little Smiz

Little

前作「Sometimes I Might Be Introvert」が大絶賛を受け、イギリスを代表する音楽賞、ブリッド・アワードで最優秀新人賞を獲得するなど、一躍注目のミュージシャンとなった、イギリスのラッパー、Little Simzの新作。HIP HOPを主軸にしつつ、メランコリックな歌も聴かせてくれるポップな作風が魅力的。また、エレクトロサウンドやトライバルなリズム、ジャズやオーケストラサウンドなど幅広い音楽を取り入れた作風に仕上げており、最後まで飽きさせません。前作に引き続き、本作もかなり高い評価を受けそう・・・。非常に自由度の高い作品ながらも、彼女の実力も実感できた傑作でした。

評価:★★★★★

| | コメント (0)

2023年3月18日 (土)

ソロでは初参加!

奥田民生2023 ラビットツアー~MTR&Y~

会場 日本特殊陶業市民会館フォレストホール 日時 2023年3月1日(水)19:00~

Okudatamio

奥田民生のソロライブにはじめて足を運んできました!以前、ユニコーンのライブに足を運んだことあるので、奥田民生自体はそこで拝見したことがあるのですが、ソロは初。やはりユニコーンのライブを見たからには、奥田民生のライブも一度は見ておかないと・・・ということで足を運んできました、市民会館。コロナ禍の規制もなくなりつつある中、会場は満員・・・とまでは残念ながら行かなかったようですが、ほぼ9割以上の入りでした(ただ、2階席以上の状況はわからないのですが・・・)。

定時を10分くらいたった時にメンバーがステージ上に登場。ステージの証明が明るくなることなく、メンバーが登場してきたので、最初はベースの小原礼を奥田民生本人だと勘違いしました・・・。その後、最後に奥田民生本人が飄々とした雰囲気で登場。ライブがスタートとなりました。

最初は「太陽が見ている」からスタート。その後「無限の風」を挟み、「月を超えろ」が登場。ステージバックには大きな「月」のセットが浮かび上がります。その後、最初のMCへ。メンバー紹介となるのですが、特に「コント」的な演出もなく、和気あいあいとした雰囲気ながらも、楽屋的なノリでのメンバー紹介。ある意味、奥田民生らしい肩の力が抜けたMCが展開されます。

その後は「ライオンはトラより美しい」「カヌー」「音のない音」と続きます。この日は特に特定のアルバムのリリースツアーではなく、過去のベスト的な選曲となっているのですが、ヒット曲やシングル曲の連続でなく、知る人ぞ知る的な曲の選曲となっているのも奥田民生らしさを感じます。

続くMCも、名古屋ネタとなりましたが、こちらも良くも悪くも楽屋でのトークそのままのノリで。ただMC明けの「愛のボート」では最後にバンドメンバーによるジャム演奏を披露。ロックバンドとしての実力を見せつけてくれます。「白から黒」でもエレピのソロをバチっと決めて、まさにプロフェッショナルとしての実力を強く感じるステージになっていました。

後半は「明日はどうだ」でも会場のテンションも上がっていきます。ここから一気に後半戦へ。会場のテンションがあがる中、最後は「イナビカリ」「手紙」そして「御免ライダー」で締めくくります。

会場はもちろんアンコールへ。こちらも比較的早めにメンバーは再登場。簡単なMCの後、「さすらい」へ。これまた会場は盛り上がり、ラストは「快楽ギター」へ。会場の盛り上がりの中、ライブは終了。約2時間弱のステージでした。

今回、はじめての奥田民生ソロのステージでしたが、全体的に淡々とした雰囲気で進んだステージ。特に肩の力が抜けたようなステージだったのは彼らしさを感じます。また、MCをはじめとして演出的な部分はほとんどなし。演出的な要素を多分に含んでエンタテイメント性が強かったユニコーンのライブとは、ある意味、真逆とも言えるステージになっていました。個人的にはもうちょっとMCが多めなのかな、とも思っていたのですが、MCも少なめ。ある意味、ストイックさすら感じるステージだったと思います。

ユニコーンでのライブとは異なるものの、奥田民生らしさを感じることが出来たステージ。熱心なファンではない身としては、もうちょっとヒット曲を聴きたかったな、という感想もあったものの、とても楽しめたライブでした。また足を運びたいです!

| | コメント (0)

2023年3月17日 (金)

ボーカリストとしての魅力あふれるベスト盤

Title:原田知世のうたと音楽
Musician:原田知世

原田知世のデビュー40周年を記念してリリースされたオールタイムベスト。今回のベストアルバムを聴きながら考えたのですが、原田知世って、気が付いたらすごいよい立ち位置にいるよなぁ、ということをふと思いました。1980年代のアイドル全盛期にデビューし、一躍人気を確保しつつも、アイドル冬の時代となった90年代には上手く女優としてシフト。現在までその地位を確保しています。

歌手としても最初のアイドル歌手から「ボーカリスト」としてちょうど上手くシフトしたのが顕著で、1983年に「時をかける少女」でブレイク。その後も「天国にいちばん近い島」「早春物語」がヒットを記録するものの、徐々に売上は下降気味に。そんな中、1997年にシングル「ロマンス」がスマッシュヒット。カーディガンズなどの人気でスウェーディッシュポップが注目を集める中、カーディガンズのプロデューサーであるトーレ・ヨハンソンプロデュースという点が大きな話題となり、その当時の渋谷系ブームの流れにのって大きな話題となりました。

当時、リアルタイムで「ロマンス」は聴いていたのですが、既に原田知世といえば、「過去のアイドル」というイメージ。シングル曲も低迷していた中、この曲はまさに起死回生のヒットというイメージがあります。オリコン最高位39位で、売上枚数も累計6.8万枚というのは、当時としてもかなり寂しい数値で、その程度しかヒットしなかったのか・・・と意外に感じたのですが、同曲も含む直後のアルバム「I could be free」はベスト10ヒットを記録しているので、このシングルの売上以上に多くのリスナーの支持を集めたのでしょう。

ただ、今回のベスト盤、リリース順に並んでいるようなのですが、この曲あたりで彼女のボーカリストとしてのスタイルも大きく変わったように感じます。デビュー直後の彼女のボーカルは、ある意味、非常に淡々としており、機械的な印象すらあります。それが大きく変わったのはこの「ロマンス」以降。デビュー当初からの清涼感ある歌声に、柔らかさを伴う表現力も加わり、ボーカリストとしてあきらかに一皮むけた感のある成長を遂げています。

その後、2000年代には高橋幸宏らが結成したバンド、pupaでボーカルを担当。またシングルとしてはその後、大きなヒットはないものの、2016年にはカバーアルバム「恋愛小説2-若葉のころ」はチャート4位というヒットを記録。このベスト盤もオリコン最高位8位(ビルボードでは13位)とヒットを記録するなど、ボーカリストとして今に至るまで一定以上の評価を受けています。

今回、特にここ最近の曲については原田知世の曲はあまり聴いていなかったので、はじめて聴いた曲がほとんどだったのですが、やはりボーカリストとして非常に魅力的だな、ということを改めて感じます。特に「ロマンス」やそれに続く同じくトーレヨハンソンプロデュースの「シンシア」も同様なのですが、アコースティックベースの暖かいサウンドに彼女のボーカルがピッタリとマッチします。

Disc2の、比較的最近の曲に関してもアコースティックベースの作品が多く、彼女の歌声ともピッタリマッチする良曲が続きます。そういう意味では、しっかり彼女のボーカルという素材を調理した作品が多く、彼女は作家陣にも恵まれていたんだな、ということをあらためて感じます。そんな彼女のボーカルを軸として構成された曲なので、ベスト盤全体としての統一感もあり、非常に良質なポップアルバムとして楽しめた作品でした。

オリジナルアルバムとしても昨年、「fruitful days」をリリースしていますし、ミュージシャンとしても積極的な活動を続ける彼女。過去のデータを調べると、2009年の「eyja」以降、彼女の作品に触れるのは久しぶりだったようですが、やはりコンスタントにチェックしなくてはいけませんね。あらためて彼女のボーカリストとしての魅力を感じる1枚でした。

評価:★★★★★

原田知世 過去の作品
eyja


ほかに聴いたアルバム

Flowers/OKAMOTO'S

OKAMOTO'Sの最新作はいわゆる企画盤なのですが、その企画とは「メンバー内コラボレーションアルバム」。通常、OKAMOTO'Sの楽曲の多くは、オカモトショウ、オカモトコウキが楽曲制作を担当しているのですが、今回のアルバムでは他のメンバー、ハマ・オカモト、オカモトレイジも作詞作曲ほか楽曲制作に参加。メンバー4人が様々な組み合わせで楽曲制作に参加したアルバムとなっています。

で、そんな企画盤の本作ですが、これが意外なほどアルバムの出来が良かったので驚き。メロディーラインはメランコリックながらもいつも以上にインパクトもあり、ちょっと癖のあるオカモトショウのボーカルにもマッチ。OKAMOTO'Sのアルバムは、「惜しい」出来の作品が多いのですが、これが予想外に傑作に仕上がっていました。むしろメンバー全員が楽曲制作に参加した方が、良いアルバムが出来るのでは?このメンバーコラボが次回作以降にどんな影響を与えるのかわかりませんが、これを機に、OKAMOTO'Sの音楽性がもっと広がりそう。

評価:★★★★★

OKAMOTO'S 過去の作品
10'S
オカモトズに夢中
欲望
OKAMOTO'S
Let It V
VXV
OPERA
BL-EP
NO MORE MUSIC
BOY
10'S BEST
Welcome My Friend
KNO WHERE

Ampersand/Spangle call Lilli line

ミニアルバム「Remember」から約1年10ヶ月ぶり、フルアルバムだと実に約4年ぶりとなるSCLLの最新作。本作では2008年のアルバム「PURPLE」以来、実に15年ぶりに共同プロデューサーとしてsalon musicの吉田仁を迎えた作品になっています。そのため、初期に回帰したようなサウンドが特徴的となっており、よりドリーミーなエレクトロポップの路線に。シティポップ寄りだったり、ポストロック寄りになったりと、作品によって様々にシフトしていたSCLLですが、ある意味、エレクトロポップ路線により焦点を絞ったアルバムに仕上がっていました。

評価:★★★★

Spangle Call Lilli Line 過去の作品
VIEW
forest at the head of a river

New Season
Piano Lesson
SINCE2
ghost is dead
Dreams Never End
SCLL
Remember

| | コメント (0)

2023年3月16日 (木)

こちらもアイドル系が目立つチャートに

今週のHot Albums

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

今週もまたアイドル系が目立つチャートとなりました。

まず1位初登場はNMB48「NMB13」が獲得。CD販売数1位、ダウンロード数32位。ちなみに13枚目のアルバムではなく、結成13年目に由来するアルバムタイトルだそうです。オリコン週間アルバムランキングでは初動売上13万8千枚で1位初登場。前作「難波愛~今、思うこと~」の初動15万9千枚からダウン。

2位初登場は幾田りら「Sketch」。CD販売数4位、ダウンロード数1位。ご存じ、YOASOBIのボーカリストによるソロ作。フルアルバムとしては本作が初となります。オリコンでは初動売上1万7千枚で4位初登場。直近作はミニアルバム「Jukebox」でしたが、本作はライブ会場及びタワーレコード限定販売だったため、ランク圏外でした。

3位にはGENERATIONS from EXILE TRIBE「X」がランクイン。CD販売数2位、ダウンロード数8位。こちらもアルバムタイトルは、アルバムが10枚目、ではなく、デビュー10周年に因むアルバムタイトルだそうです。オリコンでは初動売上2万2千枚で2位初登場。前作「Up&Down」の初動4万6千枚(3位)からダウンしています。

続いて4位以下の初登場盤です。まず4位には男性アイドルグループ7ORDER「DUAL」がランクイン。CD販売数3位、ダウンロード数16位。もともとジャニーズ系として結成したものの、メンバー全員がジャニーズ事務所を退所し、そのまま再度結成したという異色のグループ。オリコンでは初動売上2万枚で3位初登場。前作「Re:ally?」の初動2万8千枚(4位)からダウン。

5位はIDOLiSH7, TRIGGER, Re:vale, ŹOOĻ「アイドリッシュセブン Compilation Album “BLACK or WHITE 2022”」。スマートフォン向けゲームアイドリッシュセブンで登場するキャラクターによるコンピレーションアルバム。CD販売数3位、ダウンロード数16位。オリコンでは初動売上1万4千枚で5位初登場。

6位にはアニソン系女性シンガーReoNa「HUMAN」がランクイン。CD販売数6位、ダウンロード数6位。オリコンでは初動売上1万枚で7位初登場。直近作はEPの「Naked」で同作の初動売上7千枚(6位)よりはアップ。オリジナルアルバムとしての前作「unknown」の初動1万3千枚(4位)からはダウンとなっています。

7位初登場は名古屋を拠点とする女性アイドルグループ手羽先センセーション「ハローニューワールド」。CD販売数7位。オリコンでは初動売上1万枚で6位初登場。前作「行く先、手羽先」の初動6千枚(7位)からアップ。

8位にはSir Vanityのミニアルバム「midnight sun」が初登場。声優の梅原裕一郎、中島ヨシキを中心としたバンドですが、メンバーに「ビジュアル担当」がいるあたり、アイドル色が強い印象が。CD販売数8位、ダウンロード数45位。オリコンでは初動売上6千枚で9位初登場。本作がデビュー作となります。

最後10位にはONEW(SHINee)「Circle」が初登場。韓国の男性アイドルグループSHINeeのメンバーによるソロミニアルバム。韓国盤のためCD販売数は対象外となり、ダウンロード数2位のみで総合順位にランクインしています。

今週の初登場は以上。一方、先週までロングヒットを続けていた結束バンド「結束バンド」は今週11位にダウン。連続ベスト10記録は11週でストップとなりました。

今週のHot Albumsは以上となります。チャート評はまた来週の水曜日に!

| | コメント (0)

2023年3月15日 (水)

またアイドル系が上位に

今週のHot100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

ロングヒット勢の勢いが若干落ち着いている影響か、CDリリースで上位にランクインしてきたアイドル系が今週は上位に並びました。

まず1位を獲得したのがNiziU「Paradise」。CD販売数2位、ダウンロード数3位、ストリーミング数13位、ラジオオンエア数4位、YouTube再生回数4位。韓国の事務所が仕掛けた日本人女性アイドルグループなのですが、楽曲は日本のアイドルポップスに寄せた感じ。日本ではこういう曲の方は売れると踏んだのでしょうか?オリコン週間シングルランキングでは初動売上15万2千枚で2位初登場。前作「Blue Moon」の初動16万1千枚よりダウンしています。

2位はジャニーズ系アイドルグループなにわ男子「Special Kiss」。CD販売数はこちらが1位でしたが、ラジオオンエア数24位、YouTube再生回数13位で、ジャニーズ系らしくダウンロード数とストリーミング数は対象外。結果、総合順位は2位となりました。オリコンでは初動売上51万6千枚で1位初登場。前作「ハッピーサプライズ」(1位)から横バイ。

そんな訳で、1位2位と初登場曲が並びましたが、今週の初登場はこの2曲のみ。結果、3位以下はまたロングヒット曲が並んでいます。

まず3位はOfficial髭男dism「Subtitle」。ストリーミング数は21週連続の1位。ただYouTube再生回数は6位から8位、ダウンロード数も6位から7位と全体的には若干の下落傾向。ただし、これで22週連続のベスト10&ベスト3ヒットとなります。

4位はVaundy「怪獣の花唄」が2位からダウン。ストリーミング数は2位から3位、ダウンロード数は10位から13位、YouTube再生回数も12位から15位にダウン。ただ、カラオケ歌唱回数は先週から変わらず2週連続の1位となっています。これで10週連続のベスト10ヒットとなりました。

5位には米津玄師「KICK BACK」が先週の3位からダウン。ストリーミング数4位、ダウンロード数16位は先週から変わらず。YouTube再生回数は9位から15位にダウンしています。これで22週連続のベスト10ヒット。

6位は10-FEET「第ゼロ感」で、こちらも先週の4位から2ランクダウン。ただ、ダウンロード数、ストリーミング数ともに5位から6位にダウン。YouTube再生回数も13位から18位にダウンしています。これでベスト10ヒットは14週連続に。

そしてTani Yuuki「W / X / Y」は先週の6位から10位に再びダウン。土俵際の粘りを見せています。ストリーミング数は6位から8位にダウン。YouTube再生回数も20位から24位にダウンしていますが、ダウンロード数は34位から30位に若干のアップ。これで通算42週目のベスト10ヒットとなりました。

さらに今週、なとり「Overdose」が先週の18位から8位にアップ。1月4日付チャート以来、10週ぶりのベスト10返り咲き。通算15週目のベスト10ヒットとなっています。特に大きな要因となっているのがYouTube再生回数が先週の72位から5位に大幅アップとなっている点。ただ、なぜここに来てYouTube再生回数が大きくランクアップしたのかは不明・・・。YouTubeのチャートは上位にランクインしていた曲がいきなり圏外になったかと思えば、次週には再び上位にランクインするなど、ランク動向がいささか不鮮明な部分があるので、あまり信用が出来ない部分もあるのですが・・・。

一方、先週、ベスト10に返り咲き多Ado「新時代(ウタ from ONE PIECE FILM RED)」は今週11位にダウン。ベスト10ヒットは1週のみに留まりました。

今週のHot Albumsは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

| | コメント (1)

2023年3月14日 (火)

ロックオペラ第2幕

Title:ATUM-actⅡ
Musician:The Smashing Pumpkins

以前も紹介したスマパンがはじめたプロジェクトの第2弾。昨年11月に「ATUM-actⅠ」として配信限定のアルバムをリリース。全3部作となる同プロジェクトは、1月に第2幕、4月に第3幕がリリースされ、第3幕リリースと同時に3枚組のCDをリリースという壮大な「ロックオペラ」となっています。そして、予定通り配信限定でリリースされたのが第2幕となる本作。無事、リリースされました。

ある意味、スマパンらしいともいえる重厚なプロジェクトである本作。静かな森の中にいるようなイントロからスタートする冒頭の「Avalanche」は、途中からシンセを主導としつつダイナミックなアレンジを展開。続く「Empires」は一転、ヘヴィーなギターリフ主導のハードロック風のナンバーへと続きます。ただ、いずれも重厚さを感じるアレンジとメランコリックなメロディーラインという点は共通。「actⅠ」も同様でしたが、ある意味、非常にスマパンらしいといる作風になっています。

その後も、「Neophyte」「Night Wave」「Every Morning」のようなシンセを主体にドリーミーに聴かせる作品を軸にしつつ、その間に「Moss」「Beguiled」といったヘヴィーなギターリフ主導のハードロックな作品が交互に展開されるような構成に。ある意味、夢見心地なサウンドで夢の世界にリスナーをいざないつつ、ヘヴィーなサウンドでガツンとリスナーの目を覚ます、といった感じでしょうか。アルバム全体としての統一感を持たせつつ、リスナーを飽きさせない展開を聴かせてくれる作品になっています。

最後はシンセでニューウェーヴ風の分厚いサウンドを聴かせつつ、メランコリックなメロディーラインをしっかり聴かせる「The Culling」、ピアノとアコギというアコースティックなサウンドで暖かくも切ないメロを聴かせる「Springtimes」で締めくくり。最後まで美しいメロの曲をしっかりと聴かせる点、スマパンらしい締めくくりと言えるかもしれません。

そんな訳で「actⅠ」に続く同作。基本的には前作から引き続き、分厚いサウンドとメランコリックなメロに実にスマパンらしさを感じさせる作品になっていました。ただ、前作から引き続き、ということはつまり逆に言うと、前作の気になったについてもそのままということ。シンセのアレンジはちょっとチープに感じてしまいますし、ダイナミックなアレンジはちょっと大味に感じてしまいます。そういう点を含めてもスマパンらしいといえばらしいのかもしれませんが・・・。

評価:★★★★

The Smashing Pumpkins 過去の作品
Teargarden by Kaleidyscope
OCEANIA
(邦題 オセアニア~海洋の彼方)
Monuments to an Elegy
SHINY AND OH SO BRIGHT,VOL.1/LP:NO PAST.NO FUTURE.NO SUN.
CYR
ATUM-actⅠ

| | コメント (0)

2023年3月13日 (月)

曰くつきのリミックス盤

Title:百薬の長
Musician:椎名林檎

このアルバムに関しては、ご存じの通り、公式通販サイト限定盤についてくるグッズがヘルプマークや赤十字のマークに酷似し騒動となり、結果、アルバムのリリース自体も延期。CDリリース以上の話題となってしまいました。そのグッズを巡る騒動についての雑感については後程、書こうと思うのですが、そんな曰くつきのアルバムとなってしまった本作。グッズ自体、椎名林檎がノータッチだと公言してしまった以上、このアルバム自体も彼女がノータッチという可能性もありうるのですが、ただ、そんな状況を差し引いても、このアルバム自体の出来は、非常に素晴らしいものに仕上がっていました。

基本的にエレクトロ系のミュージシャンが自由に彼女の曲のリミックスを行っている本作。結果として、それぞれのリミックスにおいて、それぞれのミュージシャンの個性が前に押し出されているようなアレンジに仕上がっていました。まずアルバムの冒頭は、アメリカのエレクトロミュージシャンTelefon Tel Avivのリミックスによる「あの世の門 ~Gate of Hades~ (Telefon Tel Aviv Version)」からスタートするのですが、ダウナーながら力強いビートを奏でるエレクトロアレンジが耳を惹きます。そしてそれに続くは砂原良徳による「JL005便で ~Flight JL005~ (B747-246 Mix by Yoshinori Sunahara)」なのですが、こちらも聴けば一発でまりんらしさを感じる音作りとなっています。

アシッド・ジャズの第一人者、Gilles Petersonによる「ちちんぷいぷい ~Manipulate the time~ (Gilles Peterson’s Dark Jazz Remix)」も音数を絞ったエレクトロビートが非常にカッコよいナンバーに。岡村靖幸がリミックスを手掛けた「長く短い祭 ~In Summer, Night~ (Yasuyuki Okamura 一寸 Remix)」は最初は普通のエレクトロといった感じなのですが、後半になると岡村ちゃんらしいファンキーな要素も感じられます。

そしてなんといっても聴いていて一発で彼のリミックスだとわかったのが石野卓球による「浴室 ~la salle de bain~ (Takkyu Ishino Remix)」で、疾走感あるテクノチューンが実に石野卓球らしい楽曲に。ラストを締めくくる鯵野滑郎の「いとをかし ~toogood~ (Ajino Namero Bon Voyage Remix)」も楽しいチップチューンに仕上げています。

エレクトロチューンを中心に、12人12様に椎名林檎の楽曲を好きなようにいじった今回のアルバム。グッズ騒動でケチが付いてしまった形になってしまいましたが、内容的には非常に優れたアルバムですし、なによりも12人の優れたトラックメイカーの実力を感じることが出来る作品になっていました。椎名林檎の、という以上にリミキサーとして参加したミュージシャンに興味がある方は要チェックのアルバムです。

評価:★★★★★

椎名林檎 過去の作品
私と放電
三文ゴシップ
蜜月抄
浮き名

逆輸入~港湾局~
日出処
逆輸入~航空局~
三毒史
ニュートンの林檎~初めてのベスト盤~


ほかに聴いたアルバム

TIME LEAP/佐藤千亜妃

Timeleap

佐藤千亜妃のニューアルバムは、「時間旅行」をテーマとした5曲入りのEP盤。前EPの「NIGHT TAPE」ではメロウな楽曲を聴かせてくれた彼女。本作では、その延長戦上を意識しながら、軽快なR&B風のポップスに仕上げられており、いかにも今どきのポップソングという印象を受ける作品になっていました。この方向性がおもしろいのでは?と思った前作に比べると、今回はちょっと方向性がはっきりしなくなっていた作品に。いろいろな意味で挑戦の過程といったイメージはあるのですが・・・。次の一手は?

評価:★★★★

佐藤千亜妃 過去の作品
SickSickSickSick
PLANET
KOE
NIGHT TAPE

curtain call/MONKEY MAJIK

途中、ベスト盤のリリースを挟んだため、純然たるオリジナルアルバムとしては約3年ぶりとなるMONKEY MAJIKのニューアルバム。ここ最近、比較的安定した良作が続いていますが、本作もそんな良作の1枚。前半から中盤にかけてはシンセで爽快に聴かせるニューウェーヴ風の楽曲が、終盤はアコースティックにしんみり聴かせる作品が並んでいます。全体的には派手さはないものの、卒なくポップにまとめあげているという印象の作品に。洋楽テイストを醸し出しつつ、ほどよくJ-POPに着地させている作風に彼ららしさを感じます。

評価:★★★★

MONKEY MAJIK 過去の作品
TIME
MONKEY MAJIK BEST~10years&Forever~
westview
SOMEWHERE OUT THERE
DNA
Colour By Number
southview
enigma
COLLABORATED
northview
20th Anniversary BEST 花鳥風月

» 続きを読む

| | コメント (2)

2023年3月12日 (日)

初の全米1位獲得シングルも収録

Title:Gloria
Musician:Sam Smith

2019年に自らがノンバイナリーであることを公言したSam Smith。同アルバムの先行シングルともなった「Unholy」は、ドイツ出身のシンガーソングライターで、トランスジェンダーでもあるキム・ペトラスとタッグを組んだ作品。同作は全米ビルボードチャート1位を獲得し、ノンバイナリーとトランスジェンダーを公言するミュージシャンが同チャートで1位を獲得するのは初の快挙だったそうです。

今回のアルバムは前作から約3年ぶりとなるニューアルバム。そんな彼の状況を反映されたアルバムだそうで、「創造的で眩しく、豪華で洗練された、予想外の、そして時にはスリリングでエッジの効いたサウンド」と「セックス、嘘、情熱、自己表現、不完全さに触れた歌詞」で構成されたアルバムとなっているそうです。実際、アルバムの1曲目を飾るのはタイトルそのまま「Love Me More」でゴスペル調のコーラスも美しい楽曲なのですが、タイトル通り、自分を愛せるようになってきた、という現在の心境を歌っています。

・・・とまあ、こうやって書くと、いかにも昨今のLGBTを反映した作品になっていますし、いわば「政治的な正しさ」を感じさせるアルバムにも感じさせます。そうなるとちょっと堅苦しいんじゃ・・・とすら感じたりするのですが、ただ実際は、そんなこと関係なく、今回のアルバムも文句なしに素晴らしいポップアルバムに仕上がっていました。

冒頭の「Love Me More」に続く「No God」も同じくメランコリックでゆっくり歌い上げる美しいナンバー。「Lose You」も物悲しく歌い上げる歌をバックに、打ち込みでリズミカルなビートが印象に残る楽曲に。カナダのSSW、ジェシー・レイエズをゲストに迎えた「Perfect」も力強く歌い上げるバラードナンバーに、と特に前半はその美しい歌声でメランコリックに歌い上げるポップチューンが続きます。

そしてこのアルバムの核となるのが中盤に組み込まれた前述の「Unholy」。荘厳に歌い上げるボーカルに、メタリックさも感じるエレクトロサウンド、そして後半から登場するキム・ペトラスのテンポよいラップが組み合わさった、挑戦心あふれた独自性の強い荘厳さを感じるナンバー。どこか気高さすら感じさせるこの曲は、全米1位も伊達じゃない、アルバムの中でも強いインパクトを持った作品に仕上がっています。

その後もアコギで聴かせる「How To Cry」、ダウナーなHIP HOP風のトラックが印象的な「Six Shots」、トライバルなリズムが印象的な「Gimme」、エレクトロダンスチューンで80年代っぽさも感じる「I'm Not Here To Make Friends」へと続き、タイトルチューン「Gloria」では荘厳なゴスペル調のコーラスを聴かせてくれます。

サム・スミスといえば、イギリスを代表するSSWなのですが、同じイギリスの大人気のSSWといえばエド・シーラン。個人的に時々混同してしまうのですが(笑)、今回のアルバムのラスト「Who We Love」では見事この2人のコラボが実現。実力派SSWの2人がタッグを組んだこともあり、非常に美しくメロディアスなポップチューンに仕上がり、このアルバムのラストを飾っています。

そんな訳で、バリエーションある作風を聴かせつつ、良質なポップチューンを並べた今回のアルバム。前述の通り、難しいこと抜きとして極上のポップスアルバムとして楽しめる傑作アルバムに仕上がっていました。ポップスシンガーとしての実力をいかんなく発揮した1枚。あらためてその魅力を強く感じることのできた作品でした。

評価:★★★★★

Sam Smith 過去の作品
IN THE LONELY HOUR
Thrill It All
Love Goes
Love Goes: Live at Abbey Road Studios


ほかに聴いたアルバム

JAPANESE SINGLES COLLECTION-GREATEST HITS-/Air Supply

ここでも何度か紹介している、主に80年代に人気を博した洋楽のミュージシャンの、日本でのシングル曲を集めた企画。今回はオーストラリアのポップバンドとして80年代に一世を風靡したAir Supply。名前は聴いたことはもちろんあるのですが、曲をまとめて聴くのははじめて。全体的にはメロディアスで爽やかなポップソング。良くも悪くも癖がないAORといったイメージなのですが、曲によってはカーペンターズを彷彿とさせる部分もあり、メロディーの良さはやはり耳を惹きます。いかにも80年代っぽい、広い層に支持されそうなポップソングが魅力的でした。

評価:★★★★

| | コメント (0)

2023年3月11日 (土)

ちょっと癖のある入門書

今回は最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。

今回は、ちょっと毛色が違ってクラシック関連の書籍になります。音楽評論家の許光俊によるクラシックの入門書「はじめてのクラシック音楽」。クラシック音楽というジャンルは興味を持つ方は多い一方、非常に敷居が高く感じるジャンルでもあるため、この手の入門書は数多く出ていますが、そのうちの1冊。新書形態で読みやすそうな内容だったので手に取ってみました。

私自身は「これでクラシック音楽を幅広く聴いてみよう」・・・と強く思った訳でもなく、また、この手のクラシック音楽入門書は何冊か読んだことあるのですが、そんな中、今回読んだこの「入門書」について感じるのは、まず「入門書」としては比較的癖のある内容だったかな、ということを感じました。どうも、この音楽評論家の許氏は、自分の個性的な意見を強く押し出すタイプの評論家のようで、そこらへん好き嫌いがわかれそうなタイプのようですが、それでも同書については「入門書」ということで、かなり意見は控えめだったよう。それでも要所要所に彼のクラシック音楽に対する見方が垣間見れる1冊になっていました。

そんな率直な物言いもあってか、まず内容的には読みやすい文体になっているのが大きなプラスポイント。また、「クラシック音楽とはどのような音楽か」からスタートし、「クラシック音楽の聴き方」や、さらにクラシック音楽に出てくる用語の解説も簡潔に紹介しているため、クラシック音楽の初心者についてはわかりやすく、またクラシック音楽に対して、どのようなスタンスで臨めばよいのか、というのも非常にわかりやすく書かれていました。

またこの本で「入門書」としてありがたかったのが、クラシックの演奏家・指揮者の紹介に、かなりの部分を割いている点でした。この手のクラシックの入門書は、クラシックの基本的な用語や作曲家についての解説でほとんどを占められており、演奏家についての紹介をしている本というのはいままでほとんど出会ったことがありません。ただ、クラシック音楽というのは、演奏家・指揮者によってかなり内容が変わってしまうジャンル。そういう意味では演奏家・指揮者の紹介に、かなりのボリュームを割いているというのは、初心者にとってはかなりありがたく、またクラシック音楽の世界をより深く知ることができる内容になっていました。

一方、賛否がわかれそうなのが、まさに上にも書いた許氏の見方が強く反映しているという点。「入門書」ということで、独自の意見は比較的抑え気味なのですが、それでも特に演奏家・指揮者の紹介では「これが一般的な見方なんだろうか・・・」とちょっと戸惑ってしまうような物言いもあります。例えばカラヤンの項では彼をかなり批判的に書いていますし、小澤征爾についても批判的に記載しています。ここらへん、ある種の見方を知ることが出来る点ではおもしろくもある反面、一般的な見方なのかどうなのか、初心者には判断できず、「入門書」としてはどうなんだろう・・・と感じてしまいます。

さらに物足りなさを感じた点としては、まずクラシック音楽全体の「歴史」についてはほとんど記載がなかった点。一般的にクラシックの入門書では、バロック音楽、古典派、ロマン派といった感じで、時代毎にまとめられており、クラシック音楽全体の歴史についてわかるような記載が多いのですが、この本では作曲家は主に「出身国」毎にまとめられており、一応、章によって時代区分はなされているものの、若干、クラシック音楽全体の流れについてはわかりにくかったように思います。ここらへん、時代区分で作曲家を並べなかったのは、わざとなのかもしれませんが・・・。

また、これを読んで、「じゃあ、クラシックを聴いてみよう」という方に対して、手にとるべき音源の紹介もなかった点も非常に残念。特に本書の中には、初心者はオンラインよりもCDを手に取って聴いてほしい、ということを書いてあるんですから、まず初心者が聴いてみるべき、お勧めのCDの紹介はほしかったなぁ。これについてもちょっと残念に感じました。

そういう訳で、「入門書」としてちょっと癖のある部分も感じられたため、おそらく他のオーソドックスな「入門書」と一緒に読んだ方が無難なようにも感じます。ただ、オーソドックスな「入門書」では物足りなさを感じられる部分を、同書ではしっかりとフォローしており、そういう意味でも「入門書」としての機能を果たしている1冊と言えるかもしれません。個人的にはなかなかクラシック音楽まで手が回らないのですが・・・ただ、これを読んで、またクラシック音楽に挑戦してみようかな、とも思えた1冊でした。

| | コメント (0)

«「穏やか」ではないサウンド